大阪市どうして全国最高額? 介護保険料9249円、平均を3000円も上回る 最も安い村にも事情を聞いた

 
 ここ10年、大阪市政は大阪維新の会が担う。「『民にお任せ』の基本姿勢がある」と地元団体の植本さんは語る。介護保険関連でも、市内に民間施設は多いが、負担軽減への行政の積極性はみえないという。「小さな政府」志向のある維新だが、自助で全てが解決するわけではない。
 
 
 市区町村ごとに設定され、65歳以上の高齢者が支払う介護保険料が4月、改定された。厚生労働省によると、全国平均の基準額は月6225円で、過去最高を更新した。中でも高いのが大阪市だ。9249円で、最も低い東京都小笠原村の約3倍になった。大阪・関西万博の費用上振れで、市民の負担増も懸念される同市。なぜ、こんなに高いのか。(岸本拓也、森本智之)
 
◆2000年の制度導入時は全国平均2911円だった
 介護保険制度は、介護が必要な高齢者を社会全体で支える仕組みとして2000年に始まった。制度導入時は全国平均で月2911円だった65歳以上の高齢者が支払う介護保険料は、2倍超になった。高齢者の増加で介護サービスの利用が増えているためだ。
 
 介護保険の財源には、公費(国と地方の税金)と、40歳以上の人が支払う保険料を折半して充てている。保険料のうち、65歳以上の高齢者が支払う分は、制度を運営する各市区町村が3年ごとに見直す。24年度は改定の年だった。市区町村が国の基準を参考に、介護が必要な高齢者数や介護サービスの利用者数の推計値からサービスの総費用を見込み、所得に応じて段階的に、保険料を設定する。
 
◆独居と低所得のお年寄りが多くて
 今回、その最高額を記録したのが大阪市。理由を聞くと、市介護保険課の担当者は「1人暮らしの高齢者の比率が全国と比べて高いため」と説明した。
 
 
 20年の国勢調査によると、大阪市の65歳以上の高齢者のいる世帯のうち、独居の割合は45.0%と、全国平均の29.6%を大きく上回る。昨年末時点の要介護認定率は27.4%と、全国より8ポイント高い。市の担当者は「1人暮らしの高齢者の方が介護サービスが必要で、結果として介護費用が増えている」と話す。
 
 低所得者が多いことも要因に挙げる。介護費用が増加する一方、低所得者は支払う保険料が少なくなる仕組みのため、全体の負担が増えているという。市は高齢者に自主的な運動を促すなど介護予防に力を入れるが、今のままでは40年度には保険料が月9900円になると試算する。
 
◆市は公費投入に後ろ向き…「万博費用を高齢者のために」の声
 保険料負担は年金生活者を直撃する。「高齢社会をよくする女性の会・大阪」の植本真砂子会長(75)は「この保険料では高齢者の生活が破綻する。負担と給付のバランスに社会的合意がないまま、引き上げが続いている」と訴える。
 
 「介護保険料に怒る一揆の会」など地元の市民団体は、大阪市に対して介護保険料を引き下げるため、一般財源を投入するよう求めてきた。しかし、市は、国に財政措置の拡大を要請しているとしつつ、「税負担の公平性や健全な介護保険制度の運営という観点から適当ではない」と否定的な対応に終始する。
 
 同会事務局長で仏教大非常勤講師の日下部雅喜さんは「独居の高齢者が多い大阪市は、全国の十数年先を行っている。他の自治体では、一般財源を投入した例もある。市が率先して公費を出して保険料負担を抑えなくては」と反論。「財源」として開催意義が揺らぐ大阪・関西万博の関連費用を充てるよう提案する。
 
 日下部さんの試算によると、24年度から14%の引き上げとなる大阪市の介護保険料を改定前の額に据え置くには、計約251億円が必要という。大阪府・市は24年度予算で万博関連事業費を808億円(市の負担は457億円)計上。日下部さんは「万博に800億円も使うのなら、中止してその一部を高齢者のために使ったらどうか」と主張。近く改めて市に一般財源の投入を要望する方針だ。
 
◆「間違いなく今後も介護保険料は増える」共通する危機感
 
 
 大阪市に続いて保険料が高いのも、同じ大阪府内の守口市(8970円)、門真市(8749円)だった。
 門真市の担当者は「大きな理由は大阪市と同じ。独居の高齢者世帯の増加と生活保護率の高さが要因」と説明する。大阪市の北東に隣接しベッドタウンとして栄えたが、近年は急速に高齢化が進んでいる。
 
 担当者は「全体の人口は減っているが、75歳以上の後期高齢者だけが増えている。要介護や要支援の認定者は増えており、間違いなく今後も介護保険料は増える」と危機感を募らせる。対策として高齢者に向けた健康体操を推進しているが、「介護が必要となる年齢を少しでも遅らせるため」の施策で抜本的な対策にはなりにくいという。
 
 市単独での対応では限界があるとして、財源のうち国の負担割合を上げるなど制度改正を国に求めることを検討している。
 
◆最も安い離島・小笠原村「うちの村はかなり珍しい」
 一方、最も安かったのは東京都小笠原村(3374円)だったが、こちらは、村ならではの事情が影響していた。
 
 東京湾から南へ約1000キロの離島で、交通手段は定期船。このため村には民間の介護事業者が参入しておらず、介護保険適用の施設もない。介護事業は村が直営したり村が作った法人が担う在宅サービスが中心で、利用が限られる。担当者は「うちの村のケースはかなり珍しいと思う」と話す。
 
◆どこでも大阪市のようになる可能性
 淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は介護保険料の上昇について「高齢者が増えていることと、介護職の人の報酬を引き上げたことが要因。介護職の人手不足を考えれば、報酬はもっと上げても良いくらいで、保険料は上がるべくして上がった」と分析する。
 
 その上で、保険料の増額は今後も全国的に続くとみる。団塊ジュニア世代が高齢者入りする2040年には、3人に1人以上が高齢者になるなど介護費用は増え続けると予測され、どこでも大阪市のようになる可能性がある。
 
 結城氏は「年金は増えないのに、介護も医療保険料も増え、高齢者の可処分所得は減り続ける。大阪市の保険料は高すぎ、これ以上は限界だ」と指摘。「このままでは制度自体が崩壊する可能性がある。保険料の増額に頼るのではなく、増税などで新しい財源を確保するなど負担の議論をする必要がある。内部留保が高止まりしている大企業を中心に法人税を引き上げて活用するのも一手。企業では介護離職が課題になっており、企業が負担することは理にかなう」と提案する。
 
◆「負担増の議論は避けて通れない」
 一橋大の佐藤主光(もとひろ)教授(財政学)も「負担増の議論は避けて通れない」と強調する。
 
 介護保険の財源には、公費と保険料のほかに、サービス利用者が自己負担する部分がある。サービス費用の1割が基本で、収入が多いと2〜3割になる。政府は2割負担する人の対象拡大を検討したが、利用者らの反発を受け、結論を先送りしている。
 
 佐藤氏は逼迫(ひっぱく)する介護保険財政を踏まえこう述べる。「利用料や保険料を引き上げるか、より重度の人向けにサービスの対象者の範囲を絞るか、新たな財源として増税するか。どれかを選ばざるを得ない状況まで来ている。重度の要介護者だったり、困窮者だったり、本当に守らなければいけない人は守る。そのために負担できる人には負担してもらう必要がある」
 
◆デスクメモ
 ここ10年、大阪市政は大阪維新の会が担う。「『民にお任せ』の基本姿勢がある」と地元団体の植本さんは語る。介護保険関連でも、市内に民間施設は多いが、負担軽減への行政の積極性はみえないという。「小さな政府」志向のある維新だが、自助で全てが解決するわけではない。(北)