これも通貨安を止められないほど異次元の量的緩和を続けたアベノミクスの結果だ!

 

 

円安による物価高の影響は、物価の優等生もやしにまで及んでいる。コスト高に喘ぐ生産者を取材した。

 

■「物価の優等生」もやしの今 コスト増で生産者にしわ寄せ

「もやしは、前は安かったけどね、今は高いね。前は10円くらいで買えたけれど」
「もやしはちょっと高いかな。7円とか8円くらい高いんじゃないか」

東京・足立区の生鮮スーパー「さんよう」では一般的な緑豆もやしを税込49円で販売している。このスーパーではもやしは客寄せの目玉商品として、以前は10円で販売することもあった。ところが、仕入れ値が3割上昇してからは、セール品として使いづらくなったという。

スーパーさんよう 新妻洋三社長:
特売とかでは、いわゆる“腹切り商品”に使えるのがもやし。100円のものを半額で50円だと、1人あたり50円の損。もやしならせいぜい20円ぐらいの損で済む。

仕入れ値に見合った適正価格は70円ということだが…

スーパーさんよう 新妻洋三社長:
お客さんはやっぱり買いやすいのが50円ぐらい。1円でも安いと「あそこはもやしが一番安いよ」となる。58円でも48円でも、その中ではやっぱり競争だから、一番安くなくちゃいけない。

値段が店選びのバロメーターになっているもやしは、価格転嫁が難しい商品だ。

茨城県小美玉市の生産現場を訪ねると…

もやしはこの真っ暗な工場で作られていた。原料の緑豆に大量の水を与え、温度を調節して発芽させると、わずか10日ほどで出荷することができる。こちらの工場は自動化されていて、1日40トン、約20万パックのもやしを生産している。

旭物産 小美玉工場 小薗江則継副工場長:
天候にも左右されずに安定した供給ができる。

ただ、生産者の頭を悩ませているのが、原料価格の高騰だ。
緑豆はほぼ全て中国からの輸入で、その価格は1995年と比べると4倍以上に上がっている。一方で、もやしの小売販売価格は足元では上がってきているものの、下落傾向が続いている。さらに円安に加え、光熱費や物流費、人件費も重くのしかかる。

 

もやしを生産する旭物産の会長で、もやし生産者協会の理事長を務める林正二氏に窮状を聞いた。

工業組合もやし生産者協会 林正二理事長:
本当に我々もやし生産者にとって、危機的な状態というのが今の状況。以前に比べて下がってるコストは一切ない。もう全て上がっている。採算的に大変厳しくなって、もう続けていけないと、廃業する業者が立て続けにずっと出ている。そういう実態でもやしが安く売られていることを理解して、もう少し値段が上がっても、消費者の皆様にもやしをもっと買って欲しい。

消費の低迷が続いている。2024年3月の家計調査によると、2人以上の世帯が消費に使った金額は31万8713円で、物価変動を除く実質で前の年より1.2%減少し、13か月連続のマイナスとなった。

■政府日銀 円安対応に苦慮 「無視→注視」に軌道修正!?

今週もじりじりと円安が進行するなか…

鈴木俊一財務大臣:
必要があれば、適切な対応を堂々と取っていきたい。

と、鈴木財務大臣が発言。経済界からは日本商工会議所の小林会頭からこんな意見も…。

日本商工会議所 小林健会頭:
堂々と通貨操作をやればいいのであって、国の通貨はどうあるべきかということをもう一度よく考えようよと。

4月26日、金融政策決定会合後の会見で「基調的な物価上昇率への影響は無視できる範囲だったという認識か?」という質問に対して、「はい」と答えた日銀・植田総裁。この発言が円安を容認したと受け取られた植田総裁は、5月7日以降、軌道修正を迫られた。

日銀 植田和男総裁:
為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっているという面、あるいはリスクがあるということは意識しておくべき。最近の円安の動きを十分注視していくところ。

「円安無視」から「円安注視」へ。政府日銀の次の一手が注目される。

■円安で物価上振れも… 遠のく実質所得プラス

(もやしの)原料の豆が中国からということで、これも円安の影響を受けている。円安がとにかく進んでいて、介入とアメリカの雇用統計で151円まで戻したかと思ったら、じりじり155円までまた押し返されるという展開。なかなか是正されない。

 

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
やはりアメリカ経済が強い。賃金上昇率も非常に強いし、労働生産性をはるかに上回っているので賃金が物価を押し上げる、好循環すぎる、アメリカが強すぎるということが背景にある。

――円高には戻りにくい構造なのか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
アメリカは利下げにすごく慎重だろうし、年内3回の想定が、2回ということもあり得ると思う。そのぐらいアメリカの経済が強いということが背景にある。

――アメリカが原因とはいえ、長期的に見ると2022年の年初は110円台だった。そこから一旦150円ぐらいまできて、押し返してまたということで、110円台から150円台となると物価への影響が相当あるのか?

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
これほど円安・通貨安になった国は世界ではない。今ここまで円安が進んでなければ、輸入物価はもっと下がっていて、日本のインフレ率ももっと下がってたはず。

エネルギー価格が下がっている分、抑えられているが、円安がある分高い輸入物価になっている。円安の影響は否定できない。

物価の高止まりで実質賃金がマイナス続き。厚労省が発表した毎月勤労統計によると3月の名目賃金は0.6%増えた一方で、実質賃金はマイナス2.5%となり、過去最長となる24か月連続の減少となっている。

――この統計は1991年頃から比較可能だが、2022年から24か月、2年にわたって実質賃金のマイナスが続いているのは、100年に一度の危機といわれたリーマン・ショック時よりも長い。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
名目賃金が多少改善はしているが、やはりインフレに追いついてないということから、家計から見ると、かなり生活が苦しくなっている感覚は多いと思う。

――だから、もやしも10円でも安くないと買いたくないと。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
やはり食料インフレ率。食料の物価がインフレの半分を占めているから、家計から見ると毎日買う食料の値段が高騰してるので、統計データよりも遥かにインフレになっているという感覚があると思う。

 

――今、「経済の好循環」といわれているが、それは「実質賃金」がプラスになってこないと消費者の消費も拡大しないと全体としての需要も増えないわけだから、なかなか好循環にはならない?

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
賃金と物価の好循環は、正直データからはまだ確認できていないと思う。当然実質賃金がプラスになって、それから人々の感覚として、賃金が毎年上がっているし、これからも上がっていくという感覚が大事なので、一時的に実質賃金はプラスになってもそれだけでは生活が豊かになって消費しようという感じにはならないと思う。

――実質賃金プラスを目指そうとなっているが、1回なっただけではやはり駄目か?

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
はい、そうです。

(BS-TBS『Bizスクエア』 5月11日放送より)

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<プロフィール>
白井さゆり
慶応義塾大学 総合政策学部教授
2011~16年まで日銀審議委員
専門分野は国際金融や日本経済など