アメリカの一部の投資家や富豪は、戦争をつづけることで儲けているし、戦争を停止しても儲けるための算段をつけている。そうした彼らの目論見に沿うかたちでバイデン政権がある。だからこそ、アメリカはウクライナ戦争を継続させたがっているのだ。これこそ、アメリカ帝国主義そのものなのである。米国に従属しながら日本は同じ形態を追究し追い求めているのである。

 

プリシュティナのビル・クリントン大通りにあるビル・クリントン像は、コソボのアメリカに対する好意とその影響力を反映している。(KODANSHA)

 

帝国主義、アメリカ
 2024年5月14日付の「ワシントン・ポスト」の記事のなかに、「いまや中国のメディアやコメンテーターは、アメリカを 「美国」ではなく「美帝」と揶揄している」という、興味深い記述があった。「美国」の発音は、「メイグォ」(Meiguo)だが、「美帝」は「メイディー」(Meidi)と発音する。もはやアメリカは「美しい国」でも何でもなく、「アメリカ帝国主義」(美帝國主義)の国として批判の的となっているのだ、少なくとも中国では。

 

 帝国主義というと、征服や略奪といった暴力による他国への侵略による植民地支配のことだと思うかもしれない。だが、リベラルデモクラシー(自由・民主主義)を他国に奨励し、他国に介入するというやり方によって利益を収奪するという帝国主義もある。アメリカが得意とするやり口だ。思想家、柄谷行人が指摘するように、帝国主義とは、国家と資本が強く結びつきながら、その国家および同国に属する企業の影響力を海外に拡大して利益を追求する方式と定義することもできる。アメリカも中国も欧州連合(EU)も帝国主義と言えるし、日本もまた帝国主義的な面をもっている。

アメリカがコソボでやったこと

 そう考えると、アメリカ帝国主義の具体的な手口が気になるだろう。その実態を知れば、アメリカという国がいかなる国であるかがわかる。ここでは、2024年2月に「ポリティコ」で公表された記事や「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)の記事を参考にしながら、コソボでのアメリカの帝国主義的ふるまいを明らかにしてみよう。

 コソボはベルギーの3分の1ほどの小さな国で、人口は約180万人にすぎない。国内総生産(GDP)は約100億ドルで、アメリカ最小のバーモント州の4分の1以下だ。1999年にアメリカと北大西洋条約機構(NATO)の同盟国がセルビアから引き離したのがコソボであり、2008年2月17日、コソボ共和国として独立が宣言される。それを支援したのがビル・クリントン米大統領であった。だからこそ、首都プリシュティナには、彼の銅像がそびえている(下の写真)。

 (出所)https://www.nytimes.com/2012/12/12/world/europe/americans-who-helped-free-kosovo-return-as-entrepreneurs.html

 2008年以降も、アメリカはコソボ支援を継続した。しかし、「ポリティコ」は、「アメリカはコソボに多額の資金を投じたが、よくみると、ワシントンの優先順位は、コソボが発展するために本当に必要なものを提供することよりも、アメリカの短期的なビジネスの利益によって決定されたことがわかる」と厳しい指摘をしている。

 たとえば、建設会社ベクテルは高速道路建設を手掛けた。アメリカはまず、当時貧困率が約60%だったコソボが本当に道路を必要としていることを納得させなければならなかった。クリントン政権下で国家安全保障会議委員を務め、その後ロビイストに転身したマーク・タブラリデスは、当時のクリストファー・デル米大使の助けを借りて、ベクテルのためにプリシュティナの旧友に建設を働きかけた。世界銀行と国際通貨基金(IMF)の双方から、このプロジェクトの経済性に関して重大な懸念が示されたにもかかわらず、コソボ政府は推進を決定し、2010年にベクテル・エンカ(トルコ企業のエンカとの合弁)と約7億ユーロを見込んで契約を結んだ。結果として、ベクテル・エンカは、全長102 km、総工費4億ユーロの高速道路建設プロジェクトを77kmに縮小し、2012年に総工費約10億ユーロで完成させた。

 しかし、2024年1月、プロジェクトが承認されたときに在任していたパル・レカジ前インフラ大臣は、ベクテル・コンソーシアムに5300万ユーロを過大に支払ったとして、職権乱用の罪で有罪判決を受け、禁固3年の判決を言い渡された。この事件では、彼の同僚3人も有罪判決を受けた。ベクテルはあくどい商売を展開していたのだ。

 

アメリカの国務長官とコソボ
 未遂事件も紹介しよう。クリントン政権の国務長官だったマデレーン・オルブライトは自分の投資会社オルブライト・キャピタル・マネジメントを保有していた。同社は2013年に予定されていた、国営通信事業者PTKの民営化に注目した。同社の株式の75%売却に関心を示したのである。彼女はすぐに、数億ユーロの値がつくと予想される入札の最有力候補に浮上する。何しろ、彼女はアメリカの国務長官であったから、その政治力は大きく「カネになる」というわけだ。

 オルブライトの関与を批判する人々は、彼女が当時コソボで唯一の民間携帯電話会社の株式をすでに所有しており、PTK事業の買収は重要な部門に対する影響力を彼女の手に集中させすぎると訴えた。オルブライトは当初反抗的だったが、NYT(ニューヨークタイムズ)紙の一面を飾った記事によって、彼女のコソボへの関与をめぐる潜在的な利益相反が注目されたため、結局入札を取り下げた。その後、プロセスは崩壊した。

 だが、娘のアリスとコソボの関係はつづいている。彼女はコソボを含む貧しい国々に開発助成金を発行するアメリカの資金提供団体ミレニアム・チャレンジ・コーポレーションの最高責任者である。オルブライトが国務長官だったときに上級顧問を務め、のちに彼女のコンサルティング会社の副会長を務めたバルカン半島の古参、「ジェームズ・オブライエンは、最近、欧州・ユーラシア問題担当次官補としてこの地域に戻ってきた」、と「ポリティコ」は紹介している。

 先に紹介したNYTによれば、ビジネスのためにコソボに戻ってきた人物のなかには、元陸軍大将で、セルビアの強権者スロボダン・ミロシェビッチに対する空爆作戦を指揮した元NATO軍欧州連合最高司令官ウェスリー・K・クラークがいた。クラークは長年にわたり、コソボのエネルギー部門に投資するさまざまな試みにかかわってきたが、カナダに本社を置くエンビディティ・エナジー社が進めた、コソボの膨大な褐炭を液化して合成燃料をつくる計画を推進しようとした。2013年、コソボ政府は外国人投資家がコソボの利益にならない方法で国の鉱物資源を開発するのを防ぐように設計された鉱業法を静かに修正し、公募なしで石炭を探すライセンスを発行できるようにした。その後間もなく、エンビディティはコソボの領土の3分の1にわたって褐炭を探す調査ライセンスを与えられる。しかし、ベクテル汚職が問題化したこともあって、クラークの計画は国連開発計画(UNDP)を憂慮させ、結局、頓挫した。これがアメリカの帝国主義の実態なのだ。

 

過去にウクライナで起きたこと、そして、今後起きること
 2014年2月、ウクライナでアメリカ政府が支援したクーデターが成功すると、アメリカ側はコソボとよく似たスキームを企んだに違いない。その一人がハンター・バイデン(ジョー・バイデン大統領の次男)であったことは有名だ。前回、拙稿「【ウクライナ戦争丸2年】もうホンネの話をしようよ~アメリカの「10の諸悪」」で紹介したように、当時、副大統領としてウクライナを担当していたバイデンを「屋根」にして利益をもくろんでいた、ウクライナのオリガルヒ(政治家と結託した寡頭資本家)ミコラ・ズロチェフスキーが、ハンターに多額のカネを支払っていたのは事実である。

 2022年11月、世界最大級の投資・運用会社であるブラックロックは、ウクライナ経済省との間で覚書を交わし、ウクライナ再建のための公共投資および民間投資の促進で協力することに合意した。同年末には、ブラックロックのラリー・フィンクCEOはウォロディミル・ゼレンスキー大統領との間で、ウクライナ復興への投資を調整することで合意した。2023年2月になると、米投資銀行、J・P・モルガンは、ゼレンスキー大統領と、破壊されたインフラを再建するための新たな投資ファンドに民間資本を呼び込むことを視野に入れた覚書を交わすまでになる。同年6月には、「ブラックロックとJ・P・モルガン・チェース(J・P・モルガンの親会社で銀行持ち株会社)、ウクライナと復興銀行設立で提携」と報道されるに至っている。虎視眈々と、カネ儲けの話が進んでいるのだ。

 つまり、アメリカの一部の投資家や富豪は、戦争をつづけることで儲けているし、戦争を停止しても儲けるための算段をつけている。そうした彼らの目論見に沿うかたちでバイデン政権がある。だからこそ、アメリカはウクライナ戦争を継続させたがっているのだ。これこそ、アメリカ帝国主義そのものなのである。

『帝国主義アメリカの野望』の上梓
 不可思議なのは、こんなアメリカが自由や民主主義を尊重すると称して、リベラルデモクラシーを世界中に普及させようとしてきた一方で、その帝国主義的な側面について批判的に解説する書物が極端に少ないことである。

 とくに、日本では、アメリカ批判が忌避されている。つまり、アメリカの事実上の「属国」と化した日本では、「宗主国」たるアメリカ政府を批判できないムードが漂っているように思われてならない。アメリカ政府を怒らせると、さまざまな制裁が現実に執行されて大変な目に遭いかねないという雰囲気が横溢(おういつ)しているのだ。

 そう考えると、6月に社会評論社から上梓される拙著『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』(下の写真)も白い目で見られることだろう。400字換算800枚を超す大著全体がアメリカ帝国主義批判であふれているからだ。だが、それは、逆に言うと、この本を読めば、日本においてあまり語られていないアメリカの「真実」がわかるということになる。帝国主義アメリカの「属国」でありつづけている日本がいかに間違っているかを理解できるようになるはずなのである。

 (出所)https://www.amazon.co.jp/dp/4784513884

 森永卓郎著『書いてはいけない日本経済墜落の真相』を読めばわかるように、日本には、琴線に触れる重大な内容であるがゆえに、主要マスメディアが決して紹介しない情報が存在する。そんな情報であっても、的確な識見としっかりした事実に裏づけられていれば、少しずつ人口に膾炙(かいしゃ)できると信じている。それは、ジャニー喜多川の性加害を無視してきた、悪しき日本のマスメディアに一矢報いたBBCが証明してくれたことでもある。

 率直にいうと、私は国家というものが好きではない。だが、アメリカの「属国」であるよりは、「独立国ニッポン」であってほしいと心から願っている。拙著『帝国主義アメリカの野望』は、「憂国の士」必読の一冊なのだ。尊敬するノーム・チョムスキーが「アメリカこそが「ならず者国家」だ!」と説く『すばらしきアメリカ帝国』(集英社、2008年)(原題はImperial Ambitions, 2005)とともに、より多くの読者の書架に並べてほしいと願っている。

塩原 俊彦(元高知大学大学院准教授)