<疑惑続々>安倍派重鎮の世耕議員を裏金疑惑で刑事告発 「秘書のせいでなく世耕氏の単独犯行では」と専門家 選挙区内で高級洋菓子贈った公選法違反でも告発

 
そもそも収支報告書に「不明」が多数あるというのは、「政治とカネ」の透明性という見地からすれば、論外の所業というしかない。
 
 
 
世耕弘成参議院議員の政治団体「紀成会」(以下、「紀成会」)が、安倍派(政治団体「清和政策研究会」)の政治資金パーティの収入から、2018年以降に1542万円のキックバックを受けていたとして、代表である世耕議員ら3人が東京地検に政治資金規正法(以下、規正法)違反の疑いで3月22日までに刑事告発された。また、世耕議員の選挙区である和歌山県の有権者に贈答品を渡したとして公職選挙法違反(以下、公選法)違反の疑いでも同時に刑事告発された。世耕議員は近畿大学の理事長であもある。(フリージャーナリスト・鈴木祐太)

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◆なぜ安倍派からキックバック受領日が「不明」なのか?
 
 
告発したのは神戸学院大学の上脇教授。告発状によると、「紀成会」は安倍派の政治資金パーティの販売収入の中から2018年以降に合計1542万円のキックバックを受けていた。

キックバックは「紀成会」の収支報告書では安倍派からの寄付金として処理されており、その内訳は18年に102万円、19年に604万円、20年に360万円、21年に476万円となっている。22年はキックバックを受けていなかったという。

また、収支報告書は公開期限が3年しかないため、訂正は20~22年分だけであったが、いずれも安倍派からの寄付金受領日がすべて「不明」となっている。19年が604万円と一番多くなっているのは、世耕議員が19年7月に行われた参院選挙に立候補したことによるとものと思われる。

この一連の問題にいては、「しんぶん赤旗日曜版」が報道し、神戸学院大学の上脇教授が刑事告発をしていたが、安倍派の政治資金パーティの20万円超の販売収入明細の不記載問題としてであり、金額とその流れが不明だったため、「裏金」事件としての告発ではなかった。

東京地検特捜部が捜査をする中で「裏金」の存在やその金額が明らかになり、安倍派やその所属議員らが収支報告書を訂正した。世耕議員に関しても、今回「裏金」事件として刑事告発された。

◆「不明」だらけの支出明細
世耕議員の「紀成会」は、安倍派からのキックバックを寄附金収入として訂正と同時に、支出も訂正をしている。この支出の訂正も、規正法の不記載・虚偽記入に当たるとして今回告発された。

20年の支出においても、訂正前は交際費が49万円弱だったのが「不明」と訂正されており、また訂正前にはなかった「贈答品等代」が付け加えられている。しかしその金額、日時、支出を受けた者の氏名、住所といった明細も「不明」とされている。そしてこれらの「不明」を受けて、翌年への繰越額もまた「不明」と記載されている。

収支報告書の最後には宣誓書があり、会計責任者の名前とハンコが押されている。その宣誓書には次のように追記されている。

「令和2年分の収支及び支出の一部においては、金額、日時不明等があり、現在調査中のため収支報告書の一部を不明であると記載します。不明の部分については判明した場合に収支報告書の訂正を行います」

果たして、いつになったら「不明」部分の詳細が明らかになるのだろうか。

◆高額贈答品を購入と「後だし訂正」
収支報告書の訂正は、21年の宿泊費については3件約14万円だったのが新たに4件加わり約75万円に、交際費の合計は約50万円だったのが新たに12件の贈答品が加わった。そして最終的な合計額は「不明」としている。12件の中には三越伊勢丹で30万円、購入額が1回あたり2万千円となる「村上開新堂」での購入が6回など高額な贈答品を購入していたことが明らかになった。

贈答品については購入先の記載はあるが、贈答先の記載がなく収支報告書からは誰に贈ったのか分からない。組織対策費も訂正前は約96万円だったのが、訂正後はホテルニューオータニで購入した約156万円の贈答品などが3件加わり約361万円となっている。それだけでなく、備品や消耗品などの支出や宣伝事業費なども新たに支出が加えられていた。

22年は安倍派からのキックバックはなかったとしているものの、交際費の支出が新たに20件付け加えられており、なんと約120万円が「不明」になっている。そのうち12件が「村上開新堂」で一回当たり2万1000円、5件が三越伊勢丹で購入したとしているが、それぞれ、30万円、90万円、60万円、30万円、10万円と高額だ。一体、誰に贈ったのだろうか。

◆「秘書のせい」ではなく世耕議員の「単独犯行」では?
刑事告発した上脇教授は次のように話す。

「世耕議員は、秘書がキックバクを受けた寄附金収入を簿外で管理していたと弁明していますが、秘書が議員の指示なしに簿外で管理するはずがありません。秘書が会計責任者であれば会計帳簿に記載していたはずですから、支出について『不明』と収支報告書を訂正するはずがありません。

むしろ、『不明』としたのは収支報告書に記載しない裏金と認識していた世耕議員が独りで管理していたからでしょう。私は、世耕議員がキックバックの寄附金収入を会計責任者に知らせていなかったから会計責任者は収支報告書に記載していなかった、世耕議員の『単独犯 』だとみて刑事告発しました。ただ、世耕議員主導で、秘書との共犯の可能性もあるので、共犯として秘書も告発もしておきました。」

◆選挙区の有権者に高級洋菓子…公選法違反の疑い
世耕議員の有力な支援者の一人であり、和歌山木材港株式会社の代表取締役を務める宮本次朗氏は自身のブログで、昨年11月下旬に、都内のレストランで世耕議員と二人で食事をした際に「村上開新堂」のクッキー缶をもらったことを書いている。

この問題を最初に報道した「しんぶん赤旗日曜版」によると、宮本氏はクッキー缶をもらったのは事実で、和歌山市内在住だということを認めている。この「村上開新堂」のクッキーは、「お客様登録」されていないと購入できず、何か月も前から予約してようやく手に入るものだという。

つまり、和歌山県を選挙区に持つ世耕議員は、和歌山県内の有権者に入手が非常に困難な品を贈ったということであり、これが公職選挙法違反に当たるとして今回、刑事告発されたわけだ。

上脇教授はキックバックを受け取っていた他の安倍派議員よりも先に世耕議員を刑事告発した理由を次のように話した。

「高級洋菓子のクッキー缶の値段は8000円で、それを受け取った宮本氏も、贈った世耕議員も認めています。宮本氏は世耕議員の選挙区在住の住民ですから、明らかに公選法違反の寄附に該当します。これは秘書の責任にはできません。公訴時効が3年なので最優先して告発しました」
 
◆収支報告書に「不明」多数など政治家として論外
その上で、上脇教授は更なる余罪の可能性にも言及した。

「『紀成会』の訂正された21年分と22年分の収支報告書には、『村上開新堂』への支出が新たに書き加えられました。世耕議員側はそこで購入したクッキー缶を宮本氏に贈答したことを否定していますが、世耕議員が独りで管理していた裏金で購入していたのでしょう。となると、宮本氏以外の選挙民にも贈答として公選法違反の寄附がなされていた可能性もあるので、その点についても東京地検には捜査してほしいと告発状に書いておきました」

安倍派から世耕議員側にキックバックされた1542万円の使途が一部明らかになった。そして、それが裏金として、有権者への贈答品購入資金とし使われた可能性があるのだ。今回、贈答先が明らかになったのは1件だけだが、それ以外にも選挙区内の有権者に配られていた事実があるのではないかという疑惑が生じた。

そもそも収支報告書に「不明」が多数あるというのは、「政治とカネ」の透明性という見地からすれば、論外の所業というしかない。


■ 鈴木祐太 (すずきゆうた)
1981年香川県で生まれ。岡山、大阪で育つ。大学在学中から貧困状態にある子どもたち、特に被差別部落や在日外国人の子どもたちへの支援に関わり、小学校講師、派遣社員などを経てジャーナリズム活動を始める。フロントラインプレス所属。