10日夜の岸田首相の官邸での弁明は、窮地に追い込まれた末の言い訳でしかない。

 

 

「私から一連の事案と森氏の関係について、国民の関心を踏まえて聴取を行った」

 5月10日夜、首相官邸で記者団の取材に応じた岸田文雄首相は、自民党の政治資金パーティを巡る裏金問題で、4月上旬に行った森喜朗元首相への電話による「事情聴取」についてこう強調した。

 

 だが、この日発売の「文藝春秋」6月号に掲載されている「 森喜朗元首相『裏金問題』真相を語る 」では、森元首相がノンフィクション作家・森功氏のインタビューに応じ、「事情聴取」のお粗末な実態を明かしている。そこで森元首相は、岸田首相から裏金問題について具体的な質問はなかったと証言しているのだ。
 その点を記者団から問われると、岸田首相は次のようにはぐらかした。

「雑誌報道ひとつひとつについてコメントすることは控える」

「総理は訪米にそなえたい気持ちが強かったのでしょう」
 240分に及んだインタビューで森功氏から、「(岸田首相から)『キックバックを知っていたか』、あるいは『裏金システムそのものを作ったのではないか』という質問はなかったのですか」と問われると、森元首相はこう答えている。

「岸田総理からの電話は、『例の問題について、森先生の話を聞いたかどうか、質問が集中しますので、含みおいてください』というような内容です」

 これでは聴取したというアリバイ作りのために電話しただけと批判されても仕方あるまい。

 森元首相は、岸田首相が4月上旬に電話をかけてきた理由について、こう推測した。

「総理は早く結論を出して(4月8日からの)訪米にそなえたい気持ちが強かったのでしょう。だから、私にも真実を確認するためにやむをえず電話をかけてきて、それで済んだ、という形をつくろうとしたのだと思います」

 

 ただ、森元首相は一連の裏金問題について岸田首相と電話で話したのは、この一回だけではなかったとも証言している。

「岸田総理も、私の関与がなかったことについては、だいたい分かっているんです。電話があったのは訪米前が初めてではありません。私に聞けと野党が騒ぎ始める前から、総理には『私の会長時代には、派閥ぐるみの裏金作りなどありませんでした。それは私がいちばんよく知っています』と話してきました」

 実際、岸田首相は5月10日、記者団にこう語っている。

「聴取を行ったが、森氏の具体的な関与は確認できていないと申し上げてきた。この発言はまったく変わらない」

 だが、その聴取の実態は、安倍派の裏金問題の真相に迫ろうとするものではなかった。首相自らによる異例の「事情聴取」も、期待していた国民にしてみれば、まったく拍子抜けするものだったとしか言いようがない。

「強いてお目にかかることはありません」
 加えて、岸田首相は国会で、事情聴取が対面ではなく電話になった理由について「日程の都合で直接会うことはできませんでした」と説明してきた。だが、森元首相によれば、岸田首相からは「強いてお目にかかることはありません」とも言われていたという。

「総理はこう言っていました。

『私から森先生に電話した事実を言わなければならない事態になれば、それを公表させていただきます。それまでは、私から電話があったことをおっしゃらないでください』

 私は『承知しました』とだけ答えました。あとは『ご体調はいかがですか』とか『強いてお目にかかることはありません』というようなことを言われました」

 

10日夜の岸田首相の官邸での弁明は、窮地に追い込まれた末の言い訳でしかない。

 240分にわたってインタビューに応じた記事「 森喜朗元首相『裏金問題』真相を語る 」は、5月10日発売の「文藝春秋」6月号及び「 文藝春秋 電子版 」で公開中だ。森元首相は、自身が清和政策研究会の会長を務めていた頃に始まったとされる裏金作りについて詳細に語っている。

 さらに、昨年7月、清和研の会長になることを望んだ下村博文元文科相から、2000万円の入った紙袋を持参された際のやり取りの詳細や、今年1月、塩谷立元座長に対して、「(裏金問題の)全責任を取って仲間を救ってやれ」などと説得したことについても明かしている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2024年6月号)

 

 

「自民党は解党以外にない」安倍元首相、参院選で100万円手渡し報道…官房機密費が使われた可能性に批判殺到

 
 
 自民党安倍派の政治資金パーティー裏金事件をめぐり、故・安倍晋三元首相への評価が逆転しかねない報道が飛び出した。
 
 5月9日、「中国新聞デジタル」が、2013年7月の参院選で、安倍氏が東日本の選挙区で争う同党公認候補に現金100万円を渡していた疑いがあると報じた。

 匿名を条件に中国新聞の取材に応じたこの候補者によると、安倍氏が応援演説に入った当日、個室で面会。安倍氏から渡された茶封筒のなかに現金100万円入りの白い封筒が入っていたという。

 同紙は、複数の元政権幹部の見方として、使途が公表されない内閣官房報償費(機密費)が使われた可能性を指摘。安倍氏、候補者が関係する政治団体の収支報告書にはいずれも100万円の記載はなく、時効が成立しているとはいえ、政治資金規正法違反(不記載)などにあたる可能性もある、報じている。

 弁護士の紀藤正樹氏は、同日、記事を自身の「X」に貼り付けたうえで、こう書き込んだ。

《官房機密費は政府の施策の円滑な遂行を目的として認められるものでこれを党勢拡大という選挙のために使用するのは目的外使用で背任や横領にもあたりかねない。政府は調査すべき》

 官房機密費の毎年の予算額は約12億円。そのうち領収書不要で官房長官の判断で使うことができる「政策推進費」は約11億円だ。原資は税金で、あくまで内閣が施策を円滑かつ効果的に進めるための経費だ。それを選挙で使ったとなれば、政府与党が圧倒的に有利になってしまう。

 問題はそれだけではない。

「安倍派の政治資金パーティー裏金事件では、議員への裏金還流を知った安倍氏が、2022年4月、還流の中止を指示したとされています。しかし、安倍氏自身が裏金を配っていたとなれば、見方は変わってきます。

 2020年12月、『桜を見る会』前夜祭をめぐり、政治資金収支報告書に約3022万円の収支を記載しなかったとして、安倍氏の公設第一秘書が略式起訴されています。

 2021年11月に派閥会長となった安倍氏は、あくまでほとぼりが冷めるまで、裏金の還流の中止を指示しただけではないかとの疑念も生まれます」(政治担当記者)

 安倍氏自身が官房機密費から裏金を渡した可能性があることに、Xでは批判的な声が殺到している。

《いろんなところからの札びらで顔ひっぱたいてどうだとばかり毎回やってたわけだから、安倍は選挙に強かったわけだ。こんな金で買った票で当選した自民党議員に正当性あるのか?》

《モラル皆無の自民党はバレなきゃ何でもありなので官房機密費も政党助成金も廃止にして下さい》

《官房機密費は税金ですよ こんな私的利用は法律違反です 自民党議員は全員辞職するべきです 自民党は解党する以外ないですね》

 官房機密費のうち、安倍政権7年8カ月で使った「政策推進費」は86億8000万円。二階俊博元幹事長が党から5年で受け取った政策活動費50億円の問題もある。

 政治資金規正法改正に向け、自民党が後ろ向きな姿勢を続けるようでは、国民の怒りが爆発しかねない。