主張
米一般教書演説
ガザ停戦拒む二重基準是正を

 

 バイデン米大統領が、自身の再選を問う11月の大統領選を前に、就任後3回目となる一般教書演説を上下両院合同会議で行いました。選挙で再び対決するトランプ前大統領が選挙結果を否定する言動を続けていることや、ロシアのウクライナ侵略をあげ、「自由と民主主義が国内外で同時に攻撃されている」と、自らを攻撃からの擁護者として描きました。しかし、パレスチナ自治区ガザへのイスラエルによる攻撃と、ロシアの侵略が続く中、何より急務なのは、自らの都合で人権や民主主義を振りかざす一方、ガザで人道的停戦を拒む米国の二重基準の是正です。

武器与えながら人道支援
 昨年10月以降のガザのパレスチナ人死者は3万人を超えました。ジェノサイドともいうべき人道危機と飢餓がいっそう深刻化する中、演説には国際的関心も集まりました。バイデン氏は、ガザに海からも物資を搬入する方針を表明し、人道支援で「国際的努力をリードしてきた」と自負しました。

 人道支援は切実かつ必要です。しかし、複数の米メディアの最近の報道によると、バイデン政権はイスラエルの侵攻開始以来、米議会に正式通告をほとんどしないまま、多量の武器・弾薬を100回以上提供してきました。

 イスラム組織ハマスの奇襲が許されない蛮行であることは言をまちません。ただ、現在の人道危機は、イスラエルが国際法無視の無差別攻撃を続け、最低限の人道支援の搬入すら認めていないために起きているものです。人道支援の裏で巨額の軍事支援をイスラエルに続ける米政権に、「不合理で偽善的」(6日、サンダース上院議員)と批判があがるのは当然です。

 バイデン氏はイスラエルを批判しないばかりか、イスラエルにはハマスに反撃する「権利がある」と述べ、自衛権を名目にした同盟国の国際法違反を擁護しました。

 演説に通底するのは、国連憲章や国際法よりも同盟関係を、さらには、世界の同盟網に基盤を置く自国の軍事的優位を優先する姿勢です。ロシアのウクライナ侵略に対しては、国連憲章違反にふれることなく、北大西洋条約機構(NATO)を「かつてなく強力にした」と誇示。アジア太平洋でも、日本や韓国、豪州などとの同盟とパートナーシップの強化によって「21世紀の対中紛争を勝ち抜くのに、誰より、かつてなく強い立ち位置にいる」と述べました。

 中東と欧州の二つの戦争に対し国際社会の意思は明確です。国連総会はガザ攻撃で「即時の人道的停戦」を、ウクライナ侵略ではロシア軍の「即時、無条件の完全撤退」を圧倒的多数で支持してきました。

一国が世界の結束に障害
 安保理でガザの停戦決議案を拒否権で繰り返し葬る唯一の国である米国の姿勢は、ロシア非難と国連憲章の下に世界が結束するうえでいま、大きな障害です。バイデン氏は、「すべての人間は生まれながらに平等」という独立宣言に示された国家理念にふれ、「米国は一度もこの理念を完遂したことはないが、断念したこともない。私は諦めない」と、トランプ氏との対決色を鮮明にしました。しかし自国と同盟国を優先する二重基準を改めなければ、結局は、国際秩序軽視のトランプ氏と同じ立場だと世界はみなすことになります。

 

 

バイデン氏、インタビューで発言矛盾 ガザの「レッドライン」

 

 

[ワシントン 9日 ロイター] - バイデン米大統領は9日、MSNBCのインタビューで、イスラエルによるガザ南部ラファへの侵攻はレッドライン(越えてはならない一線)になると述べた直後に撤回し、発言が矛盾する一幕があった。

バイデン政権はイスラエルのネタニヤフ首相に、民間人の大規模な避難計画なしにラファへ地上侵攻しないよう強く促している。ラファにはガザの人口230万人のうち半数以上が避難している。

ラファへの侵攻はレッドラインかと問われると、大統領は「レッドラインだがイスラエルから立ち去るつもりはない。イスラエルの防衛は依然重要だ。イスラエルの防空システムに影響が及ぶような武器供与停止のレッドラインはない」と述べた。

一方でバイデン氏は、罪のない人々の命が奪われることにネタニヤフ氏はもっと注意を払うべきだと主張した。

 

バイデン氏が一般教書演説、民主主義の危機訴え 大統領選に向けトランプ氏を批判

 

 

 

アメリカのジョー・バイデン大統領は7日、「連邦の状況」を議会に報告し、施政方針を示す一般教書演説を連邦議会で行った。民主主義の危機を訴え、ウクライナ支援の重要性を強調する一方、国内経済は好調だとアピールした。また、秋の大統領選挙を意識し、再対決が見込まれているドナルド・トランプ前大統領を激しく批判した。

演説は午後9時(日本時間8日午前11時)過ぎに始まり、約1時間続いた。バイデン氏にとっては、11月の大統領選に向けた運動を本格化させる前に、多くの国民に向けてメッセージを放つ貴重な機会だった。

民主主義の危機
バイデン氏は冒頭、「国内外において自由と民主主義が攻撃されている」と強調。ウクライナではロシアのウラジーミル・プーチン大統領の軍隊が進撃を続けているが、アメリカがさらに支援すればウクライナは自国を守ることができると訴え、大きな拍手を浴びた。

この発言は、ウクライナへの軍事支援を含む包括予算案が、野党・共和党の反対で下院で可決される見通しが立っていないことを念頭に置いたものとみられる。

 

続けてバイデン氏は、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件に言及。「(襲撃は)失敗に終わった。アメリカは立ち向かい、(中略)民主主義が勝利したのだ」と語気を強めると、民主党議員らは立ち上がって拍手を送った。

バイデン氏はまた、アメリカの民主主義を守るため「力を合わせよう」と議員らに要請。「自由で公正な選挙を尊重しよう。制度に対する信頼を回復しよう」と訴えた。

そして、「政治的暴力はアメリカで許されないとはっきりさせよう」と呼びかけ、「歴史が見ている」とした。

トランプ氏批判
一般教書演説では、大統領はあからさまに政治的な攻撃発言は避けるのが通例となっている。しかし、この夜のバイデン氏は早々に、一般教書演説を選挙演説へと変質させた。トランプ氏を名指しはせずに「私の前任者」と呼び続け、批判を重ねた。

バイデン氏は、軍事費支出が基準を満たさない北大西洋条約機構(NATO)加盟国について、ロシアに「好きにするよう促す」とトランプ氏が発言したことを厳しく批判。

「前大統領は実際にそう言った。ロシア指導者に屈服したのだ」、「これは危険なことであり、容認できない」とした。

バイデン氏はまた、トランプ氏が連邦議会襲撃事件に関して「真実を葬り去ろう」としていると非難した。

さらに、トランプ氏から政権を引き継いだ当時の国内状況について、「最悪のパンデミックと、この100年で最悪の経済危機に見舞われていた」とし、社会不安や雇用喪失、犯罪も広がっていたと主張。

トランプ氏について、「大統領がアメリカ国民に対して担う、最も基本的な義務、注意義務を怠った」、「これは許されないことだ」と非難した。

ウクライナとガザ
ウクライナについては、アメリカが「手を引く」ようなことがあればヨーロッパまで危険にさらされると、バイデン氏は主張。

「私たちは手を引かない」と言明し、NATOとヨーロッパの安全保障に引き続きしっかり関与し続けていくと誓った。

一方、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ地区での戦争に関しては、イスラエルとパレスチナの民間人にとって「はらわたがちぎれるような」数カ月となっていると指摘。

議場に招待された、ハマスに家族を人質にされた人たちに向けて、人質全員を帰還させるために努力すると誓った。

また、ガザ地区で3万人以上のパレスチナ人が殺害されている状況をふまえ、「最低6週間は続く即時停戦を実現させるため、休まず取り組んでいる」と述べた。

ガザ地区についてはまた、米軍が地中海沿岸に仮設の港湾施設を建設し、多くの人道支援が届くようにすると、バイデン氏が演説の中で発表した。

この計画については、米政府高官の話として、演説前にメディアで報じられていた。高官は、パレスチナ人への人道支援が1日あたり「トラック数百台分増える」としていた。

中絶の権利
バイデン氏は人工妊娠中絶についても言及した。中絶の権利を重視する民主党の姿勢は、2022年中間選挙で同党が予想以上に健闘した要因とされ、バイデン氏はそれを意識したとみられる。

バイデン氏は、中絶の権利を合憲だとしてきた「ロー対ウェイド」判決を覆した連邦最高裁判決に触れながら、「女性は選挙権を持たないわけではない」、「冗談じゃない」と述べた。

そして、大統領選で再選されたあかつきには、中絶の権利を全国的に回復させるために努力すると約束した。

民主党議員や閣僚らは一斉に立ち上がり、バイデン氏に拍手を送ったが、議場の最前列に座っていた最高裁判事6人は微動だにせず、無表情のまま沈黙を保った。

国内経済
バイデン氏はアメリカの経済について、同氏が2021年に大統領に就任した時より好調だとアピールした。

「ニュースにはならないが、何千もの市や町で、米国民は偉大なカムバックの物語を書いている」

ただ、バイデン氏が自分で「バイデノミクス」と呼ぶ経済のカムバックに関するメッセージは、これまでのところ国民に響いていない。同氏の支持率が低迷気味なのは、国民の景況観と密接に結びついており、現時点ではそれはあまり前向きではない。

米紙ニューヨーク・タイムズの今週の世論調査では、有権者の大半は景気はあまり良くないと考えている。バイデン氏が大統領選で再選を果たすには、これを転換させる必要がある。

国境問題
バイデン氏は大方の予想通り、国境管理に関して超党派でまとめた法案に強く反対している共和党議員たちを厳しく批判。「この法案は人命を救う」、「そして国境に秩序をもたらす」と訴えた。

そして、法案が可決されなかったのはトランプ氏のせいだと非難した。

「私の前任者が複数の議員に電話をかけ、法案を阻止するよう強く要求したと聞いている」、「彼は(法案が可決されれば)私にとって政治的勝利となり、自分にとって政治的敗北になると思っている」。

そのうえでバイデン氏は、「ここで大事なのは彼ではないし、私でもない」と語気を強めた。

国境問題についての演説中、共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州)が、不法移民に殺害された同州の女性レイケン・ライリー氏について言及するよう、議場から不規則発言を繰り返した。

バイデン氏はこれに応え、ライリー氏は「不法入国者」に殺されたとし、「彼女の両親にはお悔やみを申し上げる。私自身も子どもを失っている」と述べた。

このやりとりの後、バイデン氏は演説に戻り、移民が「この国を毒している」などと言って「移民を悪魔扱い」することはしないと宣言。ここでも、トランプ氏の発言をあてこすった。

中国と台湾
バイデン氏は、中国との競争についても短く言及。対中貿易の赤字は「過去10年超で最低の水準」まで減っていると主張した。

そして、「私たちは中国の不公正な経済慣行に反対している」と発言。「中国との競争は望んでいるが、対立は望んでいない」とした。

バイデン氏はまた、アメリカは台湾を守ると約束。日本や韓国などを含めた太平洋地域の同盟関係を強化するとした。

高齢問題と信念
演説の終盤には、自らの年齢にも言及。「私くらいの年齢になると、特定のことがこれまで以上に明確になる」と主張した。

バイデン氏は現在81歳、トランプ氏は77歳。

バイデンはその後、「自由と民主主義を受け入れ」、「正直さ、良識、平等といった、アメリカを定義づけてきた核となる価値観に基づいた未来」を築くことを、自分の人生で学んできたと説明。

「私と同世代の人の中には、恨み、復讐(ふくしゅう)、報復という別のアメリカの物語を見ている人がいる」、「私はそうではない」とした。

そして最後に、「私はみなさんを、米国民を信じている」、「私たちがどんな人なのか思い出そう」、「私たちはアメリカ合衆国だ。共に行動すれば、私たちにできないことはない」と訴えかけた。

共和党の新星が反対演説
この夜の議場には、上下両院議員らのほか、慎重に選ばれた招待者らの姿もあった。中絶の権利のために闘ってきた女性たちや、ロシアでスパイ容疑で拘束されている米記者エヴァン・ガーシュコビッチ氏の両親、イスラエルでイスラム組織ハマスに連れ去られた人質の家族などが演説を聞いた。

バイデン氏の演説に続く野党・共和党の反対演説は、強固な保守派として知られる同党の新星ケイティー・ブリット上院議員(アラバマ州)が行った。

ブリット氏はアラバマ州モンゴメリーの自宅のキッチンから、「いま、アメリカン・ドリームは、多くの家族にとってアメリカン・ナイトメア(悪夢)に変わっている」と主張。

バイデン氏を「ずれている」とし、現政権下で家族の暮らしは悪化しているとした。

また、移民や経済についてもバイデン氏を強く非難した。

(英語記事 Biden swipes at Trump and defends abortion rights in key speech)

 

 

米、オスプレイ飛行許可

デニー知事「再開許されない」

段階的に運用へ

 
 
 【ワシントン=島田峰隆】米海軍航空システム司令部(NAVAIR)は8日、垂直離着陸機オスプレイの飛行許可を出したと発表しました。鹿児島県屋久島沖で昨年11月に発生した墜落事故を受け、世界全域で同機の飛行を一時停止していましたが、「米国の防衛に不可欠」などと主張して約3カ月ぶりに解除しました。
 
 屋久島沖では米空軍横田基地(東京都)所属のCV22オスプレイが墜落し、乗組員8人全員が死亡しましたが、事故原因はいまだ特定されていません。NAVAIRは報道発表で「事故を起こした部品の不具合を特定するための米空軍の調査に協力した」と述べるにとどまり、具体的な部品名にも、事故原因にも一切言及していません。これに関して、オスプレイの拠点である米軍普天間基地を抱える沖縄県の玉城デニー知事は9日、「事故原因が究明されない中での飛行再開は許されない」との声明を発表しました。

 実際の運用再開の時期は各軍に委ねられます。米空軍と海兵隊の報道発表によれば、いずれも運用再開までの3段階の計画を立てており、空軍は期間を「数カ月」、海兵隊は「晩春または初夏」までとしています。ただ、期間中の訓練飛行の可能性は排除されません。米軍事ニュースサイト「ブレイキング・ディフェンス」によれば、計画完了の期間について、空軍は3カ月との見通しです。一方、海兵隊は30日で完了するとしています。

防衛省、米軍発表うのみ「安全に運用再開できる」
 防衛省は8日夜、「(事故の原因となった部品の)不具合に対する各種の安全対策の措置を講じることで、安全に運用を再開できる」などとした声明を発表。米軍の発表をうのみにしてオスプレイ飛行再開を容認しました。日本政府は屋久島沖での事故後も、米側に飛行停止を要請せず、住民の懸念をよそに国内での飛行を野放しにしてきました。