沖縄 うるま訓練場新設断念

防衛相が表明 反対世論が追い込む

 
 陸自訓練場新設を巡っては、住宅地や教育施設に隣接し、地元住民や自治体に全く知らせず、計画を公表。地元自治会をはじめ保守や革新を超え多くの住民が反対の声をあげました。こうした反対世論が新設計画を断念に追い込みました。

 
 
 木原稔防衛相は11日、沖縄県うるま市石川のゴルフ場跡地への陸上自衛隊訓練場の新設について、「住民生活と調和しながら、訓練所要を満たすことは不可能と判断した」として、白紙撤回すると表明しました。「うるま市をはじめ、地元の皆さまにおわびする」として陳謝しました。

 木原氏は、今回の候補地であったゴルフ場跡地の土地については「取得しない」と明言しました。一方、沖縄の陸自第15旅団を師団に改編し、増員する方針に変更はないとして、「沖縄本島に訓練場が物理的に不足する。今後は幅広い視点で、あらゆる選択肢を排除せずに再検討する」として、訓練場を増設する意向を示しました。今年度予算に計上されている訓練場建設のための土地取得費については「しっかりと活用する」と述べました。

 また、訓練場建設の断念になった要因として候補地選定の段階で地元との調整ができていなかったのではないかと問われ、木原氏は「地元に対する説明は丁寧に行ってきたと思う。土地取得は沖縄だけでなく全国でやっており、プロセスはちゃんと踏まえていた」と弁明。「結果として地元の状況の把握、分析が不十分だった」と述べるにとどめました。

 陸自訓練場新設を巡っては、住宅地や教育施設に隣接し、地元住民や自治体に全く知らせず、計画を公表。地元自治会をはじめ保守や革新を超え多くの住民が反対の声をあげました。こうした反対世論が新設計画を断念に追い込みました。

 
「住民の勝利」と喜び
「断念求める会」会見

 沖縄県うるま市石川のゴルフ場跡への自衛隊訓練場の新設を巡り、保革を超えて計画に反対する地元住民団体「自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会」は11日、木原稔防衛相が計画の取りやめを同日発表したことを受けて会見し、「住民の勝利だ」として喜びの声を上げました。

 午後6時20分ごろ、会見場となった同市石川の「石川部落事務所」で、記者団から計画取りやめの発表が伝えられると、「会」の共同代表から歓喜あふれる「万歳」が飛び出しました。

 元自民党県議の伊波常洋共同代表は、国が今回の計画を決めるにあたって地元の意向を聞くことなく強権的に進めたことで、住民の怒りに「火を付けた」と強調。「あまりにも横暴な判断、土足で踏み込んできた。今後、別の場所を選定するとしても(住民の声を聞いて)手順を踏んだ上で、ルールにのっとってやるべきだ」と語りました。

 同市選出県議の山内末子共同代表は、ゴルフ場跡を抱える旭区が全会一致で計画反対を決議したことが、市議会、市長、県議会と次々に動かしたと指摘。「沖縄県全体の総意として断念を求める声になり、波状効果のように防衛省にしっかり届いた。住民の勝利だ」と述べました。

 伊波洋正事務局長は「私たちは保革を超えて訓練場建設に反対していこうと、ここは絶対ブレないようにとやってきた。これが大きな力になり国を動かす力になった。みんながまとまっていけば大きな力になるんだと感じた」と語りました。

 
主張
うるま訓練場計画
県民総意に従い政府は断念を

 
 「閑静な住宅地に基地はいらない」「地元に一言もなく進めるな」―。昨年12月、沖縄県うるま市石川のゴルフ場跡地に陸上自衛隊の訓練場を造る計画が突如持ち上がったことに、地元から怒りの声が沸き起こっています。3月には県議会が白紙撤回を求める意見書を全会一致で可決するなど、計画反対が党派を超えた県民の総意になっています。

 岸田文雄政権は市民・県民の声に押され、跡地の利用のあり方を改めて検討するとしつつ、白紙撤回は拒否しています。運動と世論を一層強め、計画断念に追い込むことが必要です。

■日常の暮らし無視
 岸田政権は、今年度予算に陸自訓練場の新設のためゴルフ場跡地20ヘクタールの取得費を計上しています。

 跡地の前には静かな住宅地が広がります。年間4万人もの子どもたちが自然学習や宿泊体験などで利用する県立石川青少年の家も隣接しています。青少年の家の宿泊棟と予定地の距離はわずか60メートルです。近くの石川岳は豊かな自然に触れられる場として、県民に親しまれています。誰がみても自衛隊の訓練場にはふさわしくありません。

 防衛省は、沖縄の陸自第15旅団(約2000人)に数百人規模の普通科連隊1個を新たに加え、より規模の大きい師団に改編する予定で、それに伴い訓練の必要が増えることを訓練場新設の理由にしています。第15旅団の師団への改編は、岸田政権が決めた安保3文書に「南西地域での防衛体制を強化する」ためとして盛り込まれました。

 防衛省は当初、ヘリの離着陸、空包射撃、ミサイル部隊の発射機展開などの訓練を想定していました。「周辺への影響が最小限となるよう検討」したといいますが、ヘリのごう音や空砲音が周囲に響き渡るのは明らかです。周辺住民への影響は眼中になかったと言わざるを得ません。

 これは、安保3文書に基づく大軍拡が市民の日常の暮らしの安心・安全を無視して進められていることを象徴的に示すものです。

 住民の怒りの前に防衛省は、ヘリの飛行は緊急時に限る、空包は使わないと態度を変え、米軍の使用は想定しないとしていますが、部隊の展開訓練や夜間訓練は行うとしています。住民は「訓練がエスカレートするのは目に見えている」と不信を募らせています。

■反対の声は全県に
 昨年12月にメディアが計画を報じるまで地元住民らには寝耳に水だったことも、怒りに火を注ぎました。

 反対の声はたちまち広がり、地元石川の旭区を皮切りに市内63の全自治会が反対の意思を示し、うるま市議会が計画断念を求める意見書を全会一致で可決しました。市町村合併で2005年にうるま市が誕生して以来初めてとされる大規模な市民集会(1200人が参加)も開かれ、計画断念を訴えました。中村正人市長や玉城デニー知事も白紙撤回を求めています。

 うるま市石川には、1959年に米軍機が墜落し児童と住民の18人が死亡した宮森小学校があります。事故の体験者や遺族が今も暮らし、「基地ができれば悲劇は繰り返される」との思いを抱いています。岸田政権は計画を白紙撤回し土地の取得を断念すべきです。
 
 

「実情踏まえ賢明な判断」 陸自訓練場断念受け、玉城知事

 
 
 防衛省が沖縄県うるま市のゴルフ場跡地で計画していた陸上自衛隊の訓練場整備を断念したことについて、沖縄県の玉城デニー知事は12日の定例記者会見で、「地元の実情を踏まえ、賢明な判断をされた」と評価した。一方で、木原稔防衛相が沖縄本島内で別の候補地を探す考えを示していることに関し、「自衛隊施設の設置については、米軍の基地負担の軽減と合わせて検討するよう要請しており、改めてそのことを強くお願いしたい」とくぎを刺した。

 防衛省は、中国などを念頭においた南西諸島の防衛力強化の一環で、那覇市を拠点とする陸自第15旅団を2027年度までに「師団」に増強するのに伴い、新たな訓練場が必要になるとして、うるま市のゴルフ場跡地を整備予定地とした。
 
 しかし、予定地が住宅街に近接していることに加え、防衛省が用地取得費を24年度当初予算案に計上し、26年度に着工するスケジュールを組んだ段階で周辺住民向けの説明会を開催したことで「計画ありきだ」と批判を招いた。訓練内容の説明が変遷したことも不信感を増幅させた。反対運動の高まりを受け、木原防衛相は11日に断念を表明。地元住民に謝罪した上で「地元の状況の把握、分析、検討が、結果として不十分だった」と述べた。
 こうした経緯を踏まえ、玉城知事は「『計画ありき』のずさんなものだったと言わざるを得ない。このような方法では県内のどの場所であっても県民の賛意を得るのは難しいのではないか」と述べ、防衛省に対し、住民の意向を尊重するよう求めた。一方、防衛省は別の候補地を沖縄本島内で探す考えで、木原防衛相は12日の閣議後会見で「沖縄本島でも住民生活と調和しながら訓練所要を満たすことは、不可能とは考えていない」と述べた。【比嘉洋、中村紬葵】