日本も追いついていかなければ!

アイスランドの平等に対する歩みが止まらないのは、「女性の休日」や女性漁業協会に象徴されるような、女性たちの連帯があるからだ。平等は「待っていて」自然に達成できるものではない。諦めずに声を上げ続けている女性たちの存在が社会を、国を動かしている。

 

浜田敬子

 

2017年に首相に就任、「女性の休日」でもにも参加したことで話題となったアイスランドのカトリン・ヤコブスドッティル首相(写真左)。2024年の大統領選挙出馬のために辞任するまで7年、男性育休義務化も強く推し進めてきた 

 

2024年もジェンダーギャップ指数が公表された。日本は146ヵ国中125位だった昨年から少し順位を上げ、118位。ただしG7では最下位のままだ。

 

男性育休を強制する意味
アイスランドの男女平等政策の中で重要な一つが、前出の賃金の平等化だが、もう一つが2000年から始まった男性の育児休業取得の義務化だ。

アイスランドでは男性の育休取得率は現在85%にのぼる。2000年に育児休業法が改正され、男性にも女性と同様5ヵ月の育休が義務化された。男性の育休期間を女性に振り替えることはできないので「取るか」「失う」しかない。現在は男女ともに6ヵ月ずつ取れ、さらにどちらが取得してもいい6週間がある。

 

男女ともに育休を取得することで性別役割分業意識の解消につながるほか、女性の出産離職を防ぎ、採用・登用において女性が不利にならないという効果もある。男性も育休を取ることが前提なので、企業はそれを見越した人員配置を考えることにもなる。

女性権利協会会長のタチアナ・ラティノヴィッチさんはこう話す。

「男性の育休取得が義務化されたことで、男女問わず育児に対する責任感は増したと思います。それでも、まだ家族の誕生日のプレゼントを買い揃えたりという『名もなき家事』の多くは女性に偏っているし、育休も女性が長く取る傾向が強い。それはやはり男性の方が給与が高い仕事に就いている、という現実があるからなのです」

 

「日本はアイスランドの1982年の状況」
折しも6月1日に投開票された大統領選ではこの国で2人目となる女性大統領が当選した。しかも大統領選に立候補した12人中6人が女性。上位3人は全て女性だった。国会議員に占める女性の割合は38%(最も多いときで47%)、レイキャビック市議会では女性は半数を超えている。アイスランドの政治分野でのジェンダー平等は1位で突出している。

これは2010年に導入されたクオータ制(格差是正のため組織における女性の数を一定数割り当てる制度)の影響が大きい。先の女性権利協会のラティノヴィッチさんは、クオータ制導入によって女性議員が急速に増え、女性政策の優先度が上がったと話していた。

 

女性権利協会の代表、タチアナ・ラティノヴィッチさん(写真左)と事務局長のオイドゥル・マグヌスドッティルさん 撮影/浜田敬子 

 

日本の今回の順位は118位。中でも政治分野の順位は女性閣僚が増えたことで2023年の138位から118位まで上がったとはいえ、やはり最低レベルだ。これはいまだに女性の首相が誕生していないこと、女性閣僚の少なさ(現岸田政権では5人で史上最多だが)、衆院議員における女性議員が1割に止まっていることが要因だ。候補者における男女均等を目指し法も改正されたが、自民党などの反対で義務化はされていない。日本の政治状況を説明すると、レイキャビック市の人権・平等担当者からは、「アイスランドの1982年の状況ね」と言われた。

レイキャビック氏の人権・平等担当者 撮影/浜田敬子

 

よくアイスランドなど男女平等が進んだ北欧諸国の話をすると、日本では「国の規模が違う」と反発される。本当にそうだろうか。アイスランドだって、最初から平等だったわけではない。要は性別によって人は差別されるべきではないという当たり前の人権意識があるかないかだけではないのか。

私はアイスランドの「平等3点セット」は、

(1)同一労働同一賃金義務化による男女の賃金格差の解消
(2)男性育児休業の義務化
(3)議会や企業幹部へのクオータ制の導入

だと感じた。この3つは日本も掲げている。違いは義務化しているかどうかだ。完全な平等に向けて法制度を見直し、目標を数値化し履行をモニタリングする、このプロセスを徹底しているかどうかの違いなのだと感じた。

 

「ルールがなければboys clubのままだった」
ただ取材先では、「アイスランドは決して天国ではない(not paradise)」という言葉を何度も聞いた。平等に向けたラディカルな動きが強まるほどバックラッシュもあるし、変化に消極的な男性たちはこの国でも存在する。最近では平等が当たり前の時代に生まれた右派政党の若い女性議員から「すでに平等は達成しているので、これ以上女性を優遇する必要があるのか」という声が上がることもあるという。

だからこそ、いまだに平等は達成されていないことをデータで可視化することが大切なのだろう。

 

一次作業におけるジェンダー問題を研究するアイスランド大学のアゥスタ・ディス・オゥラドッティル教授はこう語る(ちなみに国立アイスランド大学は最も優秀な学生が集まる大学だが、7割が女子学生だという)。

「2023年でいえば、政治分野では1位を達成しているアイスランドですが、経済分野は14位です。それは企業の取締役の75%、CEOの8割が男性と、まだ企業幹部が男性中心だからです。それでもクオータ制が導入されて上場企業では徐々に女性の管理職や役員も増えてきました。今、上場企業の役員は36%が女性になりました」

アイスランドの主要産業は漁業だが、男性中心だった業界を変えようと2013年、女性漁業協会が設立された。機械化が進み、加工産業やテクノロジー分野のスタートアップも関わるようになった漁業関連企業で働く女性も増えており、今では約100社で働く345人の女性たちが加入している。

 

会長であり、アイスランドシーフードインターナショナル社でセールスマネージャーを務めるティンナ・ギルベルツドッティルさんは、こう話した。

「(クオータ制という)ルールがなければ、いまだにこの業界はboys clubのままだったでしょう。いまだにルールに抗う男性もいますが、このルールができたからこそ、女性たちが少しずつ登用されるようにもなってきました」

 

団結しているのは男性を批判するものではない
協会では、5年ごとに各社に対して女性の登用状況を調査しているほか、漁業関連企業で働く女性たちの存在を社会に発信しているともいう。

 

「漁業も人手不足問題が深刻です。だからこそ女性たちが働きやすく、働きがいのある職場を作っていくことで、若い世代の女性たちも入りやすくなる。私たちが団結しているのは、男性を批判するものではなく、漁業で働く女性たちの認知度と地位を上げていくためなのです」(ギルベルツドッティルさん)

 

女性漁業協会代表のティンナ・ギルベルツドッティルさん(写真左)とアイスランド大学教授でジェンダー研究者のアゥスタ・ディス・オゥラドッティルさん(同右) 撮影/浜田敬子

 

漁業協会に所属する女性たちの間でも、登用されれば、「なぜあなたが役員になれたのか」「社長の血縁だったからか」と男性たちから言われることは少なくないという。「それでも」と、ギルベルツドッティルさんはこう話した。

「私は、私の意見を常に言うようにしています。声を上げることを諦めないことはとても大切なことなのです」

アイスランドの平等に対する歩みが止まらないのは、「女性の休日」や女性漁業協会に象徴されるような、女性たちの連帯があるからだ。平等は「待っていて」自然に達成できるものではない。諦めずに声を上げ続けている女性たちの存在が社会を、国を動かしている。

女性権利協会が入っているビルの前。「女性の休日」を記念した碑は、「女性の連帯」「声をあげ続けている現実」を表している 撮影/浜田敬子


ジェンダーギャップ指数15年連続1位のアイスランドとG7最下位の日本との「明らかな差」

 

この数年、「ジェンダー後進国日本」という原稿を書き続けている。世界経済フォーラムが発表するグローバルジェンダーギャップ指数、6月12日に発表された2024年のランキングでは、日本は146ヵ国中118 位。2023年の125位より前進したが、主要7ヵ国(G7)では87位のイタリアを大きく下回る最下位のままだ。

対照的に15年連続で首位をキープし続けているのが北欧の小国アイスランドだ。

 

 

人口約39万人と日本でいうと地方都市規模の国。北欧の国々は押し並べてジェンダー平等が進んでいるとはいえ、なぜこの国でここまで男女平等が徹底されているのか。歴史的な経緯や平等に向けた取り組みを取材するために5月、アイスランドの現地でジェンダー平等に取り組む関係者に取材した。

 

「1位は偶然ではない」
アイスランドを訪れたのは5月下旬。飛行機を乗り継いだフィンランドのヘルシンキは気温も20度を超えた初夏の陽気だったのに、アイスランドはいきなり2度。5月でも厚手のダウンや手袋が欠かせない寒さだった。

 

それだけ厳しい気候にもかかわらず、この国の幸福度は高い。毎年発表される世界幸福度ランキング(世界幸福度調査に基づく)では、アイスランドは3位(2023年)だ。国民の平均年収は約720万円で、北欧諸国では2番目(ちなみに日本は458万円/2022年)。人口約39万人、国土は四国と北海道を合わせたほどという小国でありながら、経済的な豊かさと幸福度を両立させている重要な要素が、世界で最も男女格差がない、男女平等であることではないかーーそんな仮説を持って取材を進めた。

最初に取材したのは、首相官邸の平等人権省。首都レイキャビック市の中心にある首相官邸は小さな家のような白い建物だった。専門官のグズヨン・ビョルン・グズビャルトソンさんは開口1番、こう話した。

「(ジェンダーギャップランキングで)1位は決して偶然ではないのです」

 

この言葉の意味は取材を進めるほど腹落ちした。全体の取材を通して感じたのは、15年連続で1位となろうとも、「まだ完全な男女平等状態ではない」と法制度やその運用をアップデートし続け、完全な平等実現のために改善を怠らない、その執念と覚悟だ。1位の国がこれほどまでに努力をしているのだから、日本が少しばかり努力をしてもその差は開くばかりなのは自明だ。平等は自然には実現できないということを強く感じた。

 

25人以上の企業に同一労働同一賃金認証を義務化
アイスランドが最も力を入れているのが、男女の賃金格差の解消だ。

アイスランドでは2018年に格差解消に向けて、従業員数25人以上の企業に対して同一労働同一賃金を証明する認証の取得を義務付けた法律、同一賃金証明法が施行されている。アイスランドには以前から性別による差別を禁じ、同一労働に従事する男女には同じ賃金、同じ雇用条件を義務付けた法律はあったが、認証取得まで課したのは賃金差別の解消を徹底するためだったという。

 

男女同一賃金の徹底は、2017年に就任したカトリン・ヤコブスドッティル前首相肝入りの政策だった。2022年のNHKの取材に対して首相は、「働いている男女が同じ仕事をしているなら、同じ賃金をもらう。それは女性の経済的自立に関わる非常に重要なこと」「賃金格差は他の多くのことに影響を与える」と述べている。

 

認証制度では同一労働について仕事を細かく定義しているため恣意的な評価が入りにくく、日本のように働き方を理由に大きな給与格差がつくことはない。認証は3年に1度見直され、取得していない企業については政府機関に通報することが推奨される他、1日当たり最高で50000アイスランド・クローナの罰金も課される。

この同一賃金証明法のポイントは対象の規模だ。実施期限は企業規模によって違うが、2023年までに従業員25人以上の全企業は同一労働同一賃金を達成しなければならないとされている。日本でも2022年から企業の男女賃金格差の開示が義務化されたが、従業員規模は301人以上。さらに義務化されているのは開示だけで、その先の解消までは含まれていないことと比べると、アイスランドは中小企業に至るまで差別を解消させる実効性にこだわっていることがわかる。

 

「最終的な差別は賃金に反映される」
今回の取材の中でしばしば聞いたのは、「最終的な差別は賃金に反映される」という言葉だ。つまり賃金での平等を実現することを、平等のバロメータにしているのだ。

アイスランドの男女平等賃金に対する取り組みは古く、1961年に性別による賃金差別を禁止した賃金平等法が制定されている。だが当時は、女性は男性の賃金の60%程度というのが実態だった。

1975年10月24日。前出の首相官邸の前などレイキャビックの中心地を女性たちが埋め尽くした。「女性の休日(Kvennafrí/the Women’s Day Off)」と言われるストライキで、女性の9割が職場を離脱し、主婦も家事を離れた結果、社会は大きな混乱に陥った半面、社会がどれほど女性の働きによって支えられているかを実感することになったと言われている。その時のスローガンは「私たちは男性の60%ではない」。主導したリーダーの1人、ビグディス・フィンボガドッティルさんは、初の女性大統領に就任した。

 

1980年、アイスランドで初の女性の大統領に就任したビグディス・フィンボガドッティル氏(写真左)。1984年、1988年、1992年と4期つとめた。写真は1982年、イギリスのサッチャー首相(当時)と Photo by Getty Images

 

その後、「女性の休日」は5回実施されている。直近では2023年10月24日。何度も繰り返すようだが、世界で最も男女平等が進んでいる国で、今でも女性のデモが敢行されているのだ。

2023年には当時のヤコブスドッティル首相も仕事を休んで参加するなど、7万〜10万人の女性が参加したと報じれている。国民の約4分1に当たる女性が職場を離れるために、ほとんどの学校や公的機関、金融機関は休業になった。

そしてこの「女性の休日」で求めていたものも男女の賃金格差の解消だ。スローガンは「Do you call equality? Disequality?(あなたは平等を叫ぶ?不平等を叫ぶ?)」だった。

 

低賃金のケア労働に従事する移民女性
なぜなら、ここまで平等な賃金実行のためにさまざまなアプローチをしているアイスランドでも、全体では12%の男女の賃金格差が依然として残っている。それが2023年のスローガンにもつながっている。

「女性の休日」主宰者の一つである女性権利協会会長のタチアナ・ラティノヴィッチさんはこう話した。

「職業や働き方の違いを乗り越えるために、どんなスローガンだったら女性たちが連帯できるか地域で集会を開き、何度も話しました。アイスランドは男女平等が進んでいるとはいえ、それでもまだ賃金格差はあるし、家事育児はまだ女性に偏っています。性暴力やハラスメントへの対応も十分ではない。どんな女性たちでも求めているのは、職場・家庭における真の平等だろうとなったのです」

2023年の「女性の休日」の際、女性権利協会は、より多くの女性たちがデモに参加しやすくなるよう、企業経営層に「女性たちをデモに参加させてください」という手紙を出したという。特に数時間職場を離れることによって、その間の賃金が減ることを恐れていたのは、移民や外国籍の女性たちだったからだ。

全国民39万人のうち移民は約7万人に上り、歴史的にはポーランドからが多いが、今では医療現場などではフィリピンからの移民が増えている。移民の女性たちが就いているのが保育士や介護士、看護師などのケアワークと言われる職業で、このケアワークの賃金の低さが男女の賃金格差全体が解消しない大きな要因となっている。前述した同一賃金証明法の認証は「同一労働同一賃金」を求めているため、女性が比較的低賃金の仕事に多く就いていれば、全体の賃金格差を解消することはできない。

 

「前首相もケアワークの賃金を上げることに取り組んでいたが解消できていません。女性が家庭で担ってきた保育、介護、看護などケアワークへの評価、つまり賃金の見直し、待遇改善はまだこれからです」(女性権利協会会長のラティノヴィッチさん)

平等人権省のグズビャルトソンさんも12%の格差の背景には同様の問題を指摘していた。そしてパイロットプロジェクトという形で、性別による職種の偏りの是正に向けた取り組みを進めると同時に、ケアワークがなぜ低賃金なのかという分析も始めているという。

 

◇”何度もくりかえすようだが、世界で最も男女平等が進んでいる国で、今でも女性のデモが敢行されている”この1文が、アイスランドの「ジェンダーギャップ指数1位の理由」を象徴している。常に平等を求めて発信し続け、進化を求め続けているのだ。