「賃上げしてもコスト増を吸収できる企業ならまだしも、賃上げが物価に跳ね返ってくる可能性は否めません。定額減税にしても一時的な対処に過ぎず、消費は喚起できないでしょう。政府の期待は甘すぎです。物価だけが上がり続け、実質賃金は目減りして金利による補填すらない。消費者の負担が増えて当然です」

 

 

このままでは火をともす爪さえなくなってしまいそうだ。内閣府が16日、今年1~3月期のGDP(速報値)を発表。物価変動の影響を除いた実質で前期比0.5%減、年率換算は2%減だった。マイナス成長は2四半期ぶり。GDPの半分以上のウエートを占める個人消費が弱く、足元の円安・物価高の是正は急務だ。

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個人消費は前期比(年率換算前)で0.7%減。リーマン・ショックが直撃した2009年1~3月期以来、15年ぶりに4四半期連続のマイナスとなった。トヨタ自動車などの認証不正問題で自動車の購入が減ったほか、スマートフォンの販売や電気使用量の減少も押し下げ要因になったという。

 

34年ぶりの最高値を付けた株価や大企業の好業績とは裏腹に、家計は苦しい。マイナス成長の見通しに、政府は「景気の動きによるものとはいえない特殊要因の影響」(林官房長官)と他人事だが、リーマン・ショック時以来の個人消費減は国民生活のしんどさを物語る。
実際、明治安田生命保険のアンケート調査(先月24日公表)によると、全国20~79歳の既婚男女1620人の「世帯貯蓄額」の平均は昨年に比べて175万円も減少。毎月、15万円近く、貯蓄を取り崩しているのだから、衝撃である。〈収入が物価高に追いつかず、貯蓄を取り崩している人が多いのかもしれません〉と分析している。

■政府の甘すぎる見通し 間違った処方箋

いつになったら生活は楽になるのか。個人消費は回復するのか。経済評論家の斎藤満氏がこう言う。

「政府は景気状況について『このところ足踏みもみられるが、緩やかに回復している』との見方を維持していますが、間違った見解だと言わざるを得ません。儲かっているのは大企業だけで、実態は物価高と景気低迷が同時に進むスタグフレーションに近い。政府はコストプッシュインフレの現状を無視して『デフレからの脱却』を唱え、2年以上続く物価上昇を円安放置策で助長しています。円安に歯止めをかけ、本格的な物価抑制に踏み込まない限り、消費は弱いまま。貯蓄は目減りしていきます。しかし、政府には円安基調を修正する姿勢が見えません。経済理論に照らせば、利上げは景気を冷え込ませますが、逆に景気を上向かせる可能性があるほど、足元の経済状況は異常なのです。病気に例えれば、政府は間違った診断を下し、間違った処方箋を出しているようなものです」

賃上げが物価に跳ね返る可能性
今後の経済の先行きについて、政府の見通しは極めて楽観的である。いわく、「33年ぶりの高水準となった春闘の賃上げや、来月から実施される定額減税等の効果が見込まれるなど、雇用、所得環境が改善する下で緩やかな回復が続くことが期待される」(林官房長官)というのだ。

「賃上げしてもコスト増を吸収できる企業ならまだしも、賃上げが物価に跳ね返ってくる可能性は否めません。定額減税にしても一時的な対処に過ぎず、消費は喚起できないでしょう。政府の期待は甘すぎです。物価だけが上がり続け、実質賃金は目減りして金利による補填すらない。消費者の負担が増えて当然です」(斎藤満氏)

岸田首相は総理就任前から、国会で「成長、所得、消費の好循環を実現する」と繰り返してきたが、一向に好循環は起きない。「増税メガネ」改め、「口先メガネ」じゃないか。