こういう小手先の問題ですか?

植田日銀総裁の4月の記者会見では円安は「基調的な物価上昇率に大きな影響を与えていない」と繰り返した。5月に入り「政策運営上、十分注視していく」に改め、さらに「過去と比べ、物価に影響を及ぼしやすくなっている」と言い出す。

 

 

日銀の植田和男総裁が円安に関する発言を軌道修正している。4月の記者会見では「基調的な物価上昇率に大きな影響を与えていない」と繰り返し、円安が進行した。5月に入り「政策運営上、十分注視していく」と表現を改め、さらに「過去と比べ、物価に影響を及ぼしやすくなっている」とも指摘した。

日銀が円安を容認しているとの市場の見方を払拭し、円安の進行に歯止めをかけようとしている可能性がある。

4月26日の金融政策決定会合で市場には日銀が円安の食い止めにつながる対策や発言を打ち出すとの見方があったが、日銀は金融政策の維持を決めた。

その後の記者会見で植田総裁はこれまでの円安が基調的な物価上昇に与える影響について現時点で無視できる範囲か問われて「はい」と答えた。こうしたやりとりを市場は円安容認と受け止め、会見中から円相場は下落した。

4月29日には1ドル=160円台と34年ぶりの水準まで円安が進んだ。政府・日銀は認めていないが、4月29日、5月2日の2日間で財務省による円買いの為替介入があったとみられている。

日銀は円安を通じた輸入コストの上昇による物価上昇は一時的と捉え、賃上げを伴う「基調的な物価上昇率」を重視している。そのため植田総裁は「引き続き為替市場の動向や経済・物価への影響を十分注視していきたい」と4月に強調した。

これを5月に入ってからはより直接的な表現に改めた。

7日に首相官邸を訪れて岸田文雄首相と面会後、記者団に「円安については日銀の政策運営上、十分注視をしていくことを確認した」と述べた。「基調的な物価上昇率にどういう影響が出てくるかについて注意深くみていくという姿勢だ」とも語った。

 

 

8日の衆院財務金融委員会では「最近の円安の動きを十分注視している」と改めて強調した。「過去と比べ為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」との見解も示し、円安が物価上昇につながりやすくなっていることを示唆した。

日銀は4月会合で公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)では「基調的な物価上昇率が上昇していけば、金融緩和度合いを調整する」と追加利上げの姿勢を示した。ただ、会見では為替の質問が相次ぎ、そこでのやり取りも材料に円安が進んだ。

時系列だけみれば会見をきっかけに為替介入までに発展した可能性があることから、市場から日銀が発言を修正しているとの見方が出ている。

野村総合研究所の木内登英氏は「4月の記者会見で植田総裁が円安容認と受け止められかねない説明に終始したことを問題と捉え、日銀が修正する機会をうかがっていた可能性がある」と指摘している。

 

 

実質賃金3月2.5%減 24カ月連続マイナス、過去最長

 

アベノミクスは人々を貧しくしている

名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は増加が続いているが、3月の実質賃金は前年同月比2.5%減だった。24カ月連続(2年間)で過去最長の減少だ。「物価と賃金の好循環」ではなく、「円安とインフレの悪循環」が起きているのだ。

 

厚生労働省が9日発表した3月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比2.5%減だった。減少は24カ月連続で過去最長だった。給与総額は伸びているものの、物価高に追いつかない状態が続いている。

 

 

実質賃金の減少幅は2月のマイナス1.8%から拡大した。24カ月連続のマイナスはリーマン・ショック前後を超えて、比較可能な1991年以降の記録で過去最長を更新した。

5月下旬公表予定の23年度の実質賃金も2年連続で前年度比マイナスとなる公算だ。

名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は増加が続き、3月は前年同月比0.6%増の30万1193円だった。伸び幅は2月から0.8ポイント低下した。

基本給にあたる所定内給与は1.7%増、残業代など所定外給与は1.5%減だった。

賞与など特別に支払われた給与は9.4%減だった。23年3月は伸びが大きく、その反動が出たとみられる。

1人当たりの総実労働時間は2.7%減の136.2時間だった。一般労働者は2.6%減の161.2時間、パートタイム労働者は2.0%減の79.7時間だった。

現金給与総額を就業形態別でみると、正社員など一般労働者は0.8%増、パートタイム労働者は2.5%増だった。産業別では金融・保険業、生活関連サービス業、情報通信業の伸びが目立った。飲食サービス業等が前年同月比で大きく減少した。

実質賃金の算出に用いる持ち家の家賃換算分を除く消費者物価指数は3.1%上昇だった。

2024年の春季労使交渉(春闘)では高い水準の賃上げが実現している。連合が8日に公表した第5回集計結果によると、ベアと定期昇給を合わせた賃上げ率は平均5.17%だった。23年同時期を1.5ポイント上回り、過去の最終集計と比べると1991年以来の高水準だった。中小組合でも4.66%と、92年以来の高水準となった。

厚労省の担当者は「4月分から(今年の)春闘の実績が反映され始める」と説明する。