介護保険制度に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「今の仕組みでの議論では、支出を減らすため、介護報酬を抑える方向に力が働く」と語る。その結果、今回の報酬改定で出てきたのが、人手不足が特に深刻とされた訪問介護の基本報酬の引き下げという。
 「このままでは介護を担う事業者は安心して経営できず、介護サービスが不足する。国民は必要なサービスを使えず、介護離職が激増する。保険料と税の割合を見直し、税で賄う割合を増やしていかないといけないのでは」と指摘した。

 

「高齢者の多くは、不安を強めているはずです。生活を切り詰め、消費も減らしています。以前、話題になった2000万円問題も消えてしまった。2000万円問題は、老後は、支出に収入が追いつかなくなるから、生活を維持するためには2000万円の蓄えが必要というものでした。ところが、高齢者が生活費を切り詰め始めたため、2000万円も必要なくなった。日本の高齢者は、『現役世代に迷惑をかけるな』『少子化対策に協力しろ』と迫られると、文句を言いませんが、限界がありますよ」

 

 

 

 新年度から介護保険制度の一部が変わる。不足する介護人材を確保するため、介護保険サービスに支払う報酬は1・59%引き上げられ、その元手の一部となる保険料も春から上がる人が多くなりそうだ。一方、65歳以上の所得の低い人では、保険料の軽減措置が強化される。 (佐橋大)

 介護保険サービスでは、利用者が所得に応じて1~3割の自己負担額を払い、残りは保険から支払われる。保険の財源は、国や自治体の公費が50%、40歳以上の人が支払う介護保険料が50%。サービスの利用が増えれば、保険から支払われるお金も増え、保険料を押し上げる。

 

 厚生労働省によると、2023年度の介護費用は13兆8千億円。介護保険制度が始まった00年度の約4倍に膨らんでいる。40~64歳の保険料は新年度、平均で1人当たり月6276円(前年度より60円増)で、過去最高となる見込みだ。
 65歳以上の介護保険料については、報酬改定に合わせて3年ごとに変更される。現在の全国平均の基準額は月6014円。新年度の基準額の平均は6月以降でないと分からないが、報酬水準の引き上げや利用者の増加で上げる自治体が多そうだ。

 例えば、名古屋市は現在、保険料の基準額は月6642円。所得などに応じて保険料額を15段階に分け、基準額の0・25~2・5倍の間で設定している。24~26年度は、基準額を今より308円増やして6950円にするほか、保険料の段階を18にする。市は4月中旬ごろに新しい保険料を通知するという。

 

 

 この保険料の段階について、国は各自治体に対し、少なくとも9段階を設けるよう求めてきたが、24年度以降は、年間の合計所得420万円以上の層で新たに4段階設け、13段階とする基準を示した。この層は全体の4%にあたる145万人が該当(昨年4月時点)し、基準額への倍率が上がる。最も負担の重い第13段階では、基準額の1・7倍から2・4倍になる。

 逆に、世帯全員の市町村民税が非課税となる層では、基準額に対する倍率は少し下がる。この層は全体の3割強の約1300万人。ただ、倍率が下がっても、基準額が上がれば相殺されてしまう可能性もあり、実際に保険料負担が減る人がどれくらいになるのかは分からない。

 

 介護保険料の議論では、自治体から「引き上げは限界」との指摘も出ている。高齢化が進めば、さらに支出が増えることも避けられない。厚労省は制度を維持するため、保険料を40歳未満にも広く負担してもらう▽介護サービス利用時に2割負担する人を増やす▽ケアプランの作成料に自己負担を導入する-といった案を社会保障審議会に出したが結論は出なかった。27年度の制度の見直しに向け、あらためて議論する。

 支出削減では、来年8月から、一部の介護老人保健施設と介護医療院で、相部屋を使う一定以上の所得の人から部屋代を徴収することが決まっただけだ。

 介護保険制度に詳しい淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「今の仕組みでの議論では、支出を減らすため、介護報酬を抑える方向に力が働く」と語る。その結果、今回の報酬改定で出てきたのが、人手不足が特に深刻とされた訪問介護の基本報酬の引き下げという。

 「このままでは介護を担う事業者は安心して経営できず、介護サービスが不足する。国民は必要なサービスを使えず、介護離職が激増する。保険料と税の割合を見直し、税で賄う割合を増やしていかないといけないのでは」と指摘した。

 

 

年金が4月から年額1.4万円の“実質減額” マクロ経済スライドに加え2021年に仕込まれた新たな「年金減額ルール」がシレッと発動

 
 
 急激な物価高を受けて政権は財界に賃上げを求め、それが実現すると日銀は17年ぶりの利上げを決定した。岸田文雄・首相は内心ほくそ笑んでいることだろう。国民の暮らしが向上するから、ではない。“これで年金を一気に減らせる”──そんな「年金大減額」の思惑を暴く。
 
「年金だけ」減らされる
 今年の春闘で大企業は平均5.28%(第1次集計)という33年ぶりの大幅な「賃上げ」を実施した。
 岸田首相は、「力強い賃上げの流れができている」とドヤ顔で語り、植田和男・日銀総裁は、「賃金と物価の好循環の強まりが確認されている」とマイナス金利からの転換を決めた。日経平均株価も史上最高値を更新し、4万円を超えた。

 まるで経済バラ色のような大騒ぎだが、政府はかねてから、物価と名目賃金が大きく上昇するタイミングで年金を大胆に減額し、保険料をドーンと値上げしてやろうと仕組みをつくって待ち構えていた。

 それが発動され、4月から「年金だけ」が減らされる。国民は気づかないうちに「年金の罠」に嵌められようとしている。
 
 まずは第一の罠を暴いていこう。

 厚労省は、4月から厚生年金支給額を夫婦2人の標準世帯で月額6001円、国民年金(満額ケース)も1人月額1758円(注:69歳以上の場合。68歳以下は月額1750円の引き上げ)引き上げる。

「バブル期並み高水準」(読売新聞)と報じられ、“年金生活者にもようやく恩恵が回ってきた”と喜んでいる人は多いはずだ。

 だが、それは大きな間違いである。この引き上げ、内容をよく見ると大幅な「年金減額」なのだ。

 老後の生活保障である年金は、物価が上げれば、支給額が同じ上昇率で引き上げられなければ生活は苦しくなる。そのため、年金には物価に合わせて支給額を改定する「物価スライド」という仕組みがある。

 現在の年金支給額は厚生年金(標準世帯)が「月額22万4482円」。2023年の平均物価上昇率は「3.2%」だから、年金もそれに合わせて7183円(3.2%分)引き上げられなければ生活水準を維持できない。

 それに対して実際の引き上げ額は6001円。本来加算すべき金額より月額1182円(年間1万4184円)も足りない。実質減額になる。

 同様に計算すると国民年金も1人年間4500円の実質減額なのだ。

 政府は年金生活者に「不足分は生活を切り詰めろ」と突きつけているのである。だが、すでに年金生活者はギリギリまで切り詰めている。総務省の「家計調査」でそれがはっきりわかる。

 65歳以上の夫婦2人の年金生活世帯が1か月にかかった消費支出は2023年が平均約25万1000円。物価上昇で前年よりなんと1万4000円も増えた。

 年金などの手取り月収(可処分所得)は平均約21万3000円だから、赤字の約3万8000円は毎月貯金などを取り崩して生活に充てたことになる。その赤字幅も前年から大きく増え、貯蓄は先細るばかりだ。経済ジャーナリスト・荻原博子氏が怒る。

「年金生活者は高騰する電気代を抑えるために冬は暖房、夏も冷房をつけずに我慢し、ガス代を節約するためにお風呂は3~4日に1回とか、そんな生活で出費を抑えている。そのうえ4月から年金が年間1万4000円も実質的に減額される。
 
 貯金を取り崩しながら乾いた雑巾を絞るように生活している高齢者にとって決して小さな金額ではありません。ほかに削るとすれば、お盆と正月にやってくる孫へのお小遣いを1万円から5000円に減らすとか、そういうことまでしなければならないんです」

 現実は「バブル期並みの高水準」どころではないのだ。

2021年に仕込んでいた「年金減額ルール」
 原因は年金だけを狙い撃ちにした「ルール改定」にある。

 その一つがマクロ経済スライド。これは「年金制度を維持するため」という理由で、物価が上昇した時は、年金の引き上げ幅を物価上昇率より最大で0.9%低く抑える年金減額の仕組みだ。

 高齢化で年金財源が逼迫していることを理由に、毎年少しずつ年金を削っていくのである。額面上は増えているように見える「実質減額」であることで、国民の目を誤魔化すことにもつながる。

 小泉内閣時代の2004年の年金改正で導入されたが、デフレ(物価下落)の期間は発動されず、物価上昇に転じた安倍内閣時代の2015年に初めて実施。以来、4回実施され、これまでに合わせて年金が6.3%実質減額された。

 4月の大幅な年金実質減額は、このマクロ経済スライドに加えて、新たな「年金減額ルール」が発動された。

 2021年に施行されたこの新ルール。先に述べたように年金改定は「物価上昇率」を基準にしていたが、新ルールでは物価と賃金がどちらも上昇した場合、「伸び率が小さいほう」を基準にするよう不利な改定がなされた。

 その「低い基準」からさらにマクロ経済スライドを発動してダブルで年金を減額する仕組みだ。昨年までは前年の物価上昇率がマイナスだったため、新ルールは今年4月に初めて実施される(別掲右図参照)。

 岸田政権の大号令で物価上昇・賃上げが推し進められたが、それが実現した際に「年金が減額できる」よう“仕込まれていた”新ルールと言える。

 その結果、厚生年金が本来の引き上げ額から年間約1万4000円も減らされるのだ。

 岸田首相は賃上げに浮かれているが、賃金上昇は物価の更なる高騰を招く。そうなれば、年金生活者にとって来年もその先も、毎年、ダブルの年金減額が続くことになる。

 厚労省の年金記録回復委員会委員を務めた社会保険労務士の稲毛由佳氏が指摘する。

「年金しか収入がない年金生活者はインフレリスクが大きい。年金の支給額が物価上昇率ほど引き上げられなければ、実質目減りしていきます。加えて、インフレが進めば資産も目減りするリスクがある。物価動向を注視して毎年家計を見直していかなければ、最悪、老後破綻という事態になりかねません」

現役世代は「年金保険料」大幅引き上げ
 4月の年金ショックは現役世代にも及ぶ。「年金保険料」が大幅に引き上げられるのだ。

 自営業者やフリーランス、アルバイトなど非正規労働者などが加入する国民年金保険料は4月から年額5520円値上げ、来年4月からはさらに6360円値上げと2年連続で引き上げられる。

 過去四半世紀で最大の“異次元値上げ”で、2年分で現在の保険料より1人1万7400円の負担増となる(別掲左図参照)。

 これも物価・賃金上昇に合わせた調整だ。前出の荻原氏が言う。

「年金カットだけではなく、保険料まで上げるというのはやりたい放題ですよ。春闘で賃上げラッシュといっても、非正規労働者にはあまり波及していない。そのうえ、自営業者は消費税のインボイス導入で税金負担が増えている。現在も国民年金は保険料未納率が4割近いのに、大幅値上げすれば未納率がさらに高まって制度が立ち行かなくなる危険さえあります」

 春闘では日本製鉄が月額3万5000円、JFE、神戸製鋼所が3万円、トヨタ自動車が2万8440円と軒並み高水準の賃上げ回答が相次いだ。

 だが、大幅な賃上げの恩恵を受けるサラリーマンも喜んでばかりはいられない。その分、厚生年金保険料の負担がずっしり重くのしかかるからだ。

 厚生年金の保険料率は18.3%で固定され、給料が上がるほど保険料は増える。

 たとえば、月給34万8000円のサラリーマンが4月から月額2万2000円の賃上げになるケースで試算すると、厚生年金や健康保険など社会保険料の算定基準となる標準報酬月額が2段階アップし、7月からの保険料が約6000円も引き上げられる。

 賃上げは月2万2000円でも手取りは1万6000円しか増えない。そして保険料はこれまでより年間7万2000円も多く支払わなければならない。

 サラリーマンの賃上げの上積みは年金保険料にごっそり持っていかれるのである。そのうえ、これら4月の年金ショックは今年から始まる新・年金大改悪のほんの序章に過ぎないのだ。

※週刊ポスト2024年4月5日号
 
 

4月にダブルで来る「年金減額」と「健康保険料アップ」が高齢者を直撃!

 
 
 これでは高齢者の生活は苦しくなるばかりだ。

 75歳以上の高齢者が支払う健康保険料が4月から上がる。対象は年金収入が年211万円を超える約540万人。75歳以上の約3割にあたる。来年4月からは対象が広げられ、年金収入153万円の高齢者の保険料もアップする。試算によると、年金収入200万円超の人は、年3900円負担が増えるという。

 75歳以上の高齢者が加入する「後期高齢者医療制度」は、現役世代の保険料によって支えられている。保険料をアップするのは、現役世代の負担を軽くするためだ。

■「保険料」と「窓口負担」の二重の負担増

 しかし、ここ数年、高齢者の負担は増える一方だ。すでに75歳以上の高齢者は、窓口負担も増やされている。原則1割、現役並みの所得がある人は3割だったのに、2022年から一定以上の所得のある人は2割に引き上げられた。さらに岸田政権は、少子化対策の財源確保のために、自己負担割合を現行の原則「1割」から「2割」に引き上げる方針だ。「保険料」と「窓口負担」の二重の負担増である。
 
 そのうえ、4月以降、年金の「実質支給額」も減額されてしまう。厚労省は、4月から厚生年金支給額を夫婦2人の標準世帯で月額6001円、国民年金(満額ケース)も1人月額1758円引き上げる。

 額面上、支給額はアップされるが「マクロ経済スライド」が適用されるため、実質額は減ってしまうのだ。「マクロ経済スライド」は、物価が上昇した時は、年金の引き上げ幅を物価上昇率より最大で0.9%低く抑える年金減額の仕組みだ。物価が下落した時は発動されない。

 2023年の物価上昇率は3.2%だった。物価に合わせると、厚生年金は7183円アップしないと生活水準を維持できない。6001円のアップでは、年間1万4184円も足りなくなってしまう。国民年金も年間4500円の実質減額となる。

 経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言う。

「高齢者の多くは、不安を強めているはずです。生活を切り詰め、消費も減らしています。以前、話題になった2000万円問題も消えてしまった。2000万円問題は、老後は、支出に収入が追いつかなくなるから、生活を維持するためには2000万円の蓄えが必要というものでした。ところが、高齢者が生活費を切り詰め始めたため、2000万円も必要なくなった。日本の高齢者は、『現役世代に迷惑をかけるな』『少子化対策に協力しろ』と迫られると、文句を言いませんが、限界がありますよ」

 自民党議員が裏金で潤い、高齢者が喘ぐ構図である。
 
 

生活厳しく

4月からこう変わる

 
 岸田自公政権のもとで、年金の実質削減や医療・介護の負担増、人手不足への抜本的な対策を怠ったままの「働き方改革」が推し進められ、国民生活は厳しさを増しています。4月から、国民の生活と働き方に影響しそうな制度見直しをみてみると…。

 6年に1度の診療報酬・介護報酬が同時改定されます。診療報酬は、医療機関の人件費などの「本体」部分を1%を下回る微増にとどめ、薬価の引き下げ分を含め全体を実質6回連続引き下げ。介護報酬は、人手不足が深刻な訪問介護に対し、基本報酬を引き下げます。いずれも、医療機関・介護事業所つぶしだと大きな批判が起きています。

 高齢者や障害者の重要な家計収入となっている公的年金額は、物価上昇率より0・5%下回る2・7%増にとどまり、実質削減され、格差と貧困がいっそう広がりそうです。

 いまでも高すぎる市区町村の国民健康保険料・税が、各地で値上げされる危険があります。日本共産党政策委員会が2月にまとめた調査結果では、調査した市区町村の8割強で値上げするおそれがあることが分かりました。

 国は、75歳以上の後期高齢者のうち、約3割を占める年収211万円超の人の医療保険料の値上げを保険者に迫っています。

 介護保険では、介護報酬改定や高齢化の進行に伴い、多くの市区町村が65歳以上の保険料を引き上げようとしています。

 働き方にかかわっては、医師や運輸関係で時間外労働の上限規制が始まります。

 しかし、医師は年間1860時間が特例で上限とされ、過労死ライン2倍の時間外労働が合法化されることになります。抜本改革にはほど遠い見直しです。

 トラックやバスなどの運転手も年間960時間が上限とされ、過労死を防ぐには実効性に乏しく、運転手不足に拍車がかかるのではないかとの懸念の声もあがっています。

 運転手不足の根本には、1990年の規制緩和で運賃が実質的に自由化されたことに伴い、荷主が低すぎる運賃を輸送業者や運転手に押し付けていることがあります。

 規制緩和の是正や運転手の賃金体系の見直しが急がれます。

生活と働き方の制度 4月からこう変わる
医療・介護・年金
診療報酬は実質6回連続引き下げ、医療経営の悪化、診療体制の縮小への懸念も
訪問介護は基本報酬を引き下げ。訪問介護事業所の経営悪化をまねき、在宅介護に大きな打撃も
現役世代の負担抑制を口実に、75歳以上の高齢者が支払う医療保険料を引き上げ。世代間対立をあおる
公的年金額は、物価上昇率を下回り、実質削減
働き方
勤務医や運送業、建設業の時間外労働を規制。過労死ラインを超える長時間労働を容認するもので、抜本改革にほど遠い