「死の商人国家」へ重大転換

次期戦闘機輸出を閣議決定

 政府は26日、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を日本から第三国に輸出する方針を閣議決定し、国家安全保障会議の9大臣会合で、武器輸出のルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定しました。
 
 昨年12月に、他国から技術を得て国内で「ライセンス生産」した殺傷兵器の輸出解禁に続く暴挙です。「国際紛争を助長しない」という「平和国家」の理念を投げ捨て、日本を、「最先端の殺傷能力を持つ兵器」の戦闘機を海外に売りさばく「死の商人国家」に堕落させる重大転換です。日本共産党の山添拓政策委員長は談話を発表し、閣議決定の撤回を求めました。

 改定された指針は、国際共同開発品の第三国への直接輸出の条件として(1)今回は次期戦闘機に限定(2)防衛装備移転協定等の締結国に限定(3)現に戦闘が行われていると判断される国に輸出しない―ことなどを新たに盛り込みましたが、いずれも国会にも諮らずに政府の判断で変更可能なものであり、「歯止め」にはなりえません。

 また、政府は、今後、次期戦闘機以外に第三国への直接輸出が必要な国際共同開発・生産のプロジェクトが新たに生じた場合には、運用指針に追記するとしています。輸出品目が際限なく広がる可能性を認めたものです。

 次期戦闘機 日本、英国、イタリアが共同開発を進めている戦闘機で航空自衛隊F2戦闘機と欧州4カ国が共同開発しているユーロファイターの後継機。今後5年程度で仕様・性能を確定させ、2035年度までの開発完了を目指しています。

主張
次期戦闘機の輸出

 
他国民殺害につながる暴挙だ
 ガザやウクライナで空爆にさらされ、おびえ泣く子どもたち。その映像に日本でも多くの人が胸のつぶれる思いをしているでしょう。そうした中で岸田文雄政権は、日本が開発・輸出する戦闘機が他国の罪のない人々にミサイルを撃ち込む事態につながりかねない危険な道に踏み込む決定をしました。日本が英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を英・伊以外の第三国にも輸出可能とすることを閣議で決めたのです。国民にも国会にもまともに説明せず、一片の閣議決定で、憲法の平和主義に背き、日本を「死の商人」国家におとしめる許し難い暴挙です。

違憲の安保政策大転換
 岸田政権が26日に強行した閣議決定は、次期戦闘機の第三国輸出を認めた理由について、日本がそのような仕組みを持って英・伊と「同等」にならないと、「日本の安全保障環境にとって必要な性能を満たした戦闘機」を実現できないとしています。

 しかし、政府は国会で「日本の安全保障環境にとって必要な性能」を具体的に聞かれても、どの次世代戦闘機にも求められるステルス性(相手に探知されにくい性能)などを挙げるだけで、それ以上の詳細は「他国に対抗手段を取られかねない」などとして説明を拒んでいます。英・伊が日本に第三国への輸出を求めているとも述べていますが、どの国の誰がどういう場で誰に求めたのかただされても、「相手国との関係から答えを差し控える」として明らかにしようとしません。

 「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」し、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」をうたった憲法の下、こんな乱暴なやり方で、日本の安全保障政策を大転換する決定がされていいはずがありません。

 岸田政権は閣議決定に続き、国家安全保障会議で、武器輸出のルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定しました。同指針は、次期戦闘機の第三国輸出について▽国連憲章の目的と原則に適合する方法で使用することを義務付ける国際約束を日本と輸出先の国が締結している場合に限る▽武力紛争の一環として現に戦闘が行われていると判断される国への輸出は除く―としています。

 しかし、そうした約束にもかかわらず国連憲章に違反する侵略に次期戦闘機が使われた場合、食い止める実効的な手段はありません。政府は、維持整備のための部品の輸出を差し止めるなどとしていますが、部品が不足するまで使い続けられるし、部品が不足しても英・伊から入手可能です。現に戦闘が行われている国には輸出しないとしますが、輸出後に紛争当事国になる可能性もあります。いずれも歯止めにはなり得ません。

自民党政治を終わりに
 日本は1976年から2014年まで、平和国家として国際紛争の助長を回避するため武器輸出を原則、全面禁止していました。それを決めた76年、当時の宮沢喜一外相は「わが国は兵器の輸出をして金をかせぐほど落ちぶれてはいない」と答弁(同年5月14日、衆院外務委員会)しました。平和国家の理念を投げ捨て、日本をどこまでも落ちぶれさせる自民党政治を終わらせなければなりません。

 

次期戦闘機輸出を閣議決定

「勝手に決めるな」

首相官邸前で総がかり行動

 
岸田自公政権が戦闘機輸出の閣議決定をした26日、閣議決定に反対・抗議する「勝手に決めるな 緊急行動」が同日同時刻に首相官邸前で行われました。戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会が呼びかけて、土砂降りの雨のなか80人(主催者発表)が「戦闘機の輸出許すな」「閣議決定 徹底糾弾」などと声をあげました。

 総がかり実行委の小田川義和さんは「閣議決定は憲法の基本原理をないがしろにする、立憲主義の面からも民主主義の面からも何の正当性もない」と強調。紛争を助長し他国での無辜(むこ)の市民の犠牲を商売にする軍需産業でもうけをあげる堕落した国になるとして、「さよなら自公政治の運動を強めよう」と呼びかけました。

 同じく高田健さんは「戦後78年間、戦争をしないと決めた平和憲法を、閣議という20人ほどの閣僚で覆した。黙っているわけにはいかない。政治を変えることはできるし、このでたらめなやり方をひっくり返す政権をつくろう」と訴えました。日本平和委員会の西村美幸事務局次長は「メイド・イン・ジャパンの武器が他国の子どもの命を奪うなんて許したくない。私たちの声を可視化させる署名運動を会期末まで続けます」とスピーチしました。

 日本共産党の赤嶺政賢衆院議員があいさつし、最後まで参加者といっしょに声をあげました。

 

三菱重工が最高益で株価急伸 同業他社が苦戦する中で好調な理由とは

 
憲法違反の「死の商人」となって軍事産業ダントツトップの三菱重工。そして内供留保をため込み続けるのだ。
 
 
三菱重工業の株価が上昇しています。最高益を見込む今期(2024年3月期)の見通しを公表した2023年5月ごろから値上がりを強めました。それまで5000円前後だった株価は2024年2月に1万2000円を突破しています。好調な業績を評価した買いが向かっているようです。

【三菱重工業の業績】

※2024年3月期(予想)は同第3四半期時点における同社の予想

出所:三菱重工業 決算短信(外部リンク)
 
 
出所:Investing.com(外部リンク)より著者作成
 
三菱重工は市場評価性(PBR基準)の基準から「JPXプライム150指数」に選ばれています。2024年2月には1:10の株式分割も公表しており、従来の10分の1の金額で投資できることから投資家の拡大が見込まれます(分割の効力発生日:2024年4月1日)。

三菱重工はどのような企業なのでしょうか。概要と事業内容を紹介します。また今期に受注が拡大した背景と、同業が減益する中で増益を見込む理由も押さえましょう。

三菱御三家の一角 戦闘機からエアコンまで手掛ける総合重機
三菱重工は総合重機の大手です。三菱グループが1884年に造船事業に乗り出した長崎造船所を祖に持ちます。三菱UFJ銀行や三菱商事と並び「三菱御三家」と呼ばれることもあります。

三菱重工の主力製品は大型の重機や設備です。発電プラントや航空エンジンといった産業向け大型構造物のほか、フォークリフトなどの物流機器、艦艇や戦闘機といった防衛関連製品などを製造しています。また家庭用エアコンといった比較的小さい製品も手掛けています。

【各セグメントの主な製品・サービス】

出所:三菱重工業 有価証券報告書(外部リンク)

三菱重工は業界で最大手とみられています。主要な国内の総合重機と比べても受注高や売り上げはトップクラスです。海外向けの売り上げも大きく、海外売上高比率は57%に達しています(2023年3月期。出所:三菱重工業 地域別売上高(外部リンク))。
 
【主要な総合重機の業績(2022年度)】

※三菱重工業・川崎重工業・IHIは2023年3月期(国際会計基準)、住友重機械工業は2022年12月期(日本基準)

出所:各社の決算資料(三菱重工業(外部リンク)、川崎重工業(外部リンク)、IHI(外部リンク)、住友重機械工業(外部リンク))

防衛事業が急成長 国の防衛力強化が追い風に
三菱重工の足元の業績を確認してみましょう。

今期(2024年3月期)は好調です。大型の受注が続いており、受注高は第3四半期までに前期の通期を上回りました。当初は4兆6000億円と見積もっていた通期の受注高を中間決算で5兆6000億円に、第3四半期ではさらに6兆円へと上方修正しています。

【受注高の推移】

・2023年3月期(通期):4兆0677億円

・2024年3月期(3Q累計):4兆4966億円

・2024年3月期(通期予想):6兆0000億円

出所:三菱重工業 決算短信(外部リンク)

特に伸びているのが航空・防衛・宇宙セグメントです。第3四半期で前年同期比3.8倍の受注を獲得しています。通期でも前期比2.7倍となる1兆9000億円の受注を見込みます。
 
出所:三菱重工業 決算説明会資料(外部リンク)

背景には防衛事業の拡大があります。日本は防衛力の強化を進めており、整備費として2023年度~2027年度で約43.5兆円を投じるとしています(出所:三菱重工業 防衛事業説明会資料(外部リンク)、防衛相・自衛隊 防衛力整備計画 所要経費等(外部リンク))。

三菱重工は国の防衛整備の受け皿となり、大型の受注獲得につながりました。決算説明会では防衛関連の受注は2024年3月期で1.7兆円程度、2025年3月期も1兆円は超えるという認識を示しています(出所:三菱重工業 2023年度第3四半期決算説明会 質疑応答要旨(外部リンク))。
 
出所:Investing.com(外部リンク)より著者作成

利益に差が生じた原因の一つが共同開発エンジンの参画割合です。

三菱重工と川崎重工、IHIの3社は米P&W社が主導する航空エンジン「PW1100G-JM」の開発事業に共同で参画しました。このエンジンで不具合が見つかり、搭載した航空機で点検や交換などの費用が発生することが明らかとなっています。

P&W社の親会社は2023年9月、損失見込み額が開発事業全体で70億ドルに上ると発表しました。開発に参加した三菱重工らも、参画割合に応じ損失を負担することとなりました。

最も参画割合が大きかったのがIHIです。15%のシェアで参画しており、2024年3月期に1600億円の損失を計上します。同5.8%の川崎重工は580億円の損失を、国内3社で最小の三菱重工(同2.3%)は200億円の損失を同じく2024年3月期に計上する見込みです。

このような経緯から、三菱重工の損失は他2社と比較し限定的でした。株主の利益を大きく残すことができ、株式市場での評価につながったとみられます。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)

若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。