助けて、交付金大幅減額で国立大学が壊れる~それなのに半導体企業に巨額補助とは

たった300万円のトイレ改修費もクラウドファンディング頼り

 

国立大学法人化で運営費交付金が減らされ国立大学は窮地に陥っている。他方で半導体企業には運営交付金総額を超える額の補助が支出されている。民間の収益事業に巨額の補助金を出す一方で国の将来を担う人材育成のために不可欠な大学の経費を減らすのはどう考えてもおかしい。

 

目先の事のみの政府の教育政策、そして政治が教育会へ介入していく。欧州では大学教育は殆どが奨学金が無償。未来を据えて投資しているのである。日本の大学が世界の流れに追いつかないのは貧しい政策に大きな責任がある。軍事関係研究には補助金増し、文化系は削減が続いているのも異常な姿勢だ。

 

 

 

国立大学法人化で、運営費交付金が大きく減らされ、国立大学は窮地に陥っている。他方で、半導体企業には、運営交付金総額を超える額の補助が支出されている。民間の収益事業に巨額の補助金を出す一方で、国の将来を担う人材育成のために不可欠な大学の経費を減らすのは、どう考えてもおかしい。

 

2004年に国立大学が法人化されてから、今年の4月で20年になった。この間に、国から配られる運営費交付金が大きく減った。

運営費交付金とは、施設整備費、人件費、光熱費、教育研究費、実験や実習に必要な物品購入費、図書購入費などに使われる国からの交付金。これが、2004~15年度の間に1470億円減額した。2022 年度の運営費交付金総額は1 兆 675 億円だ。

2024年4月8日の朝日新聞の記事「減る交付金、あえぐ国立大」などによると、大学の困窮度は、つぎのように深刻だ。

まず、人件費を抑えるために、任期付教職員が増えた。23年度の任期付き教員の割合は32.3%と、ほぼ3分の1にもなる。任期付き教員の増加は、雇用を不安定化させ、成果の出やすい研究に走る研究者を増やすと指摘されている。

 

運営交付金が減額された結果、さまざまな問題が生じている。金沢大学は、昨年、トイレを改修するためにクラウドファンディングを実施した。2カ月で355万円を集めたが、SNSでは「どんだけお金ないのよ……」などと驚きの声が広がったという。

世界の状況は、日本と逆だ。日経新聞の記事(資金不足で大学の層薄く 自立と国際開放に光、2024年4月2日)によれば、2022年の科学技術予算は、00年比で、日本は1.3倍にとどまるのに対して、ドイツが約3倍、韓国は約8倍に増加した。

 

外部資金依存増加で研究時間が減少、論文数順位低下
運営費交付金が減少したため、外部資金収入は07年度の2841億円から、22年度の7036億円にまで増えた。これは、大学間格差を広げた。外部資金を獲得しやすいトップクラスの大学はいいが、単科大など、外部資金の獲得が進まないところもある。地方大学では、研究環境が悪化して研究を進めにくくなったところが多い。

国は10兆円規模の大学ファンドから支援する国際卓越研究大学制度を始めたが、これを得られる大学はごく限定的だ。

競争的資金への依存度が高まった結果、その申請作業に多くの時間が取られるようになり、研究のための時間が減少している。

文部科学省の調査によると、職務時間のうち研究活動が占める割合は、国立大で02年には50.7%だったが、18年には40.1%に減少した。

研究時間の減少は、研究成果に深刻な影響を与えている。

注目度が高い「Top10%論文」(被引用数が各分野上位10%)数の国別順位が、4位から13位に落ちて、G7諸国では最下位になるなど、日本の研究力は低下した。

 

一方、TSMCやラピダスに1兆円規模の補助金
大学への交付金が減らされている一方で、半導体企業への支援が急増している。2023年度補正予算に盛り込まれた半導体産業への支援は、約2兆円にのぼる。熊本に誘致したTSMCの工場建設では、4760億円もの補助金が支出され、さらに積み増されて、1.2兆円になった(朝日新聞 2023年11月23日「1社だけに異例の補助金1兆円 半導体復権へ、支援合戦に加わる日本」)。

ここで製造するのは、約10年前の技術を用いる半導体であり、いま世界中で話題となっている最先端半導体ではないにもかかわらず、先に見た国立大学運営交付金を超える巨額の補助が、一民間企業に対してなされるのだ。

2023年度補正予算では、ラピダスへの支援が積み増しされた。同社は、国産半導体の新会社。まだどこでも実現していない2nm半導体の生産を目指す。

国の基金に最大6773億円が積み増された。すでに3300億円の補助が決まっていたため、国費で1兆円規模が投じられることとなる 。技術開発の初期投資として見込まれる2兆円のほぼすべてを、国の補助でまかなう。

一方、民間からの出資はごくわずかだ。これは、同社が目指す先端半導体の生産はとても無理だろうという民間企業の判断を反映したものだろうと言われている。

 

半導体企業補助に3年間で3.9兆円
4月10日の日本経済新聞の記事「半導体支援、日本手厚く GDP比0.71%」は、つぎのように伝えている。財政制度等審議会の4月9日の分科会に財務省から提出された資料によると、半導体企業への補助は、この3年間で3.9兆円となった。これは、GDPの0.71%になる。

支援策は補正予算に計上されている。補正予算では、事業の必要性を厳しく査定する時間の余裕が乏しく、規模が膨らみやすいと言われる。

半導体産業への支援は、米欧より手厚い。アメリカの支援額は5年間で7.1兆円であり日本を上回るが、GDP比では0.21%と3分の1以下でしかない。フランスは5年間で0.7兆円と0.2%であり、ドイツも2.5兆円で0.41%となっている。

 

国策会社は失敗の歴史
これまで、半導体や液晶の分野で、経済産業省の支援によっていくつもの国策会社が作られた。しかし、それらは「失敗の歴史」以外の何物でもなかった。

1999年、NEC と日立製作所のDRAM事業部門が統合して、NEC日立メモリが設立された。その後、社名を「エルピーダメモリ」に改名し、三菱電機の半導体事業も統合した。同社は、2008年のリーマンショック後の市況悪化で経営が悪化。300億円の公的資金が投じられたが、経営破綻した。

JDI(日本ディスプレイ)は、2012年4月、日立製作所、東芝、ソニーの液晶パネル部門を統合し、官民ファンドの産業革新機構から2000億円の出資を得て発足した。14年3月に東証1部に上場を果たしたものの、その後、最終損益で黒字を出したのは初年度だけだった。

 

Curiouser and curiouser
大学がトイレ改修のための300万円を調達するのに苦労しているというのに、一私企業に対して、大学運営交付金年額を超える額を補助する国は、どう考えても、まともではない。

半導体がいかに重要であるといっても、民間の収益事業だ。それに巨額の補助金を出す一方で、国の将来を担う人材の育成のために不可欠な大学の経費を減らすのは、どういうわけか?

本来であれば、国のトップに立つ人が予算全体を見渡し、バランスを失していないかどうかをチェックすべきだ。

ところが、我が国の首相は、TSMC熊本工場を訪れて、「全国を元気にしていく」と言っている。

アリスが迷い込んだ不思議の国では、すべてがおかしいので、アリスは、文法を間違えて、Curiouser and curiouserと叫んでしまった。私も同じだ。近頃の日本を見ていると、Curiouser and curiouser以外の言葉が出てこない。

 

 

主張
国立大法人化20年

 

失敗を検証し抜本的な転換を
 「教育研究の土台を壊す」―多くの大学関係者の反対を押し切って、自公政権が国立大学を法人化してから20年がたちました。懸念は現実のものとなり、「法人化は失敗した」という評価はメディアでも一致しています。失敗を検証し、大学政策を抜本的に転換することは急務です。

 法人化は、小泉政権による「大学の構造改革」(2001年)の梃子(てこ)として打ち出されました。「経済再生のため…世界で勝てる大学をつくる」として、大企業などにより短期的に実用化できる研究成果を生み出す大学を重点的に育て、それ以外は切り捨てる「選択と集中」を推進しました。

■研究の環境を破壊
 国立大学は、人件費や光熱費などにあてる運営費交付金が20年間で1631億円(13%)削減され、大学外から調達する競争的資金に依存せざるを得なくなりました。資金獲得の書類作成に忙殺され、教育や研究のための時間は減っています。地方の国立大学は存続さえ危ぶまれる経営困難に直面し、最低限の研究費すら確保できない状況です。

 国立大学だけで約2万人の常勤教員が任期付きに置き換わり、腰を据えて挑戦的な研究を行う環境がなくなってきています。そのため注目される質の高い研究論文数は、20年前の世界4位から13位に転落しました。法人化は大学の活力を弱めただけでした。それが、研究力の低下という現実となって表れています。

 法人化の問題点は、大学の設置者を国から法人に移し、国の財政責任を後退させるとともに、国の大学への統制を強めるコストカット型の「選択と集中」を可能にしたことです。

 「選択と集中」は、国公私立大学にわたって及んでいます。定員割れの私立大学に対する経常費助成を減額するペナルティーを強化し、地方や中小の大学をつぶそうとしています。

■予算増やす諸外国
 日本は大学予算を抑制していますが、諸外国は大幅に増やしています。2000年を1として各国通貨による大学部門の研究開発費の名目額を見ると、日本は1・0で伸びていません。一方、米国2・8、ドイツ2・5、フランス1・9、中国19・0、韓国6・0と大きく伸ばしています。

 国立だけでなく公立私立大学に対する国の財政責任を強化し、大学予算を増額に転じる改革が急務です。

 国立大学運営費交付金には人事院勧告に準拠して人件費を増やす仕組みがありません。かつて国立大学は「積算校費」の単価増額で物価高などに対応し、教職員給与を増やしてきました。

 岸田政権は「賃金が持続的に上がる好循環」「コストカット型経済からの脱却」をうたっています。ならば、国立大学交付金や私大助成を増額し、学費値上げに頼らず正規雇用の教員を増やせるようにして研究力の回復をはかるべきです。

 日本はGDP(国内総生産)が世界4位なのに、高等教育予算はOECD(経済協力開発機構)加盟38カ国で最下位クラスです。これが高学費の原因であり、少子化の要因です。少子化を理由に大学の再編・統合を迫るのではなく、経済力にふさわしく大学予算を拡充することこそ求められています。