経済安全保障上の機密情報を扱う民間人らを身辺調査するセキュリティー・クリアランス(適性評価)制度の導入を柱とした重要経済安保情報保護法案の反対集会が19日、東京・永田町で開かれた。

 「『秘密保護法』廃止へ!実行委員会」など2団体が共催し、約30人が参加。秘密保護法対策弁護団の海渡雄一弁護士とジャーナリストの青木理さん、評論家の佐高信さんが鼎談(ていだん)した。

 

 海渡弁護士は、経済安保の名の下に広範な情報や先端技術が機密指定される恐れがあると指摘。「科学技術研究の自由が失われて日本の国力を衰退させるのではないか」と危惧した。
 青木さんは、軍事転用可能な装置を不正輸出した疑いをかけられ、後に捜査の違法性が認められた大川原化工機事件に言及。「経済安保という旗が、この冤罪(えんざい)事件をつくる原動力になった。公安警察に膨大な権限を与える法案を通していいのか」と訴えた。佐高さんは法案が経済活動に与える影響を懸念し、「競争や資本主義を否定するものだ」と述べた。

 実行委によると、集会のオンライン視聴者は1000人を超え、担当者は「関心は確実に広がっている。廃案への道を切り開く」と話した。(山中正義)

 

 

 

「主体的判断、余地なくなる」 自衛隊と米軍の連携強化、学者が批判

 
 
 岸田文雄首相が訪米した際、日米両国の共同声明で自衛隊と米軍の「指揮統制」の連携強化を打ち出したことに対し、憲法学者や政治学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」は19日、国会内で会見し、「安全保障政策上の主体的な判断の余地が全くなくなる可能性さえ予期される」と批判する声明を発表した。

 共同声明では、指揮統制の連携強化の目的を「(米軍と自衛隊の)作戦と能力のシームレスな統合を可能とするため」としている。林芳正官房長官は会見で「自衛隊が米軍の指揮統制下に入ることはない」と説明していた。

 この点について、同会の声明では「有事には実質的に米軍の指揮統制下に自衛隊が組み込まれることになる」と指摘。「指揮統制機能の一体化が進めば、米国の判断で始めた戦争に自衛隊が追認して出動するほかなくなる」との懸念を示した。

 会見した中野晃一・上智大教授(政治学)は「日本が主体的な安全保障(政策)を(遂行)できないという事態になる危険性がある」と指摘した。


 

経済安全保障分野に秘密保護法制を拡大することに反対する会長声明


1   重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案の内容と問題点
 本年1月19日の「経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議」の最終とりまとめを受け、政府は、同年2月27日、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(以下、「本法案」という。)を閣議決定し、国会に提出したと報じられている。

 しかし、本法案には、以下のように重大な問題がある。

 まず、本法案は、重要経済基盤保護情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため特に秘匿する必要があるものを、重要経済安保情報として指定する。しかし、その範囲は抽象的で、極めて広範かつ不明確であり、恣意的な秘密指定の危険がある。

 本法案は、重要経済安保情報の漏えいについて5年以下の拘禁刑、500万円以下の罰金刑を設けると共に、機密性が特に高い情報の漏えいについては特定秘密保護法を適用して1 0年以下の拘禁刑となるとされる。しかし、上記のとおり構成要件が不明確であり、罪刑法定主義の観点からも問題がある。重要経済安保情報を取得する行為についても、5年以下の拘禁刑、500万円以下の罰金という重い刑罰を設けている。さらに、漏えい又は取得行為について共謀・教唆・煽動した者も処罰対象としている。ジャーナリストや市民が情報を取得しようとする場合に萎縮効果が生じ、知る権利を害するものである。

 また、特定秘密保護法の適性評価は主に公務員が対象であったが、本法案ではサプライチェーンや基幹インフラに関与する多数の民間事業者、先端的・重要なデュアルユース技術の研究開発に関与する大学・研究機関・民間事業者の研究者・技術者・実務担当者など、広範な民間人が適性評価の対象となることが想定されている。本法案の適性評価制度により、秘密を取り扱う評価対象者がセンシティブな情報を開示させられるだけでなく、その家族、同居人などまでプライバシーが侵害されるおそれがある。なお、適性評価を受けるに際して本人から同意を得るとされるが、これを拒めば、企業等が取り組む研究開発や情報保全の部署から外されたり、企業等の方針に反するものとして人事考課・給与査定等で不利益を受けたりする可能性も否定できない。

 これらの危険や不利益を避けるためには、秘密指定や適性評価が適正になされているかをチェックするための政府から独立した第三者機関の設置が必要不可欠であるが、本法案にはそれも盛り込まれていない。

2   秘密保護法制をめぐる当会の立場
 当会は、2012年4月25日に「秘密保全法案に反対する会長声明」、2013年11月13 日に「特定秘密保護法案に反対する会長声明」、同年12月11日に「特定秘密保護法の強行採決に抗議する会長声明」、2014年12月11日に「『特定秘密の保護に関する法律』の施行に反対し、同法の廃止を求める会長声明」を発して、特定秘密保護法の制定に強く反対し、同法の制定後も、同法には表現の自由、知る権利、プライバシー権、罪刑法定主義、適正手続などの面から重大な問題があることを指摘して、廃止を求めてきた。

 3    結語

 本法案についても、表現の自由、知る権利、プライバシー権、罪刑法定主義、適正手続などの面から重大な問題があることは、特定秘密保護法と全く同様である。加えて、特定秘密保護法では特定秘密の指定状況に関する国会報告が規定されているが、本法案ではそれを規定しないこととされ、秘密が恣意的に拡大するおそれがより高いと言わざるを得ない。

 仮に、経済安全保障分野について、国民的な議論を経た上で限定的な秘密保護法制が必要とされる場合があったとしても、上記の各問題点を払拭するための抜本的な修正をし、基本的人権が侵害されることのないよう制度的保障が明文化されなければならない。そのような制度的保障のないまま、経済安全保障分野にセキュリティ・クリアランス制度を導入し、秘密保護法並みの厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することに反対する。

 当会は、本法案の成立に強く反対するものであり、今後、本法案に反対する様々な取り組みを行う決意である。

 

2024年3月7日

神奈川県弁護士会

会長 島崎 友樹

 

衆院本会議 経済秘密保護法案

塩川議員の反対討論

 日本共産党の塩川鉄也議員が9日、衆院本会議で行った経済秘密保護法案(重要経済安保情報法案)に対する反対討論の要旨は次の通りです。


 本案は米国などの同盟国・同志国と、兵器の共同開発を推進するものです。

 

 米国が策定した「国家防衛産業戦略」は「同盟国・同志国の強固な防衛産業は、米国国防総省の統合抑止の礎石であり続ける」と掲げています。岸田政権は日英伊の次期戦闘機「GCAP」、日米の極超音速兵器を迎撃する滑空段階迎撃用誘導弾「GPI」、米英豪の「AUKUS(オーカス)」との兵器の共同開発を進めようとしています。本案は、秘密保護法の範囲外である「コンフィデンシャル」級の情報まで秘密の範囲を広げることで同盟国・同志国と同等の秘密保全法制を整備しようというものです。

 

 米国などの同盟国・同志国と財界の要求に応えて、兵器の共同開発・輸出を進め、日本を「死の商人国家」にしようというのが本案です。断じて許すわけにはいきません。

 

 米国のキャンベル国務副長官は明日(10日)の日米首脳会談で、「極めて重要な防衛装備品の共同開発・共同生産を協議する」と述べました。首脳会談の手土産にするために衆院を通過させようとしているのは明らかです。

 

 国民には何が秘密かも知らされないまま、政府が勝手に秘密を指定し、その秘密に触れただけで厳罰を科す秘密保護法を拡大するのが本案です。政府が指定できる秘密を経済分野まで大幅に増やし、広範な民間労働者、技術者、研究者を政府の秘密保全体制に組み込んで、監視し、処罰するなど到底認められません。

 

 秘密を扱う人への適性評価(セキュリティー・クリアランス)は、政治的思想、海外渡航歴、精神疾患などの治療歴、借金や家賃の滞納、家族や同居人の過去の国籍まで、機微な個人情報を根こそぎ調べ上げるものです。事情に変更があった際には報告させる誓約まで迫ります。

 

 上司からも調査票を提出させ、警察・公安調査庁や医療機関などにも本人への通知なく照会をかけます。適性評価後も事業者に、対象者を継続的に監視させる「二重三重の監視体制」であることが明らかになりました。労働者が調査を拒否しても不利益を被らないという保証はなく事実上の強制です。思想・良心の自由、プライバシー権を踏みにじる憲法違反そのものです。

 

 重大なのは、政府が本案に合わせて、秘密保護法を改正することなく、法の運用によって、これまで防衛、外交、スパイ活動、テロ活動に限定されていた特定秘密の範囲を拡大しようとしていることです。憲法違反の秘密保護法を運用で拡大するなど断じて認められません。