日銀が追加利上げを進める場合、金融機関から受け入れた当座預金への利払い負担が増加し、財務の悪化は避けられない。このため、日銀が受け取るETFの「分配金」の一部を損失に備えた引当金に充てる案が政府・日銀内に浮上。22年度の分配金収入は1兆1000億円と巨額だが、引当金に充てると日銀からの国庫納付金が減らざるを得ないため、財務省との協議が不可欠だ。

 

 

 日銀がマイナス金利政策を解除したことで、政府の財政運営は転換点に立った。日銀が今後利上げを続ければ、国の借金に当たる国債の利払い費が膨らむ可能性がある。借金の返済や利払いに充てる国債費は現状でも過去最大で、これ以上増加すれば、政策向けの経費を圧迫し、企業成長や国民生活を支援するための政府の取り組みに支障が出る恐れもある。歳出構造の改革が急務だ。
 

 日銀は19日、大規模な金融緩和策の柱であるマイナス金利政策の解除を決めた。政策金利を0~0・1%程度に誘導し、長期金利を低く抑えるための長短金利操作も撤廃した。日銀は2022年末から長期金利に対する政策を変更しており、既に償還期間10年の国債の金利は上昇傾向にある。
 

 今後、短期金利の引き上げに関連して長期金利がさらに上がれば、新規発行する国債の金利は、低金利時に発行した国債の金利より高い利率が設定され、政府が投資家に支払う利子は増える。
 

 政府が国会に提出した24年度予算案では、国債の想定金利を23年度の1・1%から1・9%に17年ぶりに引き上げた。

 

 

ETF処分、見えぬ出口 37兆円、株価急落リスクも―日銀

 
 
 日銀は11年続いた「異次元金融緩和」からの「出口」に当たり、上場投資信託(ETF)の新規購入の停止を決めた。世界の主要中央銀行でETFを通じ、民間の株式を購入してきたのは日銀だけ。37兆円(簿価ベース)に膨らんだETFの処分は今後の大きな課題だ。一気に売却すれば、株価急落の引き金になりかねず、こちらの出口戦略は見えてこない。
 
 日銀は2010年にETF購入を始め、13年の異次元緩和で買い入れ額を急拡大。23年9月末の保有額は簿価で37兆円、時価で60兆円に達した。株価を事実上、下支えしてきた異例の政策については、日銀が多くの国内企業の「大株主」となり、株価形成にゆがみが生じるなど副作用も指摘されてきた。

 過去「爆買い」してきた国債とETFについて、植田和男総裁は19日の記者会見で「異次元緩和の遺産で、当面残り続ける」と説明。ただ、日銀にとって、償還日が到来すれば自然と保有額が減っていく国債と違い、満期のないETFは売却しない限り減らせないのが頭の痛い問題だ。

 ETF処分について、植田総裁は21日の国会答弁で「ある程度時間をかけて検討したい」と表明。さらに「市場にかく乱的な影響を与えることを極力回避する」とも強調した。市場では、日銀が保有していたETFを政府系金融機関に移管し、運用益を成長投資に充てる構想などが取り沙汰されている。

 日銀が追加利上げを進める場合、金融機関から受け入れた当座預金への利払い負担が増加し、財務の悪化は避けられない。このため、日銀が受け取るETFの「分配金」の一部を損失に備えた引当金に充てる案が政府・日銀内に浮上。22年度の分配金収入は1兆1000億円と巨額だが、引当金に充てると日銀からの国庫納付金が減らざるを得ないため、財務省との協議が不可欠だ。