月と星が妖しく光る。のんきな岸田が寝首をかかれる日はそう遠くない。

 

 

 最終的には国民と党員に判断してもらう─自身の処分がない理由を問われて、こう豪語した岸田文雄。支持率が超低空飛行を続けるなか、往生際の悪い総理の姿に、ついに身内も愛想を尽かした。

 

メモを取りながら聞いているフリ

 「国民の怒りは沸点に達している」「倫理観が欠如しているのではないか」

 今般の裏金事件には、投票用紙に自民党の候補者名しか書いたことがない保守王国の支持者も怒りの声をあげる。

 そこで首相の岸田文雄は「俺が行って有権者と話す」と豪語し、「車座対話」なる地方行脚を決めた。その手始めに4月6日、熊本市を訪れ、裏金問題を陳謝したのだ。

 出席者から先のような厳しい意見が飛ぶと、岸田は沈痛な面持ちで、手持ちのA6サイズのノートにメモを走らせた。だがこの男、本当に反省しているはずもない。

 「裏金問題が思った以上に尾を引いてしまったので、『国民の厳しい意見も、真摯に受け止める首相』を演出するために、全国を回ることにした。要はパフォーマンスですよ」(全国紙政治部記者)

 「岸田ノート」は、人の話を聞いているフリをするのには絶好の小道具だ。

「陰陽師」となった岸田文雄

だが岸田とて、そのためだけにノートを持ち歩いているわけではあるまい。決して他人には見せないその中身には、政権運営のための重要事項も記されている。そしていま、岸田が書きつける「重要人物リスト」には、5人の名前が並んでいる。

 〈麻生太郎、森山裕、小渕優子、武田良太、萩生田光一〉

 「5」は古来より魔を退ける特別な数字と言われてきた。平安時代の「陰陽師」安倍晴明も「五芒星」を紋として用いた。安倍晴明は占いや呪術を駆使して権謀術数を巡らし、権力をほしいままにしたという。

 かつては煮えきらない言動で「検討使」と笑われた岸田だが、それで懲りたのか、このところは誰にも内心を明かさなくなった。何を考えているのかわからない―まるで陰陽師のように周囲を煙にまくことこそ、政権に居座るための要諦だと気付いたのだ。

 

岸田が敷いた独裁体制

 岸田が掲げる「自民党五芒星」の意味を、前出の政治部記者が解説する。

 「岸田さんは一切根回しせずに派閥解消を打ち出したことで、麻生さんと一時険悪になったと言われていますが、今は関係を修復しています。今回の裏金処分でも事前に麻生さんにお伺いを立てた。

 その一方で、以前のように麻生さんベッタリにならないよう、非主流派とも気脈を通じる森山さんも裏金問題の対応で重用しました。最近は、茂木派を離脱した小渕さんとも選挙の相談を密にしています。

 さらに裏金処分で、二階派と安倍派の『若頭』だった武田さんと萩生田さんは軽い処分で済ませて恩を売りました。彼らは主要派閥の中心にいた面々で、この5人を押さえれば自民党を押さえられると踏んだわけです」

 岸田は裏金処分を利用して、二階俊博や森喜朗といった旧派閥の長老たちの影響を排除し、首相が党の全権を握れる直接支配体制を敷いたのだ。

 後編記事『「メール一本で部下たちをクビ」「自分だけ処分ナシに国民もドン引き」...裏ガネ処分を大失敗した「岸田総理の終わり」とついに始まった「菅・二階の逆襲」』に続く。

 「週刊現代」2024年4月20日号より

 

 

「メール一本で部下たちをクビ」「自分だけ処分ナシに国民もドン引き」...裏ガネ処分を大失敗した「岸田総理の終わり」とついに始まった「菅・二階の逆襲」

 
 
まるで部下だけ左遷して逃げた社長
待ち望んできた日米首脳会談も実現した。バイデン大統領との共同声明でぶち上げたのは、「ムーンウォーク・プロジェクト」。米NASAが推進してきた有人月面探査「アルテミス計画」に日本人男女の飛行士2人を加え、米国人飛行士と共に月面に着陸させるのだ。

政には今も昔も、星のめぐりあわせが肝心だ。これで支持率は急上昇、6月会期末に解散を打ち、衆院選を戦い抜いて、総裁選に勝つ―。
 
しかし地に足のつかない岸田の楽観主義に、もはや議員らだけでなく、国民も愛想を尽かしている。冒頭の声が示すように、いまや長年の自民党支持者でさえ、政権を見限ったのだ。さながら岸田は、燃え盛る城の上からのんきに外の桜を眺める殿様のようなものだ。

「一般企業であれば、不祥事は代表である社長が責任を取るのが当たり前。ところが部下だけ左遷して、自分は逃げた。二階さんの処分は、本人が次期衆院選への不出馬を表明したので見送られたが、岸田さんは『だから、同じ派閥元会長の自分も処分を免れる』と考えたらしい。でもこれは内輪の論理で、はたから見れば意味不明です」(麻生派中堅議員)
 
クビを宣告するのもメール一本の非常識
誰とも話さず、夜な夜な政局のことばかり考え続けた岸田の感覚は、完全におかしくなっているのだ。
 
党内には怨念が渦巻いている。処分が決まった日、離党勧告を受けた塩谷立(りゅう)は、「処分者と処分内容の一覧表がメールで送られてきただけで、他には一切説明がなかった」と会見で明かした。

「処分に前向きだった議員もこの対応にはドン引きでした。岸田さんは安倍晋三さん亡き後、政権を維持するために塩谷さんの仲立ちで安倍派をまとめてもらっていた。にもかかわらず、クビにするときはメール一本。人としてあり得ないやり方です」(自民党関係者)

本来であれば、岸田が処分者の一人ひとりに面と向かって理由を説明し、応諾を得るのが常識だが、それも一切しなかった。とにかくアメリカに行く前にケリをつけようと、結論を急いだのだ。
 
処分を決めた「党紀委員会」の内幕
処分を決定した党紀委員会のメンバーである中堅議員が内幕を明かす。

「処分は党執行部で決められたもので、すでにマスコミにも内容が漏れていた。委員長の逢沢一郎さんや副委員長の田村憲久さんは『こんなの今日一日で決めるべきではない』と頭を抱えていた。ところが、茂木敏充幹事長に『メディアも入っているし、全会一致にしてくれ』と押し切られ、当初の処分内容のまま決まった。会議時間はわずか2時間。茶番です」

怪しげな妖術に頼るあまり自身がアヤカシと化してしまう、そんな陰陽師の物語は数多くある。岸田も政局にこだわるあまり、常識を失った「永田町の怪物」となってしまったのかもしれない。
 
そんな岸田を後ろから撃とうとしている男がいる。幹事長の茂木だ。

派閥解消の余波を受け、小渕をはじめとした身内に見放されて政治的には死んだと思われていた。岸田も、茂木など麻生につき従う「式神」にすぎないと相手にしてこなかった。だが茂木はあきらめていなかった。

「茂木さんはこれまで裏金問題には我関せずで高みの見物だった。ところがいざ処分の段になると前面に出てきて、総裁選をにらんだポイント稼ぎに利用し始めました。処分対象者のラインとして500万円を示したのも茂木さんで、自身が総裁選に出馬することを見越して安倍派の中堅・若手に恩を売るためとの見方がもっぱらです」(岸田派閣僚経験者)
 
茂木幹事長と萩生田前政調会長の蜜月
岸田がすっかり子飼いだと思っている萩生田にも、事前にツバをつけていたという。

「3月13日、茂木さんは萩生田さんや安倍派議員数名と都内で会食している。萩生田さんに近い大西英男さん(衆院議員)がセットしたらしい。

処分を軽くする代わりに、次の総裁選での応援を取り付けたんじゃないか」(前出の自民党関係者)

「ポスト岸田」の世論調査で、一般人気のない茂木が上位となることはないが、茂木は意に介さない。党内多数を制することこそが総理への近道だと知っているからだ。岸田と距離を縮めつつある麻生をもう一度、自分のもとに引き付けて、総裁選に打って出る。

「麻生さんは、地元・福岡の政敵である武田さんに『党員資格停止』の処分を下そうとしていた。ところが森山さんがこれに反対。結局、岸田さんは森山さんの肩を持った。

つまり岸田―麻生―森山のトライアングルは常に緊張関係にある。茂木さんはそのバランスが崩れるのを窺っている」(前出・全国紙政治部記者)
 
菅と二階が持つ「最終兵器」
一方、菅義偉と森山、二階派の二階、林幹雄、武田の5人は、次の総裁に石破茂を推すことで一致したとの噂が流れている。

「今月末の補選で3敗すれば、次の選挙では与党過半数割れも現実味を帯びてくる。そうなったら石破さんの人気に頼るしかない。最近、石破さんの党内批判がトーンダウンしているのは、菅さんに控えるよう言われたからです」(二階派関係者)
 
現在の永田町はまるで真夜中のような静けさだ。茂木も石破も補選が終わるまではじっと息を潜めている。しかし、選挙に惨敗した途端、「岸田おろし」が始まる。

月と星が妖しく光る。のんきな岸田が寝首をかかれる日はそう遠くない。
 
 

裏金問題で萩生田光一議員だけ“大甘処分”に旧安倍派から批判殺到 派内で囁かれている「森と岸田」の身勝手な思惑

 
 
 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、党の政調会長を務めた萩生田光一氏に批判が集まっている。朝日新聞は4月5日の朝刊に「処分『市民感覚とズレ』 自民裏金、有権者厳しい目」との記事を掲載。萩生田氏に対する有権者の厳しい声を伝えた。
 
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 有権者が萩生田氏の何に怒っているのかをお伝えする前に、裏金事件における萩生田氏の問題点を改めて確認しておこう。

 萩生田氏は自民党安倍派の「5人衆」の1人という重職を担い、派閥からのキックバック──ここでは政治資金収支報告書の不記載額──は2018年からの5年間で2700万円を超えた。額の多さに誰もが驚いたが、実際に党内で3番目という巨額の裏金だったのだ。

 自民党は4日、国会議員39人に対する処分を発表した。ところが、岸田派の元会計責任者が立件されているにもかかわらず、岸田文雄首相は“無罪放免”となった。この時点で多くの有権者が強い反発を示した。

 さらに萩生田氏に対する党の処分は、8段階のうち軽いほうから3番目という「党の役職停止(1年)」だった。「これでは実質的に処分なしだ」との批判が自民党の国会議員からも殺到したが、それも当然だろう。

 他の議員に対する処分と比較してみよう。党則の処分では2番目、今回の処分の中では最も重い「除名」となった塩谷立氏の不記載額は234万円。西村康稔氏は3番目の「党員資格停止(1年)」だったが、不記載額は100万円だった。

 萩生田氏は2700万円と裏金の額が突出しているにもかかわらず、処分は極めて軽い。これが不可解であることは言うまでもないだろう。

八王子市民の怒り
 冒頭で紹介した朝日新聞の記事に戻ると、萩生田氏の地元である東京・八王子市で有権者に取材。これまで萩生田氏に投票してきたという建築作業員の男性が応じ、処分について「軽すぎる。本当は議員を辞めるべきだ」と不満を述べた。

 物価高や光熱費の高騰を受け、作業員の男性は外食や酒を減らすなど、出費を切り詰めてきたという。一方、萩生田氏は多額の裏金を作っていた。男性は「自分は好き勝手に金を動かしていたなんて、支持者への裏切りだ」と怒り心頭だ。

 萩生田氏だけ“減刑”が実施されたことについて、理解を示す政府関係者もいる。萩生田氏は「安倍派5人衆」の1人に数えられる実力者だ。しかし、裏金作りの実態を把握していた可能性の高い、安倍派の事務総長に就任したことはない。

 また安倍派は、一度はキックバックのシステムを停めた。それが22年8月など派の幹部が集まり、裏金システムの復活について話し合っている。この場に萩生田氏は出席していないことになっている。

 ただし、以上の2点だけでは、萩生田氏の処分が甘い理由の説明にはならないという。なぜ萩生田氏だけ“えこひいき”されたのか、旧安倍派の議員が言う。
 
比例復活の問題
「旧安倍派内でも、今回の処分は軽すぎる、おかしいという声が出ています。萩生田さんは2003年に初めて立候補して以来、6回の当選回数を誇ります。ところが、民主党政権が誕生した2009年の総選挙では比例復活もできず落選しました。これに懲り、萩生田さんは旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係を深めるなど、なりふり構わず“基礎票”作りに励んだのです」

 自民党の処分を重さの順に並べると、【1】除名、【2】離党勧告、【3】党員資格停止、【4】選挙での非公認──となるが、この4つは選挙の際に党の公認が得られない。無所属で立候補することになる。

「自民党の公認候補でなければ、連立を組む公明党における最大の支持母体である創価学会の信者も表立って応援ができません。さらに最も重要なのが、比例区の重複立候補が不可能になるということです。小選挙区制で落選してしまうと、どれだけ接戦で惜敗率が高くとも、敗者復活は叶いません」(同・議員)

 自公の公的支援が受けられないため、基礎票が減ってしまう。しかも小選挙区で落選すれば一巻の終わりという“背水の陣”で選挙を戦う必要があるというわけだ。

岸田首相の大罪
「選挙に強いことで有名な世耕弘成さんなら、公認を得られなくとも勝てるかもしれません。ところが、萩生田さんは選挙に強いタイプではないのです。つまり萩生田さんの処分は『処分したように見えても、実は次の選挙でも勝てる可能性を残した』という、少なくとも自民党にとっては絶妙なバランスの上に立ったものなのです」(同・議員)

 こんな“えこひいき”が、なぜまかり通ったのか。

「旧安倍派議員は、『森喜朗さんが萩生田さんを守るため、岸田さんに処分を軽くするよう頼んだ』と理解しています。森さんは今でも、萩生田さんが中心になって旧安倍派のメンバーをまとめてくれると期待しているのです。しかし、旧安倍派の議員は『勝手に決めないでほしい』、『森さんに特別扱いされた結果、有権者の信頼を失ってしまった。萩生田だけは許せない』などと反発する声が出ています」(同・議員)

 一方、岸田首相も萩生田氏の軽い処分には積極的だったという。

「岸田さんは裏金事件の抜本的な再発防止ではなく、政権維持を最優先にしているのでしょう。あまり報じられてはいませんが、岸田さんと萩生田さんは非常に関係がいい。岸田さんとすれば、自民党総裁の再選を目指すにあたって、萩生田さんに旧安倍派議員をまとめてもらいたいと考えているようです。ここで萩生田さんに恩を売っておくことは決して悪くないということです」(同・議員)

デイリー新潮編集部
 
 

自民党「岸田ポスター」の波紋

 
「経済再生」 じゃなくて「経済破壊」だろ、自民党?
 
 
裏金事件で岸田文雄政権と自民党が大きく揺れる中、岸田首相は8日、アメリカでバイデン大統領と会談するため出発。その直後、自民党議員の議員会館の部屋にポスターが配られた。

《経済再生 実感をあなたに。》というキャッチフレーズが入った岸田首相の顔を大写しにした自民党の新しいポスター。「このタイミングで支持率最低政権の顔を宣伝しろというのか」――聞こえてきたのは、困惑する自民党議員たちの声だった。
 
岸田首相は14日に帰国する予定だ。16日からは全国3つの選挙区で衆議院の補選がスタートする。柿沢未途被告が逮捕された東京15区、裏金事件で略式起訴された谷川弥一氏の長崎3区は不戦敗。唯一、自民党の公認候補がいるのは島根1区のみとなった。

島根は細田博之元衆議院議長の死去に伴うもの。自民党は、中国財務局の元官僚、錦織功政氏を擁立したが、直近の情勢調査によれば立憲民主党の元職、亀井亜紀子氏に突き放され苦しい展開だある自民党県議が苦い表情でこう語る。
 
「細田氏の弔い合戦とあって楽勝と思っていた。だが、細田氏が裏金事件の安倍派、清和政策研究会の会長でもあったことに加え、セクハラ疑惑や統一教会との深い関係があったことで、世論は冷たく勝ち目は薄い」

東京15区では、東京都の小池百合子知事が特別顧問の「ファーストの会」が実質的に擁立した乙武洋匡氏を推薦する見込みだが、こちらも冷たい風が吹く。

「五体不満足の著作で知られる乙武氏を小池氏が応援すれば勝てると踏んでいた。しかし、スキャンダル持ちの乙武氏があまりに不評で、公明党もそっぽを向き始めた。本当に乙武氏でいくのだろうかと幹部も迷っている」(自民党の選対関係者)

長崎3区は不戦敗が確定。島根1区、東京15区と落とせば3連敗、立憲民主党が3連勝となり、野党が勢いを増す可能性もある。そうなれば、岸田首相は即座に退陣を迫られるとの見方もある。自民党の大臣経験者が次のように語る。
「岸田さんは、補選3連敗なら総理の座も危ないと考えており、旧統一教会の解散命令請求や裏金事件の厳しい処分などで支持率回復を図ろうとしてきた。得意の外交を生かそうと、アメリカ訪問でバイデン大統領との関係強化を演出し、支持率をあげる戦略を描いたが、今の情勢ではどう見ても支持率が上向く見込みなどない。9月の自民党総裁選まで持つかどうか……」

永田町では、通常国会が終了する6月23日あたりで解散し、衆議院選挙に持ち込むしか手がないという見方が大勢だ。前述のポスターとその案内については、「解散総選挙が近いですよという合図だ。わざわざ、今から貼って下さい、選挙になっても違反になりませんなんて但し書をするわけがない。仮に解散総選挙がすぐになくとも、岸田さんは『オレが解散権を握っている』と力を誇示できるという計算だろう。自民党だけじゃなく野党に対しても効果的かもしれない」(前出の大臣経験者)

立憲民主党は、3月に全国で解散総選挙を念頭に情勢調査を実施。その結果、現在の96議席から倍増する勢いであることが分かったという。その数字は、当然岸田首相の耳にも届いている。世論調査の数字に敏感なことで知られる岸田首相が、即座に反応したのはいうまでもない。

「向こう側の情勢調査の立憲民主党が200議席超という数字にはさすがに岸田首相もびっくりしていた。何か手を打ちたいと、裏金事件の処分が加速し、重くなったのは事実。ただ、まったく世論が岸田首相の思いに反応しない。それどころか世論は、岸田首相の処分なしに否定的、森喜朗を国会に呼べという厳しいものだ。総理にはもう打つ手がない」と自民党幹部は顔をしかめる。

一方、浮かれる立憲民主党は事務方から幹部にこんな耳打ちがあった。「情勢調査ではいい数字だったが、使った調査業者がよくなかったので真に受けないように」――つまり、これまで世論調査を依頼していた業者を変えて取った数字なので、あまりに立憲民主党優勢と強く出ていたため精査したところ、どうも信用性に欠けるというのだ。自らが調査した数字がアテにならないというのは、いかにも立憲民主党らしい。それに踊らされる岸田首相もしかり。日本の政治は根本的な再生が必要だ

 

「日米蜜月」アピールと裏腹に進む「外交の新潮流」内政に翻弄される岸田首相の「次なる外交課題」

 
 
「日米の防衛・安保協力はかつてないほど強固だ」「日米同盟は前例のない高みに達した」など、今回も日米首脳会談は大成功の物語が大々的に発信されている。

自衛隊と米軍の指揮・統制の枠組み上、日本は米英豪で作る「AUKUS」の正式メンバーではないが、首脳会談や共同声明では先端能力の面での協力、自衛隊と米比海軍の共同訓練の実施など盛りだくさんの内容が打ち出された。自衛隊と米軍の一体化に加えてフィリピンを加えた連携と、中国に向き合う軍事的体制がさらに強化された。

日米安保体制を重視する立場からは、中国の軍事的脅威を前に自衛隊と米軍の一体化、緊密化を評価する声が出るが、軍事優先に懸念を持つ立場からは、日本の主体性があいまいになるとともに中国との緊張を高めるだけだなどという批判が出ている。

「日米同盟一本やり」の見かけの裏側
今回の首脳会談に限らず、中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル開発など安全保障環境の悪化を前に、日本外交が日米同盟強化一本やりに走っているように見える。

しかし、話はそう単純ではない。

アメリカの衰退や大統領交代に伴う対外政策の激変を経験した今、日本の安保政策は同盟強化か否かという基準だけでは議論できなくなっている。

それを象徴するのが英国、イタリアと共同開発中の次期戦闘機の第三国輸出の解禁だ。決定したのは首相訪米を直前に控えた3月下旬だった。
 

自衛隊の歴代戦闘機は米ロッキード社などアメリカ製を採用してきた。柱の一つであるF2戦闘機が2035年ころから退役を始めるため、後継機が必要となる。

日本政府はアメリカ企業などと交渉を始めたが、主要部分の情報開示を渋るアメリカ側との交渉が行き詰まったためアメリカ企業との共同開発をあきらめ、2022年末にイギリス、イタリアとの共同開発を決定した。アメリカが関与しない主力戦闘機の採用は初めてである。

そしてその戦闘機を第三国に輸出するというのも大きな政策転換であるが、そこには単に戦闘機の生産コストの削減や国内の防衛産業の振興などという経済的理由だけではない意図が込められている。

対中国の安全保障としての戦闘機輸出
輸出できる第三国は日本との間で、輸出した武器を侵略に使わないことなどを定めた「防衛装備品・技術移転協定」を結んでいる国で、現在15カ国ある。欧米の主要国のほか、シンガポール、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどASEANの6カ国やインドや豪州と日本の安全保障に大きく関係する国が含まれている。

日本が2022年に制定した「国家安全保障戦略」は、武器の輸出など防衛装備品の海外移転について「特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使又は武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策的な手段となる」と記している。

中国に直接言及はしていないものの、武器輸出が中国に対する抑止力になるとともに、日本と当該国の緊密な関係の構築にも役立つという政策的意図が明記されているのである。

つまり、英国、イタリアと共同開発した戦闘機のASEAN諸国などへの輸出は、日本の安全保障に有益であるという考えだ。

 

アメリカ以外の国との戦闘機の共同開発や第三国への輸出による安保体制の強化は、今回の首脳会談で掲げた「日米同盟のかつてない高み」とは真逆のアメリカ離れとも見える話である。アメリカにとってもすんなり受け入れられる話ではないはずだが、日本政府関係者によると、事前調整でアメリカ側から強い反発や異論は出なかったという。

つまり、日本はアメリカと向き合うときは日米安保の重要性や自衛隊と米軍の一体性を強調するが、同時進行でアメリカ以外の国々を相手に多様な国家グループを作り、アメリカだけに依存しない安全保障政策も進めているのである。

実はこうした多角的で多様性のある外交は日本だけが推進しているわけではない。国際社会がアメリカ一極支配から多極化、無極化といわれる状況に変化したことを受けて、多くの国が国益を実現するために挑戦している今風の外交のスタイルなのだ。

フルコースではなくアラカルトの外交
この数年、外交の世界では「プルリラテラリズム」とか「アラカルト方式」という言葉が広がっている。

「プルリラテラリズム」という言葉はインドのジャイシャンカル外相が主張しているもので、「特定の課題について利益を共有する国がその場限りのグループを形成する」外交を指す。「アラカルト外交」も同じような意味で、あらかじめ用意されたフルコースではなく、好みに合った料理だけを注文するスタイルを外交に当てはめた考えだ。

こうした外交が広がった背景についてジャイシャンカル外相は著書で、「同盟の規律が弱まり世界が多極化し、独自の思考や計画に着手する国が増えている」「多国間のルールが弱体化し、国際機関の機能が低下している」と分析している。そのうえで「伝統的な同盟を超えた成果ベースの協力が魅力を増していくだろう」と予測している。

 

日本に引き寄せて考えれば、外交の中核に日米同盟があることに変わりない。

しかし、オバマ大統領が「アメリカは世界の警察官をやめる」と宣言し、続くトランプ大統領が「NATO(北大西洋条約機構)離脱」や「在韓米軍撤退」などをぶち上げて関係国を大混乱に陥らせたことを思い起こせば、「日米関係が良ければ良いほど、中国、韓国、アジア諸国との良好な関係を築ける」(2005年に当時の小泉首相)というような時代はとっくに終わっている。

秋の大統領選でトランプ氏が再選されれば、アメリカの外交政策の予見可能性は再び下がる。そうした状況を、ただ指をくわえて見ているわけにはいかない。日米同盟関係強化をうたう共同声明の内容とは裏腹に、日本政府内にはアメリカに対する不安や不信感が渦巻いており、「日米同盟一本やり」という考え方は姿を消している。

だからこそ逆説的な話ではあるが、アメリカに対しては大統領が誰になろうとも良好な関係を維持できるよう万全の関与を提示するが、同時進行で仮に日米関係が不安定化しても他の国々との関係を構築することで、危機をしのぐことができるようにしておくのだ。

アメリカだって多極化を進めている
実は、似たようなことをアメリカ自身も進めているのは周知の事実である。

一昔前のようにアメリカが号令をかければ同盟国が黙ってついてくるという時代は終わった。そのため米英豪のAUKUSや日米豪印のQUADをはじめ、さまざまな国家グループを作って自らの限界を補い、リーダーとしての立場を維持しようとしている。まさに「プルリラテラリズム」の時代なのである。

もちろん、こうした外交は過渡的なもの、一時的なものであって、中長期的な地域の安定や世界秩序などを構築できるわけではない。

日本の場合はアメリカの政権がどう変わろうとも、日本の安全保障を実現するため、言いかえれば中国に対する軍事的抑止力を何とか維持して最悪の事態を防ぐための当座しのぎの政策である。

問題はそれが軍事に偏り過ぎていることであろう。

 

主要国と中国との関係を見ると、最も緊張関係にあるアメリカはブリンケン国務長官と王毅外相が電話を含め会談を繰り返すなど、閣僚クラスの要人が頻繁に接触し、各分野での交渉や協議を続けている。

欧州との関係にも変化が生まれており、今年に入ってオランダのルッテ首相が訪中し、4月にはドイツのショルツ首相が訪中した。そして習近平主席のフランス訪問も検討されている。

ところが日中の間ではほとんど、目立った動きがない。抑止力というこぶしを振り上げるだけでは悪化した関係を改善し、安定した関係を作ることはできない。

日中韓会談をきっかけに中国と直接対話すべき
外交は硬軟織り交ぜて国益を実現しなければならない。安保一辺倒の対応は愚策である。今回の日米首脳会談で「日米同盟はかつてない高み」と合意したのであれば、次は中国と直接対話をする番である。

幸い日中韓首脳会談を5年ぶりに韓国で開催する動きが本格化している。3カ国の首脳会談が実現すれば、それに合わせて岸田首相と李強首相の会談も実施できる。

それをきっかけに日本から首相の訪中を始め首脳の相互訪問を提起するとともに、福島原発の処理水の海洋放出を受け中国が日本産の水産物輸入を全面的に停止している問題などの懸案を一つ一つ話し合い、解決していくべきときにきている。

外交は力と力の勝負ではない。知恵と知恵のぶつかり合いの世界である。内政問題に翻弄される日々を送っている岸田首相だが、外交では、訪米の次はそろそろ中国に対して積極的に打って出なければならないだろう。