「原発はもう、あり得ない」福島から避難した新潟でまた…柏崎刈羽再稼働に前のめりな国や東京電力への怒り

 
地震国という危険
 能登半島地震では、北陸電力志賀原発(石川県)で変圧器が壊れて外部電源の一部を失うなど深刻なトラブルが続出しました。現行の避難計画が机上の空論であることも浮き彫りになりました。道路が寸断されれば逃げられず、家が壊れれば屋内退避もできません。

 日本は世界有数の地震・津波国です。福島原発事故でも能登半島地震でも明らかなように、日本で原発を稼働させることはあまりにも危険です。日本社会の現在と将来のために、原発回帰の自民党政治を終わらせ、原発ゼロの日本をつくりましょう。
 
 
 東京電力は、柏崎刈羽原発(新潟県)7号機への核燃料の装塡(そうてん)を26日に完了させ、再稼働に前のめりな姿勢を崩さない。福島の事故で福島県から新潟市に避難した被災者らは「福島の廃炉も見えず、能登半島地震のように地震が頻発する中、再稼働するというのか」と強い反対の声を上げる。(片山夏子)
 
◆能登半島地震で恐怖がフラッシュバック
 福島県郡山市から新潟市に避難した高橋真由美さん(52)は能登半島地震の長く激しい揺れの中、東日本大震災と原発事故を思い出した。避難先の新潟市西区は震度5強を記録。「柏崎刈羽は大丈夫か」と頭によぎった。震災時4歳だった娘(17)は当時の恐怖がフラッシュバックして泣きじゃくり、呼吸がうまくできなくなった。

 「逃げろー」。家は海から2キロ。津波がすぐ来るとのニュースを見て飛び出したが、駐車場の側溝が20センチほど隆起し段差などで車が出せなかった。家族4人で車を持ち上げ、何とか避難した。

 高橋さんは13年前、テレビで福島第1原発3号機の爆発を見て恐怖を覚えた。当時4歳と7歳の子どもたちを考え、母子避難を決めた。慣れぬ環境、不安定になった子どもたち、新しい仕事…。3年後に夫と一緒に暮らせるようになるが、心身の疲れがたまり一時はパニック障害に。故郷や人間関係など失ったものは大きく、今も将来が見えずに不安が付きまとう。
 
 能登の被害を見て事故時の避難は不可能だと感じた。各地で大きな地震が頻発しているのに、まだ原発に頼るのかと高橋さんは絶望的な気持ちになる。「原発はもうあり得ない。ましてや柏崎刈羽は世界最大級の発電所。事故が起きたら福島どころではない。人命優先ならば再稼働という答えはでないはずだ」
 
◆風呂場で泣いた息子…同じ思いはさせたくない
 原発事故後、郡山市に住んでいた女性(55)は自宅の放射線量の高さに驚き、夫と幼い3人の子と新潟市に避難した。子どもたちは新しい環境になじむのに時間がかかった。いじめられた長男が風呂場で「福島はよかった」と1人で声を上げ泣いたときは胸が痛んだ。次男はイライラして不安定になり、学校に呼び出される日が続いた。二度と他の人に自分たちと同じ思いはさせたくないと、柏崎刈羽の運転差し止めを求めて裁判で争っている。

 福島の家も新潟の家も原発まで約60キロ。「賠償金の支払いや経営再建のための再稼働なら、また事故が起きたらどうするのか。そもそも福島の廃炉が見えず、まだ避難している人たちも大勢いる中で、東京電力に原発を動かす資格があるのか」

 東京電力が地元自治体の同意を待たずに核燃料を装塡したことに「何が何でも動かすという強い意志を感じる」。今後の焦点となる新潟県の花角英世知事らの判断に向けて願う。「国民がどんなに反対の声を上げても国は聞こうとしない。知事は福島事故や地震頻発の現状を見て、不安の声を受け止めてほしい」
 
 
主張
柏崎刈羽原発
再稼働の動き 世論で止めよう

 
 福島第1原発で世界最悪レベルの事故を起こした東京電力が再び原発を稼働しようと動いています。東電が新潟県・柏崎刈羽原発7号機原子炉に核燃料を装填(そうてん)し、原子炉起動に向けた使用前検査を進めています。

 同原発は、テロ対策の不備を理由に原子力規制委員会から核燃料の移動を禁じられていました。昨年12月に禁止命令が解除されたことから、東電は、地元同意の見通しがないまま核燃料装填にふみきりました。既成事実を積み上げて再稼働へと突き進もうという執念は軽視できません。

■政府が強く後押し
 今年3月には、東電から今後の対応方針について報告を受けた斎藤健経産相が、花角英世新潟県知事、桜井雅浩柏崎市長、品田宏夫刈羽村長に電話で再稼働への理解を求めました。資源エネルギー庁長官らも現地に出向きました。

 政府と東電が一体となって再稼働への動きを強めていることは重大です。福島原発の事故も被害も終わりが見えないもとで、東電が原発を再稼働させることは許せません。県民、国民の大きな世論と運動で政府と東電の動きをはね返す必要があります。

 原発回帰に舵(かじ)を切った岸田文雄政権は「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月閣議決定)で、「国が前面に立って」環境整備に取り組み再稼働を進めると宣言し、経産省幹部が足しげく新潟県に通うなど柏崎刈羽原発の再稼働を強力に後押ししてきました。

 テロ対策の不備や不正が相次ぐ東電への不信は根深いうえ、住民の間には能登半島地震で地震による原発事故への不安が強まっています。東電による住民説明会では避難路や屋内退避などへの不安の声が多く出されました。住民の思いを無視して再稼働に突き進む政府と東電の姿勢には新潟県内の首長からも懸念の声が出されています。

 新潟県は、福島原発事故の原因、健康と避難生活への影響、避難方法の「三つの検証」を行い、多くの課題が示されました。

 花角知事は「三つの検証が終わるまで再稼働の議論はしない」「再稼働の是非は県民に信を問う」と公約してきたこともあり、柏崎刈羽原発の再稼働について態度を明らかにしていません。しかし知事は昨年、検証総括委員会を廃止し、「三つの検証」の幕引きを図りました。予断を許さない状況です。再稼働の是非を議論するうえで、福島原発事故の検証は不可欠です。「三つの検証」をあいまいにせず、県民的な議論を行うべきです。

■地震国という危険
 能登半島地震では、北陸電力志賀原発(石川県)で変圧器が壊れて外部電源の一部を失うなど深刻なトラブルが続出しました。現行の避難計画が机上の空論であることも浮き彫りになりました。道路が寸断されれば逃げられず、家が壊れれば屋内退避もできません。

 日本は世界有数の地震・津波国です。福島原発事故でも能登半島地震でも明らかなように、日本で原発を稼働させることはあまりにも危険です。日本社会の現在と将来のために、原発回帰の自民党政治を終わらせ、原発ゼロの日本をつくりましょう。