裏金づくり13億円超「発覚しないので続けた」と検察 安倍派会計責任者の初公判で見えた実態解明への不安

 
 国会では、キックバックをいつ誰が始めたかなどの解明が焦点になっています。ただ初公判で検察側は歴代の会長、事務総長をはじめ同派に所属する国会議員の関与については明らかにしませんでした。
 
 安倍派が続けてきた裏金づくりに政治家はどう関与したのか—。東京地裁で10日開かれた同派会計責任者の初公判。検察側は派閥幹部ら国会議員の実名を一切出さず、裏金づくりの開始時期を「かねて」とするなど曖昧な説明に終始し、核心に踏み込まなかった。全容解明への期待を裏切る幕開けとなった。(中山岳)

◆収支を記載しない仕組みは前任者から引き継ぎ
 安倍派の派閥側で唯一、立件された事務局長で会計責任者の松本淳一郎被告(76)は紺色スーツに赤いネクタイ姿で入廷。傍聴席や裁判官席に一礼した。罪状認否では、議員側が販売を割り当てられた派閥の政治資金パーティー券のノルマを超えた分を納めない「中抜き」の一部を「認識していない」と虚偽記入を否定したが、「それ以外は間違いない」と大筋で争わない姿勢を明確にした。
 
 
 検察側の冒頭陳述によると、松本被告は事務局長に就いた2019年2月の前後に前任者から引き継ぎを受け、パーティー券のノルマ超過分を議員側に還流し、政治資金収支報告書に記載しない仕組みを把握。販売枚数などをパソコンで記録して還付金額を計算していたという。「収支報告書に虚偽の金額を記入することを認識したが、かねて、同様の方法で虚偽記入が行われて発覚してこなかったから続けた」と指摘した。
 
 反省の言葉は、法廷にいる本人の口からではなく、検察官が被告の供述調書を読み上げて明らかになった。「深く反省している」「以前からずっと続いていることで、深く考えず続けていた」。被告は口を真一文字に結び、時々頭を左右に傾けながら聞いていた。
 
◆検察幹部「政治家は、この公判で立証すべき範囲外」
 これまでの国会などでの幹部議員の説明では、22年4月の幹部会合で安倍晋三元首相の指示で還流中止が決まった。しかし、7月に安倍氏が亡くなった後、幹部が再び協議するなどして継続が決まったとされる。

 松本被告は、この協議の会合に参加したとされるが、検察側は一切触れなかった。被告の事務局長就任が世耕弘成前参院幹事長の推薦だったことも、「懇意にしている政治家」として実名すら明かさなかった。

 閉廷後、ある検察幹部は取材に、派閥幹部議員の関わりを「国民の関心事なのは理解できるが、政治家はこの公判で立証すべき範囲の外だ」と説明した。

 初公判は午後2時半に始まり、わずか1時間弱で終了。今後、派閥幹部の実名を挙げた具体的なやりとりは明らかになるのか。次回6月18日の公判では、被告人質問が予定されている。

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◆二階派元会計責任者の初公判は6月19日
 自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、安倍派の政治資金収支報告書に収支計13億円超を記載しなかったとして政治資金規正法違反(虚偽記入)罪に問われた同派事務局長で会計責任者の松本淳一郎被告(76)の初公判が10日、東京地裁(細谷泰暢裁判長)で開かれた、被告は起訴内容を大筋で認めた。10人が立件された事件で、公開の裁判は初めて。

 安倍派の裏金作りを巡っては、幹部の国会議員は1人も立件されなかった。

 起訴状によると、政治団体「清和政策研究会」(安倍派)の18~22年の収支報告書にノルマ超過分など計約6億7500万円を収入として、議員側に還流した計約6億7600万円を支出として記載しなかったとされる。
 
 
 
起訴内容 大筋認める
東京地裁 裏金事件 安倍派会計責任者

 
 自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、政治資金収支報告書に計約6億7500万円の収支を記載しなかったとして政治資金規正法違反(虚偽記載)罪に問われた安倍派(清和政策研究会)会計責任者の松本淳一郎被告(76)の初公判が10日、東京地裁(細谷泰暢裁判長)でありました。同被告は起訴内容を大筋で認めましたが、一部については虚偽記載の認識を否定しました。

 裏金事件は、「しんぶん赤旗」日曜版(2022年11月6日号)のスクープをうけ、神戸学院大学の上脇博之教授が安倍派などの不記載を東京地検に刑事告発したことが端緒になりました。

 安倍派をはじめとする複数の派閥では、パーティー券販売ノルマの超過分をキックバック(還流)する仕組みになっていました。

 検察側の冒頭陳述によると、松本被告は安倍派の18~22年分の収支報告書に計約6億7500万円の収入と支出を記載せずに提出しました。同被告は19年1~2月ごろ前任者から引き継ぎを受ける際に、ノルマ超過分の収入とキックバックの支出を収支報告書に記載しないとの説明を受けたといいます。

 安倍派ではノルマ超過分を派閥に納入せず、手元に置いたままキックバック分を“中抜き”していた議員もいました。またノルマが課されなかった議員や参議院選挙がある年に同選挙へ立候補を予定している議員らには、販売分の全額を渡していました。

 公判で松本被告は、一部の議員側が派閥に入金せず“中抜き”した金額は「収支報告書を提出した時点で認識していませんでした」と一部を否認し、それ以外の事実関係は認めました。

 国会では、キックバックをいつ誰が始めたかなどの解明が焦点になっています。ただ初公判で検察側は歴代の会長、事務総長をはじめ同派に所属する国会議員の関与については明らかにしませんでした。

 

検察、初公判で「政治屋ではない」会計責任者主導を強調…裏金づくりの背景には踏み込まず

 
 
 派閥の解散や政治資金規正法の改正議論に発展し、自民党を揺るがし続けている政治資金パーティーを巡る事件。同法違反(虚偽記入)に問われた安倍派の会計責任者・松本淳一郎被告(76)の初公判が10日、東京地裁で開かれた。派閥での「裏金づくり」の実態解明が期待されたが、検察側は背景事情には踏み込まず、派閥幹部でも政治家でもない被告が事件を主導したと強調した。

 10日午後2時半、東京地裁104号法廷。紺色のスーツに赤色のネクタイを締めた松本被告は、細谷 泰暢(やすのぶ) 裁判長から名前や生年月日を確認され、職業を問われると、「団体職員をやっています」とはっきりとした口調で答えた。続く罪状認否では封筒から取り出した紙に目線を落とし、「一部間違いがあります」と述べたものの、起訴事実をおおむね認めた。
 
 NTT出身の松本被告は退社後に元社員らでつくる政治団体の代表を務め、同社出身の世耕弘成・前参院幹事長(61)(離党)の紹介で2019年2月に安倍派の事務局長に就任。会計責任者も担うことになったが、国会議員はもちろん、議員秘書や党職員の経験もなかった。
 ある安倍派関係者は、松本被告について「選挙や政治資金のあり方に精通した『政治屋』ではなく、事務屋だ」と指摘。その被告が巨額の政治資金を還流させ、政治資金収支報告書への虚偽記入を実行できたのか、という疑問がくすぶっていた。

 しかし、検察側は冒頭陳述で「収支報告書の作成に国会議員は関与しなかった」と明言。松本被告が部下の事務局職員に原案作成を指示した上で、内容を確認・了承し、内容が真実だとする宣誓書にも押印していたと指摘した。

 さらに、松本被告が会計責任者になる際、前任者から還流や虚偽記入の仕組みを説明されたとし、かねて行われていた裏金化が引き継がれたと言及。「被告は虚偽記入になると認識していたのに、発覚しなかったために継続した」と非難した。

 検察側はこの日の公判で、松本被告の捜査段階の供述調書も読み上げた。虚偽記入を続けた理由について、「大きな問題になったことはないということだったので、深く考えることなく続けてしまった」と述べたとし、「会計責任者として深く反省している」と謝罪したことも明かした。

 松本被告は捜査を受けている間も派閥の業務に追われ、東京都千代田区にある派閥事務所に出勤していた。在宅起訴後も解散が決まっている派閥の残務整理などを淡々と続けているという。安倍派は現在、中堅・若手議員らによる実務チームが解散手続きを進めているが、解散の時期は未定だ。



 事件では、松本被告を含め、現職の国会議員や秘書ら計10人が同法違反で起訴(在宅・略式含む)されている。

 4000万円超の虚偽記入罪に問われた池田佳隆衆院議員(57)と大野泰正参院議員(64)らは起訴事実を争う方針とみられるが、初公判の期日は決まっていない。「 志帥(しすい) 会」(二階派)の元会計責任者・永井等被告(70)は6月19日に初公判を迎える。
 
 略式起訴された谷川弥一・前衆院議員(82)や谷川議員の元秘書、「宏池会」(岸田派)の元会計責任者、二階俊博・元党幹事長(85)の秘書は有罪が確定している。

「包み隠さず語って」議員ら
 派閥側の指示で自身の政治団体の収支報告書に計数百万円の還流分を記載しなかったという安倍派の衆院議員は「なぜ派閥があのような指示を出したのか知りたかったが、何も明らかにならないまま初公判が終わってしまった。国民も納得しないだろう」と語った。

 6月18日の次回公判では被告人質問が予定されており、別の安倍派若手議員は「松本さんには真相をぶちまけてほしいとの思いはある」と漏らした。ベテラン参院議員の秘書は「事務方の松本さんが一人で虚偽記入を決断できるはずがない。派閥幹部の指示が本当になかったのか、法廷で包み隠さず語ってほしい」と話した。

 日大の岩井奉信名誉教授(政治学)は「検察側の立証は機械的で、事件の 全貌(ぜんぼう) は見えないままだ」とした上で、「大規模な違法行為が、なぜ平然と続いてきたのか分からなければ『政治とカネ』の問題の抜本的な解決にはつながらない。今後の公判で明らかになることを期待したい」と話した。