岸田首相と森喜朗“密約”のふざけた内情。日本を手遅れにする自民党、離党組の塩谷立もひた隠す国民不在の政局シナリオ

 
 
岸田首相だけに怒りの矛先を向ける塩谷立
自民党の裏金問題をめぐり、塩谷立氏は安倍派の座長だったという、たったそれだけの理由で離党勧告を受け、今年4月23日、自民党を去った。納得がいかず同12日に再審請求を出したが、すぐさま総務会で却下されていた。
 
塩谷氏は党の総務会長や麻生内閣の文部科学大臣もつとめた。しかし、選挙には強くない。2021年の衆院選でも、立憲民主党の候補に敗れ、比例復活でなんとか10選目に滑り込んだほどだ。

5月8日、塩谷氏は地元・浜松市で支援者に「無所属で出馬ということは大変難しく厳しい」と苦しい胸の内を明かした。自民党によって事実上、政治生命を断たれたのも同然の状況といえる。

「岸田総理は、とにかく『犯人』をつくって処分しなければ、事態が収まらないと考えたのでしょう」。塩谷氏は4月26日発売の月刊Hanada6月号のインタビューでも悔しさをにじませた。
 
聞き手が「安倍派も五人衆の誰かが中心になって決起すればいい」とけしかけると、塩谷氏は「私も決起せよ、『責任』というなら、いの一番に岸田総理が責任をとれと言いたい」と同調した。

怒りの矛先は、自らの派閥の不記載に目をつぶり安倍派に厳しい処分を下した岸田首相だけに向けられている。

だが、この非情な仕打ちの背後に見え隠れするのは、解散宣言している安倍派の実質的存続をはかる森喜朗元首相の影である。

黒幕は岸田首相ではなく森喜朗
安倍派幹部のうち、離党勧告を受けたのは、塩谷氏と世耕弘成氏だ。

表向きには、派閥座長である塩谷氏が衆議院の責任者、参院幹事長だった世耕氏が参院の責任者というわけだが、これは後付けの理屈にすぎない。

実際には、世耕氏に関しては和歌山で政治的対立関係にある二階俊博元幹事長、塩谷氏については、安倍派裏金汚染の責任を押しつけたい森喜朗氏の意向が働いている。
 
「萩生田光一のアイデア」と「森喜朗の悪だくみ」
安倍派の総理候補とされた3人のうち、世耕氏は党外に去り、西村康稔氏は党員資格を1年限定ながら失った。萩生田光一氏(前政調会長)だけは、どういうわけか、ほぼ無傷で残ったが、2018年から5年間の収支報告書不記載額が計2728万円にのぼる正真正銘の“裏金議員”である。
 
そのうえ、岸田首相は「役職停止の対象は党本部だけ」として、萩生田氏が東京都連会長にとどまることまで容認した。そこで都連は5月15日、延期していた役員選考委員会を開き、萩生田会長を再任することを決定した。

都連会長が、都知事や国会議員の候補者を選定するうえでも影響力のあるポストなのは言うまでもない。

月刊「文藝春秋」6月号に掲載されたインタビューで森喜朗元首相が語ったところによると、派閥を守るため、塩谷氏に裏金問題の責任をとってもらうアイデアを森氏に持ち込んだのは、ほかでもない萩生田氏だった。今年初めのことだ。
 
「誰かが罪をかぶり、総理の判断を願い出るようにすればいい」と知恵をつけた人が党内にいたそうです。それで五人衆が相談し、座長の塩谷君にその役を担ってもらおう、となった。五人衆の総意として、塩谷君の説得を「森先生に頼むしかない」となったようです。萩生田君から「こんなことを先生にお願いするのも変だけれど、ここは塩谷先生が引き受けてくれたらありがたい、というのが皆の意見です」と連絡をもらいました。

森氏は「それも一理ある」と思い、塩谷氏を自分の事務所に呼んだという。

「君はこの前の選挙でも苦労しただろう。もともと君は一回目の選挙から苦しんで、(塩谷氏の選挙区にある)スズキの(鈴木修)社長に怒られては、俺があいだに入ってとりなしてきたのは覚えているでしょう。だから、ここは一つ、どうだね」。そう説得を試みました。(中略)「ここはいったん議員辞職して次をねらったらどうかね。・・・」

全責任を取るので仲間を救ってください、と岸田首相に申し出て、議員辞職をしたら「立派だ」と株が上がって、次の選挙に有利になるという提案だ。

選挙に弱いあんたのために散々骨を折ったのだから、ここは俺の言うことを聞けという押しつけがましさも森氏らしい。
 
塩谷をスケープゴートにして生き残った萩生田
安倍元首相が亡くなった後、安倍派は後継会長が決まるまでの暫定措置として、派閥の最古参である塩谷氏と下村博文氏の二人の会長代理による「双頭」で運営する形をとっていたが、下村氏を嫌う森氏の意向によって、昨年8月末、新体制に移行した。
 
すなわち、森氏が安倍派の会長候補として名前をあげる萩生田、西村、世耕、松野、高木のいわゆる「五人衆」を含む15人の常任委員会を設け、塩谷氏を座長に据えて、その幹部組織から下村氏を排除したのである。

塩谷氏を座長としたのも、森氏の意向であろう。後継会長として期待していたわけではない。総理への野心を持たず、森氏にとって扱いやすいからだ。

塩谷氏は、求められて座長になったばかりに、一人で責任を背負うような立場に追い込まれた。
 
「なんで私一人が貧乏くじを引かねばならないのですか。議員辞職だけは絶対に承服できません」(文藝春秋6月号)と森氏に食ってかかったのもうなずける。

塩谷氏は五人衆や森氏の思い通りにならなかったが、結局のところ、党の処分を受けたなかでいちばん重い「離党勧告」を下された。

岸田首相が裏金議員に厳しく対処していると世間にアピールするには、除名とか離党勧告とか、厳罰を誰かに割り当てねばならない状況だった。

塩谷氏が受け取った裏金の額は234万円。萩生田氏の10分の1以下だ。安倍派の座長というが、実権があったわけでもない。まさに、スケープゴートにされたといえるだろう。

岸田首相も森喜朗には頭が上がらず
岸田首相は4月上旬に森氏に電話して、裏金作りへの関与について聴取したと言っているが、森氏はそのような話は出なかったと証言している。
 
それどころか、森氏は以前からこの件について岸田首相と電話で話していたことも明らかにしている。

そこで想像できるのは、岸田首相が安倍派幹部の処分内容を判断するにあたって、森氏の意見を聞いていたのではないかということだ。

岸田首相が裏金問題に乗じて安倍派の弱体化をはかったのは間違いない。むろん、それは安倍派への影響力を通じて権勢を保っている森氏の意思に背くことになる。
 
事実、1月25日の新聞に党執行部が安倍派幹部の自発的な離党や議員辞職を求めているという記事が出た直後、森氏は麻生事務所を訪れて怒鳴り散らしたといわれる。

だからこそ、岸田首相が処分の軽重を決めるにさいし、安倍派に厳しくあたる姿勢を示しつつも、どこかで森氏の望みを叶える必要があった。その結果、塩谷氏は犠牲となり、萩生田氏は救われた。

森山派をのぞいて、解散宣言した各派閥ともいまだ事務所はそのまま存在し、「その他の政治団体」登録の取り下げもしていない。むろん、今年9月の総裁選を意識しているからだ。安倍派も例外ではない。解散は名ばかりで、いまも一定のまとまりは保っているはずだ。

安倍派の「決起」を求めると塩谷氏は言うが、萩生田氏はそのような動きを抑える役目を担って、ほとんど無傷のまま党内に放たれているのだろう。

政治改革に国民が期待感を抱けず、支持率が上向かない現状では、岸田首相による解散・総選挙はほぼ不可能だ。総裁選となれば、安倍派に総反発を食らった現状のままではきわめて不利である。

岸田首相と森喜朗の“密約”で自滅する自民党
今後の政局について、森喜朗氏はまるで評論家のように淡々と語る。
 
「これから想定されるのは国会会期末の6月末(解散)ですが、残りの期間ではよほど支持率を好転できなければ無理でしょう。すると、必然的に9月の総裁選に突入しますが、問題はポスト岸田候補の不在。『自民党壊滅』と言われる所以ですな」

「派閥内では萩生田君を推す声が多いけれど、彼もあちこちに弾を受けてますから、少し時間を置いた方がいい」

森氏の口から「自民党壊滅」という言葉が出るのは驚きだが、いずれ安倍派の後継会長に萩生田氏を据え、総裁候補にしたいと考えているのは明らかだ。むろん、裏金問題、統一教会疑惑に揺れる今ではない。
 
萩生田氏の処分を軽くしてもらうかわりに、岸田首相の政権維持に協力する。そんな密約めいた合意でもかわしたのではないかと思えてくる。

岸田首相にとって「自民党壊滅」の党内情勢は、選挙をするには不都合だが、総裁再選をねらうには唯一の光である。

崩れかけた麻生派、茂木派、宏池会の三派連合が人材難ゆえに再びまとまり、森氏と萩生田氏が安倍派に睨みをきかせれば、総裁再選は可能だと踏んでいるのかもしれない。

ただし、岸田首相の思惑通りにコトが運ぶとしたら、「自民党壊滅」はもはや動かしがたい現実となる。その場合は、政権交代を望む国民が総選挙できっちり評価を下すだろう。
 
 

高齢者の定義「5歳引き上げ」を ウェルビーイング実現へ提言 諮問会議

 
5歳引きあげ「年金支給を遅らせる」「高齢者は働け」などの、高齢者虐めに奔走するのだろう。高齢者を社会のクズのように扱い、若者には「賃金格差」で分断し、自民党は生き残りに懸命。高齢者と若者を分断し、若者間にも差別と分断を起し、国民が団結する事を阻止しているのである。
 
 
 政府は23日、経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)を開き、ウェルビーイング(身も心も満たされた状態)社会の実現に向けた方策を議論した。
 
 民間議員は健康寿命が長くなっていることを踏まえ、高齢者の定義について「5歳延ばすことを検討すべきだ」と指摘。その上で、全世代のリスキリング(学び直し)推進を提言した。

 政府は高齢化率などを計算する際、65歳以上を高齢者としている。

 民間議員はまた、若者の待遇改善や女性・高齢者の労働参加促進を通じ、社会保障の持続に必要とされる実質1%の経済成長を確保すべきと強調。必要な政策を「新たな令和モデル」としてまとめるよう求めた。

 岸田首相は会議で、「誰もが活躍できるウェルビーイングの高い社会を実現しないといけない」と強調。性別や年代を問わず希望する人が働き続けられるよう、リスキリング強化の方策を6月ごろに策定する経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に盛り込む考えを示した。 

 

実質賃金2年連続マイナス…“恩着せメガネ”岸田首相が必死「減税」アピールも裏目しか出ず

 
 22日の参院予算委で、野党議員から「増税の時はどうするのか」と問われた岸田首相はタジタジになりながら、「増税についても明細書に明らかにされるものである」と強弁。それなら防衛増税に転用される復興特別所得税についても、事実上の負担増であることを明記するべきだが、一体どうするつもりなのか。口が滑ったでは許されまい。

 一方、医療保険料に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」の明記については、増税と変わらないのに「税ではなく、医療保険と位置づけられている」とノラリクラリ。詭弁にも程がある。

「子育て政策も負担増ではなく、扶養控除を拡充するなど別の方法があるはずです。負担増のシワ寄せを真っ先に受ける若者や高齢者など、社会的弱者がこぼれ落ちているように思えてなりません」(五野井郁夫氏)

 岸田首相は昨年3月、WBCの始球式で元高校球児とは思えない山なりの暴投をかました。政策も絶望的なコントロールとは、いくら何でも勘弁して欲しい。
 
 
 滑稽を通り越して、もはやイタい。6月から始まる定額減税のアピールに必死の岸田首相のことだ。「減税の恩恵を実感していただく」(岸田首相)ため、減税分を給与明細へ明記するよう義務づけたのだが、そうまでして「増税メガネ」の汚名を払拭したいのがミエミエ。肝いりの名誉挽回策は逆に国民の怒りを買っているのに、悪びれもせず「広報を強化」などとのたまう。見る者・聞く者が共感性羞恥を抱いてしまうというか、いたたまれなくなるというか……。
 
 ◇  ◇  ◇

 厚労省が23日発表した昨年度の毎月勤労統計調査(確報、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年度から2.2%減。2年連続でマイナスとなった。

 30年ぶりの高水準に沸いた賃上げもむなしく、物価上昇に追いつかず、賃金は目減り。財布の紐が固くなるばかりの国民の歓心を得ようと、岸田政権が打ち出したのが看板倒れの減税だった。

 定額減税では、1人あたり年間で所得税が3万円、住民税が1万円減税される。1人あたり月3000円あまりの小遣い程度に過ぎないが、岸田首相は22日の参院予算委員会で「来月から国民は減税効果を実感できる」と鼻高々に主張。悪評ふんぷんの減税分の明細への記載義務化については「政策効果を国民に周知徹底し知ってもらう上で効果的だ」と強調した。

■明記させない方がいいレベル

 岸田首相の脳内では「ほら、減税だよぉ~」とニンジンをぶら下げれば人気を集められる想定なのだろうが、現実は甘くない。生活費の足しにすらならない「施し」でドヤ顔しているだけでもイタいのに、ここぞとばかりに「集中的な広報など発信を強めていく」と鼻息荒い。やることなすこと、ことごとく裏目に出ている。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)がこう言う。

「政府統計で明らかなように、岸田内閣が発足してから賃金は目減りし続けています。物価高で相対的に所得がガタ減りしている中、世間からすれば『手取りが1人あたり4万円増えます』と言われたところで、『なんだ……』って感じでしょう。恒久的な減税ならまだしも、たった1回ですし、これから電気・ガス代の補助金が消え、防衛増税も待っているわけですから。定額減税は弥縫策にすらなりませんし、明細に書かない方がいいレベル。電気・ガス代の補助を続けてくれる方が、どれだけ助かることか。岸田政権がまず講じるべきは、足元の物価上昇に歯止めをかけることです。庶民の苦しみをまったく理解できていないばかりか、くみ取るセンスも感じられません」
 
増税分も「明細書に明らかにされるものである」と強弁
 
 
 減税分を明記するなら、増税分も同じ扱いにするのが道理だ。

 22日の参院予算委で、野党議員から「増税の時はどうするのか」と問われた岸田首相はタジタジになりながら、「増税についても明細書に明らかにされるものである」と強弁。それなら防衛増税に転用される復興特別所得税についても、事実上の負担増であることを明記するべきだが、一体どうするつもりなのか。口が滑ったでは許されまい。

 一方、医療保険料に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」の明記については、増税と変わらないのに「税ではなく、医療保険と位置づけられている」とノラリクラリ。詭弁にも程がある。

「子育て政策も負担増ではなく、扶養控除を拡充するなど別の方法があるはずです。負担増のシワ寄せを真っ先に受ける若者や高齢者など、社会的弱者がこぼれ落ちているように思えてなりません」(五野井郁夫氏)

 岸田首相は昨年3月、WBCの始球式で元高校球児とは思えない山なりの暴投をかました。政策も絶望的なコントロールとは、いくら何でも勘弁して欲しい。

 

物価上昇に伴う企業収益、ほとんど賃上げに回らず…分析報道にネット怒り「働けど働けど企業と株主ばかりが肥え太っていく」

 
 物価上昇で値上げした企業収益の多くが、賃上げにはほとんど回っていない、とする分析記事を朝日新聞が報じた。これを受けてネット上では、「ほんとこれ」「物価だけ上がって給料は上がらず、生活が苦しくなってるだけ」といった声が挙がった。
 
 朝日新聞によると、国内総生産(GDP)の物価動向を示す「GDPデフレーター」などから、23年度のデフレーターが前年度比4・1%上昇したのに対し、賃上げ要因は0・3%分にとどまったという。
 
 2024年3月期決算では、製造業を中心に好業績を示す企業が続出。上場企業の純利益の総額は3年連続で過去最高となった。
 国民には好景気の実感が乏しい中でのこの報道を受け、X(旧ツイッター)では「物価上昇」「企業収益」がトレンド入りした。「そりゃそうですわな 人件費上げたら簡単には下げられない」「恩恵をこうむるには、株主になるしかない」「正当化され続けた『トリクルダウン』(大企業や金持ちのおこぼれに庶民があずかれる)も起こってない 事実は不景気とインフレが同時に起こる『スタグフレーション状態』」「働けど働けど 企業と株主ばかりが肥え太っていく仕組み。資本主義っておかしいよね」などと声が挙がった。
 
 「はよ解散総選挙してくれ。まじ金を一般国民に回してくれ! 岸田首相の”無策”に怒り」「企業収益の一部は自民党のパー券になります」といった政権批判も。一方で、「今、超絶採用難の時代で、多く出せるなら出したいって思ってるところがほとんど」「大企業と中小企業をごちゃ混ぜにすると混乱する。法人企業統計を見れば、大半の労働者を抱える中小企業は収益も厳しい」「『賃上げはされてるが、企業収益の増加考えるともっと賃上げできたよね』って話なので労組が無能だったってだけでは?」といった意見もあった。

 

「えっ、減税された分を返すの…?」6月スタート!定額減税の意外な落とし穴、要注意な人とは?

 
 
岸田首相肝入りの「定額減税」が6月から始まる。実はこの定額減税、複雑な仕組みゆえ、注意しなければならない“落とし穴”がある。人によっては、受けた減税をあとから返金しなければならないケースも……。今回は、定額減税の押さえておくべき注意点について解説しよう。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)

実施直前で「減税の恩恵を明記せよ」のお達し

総理、ひどいことをしますね!


 隔週木曜日公開の本コラム、今回は6月から始まる「複雑怪奇な定額減税」について書こうと考えていた。
 仕組みを調べる過程で「給与から天引きされる“減税前の本来の税額”を知っている人などほとんどいない。だとすると、減税後の天引き額だけ提示されても“減税のありがたみ”を感じないだろう」と思った。それが月曜日のこと。

 火曜日、原稿を書くタイミングで「岸田文雄首相は20日の自民党役員会で、6月に実施する定額減税に関し『減税の恩恵を国民に実感してもらうことが重要で給与明細へ明記されるようにする』と述べた」というニュースが配信された。
 
 減税言い出しっぺの政治家としては、「ありがたみ」を実感してほしいのだ。気持ちは分からなくはないが、実施目前の今のタイミングで指示を出すとは、遅すぎないか。

 給与明細に「本来の天引き税額」と「減税額」を両方明記するには、システムの変更が必要だ。

 事務作業面でもコスト面でも負担が重くなるが、それらは企業が担わなくてはならない。しかも、数週間以内での対応を迫られている。

 総理、ひどいことしますね!というのが率直な感想だ。

 給与計算をシステムでするにせよ、手計算でするにせよ(小さな会社はシステムなどない)、急なお達しなので人的ミスが発生するかもしれない。仕組みを知った上で、6月以降の給与明細をよくチェックする必要があるだろう。

 また、今回の定額減税では、いったん受けた減税額を年末調整や確定申告で返金しなくてはいけない“落とし穴”と言ってもいいくらいの不可解なケースもある。

 どんな人が要注意なのか。

 定額減税の仕組みと注意点を解説しよう。

減税額は1人につき「所得税3万円、住民税1万円」

どういう仕組みで減税される?


 まず、減税の仕組みから見ていこう。

 今回の減税の対象者は、合計所得金額が1805万円以下(給与年収だと2000万円以下)の人。

 本人と扶養家族(合計所得48万円以下)1人につき、所得税は3万円を2024年分から、住民税は24年度分(24年6月~25年5月)を1万円減税される。

 扶養家族のいる人は、本人が家族の分をまとめた額の減税を受ける仕組みだ。扶養控除の対象とならない16歳未満の子どもも、扶養家族に含まれる点も知っておきたい。

 単身者、もしくは扶養している人がいない人は、所得税3万円、住民税1万円の減税。扶養家族がいる場合、例えば、配偶者が専業主婦またはパート年収が103万円以下で、扶養している子どもが2人なら、所得税が12万円、住民税が4万円の減税を本人がまとめて受けることになる。
 
 会社員は、6月以降支給される給与やボーナスから天引き(源泉徴収)される所得税について、減税分を差し引き、引き切れない場合は、翌月以降に繰り越し、減税額に達するまで減税する。

 住民税は、通常は6月~翌年5月の12カ月に分けて天引きされる仕組みだが、今年は6月分を徴収せず(天引きゼロ)、定額減税を反映させた年額を7月~来年5月の11カ月に分けて天引きする。

 扶養家族3人の場合、住民税の減税額は合計4万円。これを11カ月に分けて減税すると、1カ月当たり約3600円天引き額が減ることなる。

 扶養家族がいない人なら、1カ月当たりの減税額は900円程度だ。ありがたみが感じられるか微妙な金額だ。

 そして、何より仕組みが分かりにくい。だが、政府が給与明細に「本来税額」と「減税額」を明記するように指示を出したのだから、間違いがないかどうかセルフチェックすることはできる。

 減税が数カ月にわたったとしても、自分の減税額を知っておけば毎月の給与明細でチェックすることが可能。大変なのは、間違いがないように減税を反映させなくてはいけない企業側だ。やれやれ、本当に気の毒なことである。

 対象期間内に減税額が引ききれなかった場合は、自治体から給付金が支給されることになっているが、来年以降になるので詳細は未定だ。

減税を受けた分を「返金」しなくてはならない人とは?

退職金・不動産売却がある人は要注意!


 複雑な仕組みなので注意点もある。

 前述のように減税の対象となるのは、「合計所得1805万円以下(給与年収に置き換えると2000万円以下)」の人。その判定は所得税が24年分、住民税は23年分で行う。

 昨年(23年)の年収が2000万円を超えていると、今年6月(実際は7月)からの住民税の減税は受けられない。一方、所得税は今年の1~12月で判定するので、年収2000万円超の見込みの人であっても、6月から所得税の減税が行われる。

 今年12月の時点で合計所得が1805万円を超すと、所得税の減税対象者ではなくなるため、確定申告によりすでに受けた減税分を返金しなくてはならない。

「えっ、いったん減税された分を返すの?」。資料を読んでいて、思わず声が出た。

 昨年の年収が2000万円超の人は、今年も同じくらいを見込めるだろう。来年3月に返金することがわかっていれば、6月からの減税はちっともありがたくないはずだ。

「合計所得」なので、給与の年収だけでなく、退職所得や不動産売却による所得も含まれる点も押さえておきたい。

 退職金を今年受け取る予定で所得要件から外れそうな人は、「だったら、6月から減税しないでおいてほしい」と職場に頼みたいだろう。

 残念ながら、それは無理な注文。所得の判定はあくまで12月なので、6月からの減税実施は法律上、避けられないようだ。

 退職金は分離課税制度で、原則支払い時に源泉徴収で納税額が確定するため、本来であれば確定申告しなくて済むのだが、定額減税を返金するために確定申告をしなくてはならなくなるとは……。これも納得がいかない落とし穴だ。

 また、自宅の売却による所得にも注意が必要だ。

 不動産の譲渡所得は、「売却による収入-(取得費+譲渡費用)」である。つまり、売買にかかる諸経費を引いてプラスになれば所得が発生する。

 居住用の3000万円特別控除などを差し引いたら、納税額は発生しなかったとしても、合計所得に含まれるのは、特別控除を差し引く前の譲渡所得であることを知っておきたい。3

パート主婦にも影響大!

収入103万円を超えたら……?


 配偶者がパート収入を得ている場合も注意点がある。

 定額減税の対象となる扶養家族の要件は「所得金額が48万円以下」だ。所得48万円は、パート収入に換算すると103万円(103万円-給与所得控除55万円=48万円)。

 ここで注意したいのは、配偶者控除の38万円を受けられる年収要件とは異なることだ。

 仮に夫が主たる生計維持者、妻がパート勤務とすると、パート収入が150万円以下なら夫は配偶者特別控除の38万円を受けることができるが、103万円を超しているので、妻の分の定額減税を受けることはできない。
 
 人手不足の折、現在政府はパートタイマーに「収入の壁を超えて働こう」と呼びかけている(私も推奨している)。

 これまで年収100万円を超えないように調整していた妻の場合、6月時点では「妻は所得金額48万円以下の人」で、夫の扶養家族として、6月以降夫が妻の分も減税を受ける。

 7月以降、少しずつでも「収入の壁」を超えようと勤務時間を増やすとどうなるのか。

 妻のパート収入が103万円(所得金額48万円)を超えたら、扶養していた夫は、6月から受けた妻の分の減税額を年末調整か確定申告で返金しなくてはならない。

 一方、夫の「減税対象の扶養家族」から外れた妻は、自身の収入から自分の分の減税を年末調整や確定申告により受けることができるが、所得税、住民税が減税額に満たなかったら、来年以降、自治体からの給付金で調整されることになる。

 今回の定額減税の目的は物価上昇対策のはず。しかし、受けられる減税額は毎月少しずつ。さらに引ききれなかった分は給付金として振り込まれるが、それは来年以降……。どうにもありがたみを実感しにくい支援策だ。

 自営業者の場合は、来年(25年)の確定申告で所得税の調整が行われる。ずっと先だ。

「ふるさと納税」にも落とし穴

減税額を差し引いて上限額を算出


 最後にもう一つ注意点を。今年、ふるさと納税をする人は、自分が受ける予定の定額減税を考慮する必要がある。

 みなさん、ふるさと納税のポータルサイトのシミュレーターを使って、寄付額の目安となる控除上限額を計算しているだろう。

 給与収入と扶養家族の人数のみの入力で試算する「簡易シミュレーション」に定額減税が反映されていない場合、これを参考にしていると上限額を超えてしまう可能性がある。

 今年は、自分で減税額を差し引いて上限額を算出する必要がある。これも落とし穴と言えるのかもしれない。