主張
ICC逮捕状請求
イスラエルの不処罰許さない

 

 「最も重大な犯罪が処罰されずに済まされてはならない」(国際刑事裁判所=ICCの規程前文)。パレスチナ・ガザ地区での紛争にかかわって、同裁判所のカーン主任検察官が20日、イスラム組織ハマスの指導者とともに、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相を、人道に対する罪と戦争犯罪で告発し、逮捕状を請求しました。

 逮捕状の発行はICCの予審裁判部が今後判断しますが、イスラエルと同国を支援する米国などへの国際圧力が強まったことは間違いありません。攻撃によるガザでの死者は子どもや女性をはじめ3万5千人を超えます。イスラエルは即時停戦に応じ、ハマスは人質を解放すべきです。

■戦争違法化の成果
 ICC(本部オランダ・ハーグ)は2003年に設立されました。民間人の大規模な殺戮(さつりく)など戦争犯罪、人道に対する罪を犯した国の高官ら個人を国際司法の場で裁くという、20世紀を通じて発展してきた戦争の違法化、人権保障の取り組みの成果です。

 「不処罰を終わらせ、そのような犯罪の予防に寄与する」と述べるICC規程を採択した1998年の会議には、160の国、国際機関とともに、多数のNGOがオブザーバー参加。諸政府とともに市民社会が、国際政治の構成員として大きな役割を果たしていることも示しました。

 米国やイスラエル、中ロなどは未加盟ですが、日本など加盟国は逮捕状が出された者が自国領に入った際は、拘束への協力を求められます。イスラエルは昨年10月のガザ攻撃開始のはるか前からパレスチナの占領と入植活動、市民の抑圧など国際法違反を続けながら罰せられないでいます。今回の逮捕状の請求は、世界平和の障害でもある長年の不正義を打破する一歩となりうるものです。

 イスラエル政府は逮捕状請求に反発、同調する米政府もICCへの何らかの対抗措置を行う構えです。しかし、多数の民間人虐殺、人道支援物資の搬入妨害がジュネーブ条約など国際人道法に違反し、ICC規程が定めた戦争犯罪にあたるとの判断は合理的で、被害者保護のため当然です。

 ICCはウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領にも1年前に逮捕状を出しました。カーン主任検察官は、「法が選択的に適用されていると見られれば法は崩壊する」と強調。各方面から証拠・証言を集め、感情や政治的判断抜きに精査した結果がイスラエル、ハマス双方への逮捕状請求だったと述べました。

■毅然と停戦を迫れ
 米国内からも「ICCは国際機関がまだ機能し正義の実現に寄与すると示すことができる」「ICCへの攻撃はプーチンのような者を利するだけ」(カリフォルニア大のデビッド・ケイ教授)との声が上がります。

 ベルギー、スペインなど米国の同盟国を含む一連の国がICCの発表を歓迎し、パレスチナの国家承認にも踏み切る一方で、日本政府は「重大な関心をもって注視する」と述べるのみ。戦争犯罪によるガザの人道的破局を一刻も早く止めるため、日本はイスラエルと米国に即時停戦を毅然(きぜん)と迫り、パレスチナ問題の公正な解決に向かうべきです。

 

 

ブリンケン米国務長官、ICCへの制裁を示唆 イスラエル首脳への逮捕状請求めぐり

 

上院外交委員会では、アントニー・ブリンケン国務長官(中央)の証言中に抗議者が乱入する騒ぎもあった(21日、ワシントン)
2024年5月22日

 

国際刑事裁判所(ICC)の検察官が20日にイスラエル政府首脳の逮捕状を請求したことを受け、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は21日、米連邦議会議員らと協力し、ICCに対する制裁の可能性について検討すると示唆した。

ブリンケン氏は議会の公聴会で、ICCの「ひどく誤った判断」に対する措置に「取り組む」と話した。

議会では野党・共和党がICC高官への制裁案を推しており、早ければ今週中にも採決が行われる予定だ。

アメリカはICCの加盟国ではないが、ロシアのウクライナ侵攻を受けたウラジーミル・プーチン大統領に対する逮捕状請求など、同裁判所の過去の訴追については支持している。

 

21日の上院外交委員会の公聴会では、共和党のジェイムズ・リッシュ議員から、ICCが「独立した合法的で民主的な司法制度を持つ国の事情に、首を突っ込む」ことに対処する法案を支持するかどうかという質問が出た。

これに対しブリンケン氏は、「適切な対応を見つけるために、皆さんと超党派的に協力したい。私はそれに取り組むつもりだ」と回答した。

ブリンケン氏はまた、「ひどく誤った判断に対処するため、適切な手段を検討しなければならないのは間違いない」と述べた。

ICCのカリム・カーン主任検察官は20日、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘をめぐる戦争犯罪容疑で、イスラエルとイスラム組織ハマスの複数指導者らの逮捕状を請求した。

対象となったのは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント国防相、ハマスの政治指導者イスマイル・ハニヤ氏と軍事部門トップのモハメド・デイフ氏、ガザ地区における指導者ヤヒヤ・シンワル氏。

これに対しジョー・バイデン米大統領は、逮捕状の請求は「とんでもないこと」で、「イスラエルとハマスの間に等価性はない、まったくない」と述べた。

 

ICC検察官がネタニヤフ首相らイスラエル政府首脳に対する逮捕状を請求したことについては、アメリカ政界全般が反発しており、ブリンケン長官の今回の発言もそれに同調するもの。

 

イスラエルによるガザ紛争への対応について、ICCが調べを強化するなか、米議会ではすでに、ICCに制裁を科すための法案が、少なくとも2件提出されている。

中でも、チップ・ロイ議員(共和党、テキサス州選出)が今月初めに提出した法案に支持が集まっているようだ。

ロイ議員が提出した「非合法裁判対策法案」は、ICCが「アメリカとその同盟国の被保護者」に対する裁判を中止しない限り、その裁判に関わるICC関係者のアメリカ入国を阻止し、現在保持しているアメリカのビザ(査証)を剥奪し、国内での財産取引を禁止するというもの。

 

共和党が多数党の下院では、同党幹部のエリーズ・ステファニク議員を含む、少なくとも37人の議員がこの法案を支持している。

下院の共和党議員団ナンバー3のステファニク議員は、イスラエルを訪れ20日にネタニヤフ首相と会談したばかり。イスラエル議会で演説したほか、ガザ地区にとらわれている人質家族とも面会した。

同議員はBBCに対し、「ICCは自国の生存権を守る平和国家と、大量虐殺を行う過激派テロ集団を同視している」と声明で述べた。

一方、与党・民主党議員がこの法案を支持するかは定かではない。

民主党の穏健派とリベラル派はこの数カ月間、バイデン大統領のイスラエル政策について紛糾(ふんきゅう)してきた。若い進歩的な有権者は、ガザにおけるネタニヤフ政権の動きをさらに鋭く批判するよう、大統領に強く求めている。

オハイオ州選出のグレッグ・ランズマン議員はBBCに対し、議会が超党派でICCを非難する「力強い声明を出す」ことを望んでいると語った。ランズマン議員は民主党ながら、イスラエルへの武器提供を停止した大統領決定を覆すよう求める、16日の下院決議に賛成している。

「(逮捕状を求める)決定は、緊張と分裂をさらにあおり、反イスラエルの陰謀を助長し、最終的にはICCの信頼性を損なうだけだ」と、ランズマン議員は述べた。

共和党のマイク・ジョンソン下院議長は21日、民主党幹部のチャック・シューマー上院院内総務に、ネタニヤフ首相を議会の合同会議で演説するよう求める書簡に署名するよう促した。

シューマー院内総務は3月、ネタニヤフ首相を批判し、イスラエルでの選挙実施を呼びかけていた。しかし今回のICCの逮捕状請求については、「非難に値する」だと述べた。

しかし、民主党内左派の一部議員は、ICCの動きを支持している。

イルハン・オマル下院議員(ミネソタ州選出)は、ICCの取り上げた疑惑は「巨大なもの」で、アメリカはリビア内戦を含む過去の事例と同じように、ICCの活動を支援するべきだと述べた。

オマル議員は声明で、「逮捕状の請求は司法手続きの始まりに過ぎない」、「ICCは裁判所として機能しており、我々が公平で非政治的な司法機関に期待するように、有罪判決も、無罪判決も、棄却も行っている」と語った。

 

ICCに制裁を科そうというアメリカ政界のさまざまな動きが、上下両院の片方だけでも通過するほどの支持を得ているかは不透明。下院は共和党が、上院は民主党が、それぞれ多数党となっている。

米ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官は21日、政権当局者が議員たちと「次の段階」について話し合っていると記者団に語った。

一方、世界の反対側にあるロシアでは、クレムリン(大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官が記者団に対し、敵国アメリカが「ICCに対してさえ、制裁という手段を使おうという姿勢と意欲」を見せていることは「きわめて奇妙」と述べた。

(追加取材:レイチェル・ルッカ―)

 

 

 

イスラエル軍がラファ中心部に侵攻、ハマス戦闘員3人を殺害…地元紙「大規模な地上作戦」

 
 
 【エルサレム=作田総輝】イスラエル軍は22日、パレスチナ自治区ガザの最南部ラファや北部ジャバリヤなどで軍事作戦を実施した。ロイター通信は、軍の戦車が人口の密集するラファ中心部まで侵攻したと報じた。戦闘の激化により、被害拡大の懸念が強まっている。
 
 軍の発表によると、ラファでは空軍機の攻撃でイスラム主義組織ハマスの戦闘員3人を殺害した。ジャバリヤでは武器が保管されていた軍事施設を攻撃した。

 ロイター通信は地元住民の話として、ラファで22日夜に展開された激しい戦闘の様子を伝えた。ドローンや戦車による砲撃が一晩中、止まらなかったという。

 イスラエル軍は5月に入り、ハマス幹部らが潜伏しているとみるラファで攻勢を強めているが、ラファへの大規模侵攻に後ろ盾の米国は反対している。イスラエル軍は「民間人の被害を防ぐためのあらゆる努力をしている」と強調している。

 イスラエル主要紙ハアレツは22日、ラファ上空からの衛星画像を公開した。多くの建物が損壊した状況を分析し、「地上侵攻は『限定的』とされているが、実際は大規模な地上作戦だ」と指摘した。