主張
内閣官房機密費
民主主義を腐らせる重大問題

 

 自民党が政治資金パーティーの収入を裏金にしていたことが国民の怒りを呼び政権を揺るがしています。もう一つ、長年の自民党政権の下で、巨額の裏金として民主主義を腐らせてきたのが内閣官房機密費(報償費)です。

■選挙のために使う
 中国新聞は、2000年以降の自民党政権で官房長官を務めた元政権幹部が取材に対し、国政選挙の候補者に陣中見舞いとして現金を渡す際に内閣官房機密費を使ったと証言したと報じました。(10日)

 内閣官房機密費は「国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務と状況に応じ、その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費」とされます。政府は使途を明らかにすると他国などとの信頼関係が損なわれ交渉で不利益になる恐れがあるとして「機密保持」を理由に使途公開を一切拒んできました。

 今回の中国新聞の報道を受けて、自民党の政治刷新本部作業部会座長の鈴木馨祐(けいすけ)衆院議員は、根拠も示さず「選挙目的で使うことはない」(12日、NHK番組)と断言しましたが、官房長官経験者ではない鈴木氏は使途を知りうる立場にはなく、無責任な発言です。

 岸田文雄政権は、選挙で使っていないか確認を求める立憲民主党議員の質問主意書に対し、確認する考えはなく、チェックできるよう見直す考えもないとする答弁書を閣議決定しました。(24日)

 しかし、これまでに、選挙や、法案通過に際しての野党対策、外遊する議員への餞別(せんべつ)、政治評論家に配るなどに使ったという官房長官経験者の数々の証言があります。

 2001年には日本共産党の志位和夫委員長(当時)が内閣の内部文書を暴露し、機密費が消費税導入法案の強行成立のための野党対策に使われていた疑惑を追及。02年には、機密費の収支を記した「金銭出納帳」という内部文書をもとに、政治家のパーティーや商品券、背広の仕立て代など自民党の党内対策や野党対策のためにばらまかれ、私的流用もされていることを明らかにしました。「国家機密」に当たるものはありませんでした。

■ルールづくり必要
 年間約12億円の内閣官房機密費は会計検査院の検査を受けるというものの、支払い先を明らかにする必要も、記録する義務もないとされています。

 なかでも、機密費の約9割を占める「政策推進費」は、官房長官に支出された時点で支出が完了し、そこから先は領収書も不要、官房長官ひとりの裁量で勝手に使える“つかみ金”で、裏金中の裏金です。

 国民の税金が党利党略、政権維持のために闇の中で使われることは、民主主義の根幹にかかわります。

 機密費が政策買収や世論誘導などに使われないために、使用の実態を国会と国民に公開し、党略的・私的流用をしないことを約束する必要があります。機密費に関する情報公開を求め一部開示を勝ち取った裁判の原告が求めたように、▽官房機密費を国会議員やジャーナリスト、公務員に渡すことの禁止▽一定の期間が過ぎた支出の公開―は最低限、必要なルールです。

 

 

官房機密費「盆暮れ対策で一定額が届く」 元衆院議長秘書が暴露

 

 

 

 平野貞夫元参院議員は27日の衆院政治改革特別委員会に参考人として出席し、領収書不要の「内閣官房報償費」(官房機密費)について、自身が前尾繁三郎衆院議長(在任1973~76年)の秘書を務めていた頃、前尾氏の私邸に「盆暮れの対策」として一定額が届けられていたと明らかにした。

 参考人質疑は政治資金規正法改正論議の一環として実施。平野氏は機密費の使途について問われると、政界入り前に衆院事務局職員として前尾衆院議長の秘書を務めたと説明し、「突然、官房長官が議長の私邸に一定の額、盆暮れの対策として機密費を(現金で)持ってきた」と語った。前尾氏は官房長官が帰った後、「こういうことするから民主主義が育たない」と語り「廊下に(現金を)ほっぽり出した」という。

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 対応に困った平野氏は現金を袋に入れて国会に持ち帰り、当時の上司に相談した。上司は「4~5年前からそんなことがあるらしい。やらないわけにはいかないから、お前、袋にそれぞれ入れて(国会議員に)配れ」と平野氏に指示したという。平野氏は、この指示に従ったのか、金額はいくらだったのかについては明らかにしなかった。

 平野氏は「それが今、続いているかは知らない」とした上で「私も政治家をやりましたので、いただいたり、渡したりした経験あるが、悪かったと思ったことは一つもない」と語った。一方、「これは放っておくものではない。絶対に公開する仕組みを作るべきだとの意見は持っていた」と述べた。【飼手勇介】