「闘いは まだ続いている」誹謗中傷とも闘い続けた五ノ井里奈さんが、柔道着で臨んだ表彰式 今後について語ったこと

 
 
👏よく頑張りました!しかし戦いは続きます!
五ノ井さんは帰国後、「news23」の取材に対し、「刑事裁判は終了したが、これで闘いが終わりという訳ではない。民事裁判の闘いは続いている。問題の根本的解決に向けて頑張りたい」と話している。
 
 
元自衛官で柔道指導者の五ノ井里奈さん(24)。自衛隊で受けた性被害を名前と顔を出して訴えてきた。声をあげて1年半が経過した去年12月、五ノ井さんにわいせつな行為を行った元隊員3人に、懲役2年、執行猶予4年の有罪判決が下された。これまでの闘いが評価され、アメリカ政府が表彰する「国際勇気ある女性賞」を受賞した。長年、日本では性被害について「声をあげる」ことは、タブー視されてきたが、当事者たちが声をあげたことで、日本の社会は少しずつ変化してきている。

(news23ディレクター 横山菜穂)

「勇気、覚悟を持ち行動した人が報われる社会に」授賞式が行われる米・ワシントンへ
3月2日・午前7時、多くの人が行き交う羽田空港の出発ロビーに五ノ井さんの姿はあった。出発の4時間前に到着した理由は、慣れない国際線の搭乗に備えるためだ。2日後にアメリカ・ホワイトハウスで行われる「国際勇気ある女性賞」の授賞式に出席するため、東京からワシントンへ飛び立つ。
 
 
記者:「いよいよ出発ですが」
 
元自衛官 五ノ井里奈さん(24)
「なんか緊張しますね。スピーチありますよ。ヤバいです」

授賞式への緊張のせいか、カバンに付ける鍵を忘れてしまい、出発前に空港の量販店で慌ててダイヤル式の南京錠を購入した。
 
 
元自衛官 五ノ井里奈さん(24)
「勇気...そう見てもらえたことは、うれしいですけど…」
「私が目指しているのは、声をあげなくても良い社会を目指しているので、声をあげる、実名を出してやるというのは、それなりの覚悟、いろいろな犠牲が伴ってくるので、こんな闘い方をしなくてもいい。そういうのは私が最後になってほしいなと思います」
「何か勇気を出したり、覚悟を持って行動した人が、しっかり報われる社会であって欲しい。それなりの評価というのを、やっぱり自分の国、日本でしっかりして欲しいなと思います」

 
ホワイトハウス受賞式に出席「何度でも立ち上がる」一番、自分らしい姿で
3月4日にアメリカ・ホワイトハウスで行われた受賞式。アメリカ政府が平和や人権、男女平等に貢献した人を表彰する「国際勇気ある女性賞」は2007年の創設以来、これまで90カ国190人以上の女性に贈られてきた。今年は、五ノ井さんのほか、ベラルーシの人権活動家やアフガニスタンの弁護士、ウガンダのジャーナリストなどが受賞した。

各国の受賞者が伝統衣装やドレスに身を包む中、五ノ井さんが選んだのは柔道着。
 
 
元自衛官 五ノ井里奈さん(24)
「声をあげて闘っている最中も、誹謗中傷はすごくあった。そんな中、幼い時に始めた柔道に助けてもらった。何度投げられても立ち上がるんだって、柔道着が一番、自分らしい姿だと思ったので」

式典を主催したブリンケン国務長官とジル・バイデン大統領夫人から、記念の盾を受け取る際には、会場から大きな拍手が贈られた。

ジル・バイデン大統領夫人
「このステージに立つ女性たちは、沈黙に屈することを拒み、恐怖やリスクにさらされながらも、自分自身やみんなの為に声をあげた人たちです」

ホワイトハウス ジャンピエール報道官
「セクハラや性的虐待に直面した後、五ノ井さんは自らの体験談を語り、勇気づけられた1000人以上が被害を訴え、自衛隊を変革へ導いたのです」

アメリカ国務省は五ノ井さんの告発が「伝統的な日本社会でタブー視されてきた問題に光りをあてた」としたうえで、「意義のある改革を求めた五ノ井さんに動かされ、自衛隊はより安全な職場の構築に取り組むようになっている」と受賞の理由を説明している。

 
「声があげられなくても、自分をダメだと思わないで」ワシントンで語った再発防止への思い
国際女性デーを前日に控えた3月7日、五ノ井さんは受賞後、はじめてのスピーチを行った。ワシントンの会場には、世界中から招かれた来賓が集り、その会場の隅で、何度もメモを確認しながら、英語の練習をする五ノ井さんの姿があった。
 
 
【以下、五ノ井さんのスピーチ】

Hello I'm RINA GONOI. Thank you for having been today.

ここからは日本語で話します。

「世界の勇気ある女性賞」に選ばれたことを大変光栄に思っています。

みなさま本当にありがとうございます。

支えてくださった全ての方々に心から感謝を伝えたいと思います。

そして、今ここにいる新しい家族「国際勇気ある女性賞」に選ばれた心強いお姉さん達に出会えたことを心から幸せに思います。

私はもう1人ではありません。

私は日本の陸上自衛隊に所属していた元自衛官でした。自衛隊に入隊したきかっけをお伝えします。

13年前の3月にそれは起きました。2011年、3月11日、私が小学5年生のときに、東日本大震災に遭い地震や大津波が街を襲いました。家も水没し、愛犬も亡くなりました。友人も含めて、多くの命が奪われました。当時、避難生活を公民館で送っているとき、助けてくれたのが女性自衛隊員でした。彼女たちの姿を見て憧れを抱き、私も誰かを助けていけるような立派な自衛官になりたいと思い入隊しました。

ですが、私が配属された部隊では、日常的にセクハラがあり、様々な被害に遭いました。組織内で1人で声を上げましたが、解決が得られず、セクハラや性暴力の事実が無かったことのように扱われたため、苦渋の決断で自衛隊を退職しました。

自分の尊厳を取り戻す為、勇気を持って、SNSを使って社会に対し、声をあげました。そして、もう一度、再調査をして欲しい思いで、署名活動を行い10万人以上の署名が集まりました。その結果、部隊において、再調査が行われ、事実を認めた防衛省から正式な謝罪を受けることができました。

これを機にハラスメント根絶の為に、組織全体に特別防衛監察が行われた結果、1300件以上のハラスメント申告がありました。

2023年12月には刑事裁判にて、3人の被告に対して、強制わいせつ罪で懲役2年、執行猶予4年の有罪判決が出されました。セクハラは男女ともに直面する現実であり、今尚、未解決の問題です。

私自身が、その被害にあったことで、この問題に真剣に向き合うようになりました。私の経験が、他の誰かの声を引き出し、共感を産むきっかけになるなら、それは私にとって、大きな勲章です。

私は、この問題をただの個人的なものではなく、社会的な課題として捉えています。セクハラは私たちが生きていく上での基本的な人権を踏みにじる行為です。

それを無くすためには、個人だけではなく、社会全体が協力し、変革に向けて協力する必要があります。そして私が求めるのは、男女ともにすべての人が教育によって、ハラスメントについての正しい認識を身につけること、意識改革が進むことです。

私たちは性別にかかわらず、尊重と平等を大切にする社会を築く責任を持つべきです。被害者が声をあげ問題を解決するための様々なサポートシステムを提供することも重要です。

なぜ、私がここまで、ひとりで声をあげ、闘えたのかは、私が幼いころから習っていた柔道のおかげで、問題に立ち向かう強さを学びました。

何度、投げられても立ち上がり、相手に向かって行く力は、勝負の時だけでなく、今後、生きていく人生においても必要な力になっていきました。その立ち上がる力は裁判においても必要でした。

どんなに相手に伝わらなくても、誹謗中傷を浴びても、揺るがない信念を持ち、巨大な相手に立ち向かう強さにも変わりました。なので私をずっと救ってくれた柔道に経緯を表すために、授与式は柔道着を着て出席しました。

ここから大事なお話をします。

勇気とは、歩み続ける覚悟だと思います。そして、今を生きることです。

もし、今から声をあげる人がいれば、「あなたの行動は間違えていない。自分が思うままに動き自分を信じて、声をあげ、まっすぐ突き進んでほしい」「私はあなたの勇気と覚悟を誇りに思います」と伝えたいです。

でも、まだまだいろんな国々で、たくさんの事情があって、声があげられない方や行動ができない人がいると思います。声をあげられないからと言って、自分のことをダメだと思わないでください。

なぜなら、過去に苦しみや悲しみがあっても、今この地球上で生きて、ご飯を食べたり、寝たり、友人と会ったり、笑いあったり、あなたがそこに存在していることが既に勇気ある行動そのものだからです。

みなさん、どんな自分であったとしても、自分を褒めてあげてください。そして、たくさん自分を愛してください。みなさんこれまでの道のりや自分自身の歩み、頑張って来た事に対して、今ここで自分自身にありがとうの気持ちで、拍手を送りましょう。

私がダイヤモンドの原石だとしたら、光輝くダイヤモンドまで磨き歩みます。歩みを止めることは簡単だけれど、諦めずに挑戦しつづけることで、原石が磨かれていつか、ダイヤモンドの光を放つようになると思います。

きっと、あなたの人生も輝きます。

私は、その1人として、どんなことがあっても、歩みを止めず、歩み続けて、自分の夢を叶えて、人生を自分の色で輝かせていきます。

それがまた、誰かの勇気へ変わると信じて Thank you.
 
 
五ノ井さんを初めて取材したのは2年前の10月17日。加害者の元隊員4人から直接謝罪を受ける日だった。面会を数時間後に控えた緊張で、顔は真っ白になり「前日は眠れなかった」と語っていた。

告発後、おびただしい数の誹謗中傷にさらされ、心の支えだった柔道は被害のフラッシュバックで思い通りに出来ない日々が続いた。カメラの前では、めったに弱音を吐かない五ノ井さんだが、闘いが続く中で「生きる意味があるのか?」と辛さを吐露することもあった。しかし、五ノ井さんの「人生を懸けた闘い」は自衛隊を動かし、世界中から注目を集めた。

「被害者は楽しそうにしてはいけない。笑ってはいけないという偏見を感じてきた。そのイメージを覆す生き方をしたい」その言葉のとおり、五ノ井さんは新たな一歩を踏み出した。その一歩はハラスメントに悩んでいる人だけではなく、性別や年齢を越えて、誰もが暮らしやすい社会になるための一歩になりつつある。

五ノ井さんは帰国後、「news23」の取材に対し、「刑事裁判は終了したが、これで闘いが終わりという訳ではない。民事裁判の闘いは続いている。問題の根本的解決に向けて頑張りたい」と話している。