【スクープ】岸田首相が「日銀総裁を叱った」…!? 円安を加速させる「いいカモ」植田総裁の失言に、政権も財務省も「なんとかならんか」と大激怒

本音じゃん!
 
 
官邸に呼び出し「くぎを刺した」
 日銀の植田和男総裁が円安対応に苦心させられている。

 4月26日の金融政策決定会合後の記者会見で足元の円安について「基調的な物価上昇率に今のところ大きな影響はない」と発言したことが仇となり、一時、1ドル=160円台と約34年ぶりの安値まで円安が進むきっかけを作った。
 
 円相場を巡り、市場と激しい駆け引きを続けている官邸や財務省内では、相場の恐ろしさを熟知していない「植田総裁リスク」を警戒する声が拡大。連休明けの5月7日に岸田文雄首相から官邸に呼び出された植田氏は「市場の受け止め方には十分注意してください」などとくぎを刺されたという。

 その後、植田氏は一転、過度な円安には利上げで対応する可能性を示唆するなど軌道修正に躍起の様子だ。

 だが、4月の植田発言から景気や物価の先行きに自信を持ち切れない日銀の姿も見透かした市場では「前倒し利上げは難しい」との見方が根強く、円安牽制にはつながっていないのが実情だ。

 「初心(うぶ)な総裁の発言は、円売りを仕掛ける投機筋から格好のカモにされた」

 神田真人財務官(1987年旧大蔵省)の指揮の下、連休中も休日出勤態勢で円安に歯止めをかけるための大規模な円買い・ドル売りの「覆面介入」に奔走した財務省国際局幹部はこう嘆いた。

財務省でも非難轟々
 植田氏の4月の記者会見での発言は、経済学者による物価情勢分析の観点からは正しいかもしれないが、国際金融マフィアからすれば「言わずもがなの不用意な発言」にほかならなかった。円安進行による物価高への懸念が内閣支持率を一層下落させるリスクに神経を尖らせている岸田政権を逆撫でし、政治的なハレーションも大きかった。

 発言の軌道修正だけでは市場へのアピールが不十分と見たのか、日銀は5月13日、定例の国債買い入れオペ(公開市場操作)で長期国債の買い入れ額を500億円減らす行動に打って出た。

 しかし、円相場の押し上げ効果が乏しかった半面、長期金利は一時1%台と約11年ぶりの高水準を付けるなど、政府にとって都合の悪い結果となった。財務省内では「植田失言の尻拭いで、無用な長期金利上昇を招いた」との不満の声も漏れる。個人的に親しい日銀幹部に「総裁の言動をもっとコントロールできないのか」と苦言を呈した財務官僚もいた。

 昨春の総裁就任以来、学者らしい丁寧な説明をモットーにしてきた植田氏。記者会見では企画局が書いた想定問答を読まず、自分の言葉で語る場面もしばしばで、その姿勢こそが世論から評価されてきた。

 周辺筋によると、黒田東彦前総裁が自分の主張を述べ立てるばかりで記者の質問をはぐらかす「官僚答弁」に終始し、不興を買ったことを反面教師にした面もあるという。
 
「時間が来たら会見を打ち切れ」
 海外の著名学者だけでなく当局者とも幅広い交友関係を築いてきた植田氏は、「金融政策運営は自分で仕切る」を信条とする自信家でもある。首相もこれまでは「総裁として最適任の人材」と評価してきた。

 しかし、円安対応でのしくじりをきっかけに、官邸や財務省内の空気は変わり、自分のカラーにこだわり過ぎる植田氏を批判する声も燻る。実質賃金や消費支出のマイナスが続き、追加利上げに容易に踏み切れない以上、投機筋に隙を見せたり、市場の波乱を招いたりしないように言動に慎重を期せと迫るムードも強まっている。

 財務省内には「記者会見は黒田前総裁のように紋切型の答弁に終始し、記者が質問に手を挙げていても既定時間で打ち切ればいい」との強硬な意見すらある。

 ただ、「サービス精神が旺盛で目立ちたがり屋でもある」(周辺筋)という植田氏が、それで収まるかは分からない。

日銀は「最強布陣」を敷いたが…
 日銀は5月13日、追加利上げや国債買い入れの本格的な減額に備え、金融政策を立案する企画畑のプロで中枢を固める幹部人事や理事の担当変更を行った。白川方明元総裁(1972年入行)時代から金融緩和のスキーム作りに関わる加藤毅理事(1988年入行)を企画局担当に据えたほか、政策企画課長を務めた神山一成氏(1990年入行)を新たに理事に昇格させた。

 生え抜きトップの内田真一副総裁(1986年入行)、次世代エースの加藤理事、茶谷栄治財務事務次官の従弟で霞が関・永田町とパイプも太い正木一博企画局長(1991年入行)のラインを中心に、金融政策の正常化を着実に進める考えだ。

 日銀内では「プロパー最強布陣」の呼び声も高いが、一連の円安対応で官邸・財務省との間に生じた軋轢をどう解消するか。

 金融政策の手綱捌きだけでなく、植田総裁に“失言”を繰り返させないようにするための配慮も怠れない。

 
 

2022年から続く「1ドル=150円」超え…今後の「円安の行方」はどうなる?→国際金融アナリストの回答

 
2022年から3年連続で「1ドル=150円」を超え、長期化する円安。しかし、円安の主因に着目すると、2022年と2024年とでは異なる可能性が高い、とマネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は言います。当面の円安の行方を読み解くうえで、焦点となる考え方について、詳しく見ていきましょう。
 
当面の「円安の行方」を考える焦点とは
〈ポイント〉
・2022年から3年連続で1米ドル=150円を超える円安となったが、その主因は変わってきている。「歴史的円安」の理由は、経常収支の構造的悪化か、金利差拡大か。
・2024年に入ってからの円安は、以前に比べ、投機主導の構図が強まった。ただし、投機的円売りも過去最大規模に拡大するなど、行き過ぎの懸念が強くなりつつある。
・当面の円安の行方を考える焦点は、投機的円売りの今後の動き次第か。

3年連続で150円超の円安…理由はすべて異なっていた
2022年に米ドル/円は、1990年以来約32年ぶりで150円まで上昇、「歴史的円安」と呼ばれました。この「歴史的円安」の背景として、一部には経常収支の悪化を注目する見方もありました。たしかに、2022年度の日本の経常収支は黒字が9兆円と、前年度から半減しました(図表1参照)。

  経常黒字急減の主因は、過去最大を記録した貿易赤字。円安でも貿易収支が改善しない、または新たな「デジタル赤字」などの出現による、経常収支の構造的悪化が「歴史的円安」の大きな要因との見方もありました。

ただ、その経常収支は、2023年度に大きく改善しました。2023年度の経常黒字は、25兆円と過去最大となりました。ところが、この2023年も前年に続き、150円を超える円安となったわけです。経常黒字が記録的に拡大したにもかかわらず、「歴史的円安」が再現した理由とは何だったのでしょうか?

2022年から始まった、約40年ぶりの歴史的インフレ対策としての米国の大幅利上げ。それを受け、米金利も大幅に上昇したものの、2023年7~9月期の米実質GDP伸び率は前期比でほぼ5%といった、異例の高い数値となるなど、予想以上に強い米景気が続きました。それにより、米長期金利、10年債利回りは、一時2007年以来の5%まで上昇しました。

この米金利の上昇を受けた日米金利差の「米ドル優位・円劣位」の拡大が、日本の経常黒字が急拡大したにもかかわらず、2年連続で150円を超える「歴史的円安」の再現を招いた主因といえます。そもそも2022年も、日本の経常黒字急減は、150円超の「歴史的円安」が起こった一因にすぎず、より大きく影響したのは、すでに見てきたように、歴史的インフレ対策で米国が大幅利上げに動いたことによる、日米金利差の米ドル優位・円劣位が急拡大したことだったのではないでしょうか
 
日米金利差が円安の「主因」ではない、といえるワケ
ところで、日米金利差の「米ドル優位・円劣位」は、2024年に入り今に至るまで、2023年までのピークを下回っています。にもかかわらず、米ドル/円は、過去2年のピークとなった151円を大きく上回り、一時160円まで上昇しました。金利差で説明できる範囲を大きく超えた「米ドル高・円安」が起こった理由とは何だったのでしょうか?

2023年までの円安との顕著な変化の1つに、「投機的円売り」の急増がありました。ヘッジファンドの取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)は、4月下旬には約18万枚と、2007年に記録した過去最高値と、ほぼ肩を並べるところまで拡大しました。

  すでに見てきたように、日米金利差の米ドル優位・円劣位は、むしろ2023年までのピークを下回っていました。にもかかわらず、投機円売りはなぜ、2024年に入って急増したのでしょうか?

CFTC統計の投機筋の円売り越しが、過去最大規模に拡大した今回と2007年に共通しているのは、日米金利差の大幅な「米ドル優位・円劣位」の長期化といえます(図表4参照)。日米金利差の米ドル優位・円劣位は、投機筋や短期売買筋にとっては、「円売り」に有利な一方で、「円買い」には極めて不利です。そのような状況が長期化するなかで、円売りが急増したと考えられます。

  以上より、日米金利差の米ドル優位・円劣位のピークは、2023年を下回っているものの、大幅な日米金利差の「円劣位」が長期化するなかで、投機円売りが2024年に入って一段と拡大し、150円超の「歴史的円安」に繋がった可能性が高いです。

これまで見てきたことから考えると、一時160円まで達した「歴史的円安」は、構造的な経常収支の悪化が主因ではなかったといえます。そして、強すぎる米景気による日米金利差の「米ドル優位・円劣位」の拡大も、2024年に入ってからの円一段安を説明できるものではなかったようです。足下の円安の主導役が、投機円売りの拡大であるとすると、この歴史的円安の行方は、目先的には投機円売りがいつまで続くか次第となるでしょう。

投機円売りも、前出のCFTC統計などを見るかぎりでは、過去最高規模に達しています。つまり、過去には投機円売りが拡大したことのないところまで達したといえます。投機円売りが、目先的に過去最高をどれだけ更新できるか、それが歴史的円安の行方を決める一番の目安と考えられます。


吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

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吉田 恒