【政治とカネ問題の“最大の聖域”】『官房機密費』の決裁権を持つ元官房長官が核心証言「選挙の陣中見舞いに使った」

 
 官房長官経験者への取材に協力したジャーナリスト・相澤冬樹氏が語る。

「これだけ証言が重なれば、機密費を選挙にも使っていたという事実は動かしようがありません。鈴木(馨祐)議員の発言は勇み足ですね。記録も残さず永遠に使い道がわからないという機密費のあり方自体を見直すべき時だと思います」
 
 
 毎月約1億円、年間約12億円もの税金の使途が“ブラックボックス”になっている──それが「官房機密費」だ。国会で「政治とカネ」の改革を掲げて必死にアピールする岸田文雄・首相も、そこには決して手をつけようとしない。そうしたなか、機密費を管理する立場にあった元官房長官が本誌・週刊ポストの取材に重い口を開いた。
 
収支報告書に記載しない
「政治とカネ」の問題で最大の聖域となっているのが官房機密費だ。その機密費をめぐる疑惑に、火がつこうとしている。

「選挙応援に行って機密費から100万円渡した」

 官房長官経験者が中国新聞(5月10日付)のインタビューに匿名ながらそうした趣旨の発言をしたことが発火点だ。

 同紙は自民党が政権に返り咲いた直後の2013年参院選の際、東日本のある選挙区の応援に入った安倍晋三・首相と個室で面会した候補者が安倍氏からA4判の茶封筒を受け取り、中にあった白い封筒には100万円が入っていたという証言を報じている。

 候補者は「陣中見舞いのような感じで差し出された。厳しい選挙戦の足しにしてほしいという意味と思った」と証言し、選挙運動費用収支報告書や政治団体の政治資金収支報告書には記載しなかったという。

 官房機密費は「内閣官房報償費」という名称で、予算は年間約12億円。毎月およそ1億円が現金で官房長官室の金庫に入れられ、大半が官房長官のサイン一つで支出される。領収証は必要ない。まさに官邸の“裏金”だ。

 政府は機密費を「国の機密保持上、使途等を明らかにすることが適当でない性格の経費」(林芳正・官房長官)と説明しているが、税金である機密費が自民党という一政党の選挙資金として“私的”に流用されていたことは重大な疑惑だ。

 そのため、自民党では鈴木馨祐(けいすけ)・政治刷新本部座長がテレビ番組で、「機密費を選挙目的で使うことはない。断言する」と躍起になって否定した。

 岸田首相も5月20日の衆院予算委員会で、「官房機密費は内閣の政策遂行におけるお金、(自民党の)政策活動費は党における党勢拡大等に使われるお金、全く目的が異なったお金であります」と火消しに追われている。
 
 だが、自民党の歴代政権が機密費を選挙に使ってきたことは政界では公然の秘密だった。

 閣僚経験者がこう語る。

「首相や官房長官が応援に入るのは接戦の重点選挙区だ。党本部からも選挙終盤のテコ入れのために資金が追加されるが、首相や官房長官はそれとは別に、応援に入る際には官房機密費から陣中見舞いを置いていくのが慣例になっている」

 その一端が表に出たのが2019年の参院選広島選挙区での河井克行・案里元夫妻の選挙買収事件だ。捜査の過程で、「総理2800 すがっち500」などと書かれたメモが押収され、当時の安倍首相から2800万円、「すがっち」こと菅義偉・官房長官から500万円を受け取ったことを示しているとみられている。

 小渕恵三内閣の官房副長官を務めた鈴木宗男氏も、本誌の取材に対して、「1998年の沖縄県知事選で機密費が使われた」と証言。官邸から選挙の現場へと、カネがどう渡っていくかを語った。

 さらに本誌は、機密費の決裁権を持つ官房長官経験者から重大な証言を得た。

「陣中見舞いを(報償費から)出すということは自分の経験でもあった。(鈴木馨祐議員は『選挙目的に使うことはない』と発言したが)彼は官房副長官の経験もないし、報償費の使い道について断言できる立場ではないでしょう」

 官房長官経験者への取材に協力したジャーナリスト・相澤冬樹氏が語る。

「これだけ証言が重なれば、機密費を選挙にも使っていたという事実は動かしようがありません。鈴木(馨祐)議員の発言は勇み足ですね。記録も残さず永遠に使い道がわからないという機密費のあり方自体を見直すべき時だと思います」

※週刊ポスト2024年6月7・14日号