きょうの潮流
 

 日々のニュースから新型コロナウイルスの情報が絶えて久しい。しかし今も感染は収まらず、後遺症に悩む人も少なくありません。未知のウイルスと人類との格闘は、今後も続くでしょう

 

▼人間が自然環境におよぼしてきた負の影響。コロナパンデミックを経験した私たちは、地球の健康、動物の健康、人間の健康を一つのこととして考えなければならない時代を迎えています

 

▼ウイルスの感染拡大は基礎研究の大切さも痛感させました。未知から既知へ。真理の探究や新たな知の発見は科学の発展や人類の未来につながります。ところが日本では無駄と切り捨てられ、経済効率優先の研究がもてはやされています

 

▼ある大学の研究室を舞台にウイルスと闘う女性教授たち。その奮闘ぶりを描いた青年劇場の「深い森のほとりで」が新宿・紀伊国屋ホールで19日まで公演されています。男性優位の格差や雇い止め、稼げる研究をと追い立てられる現状を映しながら

 

▼「基礎研究は方向性が見えにくく結果が出るまで時間がかかり、さまざまな困難も伴う。それでも仲間と力を合わせ、世のため人のためにと頑張っている」。理化学研究所の研究者が上演後の座談会で語っていました。挑戦的な研究に打ち込む環境が失われ「研究力の低下」も問題に。劇は、背景にある国の運営費交付金の削減を告発しています

 

▼戦争や地球温暖化に歯止めがかからず、閉塞感が漂う今、科学の力を手に未来を切り開こうとする人びとの輪。そこに希望がみえてきます。

 


劇団創立60周年・築地小劇場開場100周年 記念

秋田雨雀・土方与志記念
青年劇場 第132回公演

深い森のほとりで


福山啓子=作・演出

美術=乘峯雅寛 照明=河﨑浩 音響=佐久間修一
衣裳=宮岡増枝 演出助手=清原達之 舞台監督=松橋秀幸
宣伝美術=柴崎涼葉 製作=広瀬公乃・郡司望帆 製作助手=佐野菜々子

文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(公演創造活動))
独立行政法人日本芸術文化振興会
「でも私はやめないよ。手をつないでくれる人が世界中にいるから」
目先の利益でなく、人類のいまと未来のために未知のウイルスと格闘する科学者たちの物語

コストカットで研究員の首が切られ、稼げる研究をと追い立てられ、
この国の科学者は、いま世界が直面する課題に向き合うことができるのだろうか…
小さな研究室の一人の女性科学者が、周りを巻き込み、未知のウイルス研究に挑む物語
ひとつながりの未来

福山 啓子


 むかし、私たちは山や、川や、森や、獣を恐れ敬う気持ちを持っていました。人工物に囲まれて暮らす私たちは、そうした気持ちを失ってしまったようです。
今、様々な自然災害やパンデミックに出会うことで、私たちはもう一度人と自然のかかわりを見つめなおす最後のチャンスをもらっているような気がします。
科学の分野においても、自然を切り刻んで消費するのではなく、共存していくこと、人間と人間、人間と自然を一つながりのものとして考えることが始まっています。私たちの未来を守るために、日夜様々な困難を乗り越えながら奮闘している科学者に、この芝居を通じてエールを贈りたいと思います。


(ふくやま けいこ)
東京都出身。1980年入団。文芸演出部所属。
2006年初演の「博士の愛した数式」で脚本・演出を担当、児童福祉文化賞(厚生労働大臣賞)を受賞。他に、「野球部員、舞台に立つ!」「あの夏の絵」(脚本・演出)、「田畑家の行方」(演出)、「梅子とよっちゃん」「つながりのレシピ」「囲まれた文殊さん」(脚本)。
「つながりのレシピ」は2020年11月に韓国の仁川市立劇団によって、翻訳上演された。