防衛省が導入を検討する攻撃用ドローン。弾頭を積み、標的に突っ込んで自爆する殺戮兵器だ。今年度、運用実証を開始した7機の候補機のうち5機が、イスラエル製であることがわかった。専門家は「憲法上も問題」と指摘する。AERA 2024年3月25日号より。

 

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 憲法上も問題があると話すのは、憲法学が専門でパレスチナ問題に詳しい室蘭工業大学大学院教授の清末愛砂氏だ。

「憲法の前文には、『全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する』と明記されています。日本がイスラエル製の攻撃的武器を導入すれば人々に恐怖を与えることになり非常に問題です。第一、攻撃用ドローンの導入は明らかに戦争の放棄とは違う方向。保有自体が憲法9条の武力による威嚇に近いものです」

 清末氏は過去に何度もパレスチナを訪れ、イスラエルが暫定自治区の住民にミサイルやドローンなどの武器を使って攻撃を繰り返す悲惨な様子も確認している。その状況を考えても、日本がイスラエル製の攻撃用ドローンを導入することはモラル上もあり得ないと批判する。

 昨年10月にイスラエルがガザ地区へ侵攻して以来、イスラエルとの軍事的な関係を見直す国も出ている。スペインはイスラエルへの武器販売停止を決定。コロンビアは3月からイスラエル製武器の全面的な輸入停止に踏み切った。コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は「パレスチナ人がネタニヤフ首相に殺された。この大量虐殺はホロコーストを思い出させる。世界はネタニヤフ首相(の行動)を阻止しなければならない」とイスラエルを強い言葉で非難。こうした国際的なイスラエル包囲網が強まりつつある中、防衛省の動きは逆行しているように映る。

 イスラエル製武器の導入によって「日本が非難の標的になる」と話すのは、個人やビジネスがイスラエルと関わることをやめる「BDS運動」に詳しい立命館大学生存学研究所客員研究員の金城美幸氏だ。

「国際司法裁判所だけでなく、国連の人権専門家もイスラエルのジェノサイドが指摘される状況下で虐殺に直接加担するような武器取引は真っ先に停止すべきであるとの声明を出しています。国際的にイスラエルとの武器禁輸圧力があるなかで、日本が攻撃用武器を導入するのは由々しき事態です」

 

 BDS運動は、賛同者が対象企業前で抗議や座り込みといった直接行動に加え、不買運動なども行う。金城氏は、伊藤忠商事がエルビット・システムズとの覚書を解消した背景にもBDS運動があったと言い、今後はイスラエル製無人攻撃機を輸入する企業へも同様の抗議行動が行われるだろうと話す。

■企業や防衛省の回答は

 日本がイスラエル製武器にこだわる背景には、この10年間の両国の関係強化が大きい。2014年にネタニヤフ首相が来日して安倍晋三首相(当時)と包括的パートナーシップの構築に関する共同声明を発表すると、3年後となる17年には、日本はイスラエルとの投資協定に署名した。杉原氏が言う。

「軍事分野の協力強化が分かりやすのは武器見本市です。19年11月に千葉で初回が開かれた際にはイスラエル企業は主に3社でしたが、昨年開催された第2回では14社に増えました。見本市の後、イスラエルから日本に導入されたものが複数ある。14年に安倍政権が武器輸出3原則を撤廃して『防衛装備移転3原則』と言葉を言い換えて以降、日本は武器輸出国になった。その延長線上で、岸田政権はいろいろな方面から武器輸出ができるようにしているのです」

 イスラエル製の無人攻撃機を導入することについての見解を、防衛省と、契約を結ぶ輸入代理店4社に尋ねた。

 住商エアロシステムは「防衛省の入札案件は日本の安全保障に寄与し得る防衛装備品の実証を支援することが目的。様々な要素を考慮して総合的に判断し、適切に対処しています」と回答。日本エヤークラフトサプライ、海外物産、川崎重工業の3社からは回答を得られなかった。

 防衛省はこう回答した。

「実証機の5機がイスラエル製なのは、求める機能・性能を満たす機体で、最低価格で入札した企業と契約を締結したためです。防衛装備品の取得に当たっては、要求性能、経費、維持・整備などの様々な要素を勘案した上で決定していくため、現時点で特定の国の装備品の取得を予断するものではありません」

 防衛省は来年度「無人アセット防衛能力」の整備に1169億円を投入し、27年度までに実践的運用能力を整備する。日本がイスラエルの虐殺に加担せず、これ以上の悲劇を食い止めるためにできることは何か。清末氏が言う。

「イスラエルを非難するだけでは何も解決しない。まず無人攻撃機の導入を取りやめ、国家間で結ぶ投資協定の破棄や個別企業間の軍事的提携を打ち切るなど、強い姿勢で圧力をかけていくことが必要です」

(ジャーナリスト・形山昌由)

※AERA 2024年3月25日号より抜粋し加筆