「歴史がくれた試練だと思い、したたかに、しなやかに、へこたれず、連帯を広げたい」

 

 

 追悼碑はなくなっても過去の歴史は消せない――。太平洋戦争下で労務動員されて犠牲になった朝鮮半島の人々を悼む集会が11日、前橋市内で開かれた。20回の節目の集会だったが、朝鮮人追悼碑は県立公園「群馬の森」から撤去されてしまい、碑に心を寄せる参加者は「いつか再建を」と誓った。一方、碑を所有していた市民団体「記憶 反省 そして友好」の追悼碑を守る会はこの日、解散した。

 追悼集会は、守る会が主催した。碑が建てられた2004年から続き、20回目。守る会の役員や朝鮮総連県本部の幹部らがあいさつした。

 会場には、代執行の工事のときに県から引き渡してもらった、碑のいわれを伝える碑文や「記憶 反省 そして友好」と刻んだプレートが並べられ、約200人が献花した。

 守る会の共同代表の宮川邦雄さんは、「知事の暴挙で碑は撤去されたが、強制労働で命を落とした方々を追悼し、平和にむけて努力していくと誓う」と述べた。

 集会後の総会では、碑がなくなってしまったことから、会の解散が報告された。ただ、将来的に追悼碑を再建することや新しい団体を立ち上げることなど運動の方向性は示された。

 代執行の費用として県から請求された総額2062万円について、会は「財源もなく支払い能力もない」とする文書をまとめ、会の解散とあわせて県に伝えるという。

 活動を支援してきた玉村町の石川真男町長は「歴史がくれた試練だと思い、したたかに、しなやかに、へこたれず、連帯を広げたい」と話した。

 守る会と同時に、追悼碑裁判を支える会も解散。弁護団の事務局長、下山順弁護士は10年近くに及ぶ県との裁判の経緯を報告。「撤去によって傷つけられたのは、強制連行の末、群馬で亡くなった人たちの尊厳。日朝日韓の友好に努力してきた思いをふみにじるもの」と話した。

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 県立公園「群馬の森」の追悼碑跡地ではこの日、現実の風景に画像を重ね合わせるAR(拡張現実)の技術を活用したアプリをつかって、碑をバーチャルで再現する試みがあった。アプリをつくった情報科学芸術大学院大学(岐阜県)の前林明次教授が、タブレット端末をかざし、碑が浮かびあがる様子をみせた。

 「次につながる可能性がある。元気になりました」と語るのは、山梨県の大学4年、高橋夏未さん(22)。以前、追悼碑を見たことがあり、撤去が気になっていた。バーチャル上の碑でも、「新しい技術をつかえば別の形で再現できる。そのためにも記録やデータを残すことが大事」。栃木県足利市の田沼愛珠さん(22)は「どんな雰囲気の場所に碑があったか、知りたかった」と話した。

 在日中国人2世の林伯耀さん(85)も神戸市から駆けつけ、「朝鮮人や中国人に対する過去の歴史を、いまの日本の権力者が一生懸命に消そうとしている。許せない」。

 アプリは「AR朝鮮人追悼碑」と名づけられ、iPhoneやiPadで無料でダウンロードできる。(高木智子)

 

 

本体撤去248万円、関連工事と警備1813万円 朝鮮人追悼碑

 
 群馬県立公園「群馬の森」にあった朝鮮人追悼碑をめぐり、県が代執行で撤去した費用として市民団体に請求した2062万円の内訳がわかった。碑本体の撤去費が248万円、立ち入り防止のフェンスや目隠し用のシートの設置など関連工事が計1234万円、警備委託費が579万円だった。

 朝日新聞が情報公開請求し、県が開示した。

 関連工事費1234万円のうち1121万円は、立ち入り防止用のフェンスや柵、中が見えないようにするシートをはりめぐらせる対策にかかっていた。「撤去作業と住民の安全確保のため。囲わないと、いろいろな人が関心をもち、中に入る可能性があった」(県担当課)という。警備は24時間態勢で579万円、延べ約75人が従事した。県は「直接関連があり、必要または有益な費用」として、関連工事費と警備費も代執行費用に位置づけた。