マイナ保険証「とんでもない欠陥システム」全国の医師ら100人が反対集会 利用率低迷「国から責任転嫁」憤りも

 
田村貴昭さん
「いままで通り保険証を残そう」。全国保険医団体連合会(保団連)の国会前で行動。私も連帯(23日)。
マイナンバーカード がなくてもなんら不便を感じず。カードを使ったら不具合。だから利用率も上がらず。能登地震では一時4万戸が停電、電気がなければ機能せず。やっぱり保険証は絶対必要。
 
 デジタル化推進を理由に2兆円超の血税を投じ、マイナ保険証への一本化に突き進む岸田政権。マイナンバーカードの保有は任意だったはずだが、いつの間にか紙の保険証廃止などによって事実上の「強制」となった。12月2日廃止というタイムリミットが近づく中、岸田首相に「聞く力」はもはやない。
 
 
全国の医師・歯科医師10万7000人で構成される「全国保険医団体連合会」が23日、東京・霞が関の衆議院第一議員会館前で「マイナ保険証」に反対するアピール集会を実施した。
 
政府主導で“総点検”も…医療現場ではトラブル続く
政府は今年12月2日に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」へ移行することを正式決定している。ところが、今年4月時点でのマイナ保険証利用率は6.56%と低迷中だ。全国保険医団体連合会はその理由として「国民からの信頼のなさの表れ」を指摘している。

マイナンバー制度をめぐっては、相次ぐトラブルを受けて政府が昨年「総点検」を行った結果、8395件の誤登録が判明した(総点検前の先行実施分なども含めると計1万5951件)。さらに、今年4月には新たに545件の誤登録が発覚。医療現場では依然として顔認証がうまくいかない、健康保険組合に登録されていない、他人の情報が出てくるといったトラブルが続いているという。

こうした状況を受け、23日の集会には全国の医師・歯科医師ら100人が参加。同連合会会長の竹田智雄医師は「とんでもない欠陥システム」と批判した。
 
マイナ保険証の利用率低迷、国は医療機関に「責任転嫁」
 
マイナ保険証による混乱に巻き込まれるのは医療機関だけではない。宮城県から参加した医師は、介護施設における問題を指摘する。

「入所者している高齢者、特に認知障害をお持ちの方々にとって、マイナ保険証は自らの生活を危うくする可能性がある非常に重いものです。これを誰が預かるのか。宮城県保険医協会が県内の介護施設を対象に調査したところ、マイナンバーカードの申請(代理)や、施設での管理(暗証番号含む)に『対応できない』と回答した施設が8割以上に上りました」

埼玉県から参加した医師は、国による医療機関への“責任転嫁”に憤る。

「そもそもマイナ保険証の利用率が上がっていないのは、政府や大臣たちがその利便性などをきちんと説明してこなかったことにも原因があります。それなのに今、政府は私たち医療機関に対して、マイナ保険証の利用を促進するために患者さんへ声掛けするよう協力を求めている。マイナ保険証の啓発は政府や保険者が責任を持つべきことで、医療機関には何の責任もありません。自分たちがずっとダラダラしてきたことを棚に上げて責任を転嫁するようなやり口はおかしいと思いませんか」

なお、マイナンバー制度を担当する河野太郎デジタル大臣は先月、自民党の国会議員宛てに送付した文書のなかで、マイナ保険証の利用率低迷について「原因は、医療機関の受付での声掛けにあると考えられます」と指摘。「(各議員の支援者に対し)マイナンバーカード保険証での受付ができない医療機関があれば、マイナンバー総合窓口にご連絡くださいますようお声掛けをお願い申し上げます」と呼びかけており、“通報”や“密告”のようだと批判の声が上がった。

停電すれば「何の意味もなさない」
 
集会には、医師・歯科医師らだけでなく、マイナ保険証に反対する国会議員らも駆けつけた。

そのうちのひとりで、災害対策特別委員会にも所属する田村貴昭衆議院議員(日本共産党)は「私は能登半島地震の被災地にも行ってまいりました。現地では4万戸が停電したんです。マイナ保険証なんて、電気が通ってなかったら何の意味もなさないんですよ」と、その“現実”について力を込めて語った。
 
 

能登半島地震の復興プランになぜマイナカード活用案? 携帯者少なく使えなかったのに… 石川県や政府が固執するわけは

 
 次の災害でマイナカードを避難所で使えば混乱は必至だろう。不携帯者が殺到して従来の対応が必要になる一方、地震に伴う機器の故障や停電復旧の対応で従来以上の負担が生じる。なのに限界を省みない自民党。石川以外にも及びうる危機。現実になる前に政権から降りてもらわねば。
 
 
 能登半島地震で被災した石川県は20日、復興プランの素案を公表した。盛り込んだ一つが、災害時のマイナカード活用。「こちら特報部」が繰り返し問題視してきた試みだ。マイナカードは携帯していない人が多い上、能登の地震でも活用を巡って悶着(もんちゃく)が生じた。もう頓挫したと思いきや、素案では「有効」と太鼓判が押された。しぶとく復活するのはなぜなのか。(森本智之、山田祐一郎)
 
◆プラン素案で「有効」と太鼓判
 「災害時に被災者・避難所等の状況を把握するためには、マイナンバーカードの活用が有効と考えられます」。石川県が20日に発表した「創造的復興プラン」(仮称)の素案では、13ある重点施策の中に「奥能登版デジタルライフラインの構築」が盛り込まれ、冒頭の文言が入った。
 素案は、3月にまとめた骨子案に県民や有識者のヒアリング結果を踏まえて練り上げた。県創造的復興推進課の担当者は「県民の意見をしっかり聞くことが大事だと考えた」と言い、特に被害の大きかった能登6市町と金沢市で計7回のヒアリングを行い、オンラインでも意見を募った。
 
 13の重点施策のうち、都市に住む人らが能登地域にも生活拠点を持つ2地域居住は「能登から避難を余儀なくされているが、復興に携わりたい」といった避難者の意見を受けて盛り込んだ。「能登の『祭り』の再興」なども同様だ。
 
◆避難所ではSuicaで代用
 地域の特色を大切にした施策の数々。そんな中でマイナカード活用は異色だ。東京都立大の山下祐介教授(社会学)は「被災者が今困っていることを何とかするのが復興計画で、マイナカードはここに書く必要があるのか。非常に唐突だ」と違和感を隠さない。
 年始の能登半島地震で浮き彫りになったのは、マイナカード活用の限界だったはずだ。「こちら特報部」も2月にそう報じた。
 
 河野太郎デジタル相は地震発生当初から、避難者に「マイナのススメ」を説いた。県も避難所にたどり着いた被災者を把握するためにカードを活用したかったというが、普段から持ち歩かない人が多く、JR東日本の交通系ICカード「Suica(スイカ)」で代用した。2月の取材時、県デジタル推進課の担当者はこうした経緯を明かし、将来的な利用についても「具体的には何も決まっていない」としていた。
 
 にもかかわらず、馳浩知事は3月28日に経済産業省で開かれた「デジタルライフライン全国総合整備実現会議」の提出資料で、災害時のマイナカード活用を打ち出し、避難所でカードを読み取れば安否確認や名簿作成が迅速化されると強調していた。そして5月の復興プランの素案では「有効」と太鼓判を押した。
 
◆県担当者「住民側でなく行政側のニーズ」
 なぜ復活したのか。どんな理屈なのか。
 
県デジタル推進課の別の担当者は「Suicaを使った際には、名前や住所を被災者に書いてもらい、タイプして入力した」と手間の問題を口にした一方、「被災時は行政側はマンパワーが限られる。うまくいかなかったが、やはり理想は手間のかからないマイナンバーカード。今回の震災で実現できなかった課題を将来的に解決したいということで素案に入れた」と述べ「住民側ではなく、行政側のニーズ」とも説明する。
 
 とはいえ、今回の地震で浮かんだ限界が消え去るわけもなく、「県民にどうやってカードを普段から持ち歩いてもらうか」という肝心の課題については「具体案はなく、これから考える」と述べるにとどまった。
 
◆「携帯していなければ机上の空論」
 被災者の状況把握は確かに重要な作業だ。
 
 元神奈川県逗子市長で龍谷大の富野暉一郎名誉教授(地方自治)は「災害時は、どこにどれだけ被災者がいて、どんなニーズがあるかを迅速に把握することが求められる」と述べ、支援策などを判断する上で基礎的な情報になると説く。
 
 能登半島地震の際、政府は普及率が7割を超えるマイナカードが役立つと期待したが、実際には多くの被災者が携帯しておらず、活用の限界を露呈した。「多くの人が取得していても、現実問題として携帯していないのであれば機能しない。便利だ、有効だというのは机上の空論でしかない」
 
◆自民党が旗振り役、政府も歩調合わせる
 旗振り役の馳知事が衆院議員時代に公認を得たのが自民党。彼らも活用に前のめりになる代表格だ。
 
 党機関紙「自由民主」の3月19日号では、党のプロジェクトチームが昨春、災害時のマイナカードの有用性を訴え、政府に実証実験を提言したと紹介。今年初めの能登半島地震については「十分なカードの読み取り機を確保できなかった」とさらりと触れた一方、この限界があらわになっても、2月にあった政府の実証実験で避難所の入所手続きなどで時短効果があったとし「行政にも被災者にも有効」と改めて強調した。
 
 政府側も歩調を合わせており、河野デジタル相は同月の会見で「防災についてカードを使う仕組み、アプリの開発がいろいろなところで進んでいる。デジタル庁としても協力していきたい」と述べた。
 
◆災害時のビッグデータ狙い?
 異様にも思える固執ぶり。名古屋大の稲葉一将教授(行政法)は「災害時の利用履歴は誰の何のための情報なのか。医療情報と同様の疑問を抱く」と問う。
 
 既に防災デジタルトランスフォーメーション(DX)を掲げ、多数の自治体や民間企業が参加する官民協議会が設立され、マイナカードを活用した防災対策を模索する動きがある。「災害の多い日本でのビッグデータの収集に躍起になっている。外資系企業も参加しており、海外からのデータのニーズも高いのだろう」
 
 そう語る稲葉氏は疑問を呈する。「災害時のデジタル導入は本来、被災者の人権の保護や1人でも多くの人命を救うことが目的のはずだ。その手段の一つでしかないマイナカード活用が目的化している」
 
◆「馳知事は被災の実態が見えていないのでは」
 本来なら、被災経験から浮かび上がった課題を検証した結果として、次の災害対応が求められるはずだ。
 
 石川県の場合、能登半島地震の初動対応をはじめ、広域避難や孤立集落対策などを検証する方針を馳知事が明らかにしたのは今月21日。これに先駆ける形で、災害時のマイナカード活用が打ち出された。
 
 東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は「馳知事が、災害時にマイナカードが『有効だ』と評価したということなら、被災の実態が見えていないのではないか」と指摘する。
 
◆危うい「デジタル万能論」
 「能登半島地震で、ライフラインが切断されている状況下で、実際にどれくらいの人がカードを持ち出したのか。持っていたら避難先でどのような使い方ができたのか。まずそれを検証しなければいけないはずだ」と訴え、政府や自民党の方針をうのみにするような「マイナカードありき」の対応を疑問視する。
 
 他県にとっても、災害対応は重要なテーマだ。安易なデジタル万能論を広瀬氏は危ぶむ。
 
 「マイナカード導入は、自治体業務の効率化、人員削減のために急がれる面もあるが、災害時に必要となるのは人の手だ。平時からマンパワーを削り、緊急時に支援が届かなくなれば、災害弱者がリスクにさらされることになる」
 
◆デスクメモ
 次の災害でマイナカードを避難所で使えば混乱は必至だろう。不携帯者が殺到して従来の対応が必要になる一方、地震に伴う機器の故障や停電復旧の対応で従来以上の負担が生じる。なのに限界を省みない自民党。石川以外にも及びうる危機。現実になる前に政権から降りてもらわねば。(榊)

 

マイナ保険証「通報」促す河野氏 自民党内からは冷ややかな声

 
 
 河野太郎デジタル相が先月、マイナ保険証が使えない医療機関の「通報」を促した文書を巡り、配布先の自民党内から冷ややかな声が上がっている。マイナ保険証の利用率は向上せず、内閣支持率も低迷する中、党関係者は「支援者への呼びかけなんて今の状況ではとてもできない」と漏らす。

 文書では、マイナ保険証の利用率が低迷している要因について、「医療機関の受付での声掛けにあると考えられます」と説明。国会議員の支援者に「マイナ保険証の利用を働きかけて」と呼びかけた上、受け付けできない医療機関があれば、マイナンバー総合窓口に連絡するよう求めた。河野氏は記者会見で、こうした要請について適切かと問われ、問題ないとの認識を示していた。
 
 文書を受け取った党内の受け止め方はさまざま。

 ある秘書は呼びかけについて「やらないでしょ」と一蹴。マイナ保険証の利便性の低さを挙げ、自らも「使っていない」とし、「支援者の理解を得られない」と突き放した。複数の党関係者も同様の反応で、別の秘書は「文書を見てすらいない」と素っ気ない。

 国会議員の一人は「医療費が高騰する中、医療の効率化は必要。導入には意義がある」と理解を示しつつ、個人情報のひも付け誤りや4月時点で6・56%と低迷する利用率を挙げ、「積極的に使ってと堂々と言える状況かと言われるとそうではない」と心情を明かす。「もっと地道に『こんなメリットがある』と宣伝し、利用率が一定程度上がれば自然と『この病院でも使えるようになってほしい』という声も出てくるのでは」と話した。【松本光樹】