主張 政治改革特別委 腐敗の根断つのか、抜け道か

 
徹底的な真相解明で金権腐敗政治の根を断つのか、疑惑にふたをして、なおも抜け道を残すのか―。自民党派閥の裏金事件に対する政党の姿勢と争点が鮮明になっています。裏金事件を受けて新たに設置された衆院政治改革特別委員会での各党の意見表明(26日)です。 自民党の表明には驚きます。裏金事件の当事者だというのに真相解明の姿勢は皆無。違法な裏金づくりを「不適切な会計処理」という言葉で片づけました。これでどうして「再発防止策」を口にできるのか。日本共産党は、実効ある対策を講じるためにも証人喚問を含めた徹底的な真相解明を行うよう求めています。
 
■企業献金が温床
 裏金づくりの温床は企業・団体献金です。30年前、リクルート事件など相次ぐ金権腐敗事件のなか「政治改革」が唱えられ、企業・団体献金は「廃止の方向に踏み切る」(細川護熙〈もりひろ〉首相、1993年8月)とされました。 しかし「政党・政党支部への献金」と「政治資金パーティー券の購入」を認める二つの抜け穴を自民党などがつくりました。裏金づくりはこの抜け穴を利用したものです。再発防止にはこの90年代のニセ「政治改革」の検証も必要です。
 
 日本共産党は企業・団体献金も政党助成金も受け取らず、パーティー券購入を含めた企業・団体献金の全面禁止法案を90年代から国会に提出し続けてきました。政治をゆがめる企業・団体献金は断固として許さない日本共産党の立場はいまや改革の共通要求になり、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党も企業・団体献金禁止を打ち出しています。
 
■言い逃れの自民案
 一方、自民党は「企業は社会的存在」といって企業・団体献金を受け取る姿勢を露骨に見せました。公明党は言及すらしません。企業・団体献金への向き合い方一点をとっても、裏金事件に本気で対応しない姿勢が表れています。
 
 自民党は「議員本人への罰則強化」として、政治資金収支報告書に議員の「確認書」添付を義務付ける案を示しました。
 
 これは(1)会計責任者が処罰された際、(2)議員が適切にチェックせず確認書を交付したと認められれば罰則を科す、という二重のハードルがあり、対象は限定的です。「秘書が悪意をもってやった」と言い逃れる余地も残しています。
 
 政党から政治家個人に支出され使途の公開義務がない「政策活動費」を見直さず、「検討課題」にとどめ棚上げしています。野党の批判を受けしぶしぶ公表した自民党案は「抜け穴案」そのものです。
 
 日本共産党の案は明確です。▽すべての政治団体の代表者の監督義務を明記し、会計責任者らが違反した際には代表者にも同刑を科す▽「政策活動費」の禁止▽収支報告書要旨の早期公表と作成の義務化▽報告書の迅速な公開―など言い逃れを許さず徹底した透明化の改革を示しています。
 
 野党が一致できる対策は多く、協議を通じてただちに実現すべきです。企業・団体献金禁止をはじめ実効ある対策を実現させる力は、金権腐敗政治を許さない国民世論です。

 

政治家への課税、高いハードルなぜ?国税当局の判断は「正義」か 裏金議員への追徴1億3千万円試算の浦野広明税理士に聞く【裏金国会を問う】

 
 「とはいえ、今年に入って行われた地方選の投票率はおおむね30%台で推移しています。税への無関心は投票率の低さにも通じていると言えます。政治の主たる目的は、税の取り方と使い方を決めることです。裏金問題を契機に高まりつつある税への関心を一過性で終わらせないためにも『おかしい』と声を上げ、公平な課税に動かざるを得ない状況をつくることが重要です」
 
 
 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に端を発した「政治とカネ」の問題が連日国会で取り上げられている。そうした中で多く聞かれるのが、「派閥から議員側に還流され、政治資金収支報告書に記載されなかった『裏金』に税金を課すべきだ」という意見だ。 

  しかし、岸田文雄首相は「いずれも政治活動に使われた」として「課税の必要なし」の立場を崩していない。政治家への課税には、なぜ高いハードルがあるのだろうか。裏金を受領した議員らの追徴額は約1億3千万円に上る―。こうした試算を発表した元立正大法学部教授で税理士の浦野広明さんに聞いた。(共同通信=助川尭史)

  ▽利益率高い政治資金パーティー、課税対象では? 
 
インタビューに答える税理士の浦野広明さん

  ―政治資金には原則税金がかかりません。なぜでしょうか。
  「政治活動は『公益性がある行為』と見なされているため、かかった費用は課税対象になりません。一方で、政治家が個人的なことに使えば雑所得となり、課税対象になります」

  ―今回問題になった政治資金パーティーは、会場こそ豪華ですが、食事は唐揚げやフライドポテトなどのジャンクフードが中心で、利益率が相当高そうです。 

  「政治資金パーティーでは、参加者から集めた収入から経費を差し引いた残額を政治資金としています。しかし、裏金づくりの舞台になった自民党派閥の政治資金パーティーは利益率が8~9割に上るとされており、この割合の高さを考えれば、法人税の対象となる『収益事業』と見なしてもいいのではないでしょうか」
 
 
  ―安倍派を中心に、多くの議員が販売ノルマ超過分を派閥から受け取りながら、自身の政治団体の政治資金収支報告書に収入として記載していませんでした。安倍派では事務局が議員側に「記載するな」と指示していたそうです。「政治資金」と言えるでしょうか。

  「いえ、政治資金とは言えないと思います。使い道が何であれ課税対象にするべきでしょう」
 
 
  ▽何ら課税されない政治資金、違法な不作為だ

  ―政治家が「政治資金」と主張すれば、課税を免れる現状をどう考えますか。

  「日本の税務行政は以前から『弱きをくじき、強きを助ける』実態が続いています。昨年10月には消費税のインボイス(適格請求書)制度が始まりました。それまで消費税の納税を免除されていた零細事業者やフリーランスの多くは新たな負担を強いられています。国民に対する課税を強化する一方、政治資金には何ら課税をしないのは違法な不作為と言えます」 

  「課税するかどうかを判断する国税庁の中枢にいる財務官僚にとって、予算や税制に無批判に賛成してくれる与党議員はありがたい存在です。課税したり処罰したりするのではなく、『飼いならす』方が都合がよいのでしょう。手心を加えていると見られても仕方がないと思います」

  ▽背景に税への無関心、「おかしい」と声あげるべきだ

  ―確定申告シーズンと重なったこともあり、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件をきっかけに、政治家に対する納税者の不満が高まりました。インターネット上では申告拒否を呼びかける投稿が広がり、「#確定申告ボイコット」が一時トレンド入りしました。ただ、事件がなければこうした意見は上がらなかった可能性があります。 
 
  「問題の根底にあるのは、税に対する国民の関心のなさです。多くの人は勤務先から源泉徴収されていて『痛税感』が薄いです。税法は複雑で分かりづらいのに、解説する専門家は無試験で税理士資格を得られる国税OBや、財務省の見解に従う学者ばかりです。結果的に国税庁の判断が『正義』となり、長期にわたり誤りを正す機会が失われてきました」

  ―浦野さんは2月に、政治資金収支報告書に還流金を記載しなかった議員ら85人への追徴課税の総額が計約1億3500万円に上るとの独自の試算を公表しました。

  「還流金を受け取った議員の行為は悪質な所得隠しに当たり、全員が重加算税を課される、との前提で試算しました。国税当局は通常の税務調査と同様に政治家に対しても厳しく調べ、摘発対象とすべきです」
 
 ―事件をきっかけに税への関心が高まっています。 

 「とはいえ、今年に入って行われた地方選の投票率はおおむね30%台で推移しています。税への無関心は投票率の低さにも通じていると言えます。政治の主たる目的は、税の取り方と使い方を決めることです。裏金問題を契機に高まりつつある税への関心を一過性で終わらせないためにも『おかしい』と声を上げ、公平な課税に動かざるを得ない状況をつくることが重要です」

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 うらの・ひろあき 1940年北海道芽室町生まれ。専門は税法学。立正大法制研究所特別研究員。