米英豪3カ国の安全保障枠組みAUKUS(オーカス)。日本が初のパートナー国として協力する見通しになった。中国に対抗するため創設された枠組みへの日本の技術協力が東アジア情勢の緊迫に拍車をかけないか、慎重な対応が必要だ。

 21年創設のAUKUSの「第1の柱」は米英が非核保有国の豪州に原子力潜水艦(原潜)8隻を配備することで、既に独自の次世代型原潜の設計が始まっている。

 日本の協力は「第2の柱」とされる先端軍事技術の分野。極超音速兵器や人工知能(AI)、量子技術などへの協力と資金拠出が想定され、年内にも具体的な協力内容が検討される見通しだ。

 ただ、日本と同じパートナー参加に意欲を示すカナダとニュージーランドは、米英豪とともに英語圏の機密情報共有枠組み「ファイブ・アイズ」のメンバー。日本がAUKUSと軍事技術の連携を強めれば、いずれ厳しい情報管理を求められ、国際諜報(ちょうほう)網に組み込まれる懸念すらある。

 

 現在、原潜を配備するのは米英中仏ロ印の核兵器保有6カ国。豪州に配備されれば非核保有国として初めてとなる。動力とするウラン燃料は核兵器への転用が容易なため核拡散防止条約(NPT)に抵触する恐れもある。

 原潜は長期間の潜航が可能で、核弾頭を搭載する弾道ミサイルも装備できる。豪州への配備は、海洋進出の動きを強める中国との間で新たな緊張を生みかねない。

 非核三原則を堅持する日本は原潜保有に至らないとしても、先端軍事技術への協力は新兵器開発や軍拡競争を加速させるだろう。

 中国外務省は、AUKUS拡大に反発し、日本の協力に対しても「歴史の教訓をくみ取り、軍事・安保分野の言行を慎まなければならない」とくぎを刺している。

 日本は英国・イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出を解禁したが、紛争に使用される可能性もある。軍事技術の協力は常に戦争と隣り合わせだ。戦後日本の「平和国家の歩み」を踏み外す振る舞いをしてはならない。

 

 

 

<社説>新潟水俣病判決 国の責任を問わぬとは

 

 
 国の責任を認めなかった点に、強い違和感が残る判決だ。

 新潟水俣病に苦しむ原告が水俣病特別措置法(特措法)の対象から外れ、救済を受けられなかったのは違法だとして、国と原因企業・旧昭和電工(現レゾナック・ホールディングス)に損害賠償を求めた訴訟で、新潟地裁は原告47人のうち26人の罹患(りかん)を認め、同社に約1億円の賠償を命じたが、国への賠償請求は退けた。

 新潟県・阿賀野川下流の沿岸で水俣病が公式確認されたのは、1965年。原告は、各地で同種工場の排水の水銀測定結果が出た61年までには、国が規制権限を行使すべきだったと訴えた。しかし判決は、同年の時点では、国に工場からの水銀排出や住民の健康被害を具体的に予見できたとはいえないとして、その主張を退けた。
 
 だが、56年には熊本県で水俣病が公式確認され、65年より前には原因も明らかになっていた。新潟でも既に健康被害が出ていたのだから、原告の主張はもっともではないか。同趣旨の訴訟は全国4地裁で起こされたが、原告勝訴だった昨年9月の大阪地裁判決はもとより、賠償請求権が消滅する20年の「除斥期間」が過ぎていたとして、原告敗訴だった今年3月の熊本地裁判決ですら、国の責任を認めている。その点から見ても、今回の判断には疑問が残る。
 ただ、今判決が、原告らの提訴が遅れたのは「差別や偏見で旧昭和電工への請求を躊躇(ちゅうちょ)していた事情もある」と酌み、「正義・公平の理念に反する」と除斥期間を適用しなかった点は評価できる。結果、水俣病に罹患していると判断した一部原告への賠償を認めた。

 水俣病に関し、国は当初、重症者だけを患者認定していたが、中軽度の症状に苦しむ人の訴訟が相次ぎ、最高裁が2004年、国の責任を認めた上で、認定基準を国より緩やかに解釈する判断を示した。これを受けて09年、対象を広げる特措法が成立したが、その適用からも外れた住民が一連の訴訟を起こした。

 これまでの3判決は、国の責任や、除斥期間のとらえ方、診断に使われてきた「共通診断書」への評価でも分かれ、司法判断が錯綜(さくそう)している。ただ、判決内容にかかわらず、国が「あたう(できる)限り救済する」とうたう特措法の精神に則(のっと)った被害者救済に手を尽くすべきなのは言うまでもない。
 
 

環境大臣「科学的な知見に基づかない」 新潟水俣病判決で一部を患者認定に

 
 
「新潟水俣病」の裁判で、19日、新潟地裁は原告の一部を水俣病の患者と認める判決を出しました。

この判決に伊藤環境大臣は、「科学的な知見に基づいていない」と主張しました。

「新潟水俣病」の症状がありながら国による救済を受けられなかったとして、149人が、国や原因企業の旧昭和電工を相手に取って損害賠償を求めていた裁判で、新潟地裁は18日、原告のうち47人について判決を言い渡しました。

判決は26人を「新潟水俣病」だと認めて原因企業に賠償を命じた一方、国の責任は認めませんでした。

【伊藤信太郎環境大臣「国際的な科学的知見に基づかない理由等により原告を水俣病と認めている」】

一方、伊藤環境大臣は19日、新たな患者を認めた判決に「科学的でない」と主張しました。

公害をめぐり新たに患者を認める司法の判断が全国で続いていて、伊藤大臣は今後の対応について、「法の不備であれば、立法府で検討頂くことが必要になる」と、環境省が主体的に検討する考えは否定しました。

テレビ朝日報道局