「パートで働く短時間労働者の厚生年金の加入について企業規模の条件を撤廃したり、国民年金の支払期間を65歳まで引き上げる動きもある。税金や社会保障費の負担は限界近くまで来ています」(荻原博子氏)
 児童手当の拡充の見返りに、配偶者控除や扶養控除も廃止の方向。喜ばせておいて後でガッカリ……、底意地が悪いとしか言いようがない。

 

 

 6月からの1人4万円の定額減税に続き、10月からは児童手当の拡充(高校生まで月1万円など)が始まる。一見、政府による大盤振る舞いのように思えるが、お金は空から降ってくるわけではない。喜んだのも束の間、怒涛の増税ラッシュが待ち受けている。

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「6月から1人4万円の所得税・住民税の定額減税を行い、今年の夏には賃上げと所得減税を組み合わせることで可処分所得の伸びが物価上昇を上回る状態を“確実”に実現いたします」

 租税に関する調査審議を行う「政府税制調査会」(政府税調)の会合が始まっている。冒頭は初回総会での岸田首相の発言。最近は〈増税メガネ〉から〈恩着せメガネ〉というニックネームが定着しているが、ここでもしっかり定額減税をアピールしている。

 政府税調とは本来、税の公平・中立の観点から立法や国会審議における参考資料として有識者が意見を言う場。だが、これまでには増税の“お墨付き”を与えてきた側面もある。昨年は「退職金課税」「通勤手当課税」などが議論され、今年も少子高齢化の進行や労働力人口の減少を理由に所得税や消費税、資産課税などを安定的に確保する方法を検討中だ。

「政府税調の答申に記載される文言は『検討』ではなく、近い将来『決定』に向かうことが多い。2023年度でさえ所得に占める税と社会保障の負担割合は46.8%。1人4万円の定額減税を喜んでいる場合ではありません」(経済ジャーナリスト・荻原博子氏)

 岸田首相が財政赤字の転換と国債依存からの脱却を図るのはわかるが、その一方で物価高騰で庶民が困窮するのを尻目に、24年度の防衛費と関連経費は総額8.9兆円、27年度までにGDP比2%の11兆円まで引き上げる方針。

 当然、支出削減だけでは限界があり、どこからか取ってくる必要がある。とはいえ、岸田首相は過去に「消費税は10年程度は上げることを考えていない」(21年9月・自民党総裁選の候補者討論会)と発言しており、いわば手足を縛られた状況。そうなると、個人所得税や資産課税といった庶民の懐から徴収する以外に方法がないのだ。

 では、どんな増税をたくらんでいるのか?

 

月20円程度だが40年間徴収される



 

■復興特別税…2057年まで20年延長

 防衛費の財源のため一昨年の税制改正大綱で出てきたのが、「復興特別所得税」の20年延長案。東日本大震災の復興を目的に13年1月から37年12月まで期限を切って所得税額に対し2.1%が徴収されているが、この税金を1%に引き下げて57年まで延長する案が浮上している。「被災者のためなら」と復興特別所得税を甘んじて受けていた人も多いのに、防衛費では話が全然違う。

「直接の税金ではありませんが、補助金終了で高騰が話題に上っている電気料金。この毎月の電気料金には北海道電力から九州電力まで全国あまねく、福島第1原発の『賠償負担金』と『廃炉円滑化負担金』が上乗せされています。本来は東京電力に負担させるべき筋合いのものです」(荻原博子氏)

 多くの国民は知らなかったろうが、20年からこっそり徴収されているのだ。今のところ標準家庭で月20円程度の負担だが、60年まで40年間徴収され続ける。もちろん、「復興特別税」との二重払いだ。

■森林特別税…名前と中身を変えて徴収

 復興特別税(国税)とは別に復興特別税の「個人住民税加算」(地方税)が1人年間1000円徴収されていた。地域の防災対策が目的で、その期限が23年で切れたと同時に登場してきたのが「森林環境税」。温室効果ガス排出削減や災害防止などを図る目的で、同じく年1000円の全額が国から都道府県・市区町村に譲与される。

「一度導入した税金は中身や名前が変わろうと手放したくない。温暖化対策に充てられる税金にはすでに『石油石炭税』があります」(ジャーナリスト・中森勇人氏)

■たばこ税…1本3円相当の値上げ

 これも防衛力強化のため、27年度までに段階的に1本あたり3円の値上げを予定中。現行、国と地方を合わせ、紙巻きたばこには1箱あたり304.88円の税金が課せられているが、これを364.88円程度に引き上げる。また、喫煙者の2割以上が利用し、今後も増加が見込まれる加熱式たばこについても、紙巻きたばこの7~8割程度に抑えられてきた税金を同水準まで引き上げる予定だ。

 たばこ税の収入は最盛期に2.3兆円を超えていたが、23年度は国と地方合わせて1.9兆円程度に減少。税金を2割アップすれば、ちょうど最盛期の頃の税額に戻る。

 

児童手当拡充の見返りは配偶者・扶養者控除廃止

 


■酒税…第3のビールとチューハイを狙い撃ち

 酒税の増税はすでに決まっている。現行、第3のビール(新ジャンル)には350ミリリットル1缶あたり47円の税金がかかっているが、26年10月から54.25円に増額(15.4%アップ)。キリン「のどごし生」「本麒麟」、サントリー「金麦」、アサヒ「クリアアサヒ」といいった今や売れ筋のビールばかりだ。

 さらに、現行1缶あたり28円のチューハイは25%もの大幅アップで35円に増額。キリン「氷結無糖」、コカ・コーラシステム「檸檬堂」、サッポロ「男梅サワー」などが対象になる。

■退職金…老後資金の非課税枠を縮小

 会社員の退職金は勤続年数20年までは1年につき40万円、20年以降は70万円へと控除額が増える。仮に大卒38年勤務の人の場合、計2060万円までなら一時金で受け取っても税金がかからない。この控除額を20年以降も1年40万円のままで据え置こうというもの。1520万円以上は課税の対象になる。

■通勤手当…通勤の足にまで税をかける

 通勤手当は福利厚生のひとつであり、電車やバスといった交通機関を利用する従業員は1カ月15万円までなら非課税。マイカー通勤なら最大3万1600円まで認められる。この通勤手当を「給与」にして、そこから所得税を徴収しようという案が検討されている。

■相続税・贈与税…若者の結婚支援も打ち切り

「住宅取得等資金贈与の特例」は昨年12月をもって廃止されているが、経済的不安から結婚・出産(不妊治療含む)を躊躇する若者に両親や祖父母の資産を1000万円まで非課税で譲渡できる「結婚・子育て資金一括贈与」も来年3月で廃止になる。年間110万円の生前贈与についても制限される予定だ。

「パートで働く短時間労働者の厚生年金の加入について企業規模の条件を撤廃したり、国民年金の支払期間を65歳まで引き上げる動きもある。税金や社会保障費の負担は限界近くまで来ています」(荻原博子氏)

 児童手当の拡充の見返りに、配偶者控除や扶養控除も廃止の方向。喜ばせておいて後でガッカリ……、底意地が悪いとしか言いようがない。