「国民は騙すもの」…森永卓郎氏×鈴木宣弘東京大学大学院特任教授の覚悟の対談で語られた「役人たちの行動原理」

 

 

【ニッポン放送「垣花正 あなたとハッピー」(月曜日~木曜日8時~11時)2024年3月19日放送より】レギュラーコメンテーターの森永卓郎(経済評論家)氏と、この日のゲスト東京大学大学院鈴木宣弘特任教授が、好評発売中の二人の対談『国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係』(講談社+α新書)について、国民が知らない「不都合な真実」を本音で語り合った。
※この記事はニッポン放送の許諾を得て番組内容を掲載したものです。

財務当局が備蓄をさせない
鈴木 台湾有事がどういう確率で起こるかわかりませんけども、日本がこんなふうに武器だけ揃えて攻めていくぞというような姿勢を示す、経済制裁するぞみたいな姿勢を示しただけで、たとえば隣国が海上封鎖、シーレーンを封鎖するというようなことが簡単に起こりうるわけです。それをやられてしまったら、もうすべてそこで終わってしまうわけですよね。戦うどころの騒ぎじゃないと。だから今、国内の生産をね、もっともっと増強しなきゃいけないわけですよね。だけど、中国はですね、有事に備えて、今14億人の人口が1年半食べられるだけの備蓄をするということで、国内生産の増強と世界中からまた穀物を買い占めてるんです。
 

垣花 中国って変な国だってイメージもあるけど意外と真っ当ですね。
鈴木 そういうところは真っ当ですよ。まず命を守るには食料だと。
 

垣花 日本はどうなんですか?
鈴木 備蓄が1.5ヶ月分しかないんですよ。だから輸入を止められたらおしまいなわけですよ。だからもっと生産を増強しないと。日本の米の生産力って今、800万tぐらいしか生産してないけども、日本の水田を全部使えばいい。1200万t以上作れるんですよ。潜在生産力はあるんですよ。増産して政府の責任で備蓄すればいいじゃないかと言うと、「そんな金どこにあるんだ馬鹿たれ」と、財政当局に言われておしまいになっちゃうんですよ。だから馬鹿たれはどっちだ? と、命を守るのは一番は食料じゃないかと。そこにね、数兆円かけても、増産して備蓄するぐらいのことをやっとくほうが役に立たないミサイルを買うよりも先にやるべきことじゃないかって話なんです。
 

国民は騙すもの
鈴木 農水省は農家を救うために予算をつけようとして財務省に頼むわけですよ。ところが財務省さんはお金を握ってるから(立場が)強いですよね。いろんな注文をつけてきて、使いづらい予算にしてしまう。書類ばっかり多くて使いづらいものにして、現場に下ろすと、もうこんなもん無理ですっていうことで、結局お金が国に戻ってくるような、そういう意地悪だと思われるようなことをしてるんじゃないかと、農水省の方々が常々言ってます。
 いい政策をやってみんなを助けるという入省したころの志がどっかにぶっ飛んじゃうわけですよ。これは財務省だけじゃないですけど、役所に入ると、みんな自分の利害関係がある人たちを儲けさせるために、国民をうまく騙して、情報を隠して、都合のいい情報だけ出してね、そしてそういう(利害関係のある)人たちが利益を得られるところだけ予算を増やしていくと。たとえば消費税増税というのは、大きな企業はそれを負担しないで法人税を払わなくて負担を増やさなくていいわけだから。企業が儲かれば、自分たちも出世できて天下りもできると。これは財務省に限らないけど、役所に5年10年いるとだんだん、とにかく情報は隠すもの、国民は騙すもの、そして利害関係者を儲けさせて出世して(そこに)天下りすると。こういう行動原理に陥りやすい。
命を守る分野に資本主義を持ち込んではいけない
 

鈴木 赤字になった農家を、アメリカなんか100%補填してますよ。ヨーロッパは、今いろいろまた環境対策で、予算減らされそうとしてみんな国民怒ってるけども農家も。だけども基本的にはスイスとかフランスも、所得の農業所得の100%が税金なんですよ、ほとんど公共事業公益事業になってるんですよ。命を守る産業は国民がみんなで支えるというのが世界の常識ですよ。そこに金を出さないというこの日本の財政政策が、農水省が悪いっていうよりも、金を握っているところが、どんどん(予算を)切ってきちゃうわけですよ。この期に及んで農水予算を、農家を救う予算を減らすことがどんどん進められている。
 

森永 命を守るっていう意味では、たとえば病院とかクリニックって、お医者さんは株式会社をやっちゃいけないんですよ、原則。    

 それは何でかっていうと、資本家っていうのは利益を優先するので、命に関わるところで利益を優先すると酷い目にあうんですね。農業も実はまったく同じで、食べることっていうのが命につながってるわけです。そこに企業の論理、利益を増やすぞっていう論理を持ち込むとですね、たとえば収穫後の作物に農薬をぶっかけてみたりですね、あるいは遺伝子組み換えした作物に強力な除草剤を使って、耐性ができるような遺伝子組み換え作物にして、雑草は全部消えるから、畑やってて一番大変なのは雑草なんですけれども、ただそんな農薬を大量にぶっかけた食い物を食って大丈夫なんですかっていう視点がなくなるんですよね。
 

垣花 医療が株式会社になってはいけないのと同じで、我々の生活の基本となる食べ物を作ってる皆さんに、「農業って儲からないんですよね」みたいな指摘をする人がいますが、その儲かる儲からないという視点はあんまり持ち込んじゃいけないジャンルだってことなんですかね。
消費者に危険な情報が入らないようにする
 

森永 だからアメリカやヨーロッパはちゃんと所得保障をしているから、100%近い自給率を誇ってるわけです。
 

鈴木 そういうふうに取り組まなきゃいけないところを、逆にもう企業に全部任せて、儲けらればいいじゃないかということを今進めようとしてる。それこそ今、森永さんが言われたような、安全性の問題でもさらにリスクのあるものを。今、食品表示もどんどん消されてきてますから、遺伝子組み換えではないという食品表示ができなくなってきたり。表示でわかっちゃうとみんなが選ぶじゃないですか。だからそういう情報が消費者に入ってこないようにする。遺伝子組み換えでない食品は選べません。ゲノム編集の食品の表示もなしです。それから無添加という食品表示も厳密でないから駄目ですと、コオロギパウダーを混ぜてもコオロギと書かなくていいですみたいなね。
もっと言うとね、国内製造っていう表示があるじゃないですか。国内製造というと原料は輸入品という意味なわけです。みんながそれに気づいてきたので、今度は何て言ってるかというと、国産の原料を使った加工食品を国内製造と書けと。つまり、全部表示を国内製造に統一しちゃって、国産の原料を使ってる食品を選べないようにするわけです。輸入か国産の材料かを表示が区別できないようにして、全部食べさせてしまう。もうとにかく表示を変えてでも、企業がさらに食の安全性をおろそかにし、命を蝕んででも儲けられるような、そういう流れを制度的にもどんどん作ろうとしてるわけです。
国を当てにするのはもうやめて自分で備える
 

森永 私は、とりあえずみんなが農業をやることだと思っているんです。私ずっとこの五、六年、畑やってきたじゃないですか。自分で作った作物を食べると、うん、大地の味がするんですよ。工場生産に近いやつは、無色透明っていうか、何の引っかかりもないんですね。そっちにみんな慣れつつあるんですけど、そうじゃないんじゃないかなって。
今、プランターでサツマイモを作れるんです。だから、ちょっと自分でやってみようぜって。結構な量が取れるみたいなんですよ。私もやることにしたんですけど、畑あるのにプランター(笑)。
 

鈴木 やっぱりそこからいくべきだと思います。国の政策は当てにならないので自分たちでやる。地元でがんばってる農家さんを支えるように、まず買う。自分も家庭菜園、プランターもいいし、耕作放棄地が周りにできているんだったら、ちょっとそれ貸してください、私がやりますから、と。まさに森永さんの本で私が共感したマイクロ農業、周辺との地産地消を進めて、ローカル自給権を自分たちで作っていく。そこで安全安心なものを支え合う構図をつくる。
垣花すると、農家の皆さんに対するリスペクトも生まれ、そういう意識が広がるってことですよね。

 

 

主張
住まいの貧困
放置できぬ高齢者の入居困難

 

 高齢者、外国人、障害者、シングルマザーなどへの入居拒否が、いま大きな社会問題になっています。

■1人暮らしが増加
 国交省の2021年度調査では、家主が「入居に拒否感がある」とする借り手の割合は高齢者世帯で66%、障害者のいる世帯で66%、子育て世帯で18%です。日本賃貸住宅管理協会の調査(15年)では、民間賃貸住宅の貸し手の8割が高齢者の入居を拒否または拒否感を持っています。

 一方、国立社会保障・人口問題研究所が12日に公表した推計では、2050年に単身世帯が全世帯の44%にのぼるとされました。うち65歳以上の単身高齢者が約半数の1084万世帯となります。

 単身高齢者が賃貸住宅に入居するのはとりわけ困難で、放置できません。

 こうした中で国は今国会に住宅セーフティーネット法改定案を出し、生活困窮者自立支援法改定案に居住支援策を盛り込みました。

 住宅セーフティーネット法案は▽居住支援法人による居住者死亡後の残置物処理の仕組みづくり▽利用しやすい家賃保証業者の認定制度創設―などを講じるとします。生活困窮者自立支援法では▽見守り支援を自治体の努力義務にする▽家賃の安い住宅に転居する際の給付金の対象者拡大―などを掲げています。

 どちらも現場で求められている施策ではありますが、あまりに不十分です。

 最大の問題点は、高齢者などの住まい確保をもっぱら民間の居住支援法人などに任せるばかりで、国・地方公共団体の公的責任をあいまいにしていることです。

■減少続く公営住宅
 自民党政権は長く「住まいは自助努力で」と持ち家政策を進め公共住宅の整備を怠ってきました。国民の住まい確保に責任を持ってこなかったことが「住まいの貧困」を生んでいます。

 住宅困窮者が低額家賃で入れる公営住宅は減り続けています。管理する地方自治体が耐用年数を迎えた住宅を建て替えないためです。東京都では25年にわたって新規建設はゼロです。最近では宮城県が事実上、県営住宅をなくす方向性を明らかにしています。

 かつては公団で現在は独立行政法人のUR賃貸住宅は、23年3月で70万2千戸ですが、10年余りで5万3千戸減っています。しかも現在、家賃は市場任せで高く、値上げもされており、年金暮らしの入居者の多くが今後も家賃を払えるか不安を抱えています。

 さらに、60歳以上の一定所得以下の高齢者に国と地方自治体が2分の1ずつ家賃補助する「高齢者向け優良賃貸住宅」制度の打ち切りが、20年間の期間終了を理由に各地ですすめられています。困窮者に家賃補助する住宅セーフティーネット法で実際に補助が行われている住宅は22年度で452戸にすぎません。

 低所得者、高齢者などが安心して暮らせる住宅は圧倒的に不足しています。

 住生活基本法は、住宅は「国民の健康で文化的な生活にとって不可欠な基盤」とし、低所得者、被災者、高齢者、子育て世帯などの住まいの確保を掲げています。国はその立場に立ち、公共住宅の拡充を図り、国の責任による恒久的家賃補助制度を創設すべきです。