岸田政権の中心で大ハッスル…NISAで調子づいた金融庁が「民間企業の人事に口出し」「天下りポストの新設」でヤバすぎる「やりたい放題」

 
 内閣支持率がつるべ落としとなる中でも、時の権力に近づくメリットは霞が関官庁にとって小さくない。金融庁の最近の動静はそれを改めて実感させる。
 
 
経産官僚も顔負け?



 「まるで安倍晋三政権時代の経済産業省出身の官邸官僚並みの横暴さだ」ーー。

 岸田文雄首相が看板政策に掲げる「資産運用立国」構想に悪乗りした金融庁の増長ぶりに、霞が関や金融界で批判の声が渦巻いている。
 
 実際、栗田照久長官(1987年旧大蔵省)をはじめ金融庁官僚は「官邸の意向」を錦の御旗に、大手銀行や大手証券のグループ人事に公然と介入したり、本来、厚生労働省の所管である企業年金基金の運営改革をぶち上げたりと、経産官僚も顔負けの「領空侵犯」を繰り返している。果ては国民の金融リテラシー向上をうたい文句に新たな認可法人を立ち上げ、天下り利権の獲得まで狙う狡猾さで、業界は呆れ顔だ。

 アベノミクスに代わる経済政策として「新しい資本主義」を唱えた岸田政権がその具体化に腐心した挙句、たどり着いたのが資産運用立国構想だった。

 首相は当初、安倍・菅政権時代の格差拡大への世論の批判を意識し、経済成長より分配を重視する姿勢を示していたが、金融所得課税の見直しなどに言及したことで市場から敬遠され、21年10月の政権発足直後には、連日株価が下がる「岸田ショック」に見舞われた。

 そこで、出身派閥である宏池会の祖、池田勇人元首相にあやかり「令和版所得倍増」のスローガンを打ち出したが、やはり市場のウケは芳しくなかった。

 結局、市場にも国民にも耳当たりのいい看板として、首相最側近の木原誠二・元官房副長官(現自民党幹事長代理兼政調会長特別補佐、1993年同)が金融庁と二人三脚で捻り出したのが「資産所得倍増」のキャッチフレーズ。資産運用立国構想はこれをバージョンアップしたものだ。

NISA拡充で勢いづいた
 歴史が浅く弱小官庁扱いされてきた金融庁は、政権の看板政策を担ぐ立場になったことにハッスルし、2023年度税制改正では首相の威光をバックに親元の財務省や自民党税調の抵抗を押し切り、少額投資非課税制度(NISA)の大幅拡充を実現させた。

 これに「1998年の組織発足以来のホームラン級の出来事」と勢いづいた金融庁は、2000兆円を超える家計の金融資産を貯蓄から投資に誘導し、時の政権に対する影響力を一気に高めようと、油布志行(ゆふ・もとゆき)総合政策局長(89年同)を司令塔役に企画市場局、監督局、国際室など総動員体制で、資産運用立国構想の実現に邁進することになった。

 問題はそのやり方だ。日本で欧米のような投資文化が根付かなかった背景には、金融行政の不作為もあったはずだが、金融庁は「資産運用会社が顧客本位の業務運営を徹底せず、投資成績も貧弱だったことが元凶」(総合政策局幹部)ともっぱら業者の責任を問い質し、伊藤豊監督局長(89年同)ら幹部は大手金融グループの人事政策にまで口を挟んだ。

 主要な資産運用会社の経営トップの7割以上が親会社の大手銀行や大手証券出身者で占められていることをやり玉に挙げて、「顧客の利益や運用会社の成長よりもグループ内の人事上の処遇を重視している」「売り手となる銀行や証券が自分たちの手数料が稼ぎやすい金融商品の開発を資産運用会社に求めている疑いも拭えない」などと問題視。大手金融グループに、傘下の資産運用会社の経営の独立性を確保するための改善策まで作らせたのだ。
 
カネは民間企業に出させる
 さらに、厚労省所管の企業年金基金の運営にも口出しして「領空侵犯」。「デフレを脱して物価が上がれば、従来のような低リスク・低リターンの運用姿勢では支給額を目減りさせ、会社員の退職後の生活を支えられなくなる」などとして、英米並みに運用成績を開示する「見える化」を要求した。

 企業年金連合会が「運用成績ばかりがクローズアップされれば、虎の子の年金資産を無用なリスクにさらしかねない」などと猛反発したため、開示の是非の結論は先送りされたが、金融庁の「上から目線」の態度には大企業の経営者からも反発する声が漏れている。

 傍若無人ぶりを示すハイライトは、4月に立ち上げる認可法人「金融経済教育推進機構」の運営を巡る業界への過大な要求だ。

 国民が投資を通じて安定的な資産形成を進めるには金融リテラシーの向上が不可欠として、「5年間で1200人規模に金融経済教育を提供する」との触れ込みだが、実際に現場で教育事業を担うのは全国銀行協会や日本証券協会をはじめとした民間人材。しかも、機構の運営費(年間約20億円)の大半も業界に奉加帳を回して拠出させるという「身勝手な計画」(大手行幹部)で、大手金融機関などは憤懣やるかたない様子だ。

 ところが、首相の威を借る金融庁は馬耳東風の体で、岸田官邸の新しい資本主義実現本部事務局次長も務める堀本善雄政策立案総括審議官(90年同)を中心に、個別の拠出額まで指定して資金集めを強行してきた。

新しい「天下りポスト」
 金融機関側にとって悩ましいのは、国費が投入されず、金融経済教育セミナーなどの参加者からの料金徴収も原則想定されない今の仕組みでは、資金拠出が1回限りで終わらず、永続的に負担し続ける必要があることだ。

 機構には、今は日銀内にあり、業界と協調して金融教育に地道に取り組んできた金融広報中央委員会の機能も集約されることになっているが、事情を知る日銀幹部は「金融庁による金融庁のためのような機構に、ヒトもカネも吸い取られるのでは金融機関も堪ったものではないだろう」と同情する。

 実際、金融庁のメリットは、他人(金融界)の褌で相撲を取って、労せずして政権に手柄をアピールできるだけにとどまらない。機構には理事長を筆頭に最大5名の役員を置くこととなっており、これが高官OBの新たな天下りポストとなるからだ。

 理事長の年収は現在の最高級の天下り公職(現理事長は三井秀範・元金融庁企画市場局長=83年同)である預金保険機構並み(約2400万円)と想定され、現役官僚からは熱い視線が注がれている。
 
内閣支持率は下がっても
 政府系金融機関やJT(日本たばこ産業)など有力な天下り先を今も確保する親元の財務省と異なり、バブル崩壊後の1998年に財・金分離で誕生した金融庁は、OBの再就職先探しに苦心してきた。昨春には氷見野良三元長官(83年同)が日銀副総裁に就いて話題となったが、あくまで財務省主導の人事で、金融庁が送り込んだものではない。

 天下りポストが乏しい中、近年は北尾吉孝会長兼社長が率いるSBIホールディングスがOBの有力な受け皿となってきたが、SBIが新生銀行を買収したり、傘下の証券会社などが不祥事を起こして行政処分を受けたりするたびに、金融界や市場で「手心が加えられているのではないか」などと後ろ指をさされる始末で、「SBI頼みも限界に近付いている」(局長級OB)のが実態だった。

 内閣支持率がつるべ落としとなる中でも、時の権力に近づくメリットは霞が関官庁にとって小さくない。金融庁の最近の動静はそれを改めて実感させる。