まず連合という大組織の「連合」が政府と経団連が「まあ~この辺でシャンシャン」と決めてしまう、賃上げなんて出鱈目に決まっている。労働者は贅沢をさせない。豊かな生活を知るとさらに豊にと戦う姿勢を見せつけられた怖いわ(贅沢ではないのだが)という三者が合意している。

 

 賃上げや子育て支援についての岸田首相の言動を見ると、この人は、真面目に国民に向き合って、重要な政策について本当のことを説明する気は最初から全くないということがよくわかる。

 



 筆者から見ると、その場その場で嘘を重ねて国民を騙せば良いという「とんでも詐欺師」にしか見えないのだが、皆さんにはどう見えるだろうか。

 

「実質賃金2月1.3%減 23カ月マイナス、過去最長に並ぶ」

 4月8日配信の日経電子版の記事の見出しだ。

 厚生労働省が発表した2月の実質賃金指数の話だ。マイナスには慣れっこになっていたが、「過去最長」ということで少し大きなニュースになった。

 今年の春闘(4月2日までの2620組合回答の連合による集計)では、定期昇給分とベースアップ相当分を合わせた賃上げ額が、平均で月額1万6037円、率にして5.24%だった。33年ぶりの5%超えと囃し立てる報道が溢れ、これにより今年こそ「実質賃金上昇」が実現すると思っている人も多いだろう。
 しかし、「実は、岸田文雄首相は、今年は実質賃金がプラスになることはないと考えている」と聞いたら、皆さんはどう思うだろうか。

 

 多くの人は、「そんなはずはない、岸田首相は今年こそ物価上昇を上回る賃上げを実現すると言っていたじゃないか」と反応するのではないか

 確かに、岸田首相は、「賃上げ、賃上げ、賃上げ」と叫び続け、「物価高を超える賃上げ」という言葉も多用してきた。そして、今年の春闘でも、労使双方に向かって、思い切った賃上げをとはっぱをかけた。こうしたパフォーマンスを見た国民の多くは、今年はついに実質賃金が上がると期待したはずだ。

 しかし、岸田首相は、実は、今年は実質賃金がマイナスのままでも仕方ないと思っている。信じられないかもしれないが、これは本当のことだ。

 例えば、3月28日に2024年度予算の成立を受けて記者会見した岸田首相は、賃上げについて、「25年以降に物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させる」と表明した。実質賃金上昇は25年以降だと言っているように聞こえる。

 一方、今年、24年については、「賃上げと減税などで物価を超える『所得』の上昇」といいう表現を使った。

 その意味するところは、実質賃金の上昇までは見込めないので、その分を補うために定額減税などを実施して、賃金ではなく、賃金とその他の給付金などを合わせた総所得の上昇が物価上昇を上回るようにするということだ。

 

 

 この傾向を今年に当てはめると、春闘の賃上げ率は5%を超えるが、ベアは3.6%に過ぎない。連合傘下にない中小企業の賃上げ率はこれを大きく下回る可能性が高く、さらに、今年から物流業界などで労働時間規制が強化されることもあるので残業代の減少も予想され、名目賃金が3%以上上がるにはかなりハードルが高いというのが客観的情勢だ。

 消費者物価の上昇率は直近では2%台に下がっているが、今後は、電気ガス料金補助がなくなることや原油価格の上昇、企業による積極的な値上げ姿勢に加え、記録的な円安の動きもあり、消費者物価の上昇圧力は高まっている。

 すでに4月に入っているが、実質賃金がすぐにプラスにはならないと考えると、24年を通じた平均値での実質賃金のプラス転換は難しいと言った方が良いかもしれない。

 当然のことながら、賃金と所得は異なる。賃金は、労働者が雇い主から労働の対価として受け取るものだが、所得には、それ以外にも利子や配当や株の売却益、不動産の賃料や売却益、さらには、政府からの給付金なども含まれる。

 したがって、賃金の伸びが物価の伸びを上回らなくても、金融所得が伸びたり、あるいは今年のように所得減税を行ったりすれば、個人の全体の所得の伸びが物価の伸びを上回る状況を作ることは可能だ。

 岸田首相は、「賃上げ、賃上げ」と声高に騒いで国民に「大幅な賃上げ」の期待を煽り、その結果として、国民が「物価の伸びを超える」という言葉を聞いた途端に、物価の伸びを超える「賃金」の伸びだと思い込むように仕向けた。

 しかし、よく聞くと、最後のところでは、「賃金」という言葉の代わりに「所得」と言葉を置き換え、それが物価上昇を上回るという言い方で終わるような形で話をしていた。

 相当な知能犯のように思えるが、これはおそらく官邸スタッフが岸田氏に振り付けたシナリオ通りに岸田首相が演じたということなのだろう。

 ある薬を売るときに、この人はがんが治った、この人も治った、その人も、あの人もと挙げて、聞いている人に、これはがんに効く薬だと思い込ませておいて、薬を買ってみると、効能書きには、健康増進と書いてあったというような詐欺的商売と似ている。

 

 岸田首相の「詐欺師ぶり」はなかなかのものだ。

 詐欺といえば、もう一つ、子育て支援金のことを思い起こす人も多いだろう。

 4月9日、子育て支援金の負担額が年収600万円の人で月1000円になるなどという試算をこども家庭庁が発表したが、多くの国民から見ると、「え?」という驚きの数字だった。

 最初の政府の発表が、医療保険制度全体の加入1人当たりの平均月額 500円弱(後に平均月額450円程度と発表された)というもので、「ワンコイン」という報道がされたこともあり、これが多くの人の頭に入っていたからだ。

 この話には3つのトリックがある。

 第一に、450円というのはあくまでも平均であって、保険料は所得別に計算されるので、所得によってはこれを超える金額になるのは当たり前のことだ。

 しかし、岸田政権は、最初の段階では、あえて他の数字に言及せず、450円という平均の数字「だけ」を発表することによって、それを国民の頭の中に強く刷り込んだ。

 第二のトリックは、「加入者」と「被保険者」の違いを説明せず、最初の発表では、「加入者」1人当たりの平均だけを発表したことだ。

 加入者とは、医療保険制度によってカバーされる人全員を含む。保険料を払っていない扶養家族が含まれるので、数は多く、それを分母に1人当たりの負担額を計算するので、負担額は小さな数字になる。

 負担額の話をするなら、本来は、保険料を払っている人、すなわち「被保険者」にとってどれくらい増えるのかということを示すべきだ。被保険者には扶養家族は含まれず、その数は「加入者」に比べて大幅に減るため、被保険者1人当たりの負担額は大きくなるのだが、政府はその額を当初ははっきりとは言わなかった。

 野党に繰り返し要求されて、ようやくその数字を年収別で出したのだ。

 それによれば、被保険者一人当たりの負担額が28年度時点で、所得が200万円なら月350円と安いのだが、400万円なら650円、600万円なら1000円、800万円なら1350円とかなり高くなる。600万円の家庭では年間1万2000円。馬鹿にならない額だ。

 さらに第三のトリックがある。

 この負担額には、企業や国などの負担額が含まれていないということだ。保険料については、被保険者の他に、企業や国が同額を負担することになっている。この分は、労働者から見ると直接の負担にはならないから負担感は生じない。

 一方、企業は、この負担を経営の中で吸収する必要があるが、最も簡単な方法は、本来行えるはずの賃上げの率を下げる、ボーナスの支給額を減らす、正規社員を減らして保険の対象にならない非正規を増やすなどの対策だ。

 つまり、企業の負担は、簡単に労働者の負担に付け替えることができるのだ。

 例えば、年収600万円の人は支援金による年間1万2000円の負担増とともに、気付かぬうちにボーナスが本来よりも1万2000円少なくなって、合計2万4000円の負担になるかもしれない。

 しかし、そういう議論は、ほとんど聞こえてこない。

 岸田首相は、支援金の負担が増えても「実質的な負担は増えない」という、これまたとんでもないデタラメを言っている。ここでは、言葉のすり替えのトリックが使われた。

 元々は、被保険者1人当たりの保険料の負担の議論をしているのに、それとは全く異なる「社会保障負担率」というものをまず引き合いに出した。言葉だけ見ると、なんとなく社会保障の負担の割合と読めるので、議論されていることは同じ話なのかなと勘違いしそうだ。

 しかし、この数字は、「個人や企業など国民全体の所得=国民所得」を分母として、これに占める社会保険料(医療だけでなく介護なども含む)の負担の総額を分子として、その割合を示す数字に過ぎない。政府は、この定義をもとにして、さらにデタラメな説明を加えた。

 まず、「分子」となる保険料の負担増を、医療・介護の「歳出改革」でできるだけ抑えれば、社会保障負担率の上昇を抑えられるという主張だ。

 しかし、この「歳出改革」とは何かといえば、医療や介護のサービスのカットに他ならない。これは、食品値上げなどで見られる価格の値上げをせずに容量を減らすというステルス値上げと同じ手法だ。国民から見れば実質的には負担増なのに、これで「負担を減らす」という嘘をついているのだ。

 さらに、政府は「分母」となる国民所得を賃上げによって増やせば、やはり社会保障負担率は下がると説明した。

 しかし、賃上げは政府がするものではなく、企業などが行うもので、どれだけ上がるかは企業任せ。景気が悪くなれば、逆に下がる可能性もあり、政府の主張に根拠はない。

 こんな説明がまかり通るなら、増税をしても賃上げがあれば、増税の負担はありませんと言っているのと同じだ。誰が見ても直観的におかしいと感じるので、この嘘で国民を騙すことにまだ成功はしていない。

 賃上げや子育て支援についての岸田首相の言動を見ると、この人は、真面目に国民に向き合って、重要な政策について本当のことを説明する気は最初から全くないということがよくわかる。

 筆者から見ると、その場その場で嘘を重ねて国民を騙せば良いという「とんでも詐欺師」にしか見えないのだが、皆さんにはどう見えるだろうか。

 

 

5%賃上げでも労働者が楽になれない腹立たしい理由。実質賃金プラス転換はまだまだ先か=斎藤満

 
 
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

人件費コスト増の負担をだれが負うのか
NHKの番組にバタフライ・エフェクトを扱うものがありますが、企業が5%賃上げを行うと、大きな羽音がしてその影響がさまざまに波及します。

企業が大幅賃上げだけして他は何も変わらない真空状態であれば、賃上げ後に実質賃金はプラスになる可能性があります。

しかし、現実には真空経済はあり得ません。
 
今回、大幅賃上げを決めるきっかけとなった1つの誘因が「賃上げ税制」、つまり7%以上の賃上げをした企業には大企業で最大35%、中小企業で最大45%の法人税控除の特典を提示しました。

企業にしてみれば人件費の大幅増になるうちの一部を減税で補えます。国全体でみるとその分法人税収入が減り、歳入に穴が開きます。その税収減をだれが負担するかです。

そして政府は早速動きを見せました。税収が減る中で政府がすでにばらまいた児童手当などの資金手当てとして、子ども家庭庁は年収別に負担金を健康保険料に上乗せする案を提示しました。年収200万の世帯では毎月の負担金が200円ではじめ、2年後には350円に引き上げるとしています。担当大臣は「賃金が増えるのでこれくらいの負担は可能」との認識です。

ばらまき支出や法人税減税で不足した収入を、目立たないように増税ではなく社会保険料負担で賄おうとしています。

結局その負担をするのは一般国民です。今回は少子化対策として児童手当をばらまいた分ですが、政府はこれまで企業に物価高対策やら何やらで様々な助成金、補助金を与え、その資金負担を後になって国民から社会保険料負担増でとります。この4月から65歳以上の介護保険料負担が増額されています。
 
余裕のある人から困っている人に所得の再配分をするのは財政機能の1つですが、余裕のある企業の負担を軽くするために、物価高で苦しむ国民から社会保険料引き上げなどで負担させるのは、財政機能とは言えません。単なる財界への「ごますり」で、結局個人の負担増、生活圧迫となります。

少子化担当大臣は賃上げで所得が増えるからといいますが、所得階層が上がると負担金も増えるので楽になりません。
 
物価高の追い打ち
減税分を差し引いても、5%賃上げをすれば企業の人件費は増えます。そのコスト増分を企業が負担すれば労働者の負担は回避できますが、そんな気前の良い企業はまずありません。人件費が増える分を価格転嫁することになります。これには政府自ら旗振りをして「価格転嫁」を推奨しています。

大企業にはもはや値上げに対する躊躇も不安もなく、平然と値上げをしてきます。
 
中小企業については「公取」の監視のもと、中小企業が価格転嫁できるよう、政府が監視を続けます。中小企業も値上げに出れば、物価全般、とりわけ人件費比率の高いサービス業で大きな値上げとなりそうです。

政府自ら賃上げした分を価格転嫁しろと言っているわけで、賃金が上がればその分物価も上がります。

政府日銀は「賃金物価の好循環」といいますが、せっかくの賃上げ分が物価高でまた消されてしまう状況は「賃金インフレ」であり、「賃金物価の悪循環」にほかなりません。

賃金引き上げと物価上昇の「いたちごっこ」で、それでは労働者の実質賃金は増えません。
 
法人税減税分、企業の人件費負担は軽減され、その分価格転嫁も抑制すれば、価格転嫁もやや小さくなる可能性はありますが、それでも実質賃金がプラス転換する可能性は限られます。

しかも、企業の負担が軽くなった分をいずれ個人が増税や社会保険料負担の引き上げで負担すれば、実質可処分所得は増えません。

価格転嫁しない道筋を
この「悪循環」を断ち切る必要があります。

企業が価格転嫁しなくても利益を確保できる1つの方策は、労働生産性を上げることです。1人当たり、時間当たりの生産額が高まれば、その範囲内で賃金に還元しても、企業の負担は高まらず、したがって賃上げ分を価格転嫁する必要がなくなります。
 
政府が掲げる「所得と成長の好循環」を実現する方策として、賃上げ推進は短絡的で、これではバタフライの羽音が企業のコスト増・価格転嫁・物価高をもたらすだけで、成長にはつながりません。

政府が進めるべき方策は、賃上げが可能になるような労働生産性の引き上げ策です。
 
以前にも 当メルマガ で紹介しましたが、経済成長に必要な3要素は、労働投入の増加(例えば雇用の増加、労働時間の増加)、資本投入の増加(設備投資など)、生産性の上昇の3つです。

賃上げ自体は成長に必要な要素ではありません。譲歩しても、賃上げで労働者が気を良くし、モラルが上がって労働生産性が上がる面はありますが、長続きしません。
 
生産性を上げるには、新しい技術を体現した設備を導入し、労働者の資本装備率を高めるか、AIの導入や、新しいソフトの活用、全く新しいシステムによる生産体制など、既存の枠組みを変革することです。

折しも、近年にない人手不足が進行しています。かつてのような外国人労働に頼れる部分は限界があります。特にここまで円安が進むと、円でもらった賃金を祖国に送金する場合、価値が減価して日本で働く意味がなくなります。

こういう時にこそ、省エネ、省力化投資が必要で、水素ガスエンジン車など新市場に向けての開発が、新市場の獲得、創業者利得にもつながります。

政府日銀は金融緩和、円安という企業向けの「ぬるま湯政策」をやめ、官民一体となって新技術の共同開発、民生化を進め、世界に打って出るだけの新市場を作り出すことが、「所得から成長への好循環」につながります。