メールは廃棄、業者との交渉経緯は不明。アベノマスク事業をめぐる裁判で厚労省の職員など5人の証人出廷へ
なぜメールを削除したのか、誰かの指示があったのか?
アベノマスク2次訴訟においては、交渉のやり取りを記録した文書が残っているのか、またやり取りそのものであるメールが存在したのかどうかが争点となっている。
そのためには、メールについて、いついかなる理由で削除したのか、指示があったのか、なかったのかが明らかにされなくてはならない。
原告の上脇博之教授は、
「本来は行政が正常な業務を行っていれば、あとから検証できるように公文書を残しているはずなんですよ。ところがアベノマスクの事業については、その検証をされたくないという姿勢が大元にあり、今回の訴訟においてのチグハグな主張につながっているんじゃないのかなと思いますね。あの事業自体が主権者国民にきちんと説明できないものだったということを示しているんじゃないでしょうか」
落ちろ!落ちろ!落ちろ!
— 高橋康太 (@010_seisaku) April 16, 2024
自民党をめぐる政治資金パーティー収入の裏金問題は神戸学院大学・上脇博之教授が東京地検特捜部に対し数多くの告発状を提出し、強制捜査となったことで社会問題となった。
アベノマスク裁判は、日本の政治状況を大きく動かした上脇教授が原告として国と争っているものである。
2020年4月1日、安倍政権は全世帯に2枚ずつ布マスクを配布するという壮大な施策を打ち出す。しかし、虫や髪の毛などの異物が入っていて回収騒ぎになったすえ、届いたときには市中に不織布マスクがあふれかえっていた。
総額543億円の血税でまかなわれた事業はどのようなプロセスで行われていたのか。上脇教授は厚労省と文科省に情報公開請求をしたのだが、1枚当たりの単価は黒塗り、業者とのやりとりや交渉経緯が記録された文書はないなどという結果だったため、不開示決定の取り消しを求めて2つの訴訟を起こしたのである。
4月16日に行われた2次訴訟の口頭弁論期日において、大阪地裁はマスク調達のため業者との交渉に当たった厚労省担当者やその上席、文科省の課長補佐(当時)、合同マスクチームに派遣されていた経産省職員ら5人に対し証人尋問を行う方針を決めた。
情報開示をめぐる裁判で5人もの証人が採用されることは珍しい。
これらの裁判ではいったいなにが問われているのだろうか。あらためて経過を振り返ってみる。
隠されたアベノマスク単価は62.6円から150円
本来、行政機関が行う公共事業は会計法によって競争入札することが原則とされている。しかし、アベノマスクは緊急性が存在するとして随意契約で調達された。
その事業の実態を知るべく情報公開請求した上脇教授に対し、国は見積書、契約書、納品書などの「単価」「数量」を不開示とした。アベノマスクの1次訴訟は1枚当たりの単価を明らかにすべく起こされた。
2023年2月28日の判決は「不開示取り消し」を命ずるものだった。
判決の確定後、あらためて開示された行政文書を見ると、1枚当たりの単価は業者や時期によって異なり、税抜きで62.6円から150円と約2.4倍もの開きがあったのである。
マスク調達は業者の言い値で即決していた疑い
上脇教授は国が業者との間で契約、発注、回収を行うにあたり、その契約や交渉などの経過を記載した文書の開示も求めた。ところが「作成していない」として不開示だったため、「契約締結の経過の文書がないわけないだろう」と不開示の取り消しを求めているのがアベノマスク2次訴訟である。
こちらの裁判では当初、国は業者との「やりとり」そのものを記載した文書として電子メールがあったものの、それらは保存期間1年未満文書と位置づけていたため、ぜんぶ捨てちゃったと主張した。
国がメールを廃棄していたとしても、相手方である業者には残っているはず。こう考えた原告弁護団は送付嘱託という手続を大阪地裁に申し立て、裁判所は採用を決定。複数の業者からメールや契約書などが提出された。
開示関連文書や業者から出された契約関係の書類を見ると、すべてにおいて見積書と契約書の日付けが同じだった。アベノマスク調達に関し、国は交渉など行わず、ほとんど相手の言い値で売買価格が決まっていた可能性が高い。
なお国側が業者に対し、1枚あたりの単価をマスコミに洩らさぬよう釘を刺しているメールも見つかっている。
「メールボックスがパンパンになるから、捨てざるを得なかった」
国は裁判の過程で「電子メールは意思決定に影響がないものとして、長期間の保存を要しないと判断したことから、保存期間1年未満と設定した」と繰り返し主張した。
せっせとメールを破棄し続けていた理由について、国は、
「各職員に割り当てられたメールボックスの保存領域の容量が圧迫されることで、電子メールの送信自体ができなくなるなど、職務遂行に重大な支障を来すおそれがあった」ので「職務執行上利用しなくなった時点で随時廃棄する必要性が高かった」
と説明する。(2023年3月31日付け被告第7準備書面)
「メールボックスがパンパンになるから、捨てざるを得なかった」と言っているのである。
担当職員すべてがせっせとメールを破棄し続けていた!?
国は裁判の過程で再三にわたって「激務が続いていた」「職員が繁忙を極めていた」と言い続けている。それはその通りなのだろう。なにしろ安倍晋三首相が官邸官僚の思いつきに乗っかり、現場とのすり合わせを一切行わないまま2020年4月1日に「1億枚確保するメドが立った」と言ってしまったものだから、現場は大混乱だったに違いない。
実際、アベノマスク1次訴訟の証人尋問にて合同マスクチームの責任者だった当時の厚労省医政局経済課課長は、「全世帯配布は直前になって知らされた」と証言している。
ただし、それほど多忙である最中に、合同マスクチームの職員すべてが誰に命じられたわけでもないのに、小まめにメールをサーバーから削除し続けていたという言い訳はどう考えてもおかしい。
ちなみにアベノマスク2次訴訟がはじまってから1年5ヵ月後の弁論期日において国は突然、「ちょっとだけメールと文書が見つかった」と言い出している。
裁判開始時に残っていたメールは消えてしまった!
さらに裁判開始から2年3ヵ月後である2023年5月10日付準備書面において、国がほとんど捨ててしまったと言っている購入業者とのやり取りメールは、訴訟提起時である2021年2月22日の時点では、バックアップファイルとして残っていたと言ってのけた。
残っていたのなら、出せばよかったのにと思うのだが、国はバックアップファイルは情報公開法2条2項の「電磁的記録」にも「行政文書」にもあたらないと主張。
そして、上脇教授がこの訴訟を起こしたとき、裁判で問題となっているメールはバックアップファイルとして残っていたにもかかわらず、国が電子メールを復元も保全もしないまま、保存期間1年を超えたため消えてしまっているというのだ。
国はバックアップファイルから電子メールを復元するかどうかを原告に確認する職務上の法的義務はないとも述べている。
公文書はバックアップファイルになった段階で公文書ではなくなるのだろうか?
なぜメールを削除したのか、誰かの指示があったのか?
アベノマスク2次訴訟においては、交渉のやり取りを記録した文書が残っているのか、またやり取りそのものであるメールが存在したのかどうかが争点となっている。
そのためには、メールについて、いついかなる理由で削除したのか、指示があったのか、なかったのかが明らかにされなくてはならない。
原告の上脇博之教授は、
「本来は行政が正常な業務を行っていれば、あとから検証できるように公文書を残しているはずなんですよ。ところがアベノマスクの事業については、その検証をされたくないという姿勢が大元にあり、今回の訴訟においてのチグハグな主張につながっているんじゃないのかなと思いますね。あの事業自体が主権者国民にきちんと説明できないものだったということを示しているんじゃないでしょうか」
「尋問では当時の事情を知っている方にしっかり証言してもらい、ベールに包まれた事業の実態が明らかになることを期待しています」
と語る。
巨額の国費を投じて行われた事業の事後検証がまったく出来ない、おおよそ民主主義国家とは思えない異常な事態が続いている。
注目の証人尋問は本年8月下旬に行われる予定である。
がっくりの塩谷立氏に《男だろ!》の声…裏金問題の再審査請求却下で「離党or除名」選挙も弱い
駒澤大学陸上競技部が2021年の箱根駅伝で優勝した際、当時の大八木弘明総監督(65=現同大フェロー)が伴奏車から選手に向かってこう檄を飛ばす姿が有名になった。
「ジェンダーレス時代にそぐわない」などと物議を醸した事はさておき、この人に対しても《男だろ!》といった投稿がSNS上で飛び交っている。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、党から「離党勧告」され、それを不服として再審査を求めていた塩谷立元文科相(74)のことだ。
自民党は16日の総務会で、塩谷氏が求めていた再審査請求の対応を森山裕総務会長(78)に一任。森山氏は首相官邸で岸田文雄首相(66)と会談後、記者団に対し「再審査を行う理由がない」「相当の理由が認められない」として再審査をしないことを明かした。
この決定を受け、塩谷氏は同日夜、記者団の取材に応じ、「誠に残念ながら却下された。こうした処分になると、党としての取り扱いについては疑問を持たざるを得ない」と肩を落としていたのだが、ネット上では《もう自民党にしがみつく必要もない。君を切り捨てたんだ。今こそ復讐の時だよ》《男になれ。岸田首相に反撃しろ》といった声が少なくない。
■過去の国会答弁では「政治は信頼と説明責任が大事」と
「政治には理想と情熱と行動力が不可欠であり、最後の結果が出るまで責任を持たなければなりません」(1994年3月24日の衆院本会議)
「成果は政治家がひとり占め、失敗はすべて官僚の責任、これが民主党の唱える政治主導なのでしょうか。我々自由民主党は、政治家が最終責任をとることが政治主導だと認識しております」(2010年11月15日の衆院本会議)
「国の最高権力者たる総理が、国政、外交上の重要問題や危機管理にかかわる問題について、法に触れなければいいなどと全く無責任な発言を繰り返していることは、まことに嘆かわしいことです。国民は、倫理観、責任感、使命感が決定的に欠如している総理に、我が国のかじ取りを任せることなどできるわけがありません。秘書や後援会の幹部の逮捕、そして議員自身の起訴、さらには女性スキャンダルなどなど(略)次から次へと起こった数々の政治疑惑に、逃げるばかりで何の自浄努力も説明責任も果たさず、しかも国民の命を守る自覚のない、全く無責任な総理、与党幹部、大臣、そして当該議員の即時辞職を求め」(2010年4月8日の衆院本会議)
発言を見る限り、塩谷氏は政治信条として、裏金事件について責任を取らず、逃げ回っている岸田首相の姿を見て、「国の最高権力者たる総理が法に触れなければいいなどと全く無責任な発言を繰り返している」と見ているのではないか。
ちなみに1970年代に大ヒットした日本テレビ系ドラマ「おれは男だ!」の主題歌は「さらば涙と言おう」だった。塩谷氏も「さらば自民党」「さらば岸田首相」と腹をくくることができるだろうか。