紙の保健証でいいんですよ。

資格確認書の発行だけでも現状の取得率の割合のままであれば、5億を超える血税が注ぎ込まれることになるという。信じられない。

 

 

岸田首相がマイナ保険証を積極的に推進すると改めて語ったらしい。もはや呆れてものも言えない。危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。

「個人情報の漏洩や不正利用の問題を解決することもなく、推進だけされても利用率が高まることは考えにくいですよね。国民の多くが望んでいない政策をどうして一旦ストップできないのでしょうか」。

医療機関もマイナ保険証に対応するのであれば、システム変更を余儀なくされる。

「大規模な病院であればそれくらいの財源はなんとかなるのかもしれません。でも地方や中小規模の病院では、その経費を捻出すること自体が難しいということも考えられます。さらにこれまでであれば、紙の保険証を月に1度提出すれば医療が受けられたわけですが、マイナ保険証になると5年ごとの更新が求められます。もし認知症になったり、寝たきりになった場合はどうするのでしょう?問題は山積みです」。

今回はそんなマイナ保険証を取り扱う病院の事務課に勤めるある女性に話を聞くことができた。

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畠山あかりさん(仮名・46歳)は、比較的大きな地方都市の病院で働いている。

「正直、コロナであんなにパニックになって、それが落ち着いたところでこれ。一難さってまた一難ですよ。マイナ保険証がすべて悪いとは言いませんがこんなに急に変更されたら、誰もついていけません。ただでさえ、いろいろわからなくなってしまう高齢者が増えていて、その対応だけでも疲労困憊なのに…」。

対応ができないこと、高齢者であることなどから、病院を畳むケースもあるらしい。

「家の近くの町医者のおじいちゃんは、もう無理だと話していました。地方都市の病院ですらこれなんですから、マイナ保険証しか使えないとなると本当に大変だと思います。システム導入だけでも、信じられない経費がかかりますし、それを運用する人もいない。お医者さんと看護師さんと少人数で運営しているようなところは難しいですよね…」。

あかりさんが最も危惧しているのは、複雑すぎる対応だ。

 

「マイナ保険証を作る人はまだしも、作らない人には資格確認書が交付されるでしょう?もうその時点で、病院側は2パターンの作業が求められるわけです。そのほかにも被保険者資格申立書とか、既存の保険証とか、とにかくいろんな書類に対応しなくてはなりません」。

平塚氏によれば、資格確認書の発行だけでも現状の取得率の割合のままであれば、5億を超える血税が注ぎ込まれることになるという。信じられない。

「本当に驚きますよね。今なら保険証1枚で済むのに、それが6種類だったかな?に増えるわけですから、物理的に処理は増えるに違いありません。さらになんといいますか、情報が全然周知されていない感じもあるでしょう?みんなよくわかっていないというか…」。

なかでもあかりさんが危惧しているのは高齢者だ。

「そもそもちょっと認知症の症状がある人なんかもいるわけですから、混乱は必至だと思います…。つい先日も、うちの病院で『何がマイナ保険証だ!逆に使えねえーよ!』と怒鳴り散らしたお年寄りがいました」。
 

 

「逆に使いにくじゃねーか」と高齢者の怒鳴り声。マイナ保険証のトラブルで病院の受付が大渋滞のリアル。マイナ保険証への切り替えたくない病院職員の本音とは

 
畠山あかりさん(仮名・46歳)は、比較的大きな地方都市の病院で働いている。この病院ではすでにマイナ保険証への対応を決めており、システムの準備も済んでいるが、実際に使っている人が多いとは感じないそう。なかでもあかりさんが危惧しているのは、切り替え後の複雑さだ。マイナ保険証以外にさまざまな書類が発行されることで、処理が煩雑になるのでは?と感じるそう。さらに引っかかっているのは、デジタル化に対応できない高齢者で…。

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「これまでであれば、紙の保険証1枚で医療が受けられていたのに、それが何種類もある。しかも新たに発行するマイナ保険証は、5年に1度更新が必要だというんです。高齢者にとっては、これもかなりの負担なんじゃないでしょうか?自治体に出向かなきゃならないみたいですし…」。
 
そもそも高齢者が増える病院の窓口は、さまざまなトラブルが日常的に起こっているそう。
 
「保険証が見当たらないとか、持ってたはずなのにとかそんなのは日常茶飯事。ほかにも使い方がわからないとか、切り替え方法を教えて欲しいとか言われます。それは自治体に問い合わせてくださいというといきなりキレ出したり…。結局、制度変更といっても対応は全部現場がするんです。割りに合わないというか、なんというか…」。

先日もシステムエラーが起こり、高齢者が激怒する事件があったらしい。

「実はマイナ保険証はシステムエラーが結構あります。情報が読み取れないので、しかたなく手持ちの保険証で確認をするんですけど、そのおじいさんは保険証を持っていなかったんです」。
 
70代男性患者がキレ散らかしたらしい。
 
「どういうことになってんだよ?とすごい怒ってました。苦労してマイナ保険証に変更したのに、こんなに使えないんじゃ、しょうがないだろとキレてましたが、正直そんなことを私たち病院職員に言われてもどうしようもありません。ただ、すみません以外にかける言葉がありませんでしたね」。

看護師たちに宥められたのち、なんとか納得をして保険証を取りに戻ってくれたようだが、後味は悪かったという。

全北保険医団体連合会の調べによるとオンライン資格確認の運用を開始した医療機関(8437件)のうち、65.1%(5493件)が、これまでにトラブルがあったと回答しているそうだ。
 
「資格情報が正しく反映されないことが多くて、結局紙の保険証とダブル持ちをお願いしなければいけない状況です。本当に病院側としてもなんていうか、やりずらい感じですよ」。

そのほかにも古い情報が登録されていたり、期間や割合が異なる情報が登録されている場合もあったと話す。
 
「結局、いちいち確認するので負担が軽減するどころか、仕事が増えているイメージです。一体いつまでこんな状況が続くのかな?と思います。このようなエラーを目の当たりにしたら、マイナ保険証にしようなんて思わないですよね。取得率が上がらないのもわかる気がします」。

さらに顔認証もトラブルの素になりがちだと話す。

「紙の保険証は月1回の提示でよかったんですが、マイナ保険証は毎回の提出が必要です。これもすごく面倒。多くの人は月1回って思い込んでいるので、忘れも多いんです。それから、顔認証のカードリーダーは高齢者にはなかなか難しくて、認識できずにタイムアウトになってしまいます。すると暗証番号の提示を求められますが、そんなの覚えているわけないとなって、結局アクセスできない状況に…。怒鳴られたことも1度や2度ではありません」。

顔認証画面の四角に顔を合わせるのがなかなか難しい高齢者も多いんだという。結局、受付に大渋滞が起こることも少なくないそうだ。平塚氏はこう話す。
 
「マイナ保険証はいわばデジタル化です。デジタル化に高齢者がなかなか馴染めないことは初めからわかっていたこと。この国は高齢化社会なわけで、高齢者の数はどんどん増える一方。もっとわかりやすく、もっと使いやすいものであるべき、制度改革で逆に使いにくくなっているのですから、本末転倒もいいところですよね」。

あかりさんは不安だけが残ると話す。

「切り替えまであと、半年です。本当にこのままの感じでトラブルを抱えたまま進むことが正しいのか疑問に思ってしまいます。ちなみに私は切り替えをしていません。家族も。この現場を目の当たりにしている当事者たちは切り替えを渋ると思います…」。

このような現場の声が総理官邸に届いていないのだろうか?「聞く力」を今こそ、発揮してもらいたい。
 
取材・文/悠木 律