介護報酬がアップしても職員は大量離職の可能性…介護事業所の現役経営者が指摘する「報酬改定のカラクリ」

 
「一定以上」の所得者は2割から2.5割~3割の負担増を提案します。と言うが、この延長戦には「自己責任」という今の政治が押し付けている冷酷な現実がある。絶対にこの様な言い様は間違っている。政治が責任を持って介護職員、事業所を守っていくべきである。財源?あるじゃないですか。「軍事費」の戦争できる財源を「命を守る」社会保障に回すのです。
 
 
厚生労働省は、今年4月から施行する介護保険制度の改定で訪問介護事業所の基本報酬が2~3%引き下げられると発表し、関係者に衝撃を与えています。

〈「共働きでも毎月赤字です…」介護事業所の現役経営者が「まさかの介護報酬引き下げ」で国に訴えたいこと〉では、介護業界で12年以上勤務する沖縄県浦添市安波茶の訪問介護事業所「おうちでくらせる訪問介護」の代表社員・比嘉歩さんに過酷な現場の実態や、介護報酬を考えるにあたり集合住宅併設とそうでない訪問介護事業所を分けて国が統計調査をとる必要性を紹介しました。

本稿では、介護報酬が上がったものの、今年の6月から介護職が大量離職する恐れがある理由や改善案についてお伝えします。ぜひ最後までお読みください。

6月から介護職が大量離職の可能性がある4つの理由
介護報酬は1.59%にアップ、また6月から新処遇改善加算により介護職の給与は上がるものの、歩さんはこの報酬改定にはカラクリがあり、このままでは介護職員が大量に離職してしまうと警鐘を鳴らします。
 
その理由は下記の1~4です。
1、最低賃金は毎年平均3%~4%引き上げられていますが(コロナの時の2020年はほぼ据え置き)、介護報酬改定は3年に1度の改定のため、3年間で1.59%のアップにとどまっています。そのため、介護職から他の仕事への転職者が相次ぐと予想されます。

2、処遇改善加算は、介護職の口座に国から直接入るわけではありません。分配するのはその事業所毎になります。ですので、給与が上がる人、変わらない人、逆に下がる人、処遇改善加算を算定していない事業所も多くあります。そのような事業所だと訪問介護の場合、給与は減る可能性があります。

加えて、訪問介護に限らず処遇改善を上積みする前の基本給を下げざる得ない事業所も現れてくるでしょう。
 
3、処遇改善加算の上位区分を算定するには、非常に多くの「職場環境等要件」を満たさなければいけません。一定の経過措置、小規模な事業所への配慮もありますが、限られた人員体制で利用者のケアに追われ要件を満たすのは困難です。実際、対応できないところも少なくないでしょう。

4、10年前に比べて書類作成が増えている印象をもっています。仕事の合間や休日出勤して委員会や会議、研修の資料作成、BCP関連資料作成、介護計画書作成など書類作業をしています。

介護事業所は基本報酬がほとんど上がらないので加算を取らないといけませんが、その加算を取るために事務作業はまた増加します。結果、給料はほぼ横ばいで資料作成業務が増えます。人手不足に拍車をかけ今いる職員に負担が集中します。

歩さんは、Youtubeチャンネル「おうちでくらせる訪問介護」で介護職や介護職に就職希望や家族介護者に向けて訪問介護や介護職の処遇改善や介護業界の問題点を発信しています。直近の「介護業界終了、もう他人事ではなくなります。日本がパニックになります」は3万4000回再生、チャンネル登録者数は4300人以上(*原稿執筆時点)で急成長中のコンテンツです。

歩さんは、「介護はいつ必要になるかわかりません。介護を他人事ではなく、自分事として捉えてほしい」と訴えます。

利用者負担1割から2~4割の上昇はやむをえない
このような状況をみていくと、介護報酬の引き上げと介護人財の確保が急務といえます。

介護報酬は、7~9割が公費と介護保険料で支払われています。その中で、「65歳以上の低所得者・非課税世帯・特段の事情がある世帯を除き、利用者負担を1割から2~4割に引き上げること」が必要と考えます。

介護給付費は、11兆1912億円に達し前年より約1621億円増加。介護保険制度が開始された2000年以降、費用総額は20年少しで2.6倍に膨張。社会保障費用は一般歳出の51%に達しています。

かたや、厚生労働省の令和2年賃金構造基本統計調査によれば、平均所得と貯金金額の合計を65歳以上と現役世代で比較すれば、65歳以上は約1954万円、現役世代は約526万円。65歳以上は現役世代の3.7倍強も多いのです。
 
したがって、65歳以上の利用者負担を「現役並み」の所得者は3割から3.5割~4割、「一定以上」の所得者は2割から2.5割~3割の負担増を提案します。

ただし、住民税非課税など低所得者世帯や課税世帯でも年収150万で金融資産が100万以下の場合や特段の事情がある(年金額は基準を上回っているものの、多額の借金があるなど)は1割負担のまま据え置けばいいのです。

今まで日本を支えてきた高齢者の方々に負担増をお願いするのは心苦しいです。ただ、飲食店などでも経営難や物価高騰の影響で値上げしていますよね、介護保険の財源不足が大幅に解消されるためには負担が上がるのは仕方ないことなのです。

介護現場のペーパーレス化やICT化が必要
また、介護人財確保について、介護職員は、2025年度までは毎年平均5万人が不足でピークを迎えます。2040年度には毎年3万人の不足となります。人口減少で高齢者自体が減少するためです。

介護人財の確保には、「ペーパーレス化やICT化を早急に進めること」が必要に思います。

筆者は、祖母の介護や母親の見守り時期の経験が長かったですが、紙の書類に記入や返送や介護施設に出向いて提出する機会が時々ありました。

一例をあげれば、介護施設の申込時は、介護施設から申込用紙を送ってもらい、祖母や母親や私が記入し返送して、記入漏れなどがあればまた同じ作業が繰り返されます。こうしたアナログな作業は、早急にデジタル化するべきです。

勤怠管理や給与計算を紙からシステムを利用したり、レセプトは請求ソフトを使ったり、夜勤から朝方の職員が過度に不足する時は介護ロボットを部分的に導入したりするなど、介護現場の働き方改革が求められます。

筆者が代表を務めるケアラーひきこもりの元・現当事者と専門職で構成された伴走支援団体「よしてよせての会」の中で、当事者や専門職各々から「介護職員同士がなんとなくギスギスした雰囲気で、声をかけにくい」、「人手不足で採用ハードルが下がり職員のケアの質が低下している」、「愚痴ばかりで代案を示す職員が少ない」などの声を聞きます。

国はICT化する介護現場に補助金を導入していますので、積極的に活用し業務の効率化を図ることによって、職員同士の人間関係の改善や若い人材の獲得も期待できるでしょう。

奥村シンゴ

宝塚在住。「ヤングケアラー」、「就職氷河期ケアラー」、「ひきこもり」を経験。現在、介護・福祉担当ライター、関西経営管理協会講師、ケアラー・ひきこもり伴走支援団体「よしてよせての会」代表を務める。NHKおはよう日本、読売新聞などメディア多数出演。

​著書『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』国際ソロプチミスト賞受賞者。

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