主張
ガザ・ラファ危機
イスラエルの攻撃止め停戦を

 

 イスラエルのネタニヤフ政権は、ガザ南部ラファへの新たな攻撃を始めました。関係当事者による停戦交渉が大詰めを迎え、イスラム組織ハマスが6日に受け入れを表明する下での強行であり、許されません。

 ネタニヤフ政権は自国の要求から程遠いと停戦に応じておらず、交渉妥結へのガザ住民の期待は新たな恐怖に変わり、世界には懸念と非難が広がっています。

 「ラファへの全面攻撃は人道的破局となる」「イスラエルは(攻撃の)拡大ではなく外交交渉に建設的に関与すべきだ」(グテレス国連事務総長)。この声を圧倒的に強め、停戦、全人質の解放、地域の安定を実現する各国政府と市民の行動を集中するときです。

■世界の世論と運動
 イスラエルはラファの住民に「安全地帯」への移動を命じましたが、「ガザのどこも安全ではない」(国連の援助機関)のが実態です。占領と封鎖の下で、住民の多くは北部などから攻撃を逃れてきた人たちです。イスラエルはさらに人道物資の搬入も妨害し、国連職員にも銃口を向け全裸検査をするなど国際人道法の蹂躙(じゅうりん)を続けています。

 昨年10月7日の戦闘からガザでは3万5千人近くが殺されました。ラファで避難生活を送る60万人超の子どもも攻撃による負傷、病気、障害、飢餓に苦しんでいます。イスラエル支持の米国のバイデン大統領でさえ、ラファ全面攻撃には賛成できないと表明し、同国への弾薬供与を一部停止したとも報じられています。

 ジェノサイド(集団殺害)状況は深刻ですが、米政権の変化や、ガザ和平に向けたこの間の集中的な外交活動は世界の世論と運動の高まりによるものです。

 欧米では、イスラエルへの抗議が各地の大学に広がっています。抗議を受け、イスラエル企業やガザ紛争で利益をあげる軍需産業への投資停止を検討する大学も出ています。秋に再選をめざすバイデン大統領への新たな圧力です。

 イスラエルでもハマスが拘束している人質の家族をはじめ多くの市民が、政府に停戦を求め行動に参加しています。同国の諜報(ちょうほう)機関の元長官からも、軍事行動をやめ交渉を、パレスチナ人国家の樹立とイスラエルとの共存が安全保障には必要だとの声があがっています(「朝日」8日付)。

■日本の若者も行動
 日本でも市民らが粘り強く声をあげています。都内の大学で1日に行われた集会でマイクを握った学生は、「私たちが行動しないと現状の黙認になる。私たちには力がある。自由のために行動を」「国連で日本は、イスラエルへの武器輸出停止を求める決議に棄権した。イスラエルの軍事企業から攻撃ドローンを輸入し、武器も輸出しようとしている。ジェノサイドに私たちの政府も加担している」と訴えました。

 攻撃ドローン導入については日本共産党も国会質問で、許されないと政府に迫りました。イスラエルとの経済連携協定の交渉についても、「締結すれば国際法違反の追認になる」と批判し交渉中止を求めました。日本政府は、イスラエルはもちろん米国に対しても即時停戦をより強く求め、パレスチナ問題の公正な解決にとりくむべきです。

 

 

ラファ 病院対応困難

1キロ先に戦車 医療従事者退避

 

 【カイロ=秋山豊】イスラエル軍がパレスチナのガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所を制圧し、部分的な地上戦を行うなか、ガザ南部ラファではイスラエル軍による大規模な地上侵攻を恐れ、病院から医療従事者が退避しています。

 ラファにあるクウェート病院のスハイブ・アルハムス院長は7日、本紙の電話取材に応じ、「イスラエル軍の戦車は私たちの病院からわずか1キロメートルしか離れていない」と語り、病院に支援に入っていた医療従事者らが緊急に退避していると話しました。

 

 アルハムス氏は「保健省で働く医師たちも職場を離れた。ガザ北部の病院の同僚たちがされたように、イスラエル軍による拘束や危害を恐れている」と語りました。

 

 アルハムス氏によると前日から激しい爆撃が続いています。同氏は「病院にはひどいけがを負った患者が大勢いるが、受け入れ能力の不足で対応が困難だ。レントゲンの機械も動かない。病院を長期間運営するには食料、医薬品、ベッド、設備、燃料が足りない」と嘆きます。

 

 イスラエル軍の攻撃によりラファでは死傷者が増えています。

 

 本紙の電話取材に応じたアブ・アメルさんは、4人の子どもとガザ各地で避難を繰り返し、ラファにたどり着きました。「イスラエル軍は住民に退避を命じたが、どこにも安全な場所はない。爆撃が続き、大砲の音が響いている。人々が殺されている」と言いました。

 

 ロイター通信は医療支援団体の話として、ラファ検問所が閉鎖され、病人と負傷者の搬送と、ガザへの薬の搬入が妨げられていると伝えました。

 

 エジプトは治療を要する負傷者などに限定してガザからの入国を認めてきました。ガザ保健省によると、7日は140人の患者がガザを離れる予定でした。

 

 ガザ中部のアルアクサ病院にいるラマ・アブホリさん(8)は足のけがの治療のためにガザを離れるはずでした。彼女は「検問所が閉鎖されて行けなかった。動揺している」とロイター通信に語りました。

 

 

【随時更新】イスラエル・パレスチナ・中東情勢(5月9日)

 
イスラエルとイスラム組織ハマスの間の戦闘休止などに向けてエジプトで行われている交渉をめぐりイスラエルの交渉団は、進展の兆しはないもののエジプトに残ると伝えられていて、ぎりぎりの交渉が続いているものとみられます。

一方、イスラエル軍はガザ地区南部ラファでの攻撃を繰り返し、軍事的な圧力を強めています。

※中東情勢に関する日本時間5月9日の動きを随時更新してお伝えします。

目次
米バイデン大統領 “ラファへ地上作戦なら武器供与せず”初言明

“進展兆しなし”もエジプトでの交渉継続か

米バイデン大統領 “ラファへ地上作戦なら武器供与せず”初言明
アメリカのバイデン大統領は8日、CNNテレビのインタビューで、イスラエルがガザ地区南部ラファへの地上作戦を行った場合、武器を供与しないと述べました。去年10月にガザ地区で戦闘が始まって以来、バイデン大統領が公にイスラエルへの武器支援の停止に言及したのはこれが初めてです。

“進展兆しなし”もエジプトでの交渉継続か
イスラエルとハマスの間の戦闘の休止と人質解放に向けた交渉で、ハマス側は仲介国が示した提案を受け入れるとしたのに対し、イスラエル側は人質の解放などの中核的な要求を満たすにはほど遠いとしながらも、仲介国のエジプトに交渉団を派遣しています。

ロイター通信は交渉は8日も行われ、イスラエル当局者の話として「進展の兆しはないが、交渉団はエジプトに残る」と伝えています。

また、イスラエルのメディアなどはアメリカのCIA=中央情報局のバーンズ長官が8日、戦闘の休止と人質の解放をめぐりネタニヤフ首相と会談したと報じています。

バーンズ長官は直前にエジプトやカタールを訪問していたということで、アメリカや仲介国の働きかけで双方の立場の隔たりを埋められるかが引き続き焦点になっています。

南部ラファで激しい攻撃続く
一方、避難者など120万人が身を寄せるガザ地区南部のラファでは地元メディアが8日、中心部にある住宅が空爆を受けたと伝えていて、イスラエル軍が住民に退避を通告した東部以外でも激しい攻撃が続いています。

また、イスラエル軍は8日、ラファ東部で地上部隊による作戦を続け、ハマスの地下トンネルを破壊したと発表するなど、ハマスに対する軍事的な圧力を強めています。

ただ、ハマス側は「軍事的な圧力のもとでは停戦や人質解放の新たな取り組みには応じられない」としていて、交渉が進展するか注視されています。

イギリスの大学でガザ攻撃に抗議行動
イスラエルによるガザ地区への攻撃をめぐってはアメリカ各地の大学で抗議デモが続き、これまでに多数の逮捕者も出ています。

こうした中、イギリスでも10以上の大学で抗議活動が行われていて、このうち名門として知られるケンブリッジ大学では「パレスチナに正義を」などと 書かれた横断幕が掲げられ、学生や職員が敷地内に50近いテントを並べて寝泊まりしています。

学生たちは大学側に対し、イスラエルと取り引きがある軍事会社に大学の基金から出資しないことや、こうした企業から研究費を受け取らないことなどを求めています。

抗議活動に参加している男子学生は「私たちの学費が、納得できない目的のために使われないようにしなければならない。大学側が私たちの要求を聞き入れるまで抗議を続けていく」と話しました。

これに対してスナク首相は7日の閣議で「キャンパス内での反ユダヤ主義の高まりは受け入れられない」と述べ、9日、首相官邸に各大学の責任者を呼んで断固とした対応をとるよう求める方針です。

米長官 イスラエルの弾薬輸送一部停止を明らかに
イスラエルへの軍事支援を続けてきたアメリカのオースティン国防長官は8日、議会上院の公聴会で「状況を鑑み、われわれは威力の強い弾薬の輸送を停止した」と述べ、イスラエルへの弾薬の輸送を一部停止したと明らかにしました。

その上でオースティン長官は「われわれは当初から、イスラエルが戦闘地域にいる民間人を保護せずにラファで大規模な攻撃を始めるべきではないと明言してきた」と述べました。

去年10月、ガザ地区で戦闘が始まって以来、アメリカがイスラエルへの弾薬の輸送を停止したことを明らかにしたのは初めてです。

アメリカはラファへの大規模な地上作戦を支持しない立場を繰り返し示していて、イスラエルに対し慎重な対応を促すとともに、戦闘が長引き民間人の犠牲が拡大する中、イスラエルへの軍事支援を続けていることに対する国内外からの批判をかわす狙いもあるとみられます。