きょうの潮流
加害者に加担する法をごり押しするな。弁護士はいいます。子どものためにならない。親は訴えます。24万人をこえた反対署名は実質的な「離婚禁止制度」だと
▼婚姻中の父母に認められる共同親権を離婚後も可能とする改定民法が成立しました。現行法でも共同養育は選べるのに、虐待やDV加害者に「武器」をあたえ、リスクが増すだけの法をなぜ早急に通すのか。不安の声はひろがっています
▼「最大の問題は離婚する父母の合意がなくても裁判所が共同親権を定めうる点だ」。採決に反対した共産党の山添議員は、審議でも弊害を懸念する発言が相次いだとして、国民的な合意なくして押し切ることは許されないと批判しました
▼家裁に丸投げするのか、暴力や虐待にさらされた被害者をさらに追い詰めるのか。子どもの意思や決定権はどこまで反映されるのか―。親子の関係と家族のあり方を左右する戦後民法の根本にかかわる改定にもかかわらず、問題や不備はつきません
▼だいたい夫婦別姓や同性婚はいつまでも認めないのに、立法事実さえなきに等しい共同親権はさっさと通す政治とは。それを「家族関係の多様化に対応した見直し」というのか
▼戦前の親権者は父親でしたが、今は離婚後の親権の9割近くを母親が占めます。そこには家庭や子育てのありようが表れています。個人の尊重を最も大切な価値とする憲法にも反する合意のない共同の強制。改定法は2年以内に施行されるといいますが、あきらめるわけにはいきません。
ジャーナリストの青木理氏が17日、文化放送「大竹まことゴールデンラジオ!」に出演。共同親権法の成立についてコメントした。
離婚後も父母双方が子の親権を持つ「共同親権」を導入する民法などの改正法がこの日の参院本会議で可決、成立した。現在の民法は離婚すると父母の一方しか親権者になれないが、改正法では父母が協議して双方が親権者となるか、一方のみとするか決められるようになる。
改正法は2026年までに施行し、施行前に離婚した夫婦も共同親権を選べるようにする。親権を巡り父母の意見がまとまらない場合は、家庭裁判所に申し立てて判断を仰ぐ。
青木氏は「まあいろんな思惑抱えた法案ではあったと思うんですけれども、これ世界的に見ると先進国なんか結構共同親権になってるんですよね」と前置きし「ただ、特にDVなんかを受けているような、特に女性に被害が広がってしまうのではないかと。その手当てをちゃんとしなくちゃいけないのに、その手当てがあまりされてない」と指摘した。
もちろん夫婦の関係が悪くなっていない場合の共同親権は問題ないが「DVも含めた父母が非常に折り合いが悪い、あるいは女性が元夫と会うこと自体が危ないみたいな場合は、実は家庭裁判所が最終的に判断するんですよね。ところがその家庭裁判所が、全国の家庭裁判所が22年に受理した家事事件、家庭の紛争なんかの事件の申し立てってのは、114万件もあるんですよ。これは12年からの10年で30万件近く増えてるんですね」と現状を説明した。
続けて「だから家庭裁判所がきちんと『これはDVだから』っていうことできちんと処理してくれるような体制が取れてるんだったら共同親権にしても、むしろいいと思うんですけれども、そういうのもできてないんですね。だから家庭裁判所がパンクしちゃうんじゃないかと」と危惧。
さらに「そうなっちゃうと女性団体なんかが懸念しているとおり、そういうDV被害者みたいな人たちの悩みというか苦悩がどんどんもっと大きくなってしまうんじゃないか?っていう意味でいうと、僕もこの法案はあまり詳しく取材してはいないんですけれども、ちょっとこのまま成立させるっていうのは、まずいんじゃないかな」と私見を述べた。
メーンパーソナリティーの大竹まことも「間にあいまいなことが多すぎるよね。細部をもうちょっと詰めてやるって言うんなら分かるけど、この法案がどこから見ても子ども側からの視点にはなってないよね」と首を傾げていた。
共同親権 個人尊重に背
共産党反対 改定民法が成立
日本共産党の山添拓議員は反対討論で「真摯(しんし)な合意がないのに親権の共同行使を強いれば、別居親による干渉、支配が復活、継続する手段となり、子の権利や福祉が損なわれる危険が否定できない」と批判しました。
また、日本産科婦人科学会など4学会が「共同親権」の導入で、生命・身体の保護に必要な医療の実施が「不可能」となったり「遅延」したりするとの懸念を示していると指摘。「親権者のいかなる同意が必要かの判断がつかず、医療機関が訴訟リスクを恐れ、医療行為を控える事態を招くことはあってはならない」と批判しました。
山添氏は、あるべき法改正のためには▽子どもを主体とした「親権」の再定義▽子どもの意見表明権の明記▽裁判官、調査官の大幅増員など家庭裁判所の体制強化―が不可欠だと強調。当事者間に合意のない「共同」の強制は「『個人の尊重』を最も大切な価値とする憲法との整合性が問われる」と批判し、追い詰められ、苦しんできた多くのDV(配偶者などからの暴力)や虐待被害者がつながり始め、「諦めるわけにはいかない」という声が全国で湧き起こっているとし、「『個人の尊重』に依拠した、あるべき家族法制への転換こそ求められる」と強調しました。
審議中止を求める声は24万人超 それでも共同親権を導入する改正民法が成立 「聞く力」はどこへ?
改正法では、離婚後は父母の一方のみが単独で親権を持つとしてきた規定を変更し、共同親権を選択することが可能になった。父母の意見が対立した場合は、家裁が子の利益に基づき、共同親権か単独親権かを決める。共同親権になると、子と同居している親でも、子の進学や医療、転居、パスポート取得などの重要事項を決める際に、元配偶者と協議する義務が生じる。
民法改正を巡っては、最高裁の戸倉三郎長官が記者会見で「(家裁が)表面的なことだけでなく背後まで見ることができるかが、大きく難しい課題だ」と指摘。日本小児科学会など医療4団体は昨年9月、「子に医療が必要な場面で適時に両親の同意を得られず、子の利益が侵害される恐れがある」との声明を出した。
改正民法は、父母の一方が拒んでも、家裁の判断次第では離婚後も共同親権となり得る内容となった。元配偶者との関係が壊れ、不安な日々を送るひとり親らを過酷な環境に追い込み、しわ寄せが子どもにも及ぶ懸念は払拭されていない。
「共同親権」導入改定民法
山添議員の反対討論(要旨)
参院本会議
日本共産党の山添拓議員が17日の参院本会議で行った離婚後「共同親権」を導入する改定民法に対する反対討論の要旨は次の通りです。
DV(配偶者などからの暴力)や虐待から逃れ、安心・安全な生活を取り戻そうと必死で生きる人々、行政や司法、医療・教育・福祉の現場から悲鳴のような怒りの声が上がっており、国会はその声を封じてはなりません。
本法案の最大の問題は、離婚する父母が合意していなくても、裁判所が離婚後の共同親権を定めうる点です。真摯(しんし)な合意がないのに親権の共同行使を強いれば、別居している親による干渉、支配を復活、継続する手段となり、結果として子の権利や福祉が損なわれてしまう危険が否定できません。
証拠がないといって、過去の被害が認められない事態は十分起こりうるのではありませんか。婚姻中、DVや虐待を理由に子を連れて別居するケースが「急迫の事情」に当たるのかさえ明瞭ではありません。
日本産科婦人科学会など4学会は、共同親権を導入する理念を「理解する」としつつ、離婚後も父母両方の親権者の同意が必要になれば「生命・身体の保護に必要な医療を実施することが不可能あるいは遅延することを懸念」しています。親権者のいかなる同意が必要かの判断がつかず、医療機関が訴訟リスクを恐れ、医療行為を控える事態を招くことはあってはなりません。
あるべき法改正のためには、子どもを主体とした「親権」の再定義が必要です。子どもの意見表明権の明記、裁判官、調査官の大幅増員など家庭裁判所の体制強化が不可欠です。
親の資力等が要件となっている支援策の手続きは、法務省が昨日(16日)までに把握しただけで32項目に上ります。離婚後「共同親権」の下でいかなる影響が生じるかは、法案審議の前に確認しておくべきです。本法案は採決の前提を欠いています。
憲法24条2項は、離婚や婚姻、家族に関する法律のあり方について、「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と定めます。当事者間に合意のない「共同」の強制は、「個人の尊重」を最も大切な価値とする憲法との整合性さえ問われます。
追い詰められ、虐げられ、懸命に生きてきた多くの当事者が声を上げ、つながり始めました。「自らと子どもの生活と命が懸かっている。諦めるわけにはいかない」という声が全国で湧き起こっています。個人の尊重に依拠した、あるべき家族法制への転換こそ求められます。