「人間の自由」と社会主義・共産主義――『資本論』を導きに

学生オンラインゼミ 志位議長の講演(1)

序論――資本主義はほんとうに「人間の自由」を保障しているか?

 
政党は科学的見地に立って活動しなければならない。この論文読んで「凄いな」私の固い頭では一回では吸収しきれない高度なもの。若者にはスポンジの如くスイスイ入っていくのであろう。大事な視点と詳細に語っている志位和夫さん。
 
 
 
 民青同盟主催の学生オンラインゼミが4月27日、日本共産党の志位和夫議長を講師に迎えて行われました。民青同盟の中山歩美副委員長が司会を務め、社会主義・共産主義についての学生からの疑問や同盟内の学びのなかで出された疑問を民青同盟としてまとめたものを示して問いかけ、志位議長がそれに答えて講演する企画です。講演での質疑応答などを5回に分けて掲載します。
 
 中山 今日のメインスピーカーは、日本共産党議長の志位和夫さんです。よろしくお願いします。

 志位 日本共産党の志位和夫です。今日は楽しんで話したいと思いますので、楽しんでお聞きください。最後までよろしくお願いします。

 中山 今日は、ずばり社会主義・共産主義について志位さんに語っていただきます。社会主義・共産主義については、学生や青年との対話のなかで、また民青に入って学ぶなかで、たくさんの「なぜ」「もっと知りたい」ということが出される分野です。きょうは活動のなかで出会ってきた声、学びのなかで出てきた声を集めて、民青としてまとめた質問を志位さんにぶつけていきます。全部で35の質問に答えていただきます。企画の最後にメールでの質問に答えていただくコーナーがあります。それではさっそく質問に入っていきたいと思います。


Q1「社会主義・共産主義」のイメージが変わるお話になるということですが?
「人間の自由」をキーワードにして
 中山 今日は、社会主義・共産主義というものについて、イメージが変わるお話をしていただけるということを聞きました。

 志位 はい。みなさんのイメージが一変するような話になれば、と思って準備をしました。

 いま世界でも日本でも、資本主義というシステムのもとで、貧富の格差がひどくなり、気候危機が深刻になるなど、いろいろな矛盾が噴き出し、「資本主義というシステムをこのまま続けていいのか」という議論が起こっています。一方、崩壊してしまった旧ソ連や中国の現状をみて、「社会主義には自由がない」というイメージもあるのではないでしょうか。

 中山 そうですね。寄せられますね。

 志位 そこで、今日のゼミは「『人間の自由』と社会主義・共産主義――『資本論』を導きに」をテーマにしてお話をしたいと思います。キーワードは「人間の自由」。このキーワードを軸にして社会主義・共産主義について、みなさんと一緒にトコトン考えてみたいと思います。

 中山 キーワードは「人間の自由」ですね。

 志位 はい。ここにこだわって、いろいろな角度からお話をしていきます。

Q2「資本主義」や「社会主義・共産主義」とは経済の話なのですか?
経済のあり方を土台に社会をつかむ
 中山 「資本主義」や「社会主義・共産主義」という言葉はよく聞くのですが、これは経済の話なのでしょうか。「民主主義」や「全体主義」とはどう違うのですか。はじめて学ぶ人も多いのでまず整理をしてほしいです。

 志位 「資本主義」にしても、「社会主義・共産主義」にしても、今日は経済のあり方を土台にしてお話ししたいと思います。

 科学的社会主義の礎をつくったカール・マルクス(1818~83)と、その盟友のフリードリヒ・エンゲルス(1820~95)は、人間社会の土台は、衣・食・住など人間の経済活動にあるという社会の捉え方をしました。社会が、衣・食・住など、人間の生活に必要なモノやサービスの生産をどのようにして行うか、そのなかで人間が互いにどういう関係を結ぶか、それが社会と歴史の発展の「土台」にあると捉えたのです。

 その「土台」のうえに、マルクスは「上部構造」と呼んだのですけれども、政治、法律、思想、宗教など、人間のいろいろな意識の形態がある。「土台」と「上部構造」はお互いに作用しあいながら、最終的には「土台」が社会の発展のあり方を決めていく。こういう社会の捉え方を私たちは「史的唯物論」と言っていますが、マルクスは、こうした社会観を発見したんです。

 人間社会を経済のあり方を土台にしてつかんでいくというのは、いまでは常識になっている考え方だと思います。どんな教科書を読んでも、人類の歴史を、奴隷制、封建制、資本主義と叙述しているでしょう。これは根本では経済のあり方を言っています。

 中山 経済で区分している。

 志位 そうです。今日のお話も、まずは経済のあり方を土台にして話していきたいと思います。「民主主義」や「全体主義」というのは、政治の形態の問題です。これは別の話になるのですけれど、経済のあり方とも深くかかわってきますから、そこも視野に入れて今日はお話ししたいと思います。

 中山 なるほど。私たちが過ごしている資本主義という経済体制から、あらためて資本主義と社会主義を考えていこうということですね。とても楽しみです。

Q3そもそも資本主義はほんとうに自由が保障された社会なのでしょうか?
自由の拡大とともに、自由を阻む害悪が
 中山 「社会主義・共産主義」の話に入る前に、私たちが生きている資本主義の現状についてお聞きしたいと思います。民青のなかで議論していたら、そもそも「資本主義はほんとうに自由が保障された社会なのか」「実は不自由じゃないの」ということが話題になります。

 志位 「資本主義はほんとうに『人間の自由』を保障しているのか」「実は不自由ではないのか」。この問いは、とっても大切だと思います。よく考えてみますと、若いみなさんにとって、いまの社会は、一人ひとりがのびのびと「自由」に生きることのできる社会とは程遠いなと思い当たることがたくさんあると、私は思うんですよ。

 たしかに資本主義のもとで、「人間の自由」が大きく拡大したことは事実です。高校の世界史でも勉強したと思いますが、1776年、アメリカがイギリスから独立したさいに「独立宣言」が発せられます。つづいて1789年、フランス大革命のさいに「人権宣言」が発せられます。これらの宣言で、自由、平等、民主主義、人権が、高らかにうたわれました。いろいろなジグザグはありますけれども、その後の世界の民衆の運動によって、「人間の自由」が大きく拡大してきたことは、まぎれもない事実です。

 ただ同時にいま、資本主義というシステムのもとで「人間の自由」を阻むいろいろな害悪が生まれ、拡大しつつあることもまた事実だと思います。今日はその害悪について、貧困と格差の拡大、深刻化の一途をたどる気候危機――二つの大問題で考えていきたいと思います。

Q4貧富の格差の拡大はどこまできているのでしょうか?
50億人の犠牲のうえに超富裕層が空前の繁栄を謳歌
 中山 どちらも若者がとても関心があるテーマだと思います。さっそく一つ目について聞きたいんですが、貧富の格差の拡大がいま、いろいろなところで話題になります。これはいったいどこまできているんでしょうか?
 
 
 志位 ものすごいことになっています。世界の格差拡大の実態を熱心に告発している国際NGOで「オックスファム」という団体が、今年(24年)1月に「不平等会社」と題する「報告書」を出しました。パネルをご覧ください。(パネル1)

 これは、「オックスファム」の「報告書」から転載させていただいたものですが、この間、超富裕層が空前の富を手にして、貧困層はますます貧しくなったことを次のように告発しています。

 「世界で最も裕福な5人の男の資産は、2020年以降、2倍以上になった。一方、世界の半分以上の約50億人はますます貧しくなった」

 「最も裕福な5人の資産は、2020年の4050億ドル(約59兆円)から、2023年には8690億ドル(約126兆円)に、114%も増えた」

 126兆円といってもまったくピンときませんよね。

 中山 日本の国家予算より大きいですね。
 
 
 志位 そうですね。「オックスファム」の「報告書」は、「最も裕福な5人がそれぞれ毎日100万ドル(約1億5000万円)を使ったとすると、彼らの総資産を使い果たすまでに476年かかる」と言っています。

 「報告書」は、「もうひとつの大きな勝者はグローバル企業」だと告発しています。2021~22年の世界の大企業の利益は、17~20年の平均に比べて、およそ3年で89%も増えたとあります。そして、このグローバル大企業の利益増の最大の恩恵にあずかったのは、超富裕層です。次のパネルを見てください(パネル2)。こう書いてあります。

 「世界の最も大きい10の企業のうち、7社には億万長者のCEOか億万長者が主要株主として名を連ねている。これらの企業の総資産は10兆2000億ドルである」

 巨大企業の利益増が、億万長者をますます富裕にしている、という告発です。

 これは2020年代に起こったことなのです。2020年代といったら、「世界的な(新型コロナ)パンデミック、戦争、生活費の危機、気候崩壊」(「報告書」)など、世界でも日本でも、多くの人々がかつてない困難な生活を強いられている時期です。そのときに、超富裕層とグローバル大企業は空前の繁栄を謳歌(おうか)している。

 「オックスファム」の「報告書」では、そのことが、労働者の賃金の押し下げ、とりわけ女性に低賃金と不安定雇用を押し付けていると告発しています。「オックスファム」は、多くの女性や少女が無償のケア労働を強いられていることを強く告発しています。

 これが資本主義世界の現実です。個々人がいくら努力しても、この現実からのがれられないじゃないですか。これが「人間の自由」が保障されている社会といえるか。社会の大きな変革が求められているのではないでしょうか。これが一つの大問題です。

 中山 資本家と労働者という対立はもう古いんじゃないかといわれることもあるんですが、現実にこういった資本家は存在するんですね。

 志位 そうです。まさに巨大資本家は存在している。生きた形で。

Q5気候危機がとても不安です。危機はどこまできているのでしょうか?
ティッピング・ポイント――制御不能な変化に陥る危険性
 中山 もう一つの問題――気候危機がとても不安です。日本でも猛暑、大型台風、農業被害など、いろいろな問題が起こっています。危機はいったいどこまで来ているのでしょうか?

 志位 昨年、2023年は観測史上で最も熱い年になりました。世界気象機関(WMO)は、今年(24年)1月、23年の世界の平均気温は、産業革命前に比べて1・45度上昇したと発表しました。気候変動抑制に関する国際的協定――「パリ協定」(2015年)では1・5度未満に抑えることを「目指す」と取り決めています。すでにその寸前まできているのです。

 科学者たちが一番警戒していることの一つは、気温上昇がある一点――ティッピング・ポイント(転換点)を超えますと、地球全体の環境が急激に、かつ大規模に、不可逆的な変化におちいり、人間の力ではコントロールできなくなってしまうことです。

 ティッピング・ポイントについては、『サイエンス』という科学雑誌が「1・5度を超える温暖化は多数のティッピング・ポイントの引き金になりうる」(2022年9月9日号)と題する論文を発表しています。ティッピング・ポイントの引き金になる可能性がある現象として、地球規模の重要な現象と地域規模の重要な現象を、あわせて16あげて、それぞれがティッピング・ポイントに達する気温上昇の値を明らかにしています。パネルをご覧ください。(パネル3)
 
 
 これは16の現象のうち、ティッピング・ポイントを超える危険が差し迫っている四つの現象――「グリーンランド氷床融解」、「西部南極氷床融解」、「低緯度のサンゴ礁消滅」、「北方永久凍土の急速融解」を図にしたものです。どれも、現在の1・45度という気温上昇は、ティッピング・ポイントの「可能性」がある0・8度から1・0度を超えてしまっています。「可能性が高い」とされる1・5度に近づいています。これらの現象は、非常に危険な状態に陥っているといわれています。

 しかも恐ろしいことがもう一つあって、元環境学会会長の和田武さん(自然エネルギ―市民の会代表)がおっしゃっているんですが、こういう現象は、一つが起こったらほかの現象に、ドミノ倒しのように連鎖する可能性があるというのです。

 たとえば、グリーンランドの氷床融解はすごい勢いで加速しています。このプロセスが進むとどうなるか。大量の淡水――塩分を含んだ海水より軽い水が海に流れこみます。そうすると地球の海洋全体の大循環に影響を与えて、最終的に循環が止まってしまう可能性がある。そうなると、地球規模の気候の大転換を引き起こしかねないという。

 それから、北方永久凍土の急速融解――ロシア、カナダ、アラスカなどの北方凍土の融解が最近、勢いを増していて、その結果、メタンガスが大量に噴き出し始めている。メタンガスは二酸化炭素に比べて約20倍もの温室効果があります。大気中のメタンガスの濃度が急増したら、温暖化が加速するわけです。
 
 
 さらに、ここでパネルをご覧ください(パネル4)。低緯度のサンゴ礁消滅という問題です。世界中の海水温の上昇によって、サンゴの白化と衰退が進行している。気温が2度上昇するとほぼ絶滅すると予測されています。サンゴというのは海水にとけた二酸化炭素を吸い込んで炭酸カルシウムとして固定化する働きをしています。その働きが弱まってしまったら、大気中の二酸化炭素濃度がさらに上昇することになります。

 そういう具合に、一つの現象で、ティッピング・ポイントを超えると、次々と負の連鎖が始まっていくことになる。最低限でも1・5度の上昇で止めないと、地球環境の悪化が加速度的に進んで、負の連鎖が始まって、ドミノ倒しのように制御不能な取り返しのつかない事態に陥る。人類はその一歩手前まできているのです。

 これはすべてが、資本主義が引き起こした社会的大災害です。人類の生存という、根本的な「人間の自由」にかかわる問題が深刻に脅かされているのです。私たちは、これは、資本主義の枠内でも最大の知恵と力を総結集して緊急の対応を行うことを強く求めてたたかっていきますが、同時に資本主義というシステムを続けていいのかということが、気候危機では問われていると思うんです。

 中山 そうですね。とくにここに集まっている青年にとっては何十年も生きる人生の中でこんなことが起きたら死活問題だと思います。

 志位 本当にそうだと思います。若い人たちにとっては、文字通り未来を奪われてしまうということになります。

Q6社会主義への新しい注目と期待を感じます。世界ではどうでしょうか?
ヨーロッパの中央部でも「社会主義の復権」というべき流れが
 中山 二つの問題について話していただいたんですが、民青が若者と対話をするなかで、社会主義について、「自由がないのでは」という声とともに、「社会主義に期待してみたい」「社会主義を学んでみたい」という若者が増えているんです。実はこの会場でも、たくさんの学生が、チラシとか立て看板をみて応募し、参加してくれたんです(志位「そうなんですか」)。そうなんです。そして、この問題がきっかけで民青に新しく入ってくれた仲間も広がっています。社会主義への新しい注目や期待を感じるんですが、世界ではどうなっているんでしょうか。

 志位 うれしいことです。資本主義の矛盾があまりにひどいなかで、世界でもいろいろな新しい変化が起こっています。2022年の秋に、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアの4カ国を対象にして行われた世論調査では、「社会主義は理想的な経済体制か」という設問に対し、四つの国のすべてで「同意する」が「不同意」を上回りました。

 中山 逆転しているんですね。

 志位 逆転している。最近のうれしいニュースを、みなさんに紹介したいと思います。オーストリア共産党の躍進が、この間起こって、世界的な注目を集めているんです。オーストリア共産党は、2021年9月、オーストリア第2の都市・グラーツの市議会議員選挙で29%を獲得して市議会第1党となり、市長の座を獲得しました。つづいて、今年(24年)の3月、音楽の都・ザルツブルク――モーツァルトが生まれた都市で、私はモーツァルトが大好きで、一回ザルツブルク音楽祭に行ってみたいと思っているんですが――、ザルツブルクの市議会議員選挙で23%を獲得して、第2党となり、市長の決選投票では35歳の共産党員候補が37・5%を獲得し、副市長に選ばれました。

 ザルツブルクでは、現政権による不動産投機の優遇政策のもとで、オーストリアの中で最も家賃が高い。他の都市に人口が流れていってしまう事態も起こっているもとで、オーストリア共産党が、「住まいは人権」を一貫して訴えてきたことが躍進につながったということです。

 2022年11月、日本共産党の緒方靖夫副委員長を団長とする代表団が、欧州各国を歴訪したさいに、オーストリアも訪問し、オーストリア共産党の幹部と突っ込んだ懇談をして、交流を強化していこうということで一致しました。そこでお話を聞きますと、ずいぶんいろいろな努力をしている。一つ目に、オーストリア共産党は、過去に、ソ連追随の姿勢をとったことで国民の支持を失ってしまったという歴史があるのですが、その誤りを克服して自主独立の路線を確立した。二つ目に、党の組織のあり方として、民主と集中という考え方を堅持して、みんなで団結して頑張る党として前進している。三つ目に、オーストリアでもずいぶん反共攻撃が厳しいのですが、そういうなかでも「共産党」という党名は変えない。これを堅持して、共産党だからこそ、未来社会への見通しを持ちながら働く人の利益を守れるんだという観点を前面に押し出しているとのことでした。
 
 
 同時に、ここでパネルを見てください(パネル5)。躍進の根底には、社会主義への期待の広がりがあるのではないか。これはギャラップ社によるオーストリアの調査ですが、社会主義に対して「肯定的」という数字が合わせて63%です。一方、資本主義に対して、「否定的」と答えた数が55%です。社会主義の方がいいという世論の流れが起こっていることも、共産党の躍進の根底にあるのではないか。

 ザルツブルクで新副市長への就任が決まったダンクルさんが、「しんぶん赤旗」のインタビューに答えてこう言っています。

 「利益優先の資本主義が住宅問題によく表れています」、「生活の要である住宅を市場競争に置いてはなりません。資本主義は明白に破綻しています。共産党への支持の広がりは、不当に利益を追求しない、オルタナティブな経済社会を求める声が大きくなっていることの表れだと思います」

 「社会主義の世界的復権」というべき流れがヨーロッパの中央部でも起こっています。日本も負けられないというつもりで頑張りたいと思います。

 中山 このオンラインゼミにもこんなに応募があったことに私も驚いていて、なぜだろうと思っていたんですけれども、世界の流れとも通じるところがあるかもしれないなと思いました。

Q7「『資本論』を導きに」が副題ですが、どういうことでしょうか?
資本主義の科学的研究とともに、未来社会論が豊かに語られた書
 中山 今日の講演では、「『資本論』を導きに」が副題になっているんですけれども、これはどういうことでしょうか。

 志位 カール・マルクス畢生(ひっせい)の書――『資本論』というのはどんな本か。今日は、新版『資本論』(12冊、2019~21年、新日本出版社)、『資本論草稿集』(9冊、1981~94年、大月書店)、不破哲三さんの『「資本論」全三部を読む 新版』(7冊、2021~22年、新日本出版社)を持ってきました。今日は、これらをもとに、いろいろなお話をしていきたいと思います。

 まず『資本論』というのはどういう本かといいますと、その名が示すように、資本主義という経済システムの徹底的な科学的研究を行った本です。そもそも「資本主義」という言葉は、マルクスが初めて使ったものなんですよ。

 中山 今では普通に使っていますね。

 志位 そうですね。「資本主義」という言葉は、1861~63年に書かれたマルクスの『資本論草稿』のなかに初めて出てきます。マルクスがこの用語を、初めて公式に使ったのは、1865年に行った労働者向けの演説――のちに『賃金、価格および利潤』という標題の冊子としてまとめられた演説のなかででした。「資本主義」という言葉の生みの親はマルクスなんですね。岸田首相は「新しい資本主義」などと言っていますが、生みの親のことを知って使っているのかどうか。

 同時に、強調したいのは、マルクスの『資本論』での研究方法というのは、資本主義というシステムを永久に続くサイクルのようにみなして、その一断面を切り取って研究するというものではないんです。資本主義を、人類の社会の発展の一段階ととらえて、この社会が次の発展段階――社会主義・共産主義に交代する必然性をもっていることを、科学的に明らかにした。ここに「資本論」の一番の真髄があるんです。

 ですから『資本論』のなかには、社会主義・共産主義とはどういう社会かについてのマルクスの見解が、さまざまな形で豊かに語られています。それは『資本論』の第1巻・第1章「商品」でもう出てくる。さまざまなところで未来社会論が語られ、第3巻・第48章「三位一体的定式」のなかでまとまった形で展開される。そういう具合に、『資本論』の全体に未来社会の叙述があるんです。今日の講演で、「『資本論』を導きに」、社会主義・共産主義を考えようと言っているのは、そういう人類史の未来を展望したすてきな魅力がつまった書物だからです。

 今日は、『資本論』の内容などを紹介しながら進めますけども、『資本論』の原文そのものは初めての方には難しいこともあります。私が読んでいても、どうしてこんなに難しい言葉と言い回しを使うのかなと思うようなところもあるんです。ですから、今日の講義での紹介は、私なりに“マルクスはだいたいこう言っている”という平易な言葉に置き換えてお話しすることをお許し願いたいと思います。いわば“志位和夫版意訳”で話しますが、今日の話をきっかけに『資本論』そのものの学習に進んでくれたら、こんなにうれしいことはありません。

Q8「人間の自由」と未来社会について、日本共産党大会で解明がされました
21世紀の日本共産党の“自由宣言”を明らかに
 
 
 中山 「人間の自由」と社会主義・共産主義について、日本共産党が今年(24年)1月に行った第29回党大会決議で突っ込んで新しい解明がありました。

 志位 私たちは、今度の大会決議での未来社会の解明について、「21世紀の日本共産党の“自由宣言”」と呼んでいます。

 私たちの目指す社会主義・共産主義の社会というのは、「人間の自由」があらゆる意味で豊かに保障され、開花する社会になる。「人間の自由」こそ社会主義・共産主義の目的であって、最大の特質だということを、三つの角度から明らかにしました。パネルをご覧ください。(パネル6)

21世紀の日本共産党の“自由宣言”

第一の角度――「利潤第一主義」からの自由

第二の角度――人間の自由で全面的な発展

第三の角度――発達した資本主義国の巨大な可能性

 ここから先が今日のお話の本論になります。一つひとつについてお話をしていきたいと思います。