宮本たけしさん

国税庁の「ナンバースリー」、中村稔国税庁長官審議官こそ赤木俊夫さんの命を奪った「森友決裁文書改ざん事件」で佐川宣寿元理財局長とともに減給処分を受けた理財局総務課長。
英国公使を終えて帰国し出世していた。お互い6年ぶりの論戦だった。

 

故・赤木俊夫さんの無念とご遺族の怒りを背負って追及することは国会で一番最初にこの事件を追及した私に課せられた責任です。

 

 

 

財務省の公文書改ざん事件と言えば誰しも佐川宣寿元理財局長の顔を思い浮かべるだろう。森友学園への国有地売却をめぐる公文書改ざんで停職3カ月相当とされたが、実はもう一人停職処分を受けた人物がいる。当時の理財局総務課長、中村稔氏だ。国会で答弁に立つ職位になかったため佐川氏ほど目立たなかったが、最も近い立場で中核的な役割を担ったとして停職1カ月となった。

これほど重い処分を受けながら、中村氏はその後、駐イギリス公使に栄転。今は国税庁ナンバー3の長官官房審議官という重責にあり、国会答弁に立つこともできる。では改ざんについて答えてもらおうではないか。

事件では近畿財務局の赤木俊夫さんが改ざんを告発する「手記」を遺し命を絶った。妻の雅子さんが事件に関する公文書の開示を請求したところ、財務省は応じなかったが、総務省の情報公開・個人情報保護審査会は今年3月、不開示決定を取り消すべきという答申を出した。そこで共産党の宮本岳志衆議院議員は、4月9日の衆議院総務委員会で関連質問をすると事前に通告し、中村氏の出席も求めた。財務省は渋ったが、前日の夜になって中村氏を出席させると回答してきた。

 

宮本議員は6年前、森友事件を追及した際に中村氏と面識がある。委員会で「中村審議官、ずいぶん久しぶりでありますけれども」と語りかけた上で、公文書改ざん事件をどう受け止めているのか、「率直に聞かせていただけますか?」と切り込んだ。

■答弁に立たない

ところが中村氏は答弁に立たない。代わりに石田清理財局次長が今の担当者として答えた。

「高い倫理観と志を持ち、まじめに職務に精励していた赤木俊夫さんに改めて哀悼の誠を捧げたいと思います。またご遺族に対しては、公務に起因し自死という結果に至ったことにつき、心よりお詫び申し上げるとともに謹んでお悔やみを申し上げます」

中村氏がすんなりとは答弁に立たないだろうと予想していた宮本議員は、すぐに次の矢を放った。改ざんに関する財務省の調査報告書が中村氏について「問題の全般について責任を免れるものではない」と指摘している部分を紹介し、「中村審議官、自覚はされておりますか?」と問いかけた。こうなるとさすがに本人が答えるしかない。中村氏がこの問題で国会答弁するのは初めてだ。注目されたその内容は……、

「高い志と倫理観を持ち、まじめに職務に精励していた赤木俊夫さんに哀悼の意を表したいと思います。またご遺族に対しては、公務に起因して自死という結果に至ったことにつき、謹んでお悔やみを申し上げたいと思います」

異様さ際立つ「お詫び」なし

 


なんだ、さっきの理財局次長とほとんど同じじゃないか、と思われるだろう。だが重要な違いが1カ所ある。それは……、理財局次長の答弁ではご遺族に「お詫び」しているが、中村氏の言葉にはお詫びがない。ただお悔やみを述べただけだ。財務省としては謝っているのに、当事者である中村氏は謝らない。その奇怪さが際立つ。

これに対し宮本議員は赤木俊夫さんの「手記」の一部を読み上げた。そこでは刑事罰を受けるべき者として佐川氏らと並び中村氏の名前をあげた上で「家族(もっとも大切な家内)を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは、本省理財局です」と綴っている。宮本議員は「あなた、これを読んだんですか? 読んでも何とも思わないんですか?」と問いかけた。だが中村氏は先ほどと同じ答弁を繰り返しただけだった。再び「お詫び」はなしで。

 

中村氏の改ざん事件初答弁はこうして終わった。「改ざん官僚は謝らない」という異様さが確認できたと言える。また彼らが赤木俊夫さんについて「高い倫理観と志」を持っていたと語る姿は、「高い倫理観と志」を持っていなければ不正に手を染め出世もできると言っているようにも聞こえる。

このやり取りは衆議院がインターネット上で公開しているから、リンクから見ることができる。

もう一つ、この日の委員会で明らかになったことがある。情報公開・個人情報保護審査会の答申を受けて、その内容と異なる結論を官庁が出したケースは、過去22年間で1万5070件中24件しかない。つまり99.8%は答申通りの結果だ。それでも財務省は赤木雅子さんの情報開示請求を拒絶するのか? その判断は原則として60日間以内に示される。

(相澤冬樹/ジャーナリスト・元NHK記者)

 

 

赤木雅子さんの情報公開審査請求で裁判所と正反対の結論。審査会が財務省の決定を「取り消すべき」と答申

 
 
行政文書が黒塗りだった場合のふたつの戦い方
情報公開制度は誰でも利用できる。

そして行政機関は持っている行政文書を原則として開示しなくてはならない。不開示となる対象は法律によって限定されている。

ところがお役所は自分たちにとって都合のわるい書類を出したがらない。シレっと真っ黒に塗りつぶしてくる。赤木雅子さんの場合に至っては財務省から「書類があるのか、ないのかすら言わない」という回答を寄越された。

国に対する情報公開請求において納得できない場合、文句を言う手段はふたつある。

ひとつは裁判所に対して不開示決定取消請求訴訟を起こすというもの。もうひとつは情報公開・個人情報保護審査会に対して審査請求を申し立てるという方法だ。

赤木雅子さんは同じ情報開示請求に対する不開示決定について、両方の手立てを同時並行で行った。

裁判所は2023年9月14日、原告の請求を棄却した。財務省が「書類があるのか、ないのかすら言わない」ことは法律で例外的に定められている要件を満たしているから、適法であると判示したのだった。

ところがである。

2024年3月29日、情報公開・個人情報保護審査会が出した答申には「書類があるのか、ないのか、明らかにして、もう一回開示決定すべき」と書かれていた。

まったく同じ求めに対し、裁判所と国の審査機関から正反対のふたつの結論が届いたのである。いったいどういうことなのだろうか。

検察に提出し、戻ってきた行政文書を開示して!
赤木雅子さんは2021年8月11日、「財務省と近畿財務局が学校法人森友学園に対する国有地売却問題に関して行われた刑事告発に関連して行われた任意捜査の際、東京地検または大阪地検に対して任意提出した一切の文書ないし準文書(任意提出した際の控えないしは各検察庁から還付されたものを含む)」という内容の行政文書開示請求を行った。

森友学園事件においては、豊中の国有地売却をめぐる背任や証拠隠滅、決裁文書の改ざんについて有印公文書変造・同行使、応接録の廃棄では公用文書毀棄という罪名で、38人の財務省・近畿財務局の職員らに対し、数多くの刑事告発が行われ、大阪地検特捜部において捜査が行われていた。その際、強制捜査はなされておらず、任意で書類の提出を求めたと報道されている。

結局、不起訴という結論になったので、役所に戻ってきた行政文書を開示してもらいたいというのが赤木さんの請求だった。

しかし、財務省・近畿財務局は同年10月11日、不開示と決定した。理由として「特定事件の捜査に関するものであり、その行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、特定事件における捜査機関の活動内容を明らかにしあるいは推知させることになるため」、法律に定められた「書類があるのか、ないのかすら言わない」不開示決定をしたのだと書かれていたのである。

一審の大阪地裁判決は国の言ったことを丸呑み
文書の開示を求めて起こした裁判の一審判決は、「捜査手法や対象の範囲、関心事項が推知されるおそれがないとはいえない」とし、裁量権の逸脱や乱用はないとした。審理において、国は「おそれ」について具体的な主張・立証を行わなかったのだが、裁判所は抽象的な「おそれ」についての国のロジックを追認した。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d4f085da1f43c86bae10107fb9390efe0077eb66

赤木雅子さんは控訴し、現在大阪高裁において審理が行われている。控訴審において控訴人は長年、情報公開制度に携わっている三宅弘弁護士、森田明弁護士の意見書を証拠として提出。いずれも「書類があるのか、ないのかすら言わない」という処分は許されないことを、情報公開法の立法過程の議論や過去の情報公開・個人情報保護審査会の答申をもとに細かく論じている。

さらに元検察官で特捜部経験もある郷原信郎弁護士の意見書も追加。検察官としての実体験をふまえ、判決のなかで推論に推論を重ねたうえに導き出された「特定事件における捜査機関の活動内容を明らかにし、あるいは推知させることになる」可能性をことごとく否定した。

そのうえ赤木さん側は郷原信郎弁護士の証人尋問も申請。国が当事者照会に応じなかったため、鈴木俊一財務大臣と本件処分当時に近畿財務局長だった小宮敦史国際租税総括官の証人申請も行った。

6月14日に行われる口頭弁論期日において採否が決まるものと思われる。

法的拘束力のない答申。財務省はどう裁決するのか
情報公開・個人情報保護審査会の答申は先に述べたように、「財務省は不開示決定を取り消すべき」と結論づけた。

書類があるのかないのか言ったところで、犯罪の予防や捜査、刑の執行その他、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるとは言い切れないと判断したのである。

法に定められた国の機関が「もう1回やり直せ」と言っているのだから、財務省はすぐさま処分を打ち直すのだろうか。

ところが、そうすんなりと進むわけではないようだ。

筆者が森友学園事件に関する情報公開請求における不開示決定に対し審査請求を行い、「取り消すべき」という答申を得た後、財務省から届いた裁決書の謄本。通常、処分庁は情報公開・個人情報保護審査会の答申に従う
 
なぜならこの答申には法的拘束力がないのである。総務省に置かれた第三者の機関において専門的な知見に基づいて作られた答申であっても、ごくたまにであるが、その内容に反する裁決が行われる。

森友学園事件に関する事案においては、赤木雅子さんの国家賠償請求訴訟での認諾のように、国は常識外れのことを平気でやってきた。

「原処分を取り消すべき」という審査会の答申に対する裁決は、通常60日に以内に行うことが望ましいとされている。財務省は正々堂々と森友学園事件関連の書類を開示するのか、それとも、またしても隠蔽の道を選択するのだろうか。
 
 

財務省公文書改ざん事件の中核人物が衆院委員会で答弁。赤木氏に「哀悼の意」を述べるも自らの言葉で話さず

 
 
ひさしぶりに手に汗握る国会審議を見た。

4月9日に行われた衆議院総務委員会、共産党・宮本岳志議員の質疑である。

登壇したのは中村稔国税庁長官官房審議官。いまから7年前、財務省理財局総務課長として関わった財務省決裁文書改ざん事件において「中核的な役割を担っていたと認められる」と調査報告書に記されている人物だ。

改ざん発覚後の2018年8月、外務省へ出向したうえ在英大使館公使となるなど、異例の人事で日本を離れ、ほとぼりが冷めた2022年6月に財務総合政策研究所副所長として帰国してからも、事件に関して口をつぐんできた改ざんの中心人物はいったいなにを語ったのだろうか。

指名された本人でなく、理財局次長が答弁
2018年3月に発覚した財務省・公文書改ざん事件において、近畿財務局職員として応接記録の破棄、決裁文書の改ざん、情報開示請求に対する虚偽回答、会計検査院に対する検査忌避など数々の違法行為を強要された赤木俊夫さんは、精神に不調を来たし、自死するに至った。

しかし、同年6月4日に公表された財務省の調査報告書に赤木さんについての記載はなかった。また同書は改ざんが誰の指示で、いつ、どのように決定され、どう下達されたかが一切記されていないなど、国民を愚弄しているとしか思えない代物だった。

公文書改ざん事件はいまだ何ひとつ解明されていないのである。

ただし、改ざん行為の実行犯については「改ざんの方向性を決定づけた」として佐川宣寿元理財局長の名前があり、その次にもっとも重い責任があるものとして中村稔氏が挙げられていた。

この日の総務委員会での宮本議員の質問は、事件の真相を知るべく赤木俊夫さんの連れ合いである赤木雅子さんの起こしていた情報開示請求についてのものから始まった。情報公開・個人情報保護審査会は設置法により総務省に置かれているからである。そして質疑の中盤に至り、

「今日は中村稔審議官に来ていただいております。中村審議官、随分久しぶりでありますけれども、あなたはあの決裁文書の改ざん事件をどう受け止めておられるか率直に聞かせていただけますか?」

と問いかけた。

ところが、指名された中村氏ではなく、石田清理財局次長が答弁に立ち、「あなたには聞いてない、中村さんに聞いたんです」という宮本議員の言葉をさえぎり、

「森友学園案件に関するお尋ねであるため、現在国有財産行政を担当しているわたくしから財務省を代表してお答えさせていただきたい」

と述べたうえ、

「まずあの高い志と倫理観を持ち、真面目に職務に精励していた赤木俊夫さんにあらためて哀悼の誠を捧げたいと思います。またご遺族に対しては公務に起因して自死という結果に至ったことにつき、心よりお詫びを申し上げるとともに、謹んでお悔やみを申し上げます」と早口で紙を読み上げる。これまでの国会答弁で鈴木俊一財務大臣などによって繰り返されたものとほぼ同様の内容だった。

「中村さん、中村さん、おかしいじゃないか!」
宮本議員は改ざん事件での中村氏の位置づけを説明したうえ、「(調査報告書では)問題の全般について責任を免れるものではない」とされております。中村審議官、自覚はされておりますか?」

と再度答弁を求める。しかし、誰も演台に向かおうとしない。

「中村さん、中村さん、おかしいじゃないか。本人じゃないか」

声を上げると、ようやく中村審議官が登壇した。

改ざんが行われてから7年、発覚から6年が経つも、佐川宣寿元理財局長以外の行為の当事者が公の場で口を開くのはわたしの記憶する限り初めてである。

いったいなにが語られるのだろうか。思わず身を乗り出す。

しかし、中村審議官は手に持った紙を凝視しながら、

「高い志を持ち、真面目に職務に精励していた赤木俊夫さんに哀悼の意を表したいと思います。またご遺族に対しては公務に起因して自死という結果に至ったことにつき謹んでお悔やみを申し上げたいと思います。恐縮でございますが、本日は国税庁長官官房審議官の立場で出席せていただいておりますので、これ以上の答弁は差し控えさせていただきたいと思います」

と、これまでの財務省の答弁からは一ミリも踏み出すことのない公式見解を述べるにとどまった。

ちなみに「公務に起因して」という言葉が必ず挟まれるのがミソで、財務省はいまだに赤木俊夫さんが「仕事をしていて心を病み、そして亡くなった」というスタンスをまったく崩していない。

ちがうのである。

先にも述べたよう、彼は公文書改ざん行為だけでなく、応接録の廃棄、情報開示請求に対する虚偽回答、会計検査院に対する検査忌避など数々の犯罪・違法行為を強要されたために憤死したのである。

中村審議官には真実を語る責務がある
宮本議員はすかさず立ち上がり、

「よく聞いて下さいよ。これはこの本のなかに出てくる赤木さんが残した遺書の一部であります」

こう言うと、赤木雅子さん・相澤冬樹氏の著書『私は真実が知りたい』を読み上げる。

「『刑事罰、懲戒処分を受けるべき者、佐川理財局長、当時の理財局次長、中村総務課長、企画課長、田村国有財産審理室長ほか幹部』『この事実を知り、抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました。事実を、公的な場所でしっかりと説明することができません。今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした(55才の春を迎えることができない儚さと怖さ)』『家族(もっとも大切な家内)を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは、本省理財局です』」

そして再度問いかけた。

「中村さん、あなたはこれを読んだんですか。読んでもなんとも思わないんですか。亡くなった赤木さんや、赤木さんのお連れ合いになんの言葉もないんですか。中村さん」

ふたたび答弁に立った中村審議官は「お答えいたします。先ほど申しましたとおり、まず職務に精励していた赤木俊夫さんには哀悼の意を表したいと思います。ご遺族に対して、公務に起因して自死という結果に至ったことについて、謹んでお悔やみ申し上げたいと思います。大変繰り返しで恐縮でございますが、本日は国税庁長官官房審議官という立場でご出席させていただいておりますので、これ以上につきましては差し控えさせていただきます」とふたたび紙を読み上げる。

予想していた答えだったとはいえ、苦い感慨がわき起こった。

赤木雅子さんの国家賠償請求訴訟や不開示決定取消請求訴訟、個人情報保護審査会への審査請求はただただ「夫が亡くなった真相を知りたい」としてなされたものである。

佐川宣寿元理財局長や中村稔国税庁長官官房審議官に改ざんを命じた人間がいる。そして、その人物の名前はわかっていない。

彼らはどうしてそこまでして真犯人を守ろうとするのか。これが官僚組織というものなのか。

日本国憲法15条第2項には「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とあり、国家公務員法96条は「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し」なければならないと定めている。

中村審議官には真実を語る責務がある。

だんまりを続ける限り、公文書改ざん事件の真相究明を求めるものからの追及は永遠に終わらないにもかかわらず、なぜ口をつぐみ続けるのだろうか。

赤澤竜也