改定案は、安定的な輸入確保のために輸入相手国への投資の促進を位置付けており、「さらに国内生産を軽視することになりかねない。食料自給率向上を国政の柱にすえ、際限のない輸入自由化路線に歯止めをかけ、農業水産予算を思い切って増額することが必要だ」

 

 

 農政の基本方針を定める改正食料・農業・農村基本法が29日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。食料安全保障の確保を新たな柱とし、持続的な食料供給のため、生産コストの適切な価格転嫁を後押しする必要性も盛り込んだ。

 「農政の憲法」と呼ばれる基本法の改正は、1999年の施行以来初。改正法では、基本理念として新たに定めた食料安保について「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義した。国内生産の拡大を基本としつつ、輸入相手国の多様化や備蓄により食料の安定供給を図るとした。

 また輸出を促進することで、農業や食品産業の収益向上を目指す。食料価格は需給や品質の評価が適切に反映され「合理的な費用が考慮されるようにしなければならない」とし、価格転嫁を促す姿勢も示した。

 

 環境と調和の取れた調達・生産から消費までの「食料システム」の確立も重視するとした。また、生産性や付加価値の向上で農業の持続的な発展を図ることも明記した。そのために取り組む政策として、多様な農業者による農地の確保や、農業法人の経営基盤強化、スマート技術を活用した生産性の向上などを掲げた。

 複数の目標を定め、政府が少なくとも年1回は達成状況を公表することも盛り込んだ。食料自給率や、輸入に依存する肥料や飼料の調達状況などを想定する。

 基本法はロシアのウクライナ侵攻や地球温暖化の進行、人口減少などで食料安保の確保が課題となる中、2022年9月に岸田文雄首相が見直しを指示していた。【福富智】

 

 

自給率向上「投げ捨て」

改定農基法成立 紙議員が反対討論

 改定食料・農業・農村基本法が29日の参院本会議で、自民、公明、維新の賛成で可決、成立しました。日本共産党、立民、国民は反対しました。

 日本共産党の紙智子議員は反対討論で、法案が「食料自給率の目標」を「食料安全保障の確保に関する事項」に書き換え、「最重要課題の食料自給率の向上を投げ捨てた」と厳しく批判。そのうえで「食料と農業の危機を抜本的に打開するには、食料自給率の向上を国政の柱に据え、危機打開にふさわしく農林水産予算を思い切って増額することだ」と主張しました。

 紙氏は、「食料自給率は38%に低迷し、目標はこれまで一度も達成されていない」と指摘。「自民党政権のもとで、TPP、日米貿易協定、日EU・EPAなど、歯止めなき輸入自由化が進み、安い農産物の大量輸入が続いてきた」とし、法案は自由化路線を改めるどころか、「安定的な輸入を図る」などと書き込んでいると述べ、「国内生産の土台を掘り崩す」と批判しました。

 また紙氏は、全国各地で「農業で生活できない」「担い手がいない」という声が広がっていると強調。「生産者に対する直接支払いをかたくなに拒否し、農家の苦境を放置するなら、農業・農村の崩壊を招く」と述べ、「政府の責任で、所得補償・価格保障を行い、再生産を支える仕組みが必要だ」と主張しました。

 同改定法の成立強行に対し、農民運動全国連合会(農民連)は同日、抗議声明を発表。全国食健連が議員会館内で開いた「シンポジウム」では「満身の怒りを込めて抗議する」などの発言が相次ぎました。

 

 

国民生活脅かす悪法 次々委員会可決

農基法改定案 参院委

食料自給率向上こそ 紙議員が提起

 
 政府が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と判断すれば地方自治体に対して指示ができる「指示権」を新たに導入する地方自治法改定案が28日の衆院総務委員会で、食料自給率の向上を投げ出す食料・農業・農村基本法改定案が同日の参院農林水産委員会で相次いで採決され、可決しました。日本共産党はいずれも反対しました。
 
 農政の基本方針を定める食料・農業・農村基本法改定案は自民、公明、維新の賛成多数で可決されました。日本共産党、立民、国民などは反対しました。

 改定案は、現行法で唯一の目標としてきた「食料自給率の向上」を投げ出し、「食料安全保障の確保に関する事項の目標」の一つに格下げ。農業や地域コミュニティーを支える兼業農家などは農業の担い手の補助者という位置付けです。

 日本共産党の紙智子議員は討論で、現行法の食料自給率目標が一度も達成されていないのに、まともな検証をしていないと指摘。改定案は、安定的な輸入確保のために輸入相手国への投資の促進を位置付けており、「さらに国内生産を軽視することになりかねない。食料自給率向上を国政の柱にすえ、際限のない輸入自由化路線に歯止めをかけ、農業水産予算を思い切って増額することが必要だ」と強調しました。

 また紙氏は質疑で、岸田文雄首相が「人件費等のコストに配慮した価格形成の仕組みの法制化」を検討すると答弁(4月27日の参院本会議)したことについて、「『人件費に配慮』とは労働法制でいう最低賃金を生産者に当てはめるということか」と質問。坂本哲志農水相は「賃金や所得を保障するものではない」と否定しました。

 紙氏は「いま必要なのは、農業で生活できない、飯が食えないという生産者の苦悩に応えることだ。生産者への直接支払いの仕組みをつくるべきだ」と強調しました。