国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会の報告書に「事業者の意見が反映されていない」と反論した政府。その見解に市民の意見は反映されていなかった
(左から)上川陽子外務大臣宛の要請書を手にする「明治神宮外苑を子どもたちの未来につなぐ有志の会」のメンバーと、「神宮外苑の自然と歴史・文化を守る国会議員連盟」の船田元衆議院議員(2024年6月7日)
東京・明治神宮外苑では、樹木を伐採して野球場やラグビー場を建て直し、高層ビルを建築する再開発が計画されている。
この計画に対し、国連ビジネスと人権の作業部会は5月、市民との協議が十分に行われていないことなどを理由に「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」と懸念を表明した。
しかし、この指摘に政府は真っ向から反論しており、「報告書には事業者の意見が反映されておらず、公平ではない」「事業者は法に従って環境影響評価を実施しており、住民説明会も開催している」と主張。神宮外苑に関する項目をすべて削除するよう求めている。
この削除要請の取り下げを求めたのは、再開発予定地域の住民らによる「明治神宮外苑を子どもたちの未来につなぐ有志の会」だ。
同会はこれまで、神宮外苑で子どもたちが安心・安全に暮らしていける環境を守るため、市民と対話する場を作るよう再開発の事業者や東京都に求めてきた。
蓮舫氏「1度立ち止まるべき」神宮外苑再開発地区を視察、東京都知事選で「当然、争点になる」
同再開発をめぐっては、樹木の伐採や、現在の神宮球場から建て替えられる新球場の建設に伴い、象徴でもあるイチョウ並木の生育に影響するのではないかと懸念の声が多く、事業者側は対応策を取っているとするが、現在も反対論がくすぶっている。
長年、同地区の樹木の調査を続け、再開発見直しを求めている国際記念物遺跡会議(イコモス)の日本国内委員会の石川幹子理事とともに約1時間、視察を行った蓮舫氏は、石川氏からイチョウや樹木の生育状況について説明を受けた。
終了後の取材に「1度決まった再開発でも、首長の判断で立ち止まることはできると思っている」とした上で「都から事業者に新たな伐採計画を出すようにといわれていながら、いまだに出てきていないのは、何らかの力が働いているとしか思えない。(再開発は)いったん、立ち止まるべきだと思う」と訴えた。
この問題が、都知事選の争点になるかと問われると「当然、争点です。当たり前だと思う。(事業者側が新たな伐採)計画を早く出すようにしないのもおかしいと思う。もし現職の方が(知事選に)出られたら、私は問わせていただきたい。(小池氏に)お考えがあって、納得できるかどうかは、都民の投票判断の1つだと思う」とも訴えた。
一方、依然公表していない都知事選の公約の発表時期についてあらためて問われたが「候補者がほぼ出そろったところで、(有権者の)みなさんに比較していただきやすいタイミングで出したいと思っている」と、述べるにとどめた。
神宮外苑の再開発は「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」国連人権理事会が報告書で指摘
企業活動による人権侵害を調べた国連の調査で、神宮外苑再開発の問題も指摘されました
国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が5月、2023年7〜8月に日本で実施した調査の報告書を発表した。
政府や企業に対する提言や勧告が盛り込まれた報告書では、東京・明治神宮外苑の再開発についても触れられており、「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」と懸念が表明されている。
作業部会が「健康、気候変動、自然環境」を扱った部分で問題視したのが「環境影響評価(アセスメント)」における「パブリックコンサルテーション」の不十分さだ。
「環境影響評価」とは、開発事業を行う際に、環境への影響を事前に調査、予測、評価する制度のこと。
「パブリックコンサルテーション」は、政策や計画、提案、法律に対して広く市民や関係者の意見を募り、透明で民主的な決定をするためのプロセスだ。
作業部会はこのパブリックコンサルテーションが不十分な事例の一つとして、神宮外苑地区の再開発プロジェクトを挙げ、「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」と懸念を表明。
気候変動による影響を特に受けやすく、危険にさらされている市民らと、意義あるコンサルテーションを行うよう政府や自治体などに求めている。