自民党が地方議員にバラ撒いていた「地盤培養資金」 司法当局は“選挙買収で摘発の対象になりうる”と判断基準を転換

 
悪の集団、国会議員になるためには何でもあり…。有権者は振り回され騙され、もうやめよう古い緩い悪しき慣例は。
 
多くの議員は「法令に従い適正に処理している」と回答したが、裏金事件では「これまでみんなやってきたから大丈夫だろう」と続けてきたキックバックが断罪された。選挙バラ撒きも同じ構図ではないか。政治資金研究の第一人者である岩井奉信・日本大学名誉教授が指摘する。

「選挙にあたっての寄附は公選法の問題。公選法では寄附の形式ではなく意味が問われ、買収の認識を持った寄附は違法とみなされる。政治資金収支報告書に記載しているからといって適正という免罪符にはならない」

 調査によりほとんどの議員が選挙の時だけ多額のカネをバラ撒く実態が明らかになった。「適正」とみなす有権者がどれだけいるだろうか。
 
 
 自民党の裏金事件ではっきりわかったことは、彼らの異常なまでのカネ集めへの執着だ。なぜそこまでするのか──選挙のためだろう。選挙時に地元議員にカネを配って買収の罪に問われる議員も出てきたが、自民党有力議員の多くも、選挙の年に大金を地元にバラ撒いていることが判明した。
 
陣中見舞いがアウトに
 繰り返される政治資金をめぐる事件。問題の根底にあるのは、自民党の「バラ撒き選挙」だ。政治資金研究の第一人者である岩井奉信・日本大学名誉教授が指摘する。

「自民党は、地元に根を張る地方議員が有権者を組織化していて、その支持者の票を国会議員が選挙で得る構造になっています。そのため国会議員は、地方議員らに『よろしく』の意味を込めて寄附を行なう。こうしてバラ撒くカネは『地盤培養資金』と呼ばれる」

 公選法では、「法定選挙費用」として選挙区ごとに候補者が選挙に使える金額の上限が定められている。収支は選挙運動費用収支報告書として提出しなければならないから、本来はそれ以上使ってはいけないはずだ。

 だが、自民党の国会議員は選挙前になると、選挙費用とは別に、地元の地方議員などが代表を務める政治団体や党の地域支部に政治資金を寄附し、法定選挙費用を超えるカネをバラ撒く。それでも、政治資金収支報告書に「通常の政治活動費」、あるいは地方選挙の「陣中見舞い」として記載すれば合法と見なされてきた。

 河井克行・元法相夫妻の2019年参院選での選挙買収事件では、河井氏が妻・案里氏の選挙のために広島の地方議員ら約100人に約2900万円を配り、大半は裏金で「買収」と判断された。

潮目が変わった柿沢未途の選挙買収事件
 そしてこの3月14日、注目される判決が下った。柿沢未途・元法務副大臣の選挙買収事件で東京地裁が、有罪判決を言い渡した(確定)。

 事件は昨年4月の江東区長選をめぐって、柿沢氏が「地盤固め」のために系列候補(木村弥生・前区長)を支援し、自民党区議など10人に合計約220万円を提供した行為が買収に問われた。柿沢氏は当初、資金提供は同日の区議選の候補への「陣中見舞い」と主張し、受け取った区議の一部も選挙運動費用収支報告書に柿沢氏からの20万円を「陣中見舞い」と記載したが、東京地検特捜部は柿沢氏や受け取った区議らを区長選に関する選挙買収容疑で起訴した。前出の岩井教授が言う。

「これまで当事者が陣中見舞いや政治活動費の寄附と主張すれば『培養資金』とみなされてセーフだったが、今回、特捜部は買収と判断して起訴した。政治資金収支報告書に『政治活動費』などと記載していても、票のとりまとめの意思が認定されれば、選挙買収で摘発の対象になりうると判断基準を転換したわけです」

 

【選挙の年だけ多額の支出】自民党議員「地元バラ撒き」リスト 安倍派の西村康稔氏は17件1280万円、萩生田光一氏は72件833万円

 
 
35万円の“黒字”も
 本誌・週刊ポストは自民党有力議員の政治資金収支報告書を調査し、前回総選挙があった2021年に自身の選挙区がある都道府県内の地方議員(候補者を含む)の政治団体や支部、党の地域支部などにいくらの「政治活動費」を配ったかを分析した。この年は10月に衆院議員の任期満了を控え、年初から総選挙があることがわかっていた。

 そこで各議員の政党支部、資金管理団体、関係政治団体が1月から総選挙投開票日の10月31日までに寄附した額を集計。選挙のなかった翌2022年の1年分と比較して「選挙の年にどれだけ多かったか」がわかるようにした。

 掲載リストは額の多かった20人のランキングだ。

 1位は平井卓也・元デジタル相。2021年は59件、合計約1974万円を寄附した。総選挙がなかった22年は寄附が約616万円と大幅に減った。

 2位の棚橋泰文・元国家公安委員長は特定の団体への寄附額が突出していた。2021年は4月に棚橋氏の選挙区(岐阜2区)の大票田で大垣市長選が行なわれ、新人4人が出馬。棚橋氏は3月から4月にかけ、市長に当選した石田仁氏(元大垣市議)が代表の政治団体「希望あふれる大垣を創る会」に4回合計1350万円、「石田仁後援会」にも20万円の寄附をしていた。
 
 もっと露骨な配り方だったのが堀内詔子・元ワクチン担当相(3位)だ。2021年は総選挙が迫る9月27日から公示前の10月15日にかけて40の地域支部に1450万円を集中的に寄附したのに、翌22年は一転、地域支部への寄附はゼロだ(山梨県連への100万円のみ)。

 受け取った側はどう考えているのか。堀内氏の政党支部から160万円の寄附を受けた自民党都留市支部の代表(当時)を務めていた杉山肇・山梨県議が語る。

「買収ではないかと見る人がいるかもしれないが、それは受け止め方次第で色々な判断はあると思います。私はそうは思っていない。あくまで組織活動のために寄附をいただいたと理解しています」
 
 
 裏金問題で追及される安倍派からは西村康稔・前経産相(5位)、高木毅・前国対委員長(10位)、萩生田光一・前政調会長(14位)がランクイン。高木氏の政党支部から60万円の寄附を受けた自民党上中支部(代表は辻岡正和・若狭町議)の事務担当者に話を聞いた。

「交付金は衆院選の対策費です。上中支部の党員数は約50人、高木事務所から60万円が振り込まれました。支部の役員会を開いたり、個人演説会の会場を設置したりと活動してますから、赤字です」

 と強調したが、上中支部の政治資金収支報告書でこの年の支出は31万円。高木氏からの寄附を含む合計収入額は約66万円で、約35万円が繰越金に回った。

 萩生田氏は都内の支部に幅広く寄附し、件数も72件と多いが、金額を見ると833万円の半分以上の446万円(21件)を票田の八王子市の各支部に配っていた。

 萩生田事務所に寄附の目的を質問したが、「政治資金は法令に従い適正に処理しています」という回答だった。

「地道な活動」なのか
 本誌の「選挙目的の寄附ではなかったのか」という質問に真っ向から反論したのは15位の高市早苗・経済安保相だ。

「通常の政治活動と選挙運動は、全く目的が異なり、通常の政治活動は生活全般に関わる政策課題を広く調査研究し、地域性も含めたあらゆる声を政策に反映するための活動であり、目的達成のための地道で継続的な活動についての資金を何と比較して多額と仰っているのか理解できません」
 
 高市氏の場合、総選挙があった2021年も翌2022年もほぼ同額を寄附している。「地道で継続的な活動」との主張は成り立つ。
 
だが、選挙の年だけ多くバラ撒いたほかの閣僚経験者たちは、「地道な政治活動」という理屈は通らないはずだ。

 ちなみに岸田文雄・首相や二階俊博・元幹事長は総選挙の2021年の地元への寄附はゼロ。選挙に強い超大物はバラ撒かなくとも当選できるということか。

 本誌の取材に多くの議員は「法令に従い適正に処理している」と回答したが、裏金事件では「これまでみんなやってきたから大丈夫だろう」と続けてきたキックバックが断罪された。選挙バラ撒きも同じ構図ではないか。政治資金研究の第一人者である岩井奉信・日本大学名誉教授が指摘する。

「選挙にあたっての寄附は公選法の問題。公選法では寄附の形式ではなく意味が問われ、買収の認識を持った寄附は違法とみなされる。政治資金収支報告書に記載しているからといって適正という免罪符にはならない」

 調査によりほとんどの議員が選挙の時だけ多額のカネをバラ撒く実態が明らかになった。「適正」とみなす有権者がどれだけいるだろうか。