同日同時刻に2枚のチケットを申し込み…スクープ!野田聖子元総務相の「JR無料パス」不正利用疑惑

 
不正を不正とも感じなくなった自民党議員の一場面であろう。全てが緩みだらけ。緊張感をまったく感じない。政治家失格である!
 
 
昨年末に明らかになった自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件。東京地検特捜部による捜査や、国会での政倫審、関係者の処分、政治資金規正法の改正と、年明け後の政局もまた裏金一色になった。こうしたなか、岸田文雄首相をはじめとする永田町関係者の視線の先にあるのが、9月に控える自民党総裁選である。
 
「テレビでも、高市さんや上川さんの名前は出てくるけど、私の名前は全然出してくれない」

最近、親しい関係者にそう漏らしたのは、元総務相の野田聖子衆院議員である。
野田議員と総裁選をめぐっては1月、次のように報じられている。

〈岐阜市内で開いた新春の集いで「今年は最初で最後の大きな勝負に出る年」と述べ、9月の党総裁選の出馬に意欲を見せた〉(1月29日付岐阜新聞)

ところが、“出馬宣言”のあとも、野田議員のメディアでの露出は増えていない。保守層からの支持が厚い高市早苗経済安全保障相や、「次の首相にふさわしい人」を尋ねる世論調査で評価が急上昇した上川陽子外相と比べて、野田議員は焦りを感じているようなのである。

一方、裏金事件の再発防止に向けて、岸田首相が、自らの出身派閥である宏池会の解散を宣言すると、麻生派をのぞく全派閥が追随。派閥の集合体だった自民党は、一転して無派閥議員が大半を占めることになり、“派閥の論理”が幅を利かせてきた総裁選のあり方が変わる可能性が出てきた。

本来ならば、こうした状況は、無派閥で長年活動してきた野田議員にとって追い風になるはずである。総裁をめざす意欲はありながらも、これまでに何度も派閥の壁にはばまれ、出馬の条件となる推薦人集めにも苦労してきたからだ。

ところが、メディアからの注目度と同様、自民党内外で“野田総裁”誕生の待望論が盛りあがっているとは言い難い。思うに任せない現状に、野田議員は早くも弱気になっているという。

「私、あんまり、(総裁選に)出る出るって言うのはやめようと思っている。石破(茂・元幹事長)さんみたいに嫌われるといけないから」

そんな野田議員にとって、さらなる逆風になり得る内部資料がある。それが、野田議員側が作成したとみられる「国会議員指定席・寝台申込書」(以下「申込書」)である。これは議員特権の1つでもある「JR無料パス」(国会議員用鉄道乗車証)を使って鉄道を利用する際に、JR旅客各社の駅窓口などに提出する用紙だ。

「国会議員は全国のJR路線に自己負担なしで乗ることができますが、駅の改札を通る際に、自身の身分を証明するために使われるのがJR無料パスです。これがあれば特急券も無料になり、新幹線のグリーン車も乗れる。ただし、指定席に座る際に必要になるのが申込書です。この用紙に利用区間や日時、列車名などを記入してみどりの窓口に提出し、指定席券を発行してもらいます」(国会議員秘書)

JR無料パスの予算は歳費法にもとづいて計上され、’23年度は衆参両院あわせて約5億円。一方で、税金によって賄われていながら、大野泰正参院議員(1月に自民党を離党)が、特急券を第三者に供与した疑惑を本誌「FRIDAY」が報じるなど、これまでに複数の国会議員による不正利用の実態も明らかになっている。

そして、今回入手した2枚の申込書から、野田議員にも、JR無料パスを不正に利用していた疑惑が浮かぶのだ。

2点目、3点目の写真を見てわかるように、2枚の申込書に記入された内容は同じで、どちらも10月31日21時56分名古屋発の「のぞみ62号」品川着の指定席を申請している。押された検印からは、これらがいずれも’21年のものであると読みとれる。

また、2枚の申込書はそれぞれ「10645―01」と「10645―02」の異なる通し番号によって識別されていることから、同じ座席を重複して、もしくは誤って申請した可能性もなさそうだ。「収受額」の欄に書かれた「0」は、指定席券が無料で発行されたことを示すとみられる。

つまり、この2枚の申込書は、同じ日時の同じ列車において、野田議員が2つの座席を確保していたことを示しているのだ。ただ、このような申込書は本来、存在してはならない。

「JR無料パスは、あくまで議員本人に対して交付しています。したがって議員の仕事のサポートが目的であっても、秘書ら事務所関係者や、議員の親族が利用することはできない。また、議員本人だけが利用するものであるため、同じ列車の複数の座席が申請されることも想定していません。ただし、歳費法には、不正利用をした場合の罰則は定められていません」(衆議院事務局議員課)

では、野田議員は、なぜこのような申込書を作成したのか。

まず気づくのは、申請日の’21年10月31日は、岸田政権の発足直後に行われた総選挙の投開票日だということである。実際、野田議員のFacebookには同日、地元の岐阜市内に構えた選対事務所で、支援者とともに当選後のバンザイをする様子がアップされている。当選を一緒に喜んだ自民党岐阜県連関係者が話す。

「あの日、野田さんは『忙しい、忙しい』と言っていて、バンザイのあと、その日のうちに東京に戻らなければいけないということでした。当時、野田さんは少子化担当相で、翌日からの公務に備える必要があると。新幹線の時間も決まっていたようで、当選後のマスコミ各社のインタビューも早々に切りあげて、選対事務所をあとにしていました」

当選が決まった翌朝は、街頭に立って一般の有権者向けにあいさつをするものだが、野田議員の場合は、公務のために10月31日の夜のうちに帰京したというのである。このあたりの証言も、申込書の内容と一致している。

また、選対事務所を構えていた岐阜市神田町から名古屋駅までは、乗用車で40~50分程度。岐阜にも新幹線の停車駅はあるが、のぞみ号に乗り換える待ち時間などを考慮したとすれば、申込書の内容と矛盾するものではない。

その帰りの新幹線で2座席を確保した野田議員は、いったい誰と一緒だったのか。岐阜市内の地元事務所で筆頭格だったM秘書(当時)は次のように話す。

「私はあくまで岐阜担当の秘書なので、あの日、代議士と一緒に東京に向かってはいません。3年前のことなので記憶があいまいなのですが、代議士は1人で帰京したように思う。

選挙では、普段は東京の事務所に詰めている秘書たちも、地元に来て活動します。しかし、当選が決まったあとも残務処理などがあるので、投開票日のうちに、代議士と一緒のタイミングで東京に帰ることはできなかったのではないか」

野田議員が1人で新幹線に乗ったという点に関しては、東京の事務所で、政策秘書として野田議員を支えるH秘書の証言も一致する。また、H秘書も新幹線に同乗した記憶はないという。

「3年前の話なので定かなことは伝えられないのですが、(野田議員は)おそらく1人だったような。投開票日、私自身はたぶん東京にいたと思いますけど…」

秘書が同行していないのであれば、野田議員の家族が同乗した可能性はどうか。事務所関係者が振り返る。

「’21年の総選挙に関しては、代議士の家族は岐阜に来ていなかったと思います。一方で、’14年や’17年の総選挙では、夫や長男が岐阜に滞在していたことを覚えている。あのときは、12日間の選挙期間中、代議士も3、4日間は地元で活動することができたので、夜を家族と過ごすために東京から呼んでいたのだと思う。

しかし、’21年は、代議士が地元に入ったのは公示日の1日だけ。残りは仲間の応援のため、全国を飛びまわっていて地元では活動していない。コロナ禍でもあったので、東京から家族を遠出させて、感染のリスクにさらすようなことはしなかったと思います」

3年という時間の壁もあり、当時の記憶を鮮明に覚えている関係者は少ない。そこで、真相を知るはずの野田議員に尋ねるため携帯電話を鳴らしたのだが、応答はなかった。野田事務所に質問状を送ると、おおむね次のような回答があった。

「新幹線に乗車していたのは、野田聖子本人と警護官1名です。野田はJR無料パスを使って乗車し、警護官は乗車券を購入しました」

投開票日の夜、帰京する新幹線に同乗していたのは、当時、閣僚だった野田議員を警護する警視庁のSPだったという。

しかし、この回答からは、SPの乗車券とは別に、SPの指定席券(特急券も含まれる)の費用を誰が負担したのかが不明確である。本誌が入手した申込書からは、野田議員がJR側に、指定席券を2枚発行させた疑いが生じているのだ。そこで追加で質問状を送ると、おおむね以下のような回答があった。

「SPの乗車券、指定席券はどちらも警視庁が費用を負担しています。また、(野田議員側から)SPには指定席券を供与しておりません」

ここで、本誌が入手した申込書の内容と、野田議員側の回答の間で矛盾につきあたった。仮に、申込書の内容と、野田議員側の回答がともに事実であれば、投開票日の夜、新幹線に同乗していたのは3人ということになる。つまり、JR無料パスを利用した野田議員と、警視庁の経費で乗車券と指定席券を購入したSP、そして、申込書を使って野田議員側が発行させた2枚目の指定席券を利用した第3の人物である。

このような矛盾が生じるのは、野田議員側の回答にうそが含まれているからではないのか。

一方、野田議員のこのようなJR無料パスの利用状況から、JR側の対応も含めた制度の“欠陥”も垣間見える。

もう一度、申込書の写真を見てほしい。2枚の申込書に押された検印は同じものとみられ、日付のほか、どちらも「138」「名古屋」という数字や文字が確認できる。また、写真で塗りつぶし処理している部分には、指定席券を発行した担当者のものらしきシャチハタ印が押してあり、2枚とも同姓のものである。

つまり、これら2枚の申込書は、野田議員側が、名古屋駅構内の同じみどりの窓口に、同時に提出したものだと考えられる。一方で、申請された指定席券は、同じ時刻の同じ列車のものであることから、窓口の担当者は、野田議員側の申込書の内容が不正なものであることに気づくことができたはずだ。

それにもかかわらず、JR側は、野田議員側に2枚の指定席券を発行したのである。この点について、JR東日本(JR無料パスの運用についてマスコミ対応を担当)に聞くと、次のように回答した。

「仮に、同じ日時の同じ列車で、複数枚の指定席券の申し込みがあった場合は、国会議員が実際に利用する指定席を確認し、当該の指定席券を交付します」

すると、’21年10月31日の名古屋駅で、野田議員側に対して2枚の指定席券を発行したのは、担当者の単なる確認不足ということになるのだろうか。自民党の裏金問題にとどまらず、国会で審議するべき“ブラックボックス”はここにもある。

取材・文:宮下直之(ノンフィクションライター)
naoyukimiyashita@pm.me

取材・文:宮下直之(ノンフィクションライター)

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