「国が自治体に指示」発動条件は不明、チェック機能なし…地方自治法改正案 審議初日に指摘が出た多くの問題
◆政府が「重大事態」と判断すれば指示できる
現行法では、災害対策基本法など個別の法律に規定がある場合にのみ、国は自治体に指示ができる。改正案は、大規模災害や感染症のまん延など「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と政府が判断すれば、個別法に規定がなくても自治体に指示できると定める。
◆国会関与があると「機動性に欠ける」
共産党の宮本岳志氏は、戦前の反省から憲法に地方自治が明記されていると指摘。改正案では「重大な事態」の範囲が極めて曖昧だと訴えた。また、沖縄県名護市辺野古(へのこ)の米軍新基地建設に向けて、政府が強制的な手法で工事を進めているとして「住民自治も団体自治も踏みにじっている」と批判。松本氏は、あくまで地方自治法に基づく措置だと主張した。
日本維新の会の阿部司氏は、指示権が行使された場合のチェック機能について尋ねたが、松本氏は「適切に検証される必要がある」として、具体的な制度には言及しなかった。
国民民主党の西岡秀子氏は、国が指示を出す場合に国会の関与がない点を問題視。松本氏は、国会承認などを義務付けると運用面で機動性に欠けるためだと説明した。
地方自治を国従属に変容
「指示権」導入の改定案審議入り
宮本岳志議員が批判
松本剛明総務相は指示権について、「地方自治法上の関与の基本原則にのっとり、厳格な要件を設けている」と強弁しました。
さらに宮本氏は、すでに政府が沖縄で民意も地方自治も無視し、知事の権限を奪う「代執行」にまで踏み切り、米軍辺野古新基地建設を強行したと批判。「安保3文書」に基づき政府が進める空港・港湾の軍事利用拡大のための公共インフラ整備でも、国が必要と判断すれば自衛隊の優先使用の「指示」が可能になると指摘。新型コロナ対応では一斉休校など国の一律の指示が現場に混乱を持ち込み、能登半島地震では下水道がいまだに復旧されていない現状に触れ、「国に求められていることを行わず、災害やコロナに乗じて、地方自治破壊の仕組みを導入するなど断じて容認できない」と廃案を求めました。
地方自治法改定案
宮本岳志議員の質問(要旨)
衆院本会議
日本共産党の宮本岳志議員が7日の衆院本会議で行った地方自治法改定案に対する質問の要旨は次の通りです。
本法案の最大の問題は、政府が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と判断すれば、国の地方自治体に対して発動できる「指示権」を新たに導入することです。
日本国憲法は、戦前の中央集権的な体制のもとで自治体が侵略戦争遂行の一翼を担わされたことへの反省から、独立の章を設けて地方自治を明記し、自立した地方自治体と住民の政治参加の権利を保障しました。ところが歴代自民党政府は、自治体の権限や財源を抑制し、1999年の地方分権一括法では、「地方分権」を掲げながら、機関委任事務を法定受託事務として事実上温存し、国の「指示」「代執行」などの強力な関与を導入してきました。創設される政府の「指示権」は、法定受託事務ばかりか自治事務にまで国が自治体に「指示」できる仕組みを設けるものです。
災害やコロナを例示していますが、「重大な事態」の範囲はきわめて曖昧です。時の政府の勝手な判断となるのではありませんか。憲法が保障する「地方自治」を踏みにじり、地方自治体を国に従属させる関係に変えるものであり、断じて許されません。
すでに政府は沖縄で、民意も地方自治も無視し、名護市辺野古への米軍新基地建設を強行しています。玉城デニー県知事が公有水面埋立法に基づき、沖縄防衛局が提出した設計変更申請を不承認としたのに対して、国民の権利救済を目的とする「行政不服審査法」を悪用して覆し、代執行にまで踏み切りました。住民自治も団体自治も踏みにじっている認識がありますか。
政府は「安保3文書」に基づき、空港・港湾の軍事利用拡大のための公共インフラの整備をすすめています。「国民の生命・財産を守る上で緊急性が高い場合」に「自衛隊・海上保安庁が柔軟かつ迅速に施設を利用できるよう努める」ことを条件として、国が整備費用を負担するとしています。政府は自治体に自衛隊の優先使用を強制するものではないと説明していますが、国が必要と判断すれば、優先使用を「指示」することが可能になるのではありませんか。
政府は「想定外の事態」に対応するためといいますが、新型コロナ対応では全国の学校の一斉休校など、国の一律の指示が現場に混乱を持ち込みました。能登半島地震の発災から4カ月、依然、下水道は通らずNHKさえ映らない地域があります。待たれているのは、頭ごなしの国の「指示」ではなく、被災自治体の要望に応えることです。国に求められていることをやらず、災害やコロナに乗じて、地方自治破壊の仕組みを導入するなど断じて容認できません。廃案を求めます。
自治体が政府の下僕に…「地方自治法改正案」は緊急事態条項“先取り”で強権政治に拍車
岸田首相が「今国会中の改正に向けて全力を挙げる」と意気込む規正法の行方に注目が集まりがちだが、要注意のヤバい法案を忘れてはいけない。今年3月に政府が国会に提出した地方自治法の改正案だ。
法案は7日の衆院本会議で審議入り。災害や感染症などの「緊急事態」に備えて自治体に対する国の指示権を強化するのが狙いだ。
一体、何がヤバいのか。改正案の廃案を求める「改憲問題対策法律家6団体連絡会」が声明(4月17日付)で指摘した問題点が分かりやすい。
■発動要件は為政者の腹次第
声明によると、改正案は憲法92条で定められた地方自治の本旨に反する。いわく改正案は、〈自治体のあらゆる事務に対して国が権力的に介入して指示権を行使できるとするもの〉であり、〈「地方分権改革」に真っ向から逆行するもの〉。国と地方の「対等」な関係がゆがめられる恐れがある。
さらに問題なのが、国の指示権に限定がないことだ。改正案の条文には、指示権を発動するケースについて〈大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合〉と書かれているだけ。発動要件に至っては、各大臣が〈特に必要があると認めるとき〉と、為政者の腹次第である。
指示権発動の場面も要件もあいまいなのに、驚くべきことに、発動は閣議決定で可能であり、国会承認が不要。事前に自治体の意見を聞く手続きになっているものの、あくまで努力義務にとどまる。国が「国民の生命を守るため」などの理由をこじつけさえすれば、いくらでも恣意的かつ無制限の運用が可能になりかねないのだ。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)がこう言う。
「自民党の改憲草案の緊急事態条項の創設を先取りするような法案です。改憲をせずして緊急事態条項を実現し、有事の際の戦争準備を遂行しやすくする地ならしではないか。『重大事態』が明確ではない以上、地方自治が時の内閣の意のままにされかねません。自治体が政府の下請け機関になってしまうかどうかの分水嶺だと思います」
憲法を骨抜きにするような政府に好き勝手させてはダメだ。