戦いは続く!

 

 

検察捜査は「腰砕け」

 昨年末から政権を揺るがしてきた自民党派閥の政治資金パーティー問題。東京地検特捜部の捜査のきっかけとなる刑事告発をしたのが神戸学院大法学部の上脇博之教授(65)だ。これまでの動きをどう評価し、今後どう動こうとしているのか、聞いてみた。(時事通信社政治部・川上真央)

 

 ―「しんぶん赤旗日曜版」の報道を端緒に刑事告発をした。清和政策研究会(安倍派)などの幹部は不起訴となったが、一連の事件をどのように捉えているか。

 まずは告発し受理してもらうことが優先だと考え、政治資金規正法で記載を義務づけられた1件20万円を超えるパーティー券購入者の明細を書いていない事例について告発した。ただし、告発状の最後に「裏金がつくられている可能性があるから、そこまで捜査してほしい」と記した。捜査してもらえた点では評価している。

 ところが、起訴されたのは事務方と派閥からのキックバック(還流)の額が多い3人の議員のみだった。家宅捜索までしたにもかかわらず、腰砕けに終わっているのではないか。今回の事件は組織的に裏金をつくっているため、一人ひとりの金額だけを見ても実態が分からない。それを4000万円や3000万円で線を引いて刑事処分を決めるのは実態を見ていないのではないか。

 ―今後の対応は。

 安倍派が政治資金収支報告書を1月末に訂正したので、今後追加の告発をする。捜査終結という報道があるが、まだ事件は終わっていないし、終わらせるつもりはない。告発した件全てについて検察の不起訴処分が出れば、検察審査会に審査申し立てをするつもりだ。

権力の暴走を止めたい

 

 

 ―これまで多くの告発をしてきたが、その原動力は。

 基本的には私の憲法論、議会制民主主義論が影響している。残念ながら、選挙制度や政治資金制度などを見ると、議会制民主主義の名に値していない。完全な比例代表制にして初めて議会制民主主義が成立する。民意を歪曲(わいきょく)しない政治資金制度があって初めて議会制民主主義も成立する。

 さらに企業献金は額が多く、献金した企業や業界に都合の良い政治が行われ、民意がゆがめられている。

 権力を監視し、暴走を止めるためには何か運動が必要なのではないか。誘いを受け、「政治資金オンブズマン」で活動を始めた。権力の暴走をどうやって止めようかという意識の下に頑張るしかないという気持ちで取り組んできた。

 ―裏金事件を受けた自民政治刷新本部の「中間取りまとめ」の評価は。

 マイナス100点だ。まずスタートラインに立っていない。政治刷新本部をつくるのであれば、今回の事件に関与していない人で構成されなければならないが、各派閥の長やキックバックを受けた人が入っている。

 

政党交付金は失敗

 ―再発防止策は。

 政治資金の透明度を高めても裏金はつくられる。なぜなら企業がパーティー券を買った分は企業側に報告する制度がないため、誰もチェックできない。パーティーやパーティーに類似した事業は禁止すべきだ。

 また1994年の政治改革で導入された政党交付金(政党助成金)は失敗だった。

 ―国民1人当たり250円を負担する政党助成制度は企業献金をなくすために導入されたはずだ。

 コーヒー1杯できれいな政治が実現するなら安いものだと言われていた。ところが、裏金がつくられたということは、役に立たなかったということだ。政治とカネの問題を起こす人にわざわざお金をあげる必要はない。この制度は廃止すべきだ。

 また、小選挙区制のままでは政党の自浄能力がない。例えば、小選挙区制の下ではある人が政治とカネで違法行為を行ったとしても、所属する政党は全部政治家個人の責任にするだろう。そうすると、ほかの小選挙区の人は安泰だ。

 もし完全な比例代表制であれば、他の人が巻き添えを食って落選する。政党は中途半端なことをせずに厳しく処分するはずだ。完全な比例代表制にしなければ政治とカネの問題はなくならないだろう。

 ―取材をしていると「政治にはカネがかかる」という話をよく聞く。

 お金のかからない原則自由な選挙運動ができるようにすべきだ。例えば供託金など、お金を工面しなければいけないハードルを下げる必要がある。小選挙区に立候補するためには、供託金300万円を工面しなければならず、一般人には立候補不可能だ。

 既存の大きな政党は政党交付金や企業献金がもらえるほか、パーティーを開催すればお金が入るから供託金を工面できる。無所属の人と比べたらいかに特権となっているか。特権をなくし、無所属の人と同じような状態にしていかないといけない。

 お金がかかるというが、お金をかけ過ぎている。政治家の収支報告書を見れば、なぜこんな無駄なお金の使い方をしているのだろうと思う。

国民がチェックできる仕組みを

 

 

 ―情報公開の在り方も課題だ。

 政治資金収支報告書は直近3年分しか保存されていない。衆院議員の任期は4年、参院議員は6年なのにもかかわらず、保存期間が3年しかないというのは、どう考えてもできるだけチェックさせないようにしているとしか思えない。

 また、総務相提出分は総務省、各都道府県選管提出分は各都道府県選管のホームページに掲載される。これが1カ所にまとめられ、検索機能が充実すれば、調べる労力がだいぶ違う。本当に国民がチェックできる仕組みにしてほしい。