「憲法学で重要事項法理というものがある。国民全体の利害に関わる国政上の重要問題については、必ず国民を代表する国会での慎重な審議を経て、その上で国会での決定を待たなくてはいけないという考え方。最後は多数決で決まるんだから同じではないかと考える人もいるかもしれないが、国会の審議は相手の背中の向こう側にいる国民に語りかけている。国民の皆さんが納得いくような説明ができるかどうかが問われるわけで、決してないがしろにしていい話ではない」

4月の日米首脳会談では、中国を念頭に自衛隊とアメリカ軍のさらなる一体化、指揮統制の連携強化も明らかになった。

長谷部教授
「憲法のどこをどう読んでみても、国際秩序を守るために他国と共同して、場合によっては他国の軍隊指揮系統下に入って、ともに武力を行使するという結論が出てくる余地は到底あり得ないと思います。そういう意味で、もう一度憲法を読み直していただきたい」

 

報道特集 
沖縄県与那国町長
⇒国家存亡の危機に瀕しては超法規的措置を取ってでも…一戦を交える覚悟が今問われている。

超法規的措置と最初から憲法を守るつもりなく、大日本帝国バンザイなのだろう。歴史を学ばない者は、あやまちの歴史を繰り返す。

 

 

 

 

日本の安全保障政策が、大きな分岐点を迎えています。政府は南西諸島に次々と基地を建設し、防衛体制の強化を図っています。一方、南シナ海では海洋進出を加速させる中国とフィリピンが激しく対立しています。激変する安全保障最前線を取材しました。

“宝の島”全面基地化で激変する生活…漁船は工事関係者の海上タクシーに

 

 

鹿児島県、東シナ海に浮かぶ馬毛島。周囲16.5キロ。巨大な自衛隊基地建設が進み、総工費は1兆円を超えるとみられる。

種子島を出航し、馬毛島まではわずか12キロ。30分ほどで到着する。

村瀬健介キャスター
「(種子島から)出航してすぐに、私たちの前方に馬毛島が見えてきました。種子島からすぐ近くに馬毛島があるという距離感が分かるかと思います」

海上には基地建設に関わる工事関係の船舶が連なっていた。護衛艦のふ頭となる予定地では、ゴールデンウイークにも関わらず、土砂を掻き出す工事が行われていた。

村瀬キャスター
「馬毛島の目の前まで来ました。すでに桟橋も出来上がっていて、大きな船が接岸しています。クレーン車もたくさん並んでいて、活発に工事が進められているのが分かります。まさに自衛隊の基地建設の現場になっている場所です」

上空からは、仮設桟橋が海へ向けて2本伸びているのが確認できる。陸上は表面が削られて土があらわに。

滑走路の造成工事が着々と進み、島の北部には黒い柱の大きな建物も作られている。中央部には工事関係者の宿泊施設が10棟以上立ち並ぶ。

着工前に撮影された映像と比較すると1年4か月の変化がわかる。

自衛隊の基地に作られた2本の滑走路では、アメリカ軍も空母艦載機の陸上離着陸訓練を行う計画だ。

訓練は年間最大20日間程度としているが、日中から深夜にかけても行われる。そして、自衛隊もF-35戦闘機や迎撃ミサイル「PAC3」の訓練を予定している。

かつて馬毛島に暮らした漁師の山下六男さん。島はトビウオやイセエビが豊富で「宝の島」とも呼ばれていた。

 

元馬毛島島民・漁師 山下六男さん
「結構楽しかったですな。私なんかの頃はもう魚がいっぱい獲れたから、馬毛島は」

島で民間企業による乱開発が始まったのは1970年代。島民は主に種子島に移住し、馬毛島は無人島となった。

山下さん
「もうよかったやんか、もう行こうか種子島って。1人1人、皆さん誰が行く、(立ち退き代)なんぼもらってここに来たか、誰も知っとる人はいません。言う人はいないの」

そして、日米両政府は島を離着陸訓練の“候補地”に選定する。2019年、国は地権者から160億円で土地を買い取ることを決め、島の99%を管理下に置いた。

軍事基地化は周辺の島々にまで影響を及ぼす。

隣の世界自然遺産の島・屋久島では、2023年11月、馬毛島から40キロほど離れた屋久島の沖で、嘉手納基地に向かっていたオスプレイが墜落する事故が起きた。アメリカ軍の乗員8人が死亡した。

オスプレイ墜落事故目撃者
「左側のエンジンから火を噴いて、一瞬まっすぐ自分の家に来るような雰囲気なんですね。ちょっとびっくりして家の中で立ち上がった瞬間に、すぐにぽっとひっくり返って落ちていったんですよ」

この事故により、2023年11月、屋久島空港には捜索に関わる人などを乗せた米軍機が、離着陸を繰り返した。その回数は過去最高の72回に上った。

屋久島を守る会 元代表 兵頭昌明さん
「馬毛島で訓練をして飛び上がった、降りようと思ったら風向きが変わった。じゃあどこに降りるかって、一番近いところ屋久島空港ですから、これはある意味、馬毛島の軍事基地と一体のものだというふうに考えてます」

そして、馬毛島の対岸にあるロケットの打ち上げで有名な種子島には、たくさんの基地工事関係者が訪れ、島の様相を一変させた。午前6時半、種子島の港には建設作業員をのせる漁船の姿が。

村瀬キャスター
「漁船が海上タクシーとなって、基地建設の現場、馬毛島まで向かいます」

漁師たちの多くは漁をやめ、漁船は海上タクシーに変わった。2000人近い工事関係者を馬毛島まで運ぶためだ。漁協の組合員が輸送を担当。経費を差し引き、10日で60万円ほどの収入になるという。馬毛島の島民だった山下さんの姿もあった。

 

山下さん
「馬毛の仕事に行ってから漁に行くということはできません。もう魚獲りに行っても赤字。温暖化になって魚いません。(海上タクシーは)安定しているからな、我々みたいなこんな船を持ってる人はほとんど80%馬毛の工事携わってるからな、仕事にな」

政府は2023年、種子島漁協に対し、22億円の補償金と引き換えに漁業権の一部放棄を要求。漁協側は政府案をのんだ。

番組が入手した漁業補償金の配分案には、漁師の水揚げ高の実績などに合わせて80万円から3000万円が支払われると記されている。

基地計画に反対してきた漁師の濱田純男さんは…

漁師 濱田純男さん
「お金が動き始めたら、もうね、みんな変わってしまって。そして、その22億のお金が提示されてからは、私なんかの方を向く人がね、もういなくなってしまって」

濱田さんは2024年3月、漁業権を侵害されたとして国に基地建設の差し止めを求める訴えを起こした。

濱田さん
「もう5年間も漁業しなかったら、腕がみんな落ちるでしょうね。(漁は)おそらく完璧に崩壊してしまいますね」

■「こんなつもりじゃ…」「すまなかった」基地受け入れ推進派の後悔

基地の受け入れを推進してきた島民もいる。杉為昭さんは、国からの“交付金”に期待していたのだ。

例えば、アメリカ軍の訓練を受け入れることで支給される、“再編交付金”は2024年度、28億円が決まった。

▼再編交付金(24年度)
西表島 20億7200万円
中種子町 5億1800万円
南種子町 2億4200万円

馬毛島基地推進派 杉為昭さん
「やっぱりもう背に腹は変えられない。今、いただいている再編交付金、それから基地が完成して運用が始まれば、また基地交付金、さらにはいろんな交付金が絡んできます。そこを活用して、この種子島西之表をどうやって元気づけていこうかということに、子供たちの為に、そういうことを考えた方が理があるっていうのかな」

一方で、推進してきたことを今、悔いている島民もいる。

 

推進派の会長を務めた折口金吉さんだ。防衛省に直接要望書を渡すなど、積極的に活動してきた。

種子島で安納芋を生産している折口さんは、工事が急速に進み、建設関係者であふれる種子島の現状に不安を感じている。

元馬毛島基地推進派 会長 折口金吉さん
「今の状況をやったら、こんなつもりじゃ、私は。もうちょっとな、冷静にお互いして、工事も10年ぐらいかけて、徐々に市民にわかるような工事をしていくのかなと思ったら、一度に急に来たから追いつかないような状況で、責任は当然私にあって、そう思っている方々にはすまなかった」

ーーこんなに大きな滑走路と軍事基地ができるとは思っていなかった?

折口さん
「そうそう。車が通るくらいの騒音しかないとか言われたって、市民の方々はわからないところがあるんですよ。だからいざ出来てみて、B35何とかっていうのが来て、あれはもうものすごく上に上がって、訓練がもう年がら年中あるっていうから」

種子島に再編交付金が交付されて2年。恩恵を受けたのは特定の島民に偏っていて、折口さんが望んだ地元集落の活性化には程遠いという。

折口さん
「建設業がよかったというひがみもあるわけよな。市街地から離れたところにも、ある程度、恩恵があればそういうことは全然ないんだけどな」

島民の不満は地元行政のトップに向けられている。

西之表市 八板俊輔市長(2021年1月西之表市 市長選挙)
「西之表にとって種子島にとって、失うものの方が大きいと」

西之表市では3年前、馬毛島基地計画に反対を掲げた八板俊輔氏が市長に選出された。

西之表市 八板市長(2021年1月西之表市 市長選挙)
「国の計画にNOと言っている」

だが、八板氏は市長に就任すると、その立場を変え、賛否について明言を避けるようになった。

ーー反対の立場を示されてきたが、立場を変えられた?

西之表市 八板市長(2022年2月)
「国会の議決前でありますが、予算が決まって新しい局面にいたっている」

 

自ら掲げた基地計画反対の公約について改めてどう思うのか、八板市長が取材に応じた。

ーー政治のリーダーとして、そこは説明した方がいいのではないですか?

西之表市 八板市長
「難しいですよ。そこはもうこの何年間、私も悩んできてね、悩んで来て考えて、現実の動きの中で最善の選択というのをしていこうということで」

インタビューの間、八板市長は基地建設について明言を避け続けた。しかし、最後にこう本音を漏らした。

西之表市 八板市長
「例えばこの問題で対立している相手とも、普段仲良くしているわけですよ。一緒に農作業をしたり、或いは一緒に船に乗ったり、或いは一緒の学校で子供たちのために一緒になって作業したりするわけでしょ。地域の奉仕作業とかも一緒になって。そういうのが、この問題でぐちゃぐちゃにされたくないわけです」

西之表市 八板市長
「だから触れないんですよ。(市民は)この問題に触れたくないわけです。触れると、仲のいいあの人と、やんなくちゃいけないから。もう口利かないとこから始まるでしょ」

■失われる「武器輸出三原則」の理念

2024年3月、日本政府はイギリス、イタリアと共同開発している次期戦闘機の第三国への輸出解禁を決めた。憲法で定めた平和主義から、武器の輸出を厳しく制限してきた日本による殺傷能力が極めて高い兵器の輸出。

2023年には、アメリカにパトリオットミサイルを輸出することも決めている。ウクライナへの軍事支援が長期化し、武器の在庫不足に陥るアメリカの求めに応じたものだ。

武器輸出をめぐっては、日本は佐藤政権が打ち出した「武器輸出三原則」で抑制してきた。

1967年4月、佐藤栄作総理(当時)は国会で共産圏や紛争中の当事国へ武器輸出しないことを表明。「厳に慎んでそのとおりやるつもりであります」と述べた。

1976年2月の国会、政府に厳しく迫るのは、2024年に次期戦闘機の輸出決定に賛成した公明党だ。

公明党 正木良明衆院議員(1976年2月4日・当時)
「武器と言われるような、(武器と言われる)かもしれないと言われるようなものを輸出することについては、この日本が平和でしか生きられない、平和国家であるという原点に立ち戻って物事の考え方をしなきゃならん。軍用ではないという解釈を拡大しながら、いま不況なんだから、これで儲けようという考え方は一切捨てていただかなきゃならん」

 

2日後、三木総理は野党の質問にこう答弁した。

三木武夫総理(1976年2月6日・当時)
「武器輸出三原則は厳重に履行したい。武器輸出というものを日本の将来の輸出産業として育成する考えは全然ない」

そして、その国会で政府は新しい統一見解を示した。三原則が定めている地域以外にも「武器の輸出は慎む」とし、輸出の実質的な全面禁止を打ち出した。だが、原則は徐々に変えられていく。

後藤田正晴 官房長官(1983年1月14日・当時)
「米国の要請により、米国に武器技術を供与する道を開くこととし、供与にあたっては武器輸出三原則に拠らないこととする」

1983年、中曽根政権が三原則の例外を作った。その後、2004年の小泉政権や2011年の野田政権などでも原則の例外作りや、基準の緩和を行った。

さらに、原則そのものを変え「防衛装備移転三原則」で、輸出を条件付きで解禁したのが、2014年の第二次安倍政権である。その末に、岸田政権が殺傷兵器の輸出を決めた。

相次ぐ安全保障政策の大転換。憲法学者の長谷部教授は、その根拠の説明が果たされていないと指摘する。

早稲田大学 長谷部恭男 教授
「今の政府はいろいろな問題を本当に真剣に考えているのだろうかと。最近、台湾有事というようなことも言われているが、アメリカも日本も『一つの中国』論をとっているはず。もし万一、中国が台湾に武力攻撃を仕掛けても中国の国内問題。日本はもちろん、アメリカでさえ武力をもって介入する根拠は全くない。日本に駐留する米軍の出撃は事前協議の対象で、同意すれば直ちに日本に対する武力攻撃が起こることにつながってくるはずで、いずれも非常に高いハードルがある」

国会での議論を尽くさず、与党協議と閣議決定だけで決める、ありかたも憲法の精神に反すると考えている。

長谷部教授
「憲法学で重要事項法理というものがある。国民全体の利害に関わる国政上の重要問題については、必ず国民を代表する国会での慎重な審議を経て、その上で国会での決定を待たなくてはいけないという考え方。最後は多数決で決まるんだから同じではないかと考える人もいるかもしれないが、国会の審議は相手の背中の向こう側にいる国民に語りかけている。国民の皆さんが納得いくような説明ができるかどうかが問われるわけで、決してないがしろにしていい話ではない」

 

4月の日米首脳会談では、中国を念頭に自衛隊とアメリカ軍のさらなる一体化、指揮統制の連携強化も明らかになった。

長谷部教授
「憲法のどこをどう読んでみても、国際秩序を守るために他国と共同して、場合によっては他国の軍隊指揮系統下に入って、ともに武力を行使するという結論が出てくる余地は到底あり得ないと思います。そういう意味で、もう一度憲法を読み直していただきたい」

岸田総理は、訪米した際の晩さん会のあいさつの最後に、アメリカのSFドラマ「スタートレック」のセリフを引用し、こう述べた。

岸田総理
「日本とアメリカはかつてなく結束しています。果敢に、前人未踏の地へ行こう」

アメリカとともにどこへ行こうとしているのか。

長谷部教授
「秋の大統領選挙によってはアメリカ自体がどんな国になってしまうのか。日本国民を道連れにするというのであれば、よくよく考えたうえでの言葉にしていただきたい」