賃上げを強調する岸田首相の姑息なレトリック 「所得」と「賃上げ」を使い分けて国民を欺こうとしているのか

 
低迷している内閣支持率を挽回するために、首相自らがその場しのぎの答弁を弄して、平気でウソをつく――そんな茶番劇が罷り通っている今の日本はまさに危機的と言わざるを得ない。
 
著者は『「新しい資本主義」や「任期中の憲法改正」も今や実現は至難の業である。』といっているが、これは絶対にさせてはならないし、岸田が「憲法改正」蓮源をする事は現憲法違反であるのだ。憲法99条「総理大臣は憲法を遵守しなければならない」とある。岸田は憲法違反発言を国会でやらかしてしまっているのでる。
 
 
 歴史的物価高は続くものの、実質賃金は24か月連続マイナスと過去最長を記録。インフレが進む先進国に比べ、なぜ日本では賃金が上がらないのか。経営コンサルタントの大前研一氏が日本の賃金が上昇しない背景について解説する。
 
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 岸田首相は現実と乖離した発言を連発している。その典型は「まず今年、物価上昇を上回る所得を必ず実現する」「そして来年以降、物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させる」というものだ。
 これは姑息なレトリックである。なぜなら「所得」には「賃金」以外に預貯金の利子、株の配当や売却益、不動産の賃料や売却益、政府からの給付金なども含まれるからだ。
 
 当初、岸田首相は自分が会長を務めた宏池会の創設者・池田勇人元首相に倣って「所得倍増」を打ち出したが、いつの間にかそれを「資産所得倍増」に転換した。そして2023年を「資産所得倍増元年」とし、「貯蓄から投資へ」のシフトを大胆かつ抜本的に進めていくとして、iDeCo(個人型確定拠出年金)や新NISA(少額投資非課税制度)を導入した。さらに、2024年度税制改正に伴い、2024年分の所得税と住民税には定額減税が実施されることになった。

 つまり、賃金の上昇が物価の上昇を上回らなくても、金融所得が伸びたり、所得減税を行なったりすれば、所得の上昇が物価の上昇を上回る状況をつくれるのだ。

 一方、連合(日本労働組合総連合会)の集計によると、今年の春闘の賃上げ額は平均月額1万6037円、賃上げ率5.24%で、1991年以来33年ぶりとなる5%超えの水準となり、物価上昇率を上回っている。

 しかし、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、今年3月の実質賃金(名目賃金から物価上昇分を除いたもの)は、前年同月に比べて2.5%減少し、過去最長を更新する24か月連続のマイナスとなった。

 岸田首相は賃上げを強調するが、実際は物価の上昇に賃金の上昇が追いついていない状況が続いているわけで、「所得」と「賃上げ」を使い分けて国民を欺こうとしているとしか思えない。

日本の賃金が上がらない根本的な原因
 そもそも労働分配率(企業が生み出した付加価値に占める人件費の割合)は大企業と中小企業で全く違う。大企業は6割ほどだから賃上げの余力があるだろうが、中小企業は8割近いので売価を上げない限り賃上げすることはできないと思う。つまり「物価上昇を上回る賃上げ」をしたら、倒産する中小企業が続出するのだ。

 したがって本来、政府がやるべきことは優先的地位にある大企業が下請け業者や出入りの部品納入業者などの中小企業にしわ寄せをしている現状の打破である。

 日本の賃金が上がらない根本的な原因はそこにあるので、中小企業が値上げ交渉をしたら大企業が受け入れるように政府が指導すべきなのだ。そういう現実を無視して「物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させる」と言い切る岸田首相の無知蒙昧さは理解不能である。
 
 現実と乖離したことを堂々と言い放って省みることをしない岸田首相の発言は、ほかにもたくさんある。

 たとえば「異次元の少子化対策」や「子ども・子育て支援金の実質負担ゼロ」。前者は、児童手当の所得制限を完全撤廃して「中学生まで」となっている給付対象を「高校生まで」に広げたり、出産費用に保険適用を導入したりするものだが、その程度で少子化に歯止めがかかるとは思えない。

 後者は、当初1人あたり月平均450円とされた負担額が年収によっては1000円を超える場合もあることがわかり、国民全体の負担率を根拠にした「実質負担ゼロ」との説明は、もはや詭弁と言ってよい。

 さらに「新しい資本主義」や「任期中の憲法改正」も今や実現は至難の業である。

 低迷している内閣支持率を挽回するために、首相自らがその場しのぎの答弁を弄して、平気でウソをつく――そんな茶番劇が罷り通っている今の日本はまさに危機的と言わざるを得ない。

【プロフィール】

大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。

※週刊ポスト2024年5月31日号