自民党派閥の裏金事件を受けて設置された衆院政治改革特別委員会で、自民党が政治資金規正法改正に関する独自案を示した。

 野党同様、政治資金収支報告書への不記載・虚偽記載があった場合、会計責任者だけでなく議員本人も処罰される連座制の導入を表明したが、報告書の内容を十分に精査せずに「確認書」を交付した議員にとどまり、実効性ある法改正に積極的とは言えない。

 党総裁の岸田文雄首相は今国会での法改正実現を繰り返し言明するが、事件への反省や再発防止に向けた決意を疑うほかない。

 不記載・虚偽記載を巡っては、衆参両院の政治倫理審査会に出席した安倍派幹部ら9人全員が「知らぬ存ぜぬ」を決め込み、会計責任者任せだったと弁明した。

 

 言い逃れを許さないためには、野党各党と公明党は特別委で連座制が必要と主張し、自民党も「いわゆる連座制」導入を唱えた。

 自民党案は、収支報告書が適正に作成されたことを示す確認書の交付を議員本人に義務付けるが、会計責任者が不記載・虚偽記載で処罰され、議員が報告書の内容を十分に確認していなかった場合のみ議員にも刑罰を科し、公民権を停止するとしている。

 現段階では、どのような場合に議員が報告書の確認を怠ったと認定できるのかは不明。十分に確認したのに不正を見抜けなかったと釈明する抜け道が残るなら、実効性には疑問が残る。

 立憲民主党は政治資金パーティーの全面禁止に踏み込み、公明党は購入者名の公表基準額の引き下げを訴えたが、自民党は具体策には言及しなかった。

 ほとんどの野党が企業・団体献金の全面禁止を主張し、野党と公明党は政策活動費の使途公開や廃止も訴えたが、自民党はいずれも否定的な姿勢に終始した。

 自民党が独自案をまとめたのは特別委直前の23日。公明党との与党協議の決着は大型連休明けになるという。6月23日までの今国会中に法改正を実現させる決意はあるのか。実現できなければ、政治不信をさらに深めるだけだ。

 多くの関係者に影響を与える政治資金制度の改革は、党派を超えた合意に基づかねばならない。自民党に議論を主導する意思がないのなら、野党各党と公明党が率先して改正案を取りまとめ、自民党に受け入れを迫るべきである。

 

 

政治資金規正法改正、岸田・自民の“2大残念”はこれだ…「みみっちいスケール感」と「なんちゃって連座制」

 
 【この記事のポイント】

 ●国会で、政治資金改革にようやく焦点が当たり始めた。政権・与党は今国会で政治資金規正法を改正する道筋を描く。
 
 ●細川内閣で首相秘書官を務め、平成の政治改革に携わった成田憲彦・駿河台大名誉教授は「今国会で」と成立を急ぐ岸田首相の姿勢に、自民党の魂胆が見えると指摘する。

 ●本腰を入れて取り組むべき改革は何か。浮上している連座制や第三者監督機関の必要性はどう見るか。成田氏に聞いた。(JBpress)

 【前編から読む】
◎岸田首相は本当に二階氏に「重い処分」を下せるのか? 幕引き図る大規模処分は新たな火種に

■ 魂胆が透ける、極めて小さなスケール感

 ――裏金事件を受けた政治資金規正法改正に向け、国会がようやく動き出します。岸田首相は「今国会(6月23日会期末)で結果を出さなければならない」としていますが、どこに注目していますか。

 成田憲彦・元首相秘書官(以下、成田氏):まず、そもそも「今国会で」というところです。要するに、問題を小さく小さくしようとしているということです。政治改革はそんな小手先で済む問題ではありません。

 平成の政治改革は6年かかりました。その間に5つの内閣がかかわり、そのために2つの内閣がつぶれています。それくらいのスケールの問題です。

 それを「今国会で」なんていうのは、あまりに残念でみみっちい。できるだけこの問題を小さくして、早く終わらせてしまいたいと。そういう自民党の魂胆が見え見えです。

 そうした手っ取り早い法改正の手法として、「政治倫理・公選法改正特別委員会」(倫選特)を改組した「政治改革特別委員会」で議論していくことになりました。委員会で法案をまとめて提出する委員会立法という形式が考えられますが、これは極めてスケールが小さい。

 日本の国会において、委員会立法は最も透明性の低い立法形態だと言ってもいいでしょう。委員会が法案をまとめ、委員長が提出者になって成立させる形態ですが、その実態はというと、理事が中心になって決める。理事と言っても、与野党それぞれ1人ずつの筆頭理事による筆頭間協議が中心です。

 理事の構成で言っても少数野党まですべて網羅されているわけではありません。筆頭同士の話し合いとなれば自民と立憲の理事同士で終わりです。

 委員会立法が不透明だと言ったのは、こうした理事同士、筆頭同士でどういう協議が行われたのか、まったく表に出てこないからです。

 突如協議がまとまったと言って、委員会で法案の趣旨説明がなされ、委員会採決される。その後、本会議で討論もされず通っちゃう。質疑がないから、会議録を見たって中身は何もわかりません。

 メディアの報道はあるでしょうが、会議録という公式の記録では残らないのです。

 ――平成の政治改革はどのように進んだのでしょうか。
 
■ “交通違反を取り締まる機関がない”状態

 成田氏:まず、各政党が入った政治改革協議会というものを作りました。座長は自民党幹事長です。野党の方も、幹事長・書記長クラスが入ります。

 ここで大きな枠組みを話して、実務者会議の場で調整します。この実務者会議の座長は自民党政調会長で、野党各党の政調会長もこの場に入りました。

 海部内閣で発足し、実質的審議は宮沢内閣で行われましたが、最終的に21項目の緊急政治改革をまとめました。現在のパーティー券規制の内容は大体ここで決められました。

 そのほか平成の政治改革では、有識者による選挙制度審議会を発足させ、その答申を受けて政府法案を提出したり、野党も共同で法案を提出したりと大掛かりな態勢で取り組みが行われました。

 しかしそれでも実現できず、結局宮沢内閣の不信任案が可決され、政治改革政権としての細川内閣が成立しました。権力構造の転換があってはじめて、大規模な改革ができたわけです。

 それを、倫選特をちょっといじった委員会で議論し、今国会で成立だなんていうのは、さっさと片付けようというのが見え透いています。委員会立法で大きな改革ができるわけがない。国民を納得させるような改革なんてできません。

 ――改革の中身はどうでしょうか。本腰を入れて取り組むべき課題はどんなものが考えられますか。

 成田氏:最も大切なのは、行政監督機関の設置です。メディアや政党などは「第三者機関」と言っていますが、政治資金における第三者というといま一つよくわかりません。

 会社や団体での不祥事の調査などを行う第三者機関は、現場と経営部門以外の外部の機関という意味ですが、政治資金問題で第三者機関と言われているのは、正確にいえば政治資金を監督する行政機関のことです。

 政治を行政機関が監督するのかと言われるかもしれませんが、政治を丸ごと監督するわけではなく、例えば選挙の執行における違反を警察が監視、監督し、取り締まっているのと同じです。

 岸田さんは「政治活動の自由」ということを盛んに言っていますが、そもそも日本の政治資金規正法は政治活動を極端に重視した仕組みになっています。「そこのけ、そこのけ“政治活動の自由”が通る」という状態です。

 あるいは、元首相の選挙演説にヤジを飛ばした聴衆が警察に排除されるような状況を見れば、「政治活動の自由」でなく「政治家の自由」なのかもしれません。

 政治活動の自由と国民の知る権利とのバランスを取ると岸田さんは言いますが、政治活動の自由とバランスする相手は、そんな国民の権利の一部ではありません。主権者国民の主権の行使とバランスを取るべきです。

 そういう考えのもとで、ではいま何が具体的に問題かと言えば、違反を取り締まる行政機関がないということです。

 ビッグモーターが違反をした際には、国土交通省が立ち入り調査をしました。銀行や保険会社が不正をすれば、金融庁が立ち入り調査をします。

 ですが、政治資金の違反が疑われる事案があっても、立ち入り調査をする行政機関がありません。

 私は比喩的に、日本の政治資金規正制度は「道路交通法があって、交通違反を取り締まる機関がない状態」だと言っています。
 
■ 収支報告書「誤記載」には行政罰を

 ――政治資金規正法自体は総務省の所管です。

 成田氏:政治資金規正法に関して総務省は一切、監督権限を持っていません。政治資金収支報告書の提出があったら、形式的な違反だけはチェックしますが、中身がおかしいという口出しは一切できません。

 安倍派のヤミ金問題で所属議員たちが政治資金収支報告書の訂正をしましたが、総務省のホームページを見てください。

 訂正した収支報告書には「願により訂正」という総務省のスタンプが押してあります。

 ◎参考:総務省HP「政治資金収支報告書 令和5年11月24日公表(令和4年分定期公表)」

 あれだけの違反があっても総務省には、訂正を命じる権限はないのです。目に余るものは検察が立件します、という話になってしまっているわけです。

 諸外国は監督機関を設けています。アメリカなら「連邦選挙委員会」、イギリスなら「選挙委員会」という監督機関があり、立ち入り調査や制裁による監督権限が認められています。

 今回の裏金事件では、収支報告書の訂正だけすれば何でも済んでしまうということが批判されました。虚偽記載には刑事罰が適用できますが、誤記載に刑事罰を適用するのは過失罪を法定しない限り無理でしょう。

 行政監督機関を設置すれば、誤記載に対する行政罰を設けることもできます。例えば、反則金だとか、政治資金パーティーの1回禁止だとか、政治資金の受領3か月停止、といった行政罰が考えられるでしょう。

■ もし監督機関があれば、森派ヤミ金問題も…

 安倍派(清和政策研究会)の裏金事件で森喜朗元首相が注目されていますが、森派時代の1998年から2003年まで、森派は「餅代・氷代」と呼ばれる派閥議員への活動資金をヤミで配っていました。

 議員はみな「派閥からもらっている」と言うのに、収支報告書に出てこなかった。それをしんぶん赤旗が報じました。

 実際、当時は大きな問題にならなかったのですが、それは刑事告発がなかったからです。検察はそれなりの根拠で固められた告発やしかるべき端緒がなければ動けません。

 その一方で、行政監督機関なら事情聴取ができるでしょう。だから監督機関が必要なんです。

 新設でコストがかかるということであれば、中央選挙管理会に併設するような形でもいいでしょう。

 何度も言いますが、今国会で倫選特を改組した透明性の低い委員会でちょこちょこっと話し合ってするような改革ではダメです。

 抜本的な改革を、1~2年かけてきちっと整えていく。特に行政監督機関を設置するとなると法案は政府提出にならざるを得ず、政府提出にするためには選挙制度審議会をやる必要があるので、それなりに大掛かりな作業になるでしょう。

 岸田さんが本当に取り組むべきことは、そのための道筋を作ることです。
 
■ 自民案「連座制」が機能しないわけ

 ――実際に各党から浮上している改革案の中では、連座制の導入が検討されています。

 成田氏:連座制は必要だと思っています。ぜひ、おやりになってもらいたい。

 現在、公職選挙法で導入されている連座制は、幹部運動員が選挙違反をして罪に問われた場合、不正な選挙によって議員になった者の当選を取り消すという仕組みです。

 政治資金の不正に対しても同じようなペナルティを課すことはなじまないのではないかという声が、自民党あたりで出ていますが、連座制をやらないための口実のような気がします。選挙の連座制について、最高裁はそんな理屈を言っているわけではないからです。

 公選法の連座制の合憲性が問われた、平成9年3月の最高裁判決があります。連座制は憲法違反ではないかという訴えを、最高裁は棄却しました。

 ◎参考:最高裁判所「平成9年3月13日第一小法廷最高裁判決」

 民主主義の根幹をなす選挙の公明かつ適正を確保するという重要な法益を実現するために導入された仕組みだとして、合理性を認めました。法律の目的・手段が著しく不合理でない限り、立法府の判断を尊重するという考え方です。

 ですから、政治資金規制制度が国民の信頼を揺るがしている昨今の現状を鑑みれば、政治資金の違反に対し議員の公民権を停止するといったペナルティを課すことを、最高裁は許容すると見ています。

 ――議員による「確認書」の作成を義務付けるという今回の自民党の「いわゆる連座制」の案を成田さんはどう見ていますか。

 他の法律の分野でもそうですが、特に政治資金に関する立法では、政治はいいことを言って、いざできてみると確かに言葉じりではあっているけど、中身は国民が期待したものと全然違うということが繰り返されてきたことを思い出すべきです。

 平成の政治改革で企業団体献金は政党に対するものに限るとなりました。確かにそうなりましたが、議員が支部長の選挙区支部も政党だとなり、議員はもうひとつ財布を握ることになりました。

 2007年に国会議員関係政治団体は、収支報告書の提出にあたって公認会計士や税理士などの登録政治資金監査人の外部監査を受けなければならないことになりました。

 これも確かにそうなりましたが、監査人がやれることは帳簿に記載された支出と領収書がマッチしているかだけ。この支出が政治資金として適当かとか、支出が収入と符合しているかといった疑義を呈することは禁じられています。

 今度の確認書も、連座的効果を発揮するのは確認もしないで確認書にサインしたときだけです。すると極端な話、秘書にまかせっきりはアウトだけれど、秘書と共謀して虚偽記載をしたときは、共犯の立証がない限りセーフということになります。議員は新たな隠れ蓑を手に入れることになります。

 どれだけ事態が改善するのでしょうか。

 ――成田さんが携わった平成の政治改革以降も政治とカネの問題が相次いでいる現状をどう見ていますか。
 
■ ザルの目は小さくなっても水は漏る

 成田氏:平成の政治改革を経ても、「政治資金規正法はザル法のままだ」と言われます。何かあって穴をふさいでも、別の穴が開いていると。

 とはいえ、ザルの目はどんどん小さくなっているのも事実です。政治家個人への企業献金禁止によって、全体としての企業献金の額は大きく減りました。

 以前は政治とカネといえば贈収賄でしたが、今は虚偽記載が中心です。贈収賄の手前で網がかかるようになっているのです。

 ですが、どんなにザルの目を小さくしても水は漏る。じゃあ全部ふさごうというと、社会主義国の密告制度のようになってしまう。日本にはなじまないでしょう。

 平成の政治改革で残された課題もたしかにありますが、大事なのは、時代の変化に伴って生じる問題に対して不断の政治改革で対応していくという発想ではないでしょうか。

 民主主義の公明性や公平さ、誠実さをどう確保していくのか。そして、派閥という権力を取り払って、これからどうやって大きな政策を動かそうとするのか。

 こうしたビジョンを一体的に描いた改革を、自民党をはじめ各党に求めたいと思います。

 そして自民党がやり切れないとき、政権交代をしてそれを実現したというのが、平成の政治改革の最大の教訓です。

JBpress